雨の日
昼間。あいにくの雨が降っている中、愛海はライトブルーの傘を差して公園を歩いていた。
木々の葉からは水滴が滴り落ち、地表には小さな川が形成される。
「雨か……」
手提げの中身を確認してため息をつく。
雨の中、絵をかくのは至難の技だろう。できないことはないのだろうが……
「……天気は関係なしらしいわね」
突然、後ろから声をかけられる。
振り向けば、全身黒色の服に身を包み黒い傘を差した少女が立っていた。
「やっぱりいるのね。雨霧」
「えぇ。雨の日は外で過ごすから。特にここは最高」
少女の名前は雨霧麗子。愛海と同級生でそれなりに仲がいい。彼女は、昔から雨の日が好きで雨が降ると黒い傘をさして町中を闊歩しているのだ。
そんな彼女がこの公園に来たのは、特に深い意味はないのだろう。そして、偶然にも愛海がいたから話しかけたに過ぎないはずだ。
「まぁ私は、ほぼ毎日この公園に来てるからね」
「みたいね。東弥あたりから話、聞いてるから」
「なるほど……そういえば、雲母とあなたって仲良かったわね」
「そうね。彼とは昔から家族ぐるみの付き合いがあるの」
家族ぐるみの付き合いとは初めて聞いた。ともかく、東弥と麗子の仲がいいのは周知の事実だ。
「そういえば、雲母から聞いてきになってるんだけど、上法先輩ってどんな人?」
「……風紀委員長の上法美教先輩のこと?」
「うん」
「上法美教か……私、あまり好きじゃないかも」
「えっ?」
意外な答えだった。まず、麗子は風紀委員だ。少なからず上法を慕っているのかと思っていたからだ。風紀委員だから、上法を慕っている。という方程式は間違っているということだろう。
「私は、あそこまで説教臭くなくてていいと思う。事件解決は実力行使が一番」
ぐっと親指を立てる麗子。
うん。良家のお嬢様にあるまじき発言だ。
「そんな説教が多いの?」
「うん。ニコニコしながら永遠と……ことの大きさによるけど平均半日ね」
「半日って……」
それは反抗する気もなくなるだろうな。と思えてしまう。もしかしたら、彼女の強みは笑顔だけではなくそういった意味での強さもあるのかもしれない。つまり、目をつけられたくないといったたぐいの……
「まぁいい。せっかくの雨の日にこんな話はなし。私は、もっと行くところあるから」
「えっうん。またね」
歩き出した真っ黒な人影は、やがて丘の向こうに消えていく。
彼女が、雨の日に決まった行動があるかどうかは知らないが、ないとみて間違いないだろう。雨の日に彼女と意図的に会おうなど無謀という者だ。
「さぁて、私も場所変えようかな」
愛海は、麗子が立ち去って行った方とは逆の方向へ歩き出す。
やがて、彼女の影も見えなくなり、丘の上のベンチは雨音だけが響いていた。




