【14話】空間
咲が行き、残されていた瞬。
そして、現れるもう一人の――――――
「良き、友人だな」
その時、一陣の風が強く吹き抜ける。瞬は突然のことに動揺を見せながらも咄嗟に目を守る。
風が吹き抜けたことを確認し目を開く。すると、辺りには、風のせいでまだ若い葉すらも落ちていた。そんな、緑が占める中を黒い翼をもつ音が立っていた。
男は何かをする気配もなく、ただ立っていた。しかし、一歩踏み出すと、右手を天高く翳した。
「……展開」
男から小さく発せられた言葉に乗って辺り一面の空間が揺らぐ。
揺らぎが収まり、開かれた世界は朝である筈なのにも関わらず、薄暗い世界になっていた。そんな世界には、周りに有る筈の家々。そして、先の風で舞い落ちた葉の数々。それらすべてが消えて、ただどこまでも続く塗装された道路だけが不気味に見渡せた。加えて、気温が一気に低くなっており、学生服だから、とても寒く感じる。
「お前、何者だ!つか、何しやがった!」
翳していた手をゆっくりと下げる男に大声で問う。男は、不敵に少し笑みを浮かべるとゆっくりと口を開く。
「安心しろ。辺りを少しいじくっただけだ。特にお前にもそこら辺の人間どもに支障はない」
言い終わって、何を考えたのか、あごに手を当てて再度口を開く。
「それにしても、我等にとっての厄介者がいまだ生きているのだ……?まあ、どうであろうといい。どうせ、貴様を殺すだけだからな」
男は言い終わると、あごから手を離し、今度は横に手を翳す。直後、黒い槍のようなものを作り出す。
黒い槍のような物。そして、自分を殺すという二つを無理やりに解釈する。そのせいで、無意識のうちにつばを飲む。
「俺を殺すか……。昨日も同じことがあった気がするしよ……。なんで、俺の周りだけにこんな厄介なことが起きるんだよ……。てか、お前の名前ぐらい教えろよ!」
先程から、無言の重圧を感じ、精一杯の反撃を籠めて声を出す。
重圧に耐えながら、見た目は同じくらいと考え、答えを待つ。
「名か……。名は、ドラゴノア・アンドリュー・ハルド・セントール・カイドレル・ジェニール・キサレット・ワシレルト・リース・ムリーレル・カゼシレ・ザレール―――――――」
「―――いや、なげぇよ!?つか、長すぎだろ」
これ以上続くと考えると嫌になり、咄嗟に止める。てか、長すぎて、笑えてくる。腹を抱えて笑いたくなるのを必死でこらえるが、顔だけはどうしても笑ってしまう。
「バカにするな。親が思いをつけてくれた名前だ」
「なわけねぇだろ」
余りのおかしさに腹が捩れるのを必死で我慢しようとする。しかし、笑いが止まらず、声を出して笑い続ける。
「笑っていられるのも今の内だけだ」
その言葉に乗せられるように、先程男の手に有った黒い槍のようなものが、顔の横に有る地面に突き刺さる。
「!?マジかよ」
刺さった槍を見た直後、体が勝手に立ち上り走り出す。
少し振り返ると、すでにそこでは新たに槍を構えている男の姿があった。
それを見て、先程以上の速さで走り出した直後、瞬の目の前の空間が揺らぎ、銃声が響き渡り、瞬は咄嗟に立ち止まり体が強張る。
動かない体で無理やり男を見る。すると、そこではちょうど甲高い音を響かせ、黒い何かが壊れるとこだった。
「!?誰だ!!」
男が叫び、響く。その光景を目が捉え、脳へと伝え認識していた。していたはずだった。しかし、その認識されたはずの世界に有りえないことが起こっていた。
槍を砕かれた男が辺りを見渡しながら立っている。そして、自分がいる。その中間には何もないはずだった。あるとしても、先程槍が刺さった後のみ。しかし、そこには、どこか見覚えのある、カチューシャに抑えられた黒髪の後姿があった。
