雨の日には2
午前中から降り出した雨は、徐々に強くなってきていて、公園を歩いていた歌原歌奈子はその歩調を速めていた。
「まったく……丘の上に行っても愛海はいないし、代わりに変な奴に声をかけられるし……」
ぼやきながら先ほど自分に話しかけてきた少女の顔を思い浮かべる。
黒い傘に黒い服、黒い帽子……顔は、病的なほどに色白だった。
『あなた……あの子と似てるのね』
光のない眼でじっと見つめ、感情のこもっていない声で発せられた少女の言葉が頭の中でぐるぐると駆け巡っていた。
似てるって誰とだ……そもそも、あの少女はいったい?
一瞬、この町の七不思議が頭をよぎるがその可能性はないと頭を振る。七不思議なんて実在してたまるかと言わんばかりに傘を投げ捨てて雨空を見上げながら両手を広げた。
なぜ、あそこまで少女のことが気になるのかはわからない。でも、今日が初対面ではない気がする。きっとどこかで会っている。でも、それが思い出せない。
『いや……やっぱり本人ね。久しぶり、“歌原さん”』
小学生の時か? それとももっと前か?
思い出せなかった。いったい、彼女が誰で自分とどんな関係でと言ったところを含めてすべてだ。
一生懸命思い出そうとするが、全く思い出せなかった。
「誰なんだよ!」
「私……私は、雨霧麗子よ。思い出した?」
背後から感情のこもっていない冷たい声が聞こえる。雨でぬれているせいなのだろうか? 背筋がゾクゾクとしてとても寒い。
「ねぇ私のこと忘れたの?」
ゆっくりと後ろから麗子が歩み寄ってくる。一歩、また一歩と確実に彼女は歩み寄ってきていた。
「ねぇ私のこと忘れたの?」
「……私は、知らない。お前がだれかなんて知らない……覚えてない」
歌奈子の体が金縛りにあったように動かなかった。口だけが勝手に本音をしゃべりだす。
「そう……覚えてないのね……だったら、お仕置きしないと」
彼女の息が耳にかかる。
いつの間にか少女は、自分のすぐ後ろにいたようだ。
「ねぇ……本当は覚えてるんでしょ?」
「知らない……私は知らない」
動け! 動け!
自分の足に腕に命令するが、指の一本たりとも動かない。
「ねぇどうして忘れたの?」
*
「ギャー!!」
叫び声をあげたとたん、びっくりしたような表情を浮かべた愛海の姿が視線に入った。
「愛海?」
「そうだよ。まったく……雨の中、公園のベンチで寝てるなんて風邪ひきたいの?」
「私……寝てたの?」
「うん」
そうすると、あれは夢だったのだろうか。いや、そうに違いない。
そう結論付けて起き上がったその時である。
「起きたよ」
愛海が歌奈子から見て後ろの方に話しかけた。
「そう。わかったわ」
愛海の話し相手の声を聴いてビクッとしてしまった。
まさかと思い、恐る恐る振り向いてみる。
「“久しぶりね”歌原さん」
そこに立っていたのは、夢に出てきたのと同じ全身黒ずくめの少女だった。