「僕のことかい?いいよ。教えてあげよう。僕は、神田蒼也。彼の……瞬の幼馴染さ」
神田蒼也。その名が頭の中に広がる。そして、その名を完全に思い出した瞬間、昔の。咲と3人で遊んだ光景が浮かぶ。
「蒼、也……お前……」
朧に映るその記憶の世界と、蒼也に向けて届かない手を伸ばす。
「瞬……。ちょっとだけ待ってて」
そう呟くように言うと、蒼也は頭のカチューシャに触れる。
刹那。そこに有ったはずの蒼也の体が消える。
「んな!?どこに消えやがった!戦時中に呼ばれてきてやったこっちに気持ちも知らないで」
男が、慌てた姿で周りを必死で見ながら叫ぶ。その時、瞬はその目で薄暗い世界に揺らぎを捉える。
「知らないよ、そんなの。ていうかさ、死んでくれ」
「ハ!?」
男が驚きと戸惑いを隠せないままに振り返る。振り返った先の額に前に、蒼也は漆黒に銃身が染まる銃をあて、トリガーに手をかけて構えていた。
「……死ね」
蒼也がトリガーを引く一瞬。男は体をひねる。同時に世界に響き渡る銃声。捻ったその結果、男は僅かに掠り、血をだしながら道路に転がる。
対象を失った一発の銃弾が、自分の方へと向かって来ていることを、全てが加速されていくような感覚にある瞬はその双眸で確かに捉えていた。
「無駄だよ」
その声が耳に届く前に、瞬の前の空間が再度揺らぎ、銃弾が消える。その最中、男は蒼也に殴りかかろうとしていた。
しかし、殴りかかろうとした男は、殴ることなく、その場に倒れて行った。
額から、紅い血の華を咲き散らせ、そのまだ温かい血を蒼也にかけながら。
「え……?」
遠くで起きている事に、以前のように状況を呑み込めず、瞬はただ立ち上がることしかできなかった。
「どうしたんだい、瞬?僕と会えたことがそんなにうれしかったのかい?」
歩いてくる蒼也はふざけているのか、それとも本気でそんなことを想っているのか。まったく悟らせることのない表情でそう言いながら近づいてくる。
「お、お前、人を殺したんだぞ!分かってるのかよ、蒼也!」
人が血を流し続ければ、何時かはその生命が途絶える。それが目の前で起きている。狼狽に顔を染める瞬を余所に蒼也は溜息を吐き、話し始めた。
「人じゃない、悪魔だ。僕達天使と敵対している存在だ。ハッキリ言って、消えて当然だ」
「天使?悪魔?……いみわかんねぇよ……。でも、でも!お前は殺しただろ!殺さなくたって、別の方法があったはずだ!」
「別の方法?どうやってだい?」
整った顔立ちである蒼也の顔は、怒りをどこか覚えているかのように、その顔がどこか曇っていた。
「うっ……それは……」
「ほら、無いじゃないか。大体にして、僕達天使。そして悪魔。加えて堕天使共は死ぬんじゃない。消えるんだ。記録だけを残して。その他の死んだ奴に関わる情報は一切残らない。そう、記憶さえもな」
蒼也は淡々と述べ、振り返る。そして、右手に握っていた漆黒の銃を懐に入れる。
「だからな。あのドラゴノア某の、あの死体も記憶も。突然そこから消えているんだ」
「……。」
瞬は何も言えず、ただ下を向いて唇をかみしめる事しかできなかった。
そんな姿の瞬を振り返り見て蒼也は、何も言わずに歩き出していった。
その後、瞬の記憶に残っているのは幼馴染の――――――蒼也が言った、天使、悪魔、堕天使は死ぬのではなく、血の一滴も。流した涙も。何一つ残さずに一人ただ消えて行くということ。
そして、そこにいた誰かに放った銃声だけが深く、焼き付いていた。
長いです(笑)
ドラゴノアの名前は、ふざけてます。ハイ。
面白いはずが文章が下手でつまんない・・・かも。
笑って読んでくれると助かります。
空間の揺らぎ。蒼也の正体はまたいつか書くことになります。
・・・いつになるかは、分かりませんがw