【10話】黒
命。それは、どんな生き物にも必ずある、かけがえのないもの。
そして、それは……
血のように紅く染まる空。
その下に広がるのは、まるで夢でも見ているかのような、非日常的光景だった。
黒い大きな翼を背にしている男が4人、円を作って立っている。その中心には、夕日の輝きを受け、赤みを帯びていた黄金の髪を携えている少女が立っていた。
加えて、その後方に、少年が一人座りこけていた。
少年と少女は、先程まで二人仲よく遊んでいた。しかし、この4人が現れた途端、全てが壊された。一緒に漕いでいたブランコは跡形もなく壊れ、砂場に有る、小さな砂のお城には、黒の羽が落ち、崩れていた。
全てを破壊され、何もできず、ただ目の前の光景を見る事しか、少年には許されていなかった。
そんな中、一人の男が少女の腕を粗々しく掴み、黒い翼で包んだ。その一瞬。包まれる直前、少年はほかの物はまるで見えなかった。でも、それだけは。電子顕微鏡でを介してみたかのように、鮮明に、見えた。
少女の眼から零れ落ちていく雫を。
雫を見た少年は奥歯を強く噛みしめ、動かない体を無理やり起こし上げた。衝動に駆られ起きたわけではない。
ただ。唯守りたかった。
少年は立ち上がるとよろよろとふらつきながら歩み始めた。先程倒れていたところから、男たちまでは精々10メートル前後。その間を少しずつ、可能な限り早く進んでいった。
黒い翼に包まれながらも、少女は必死に抵抗しているようだった。黄金色の髪が何度も、黒い翼の中から覗く。その度に少年の体は、鞭を打たれたかのように、身を震わせていた。
あと5メートルというとこまで進んだ。その時だった。地面に有った黒い羅列を少年は踏んでしまった。
刹那、男が一人、少年に気付く。直後、右手を 横にかざした。
すると、手から闇の如く黒い何かがそこに現れると、長く、槍のように伸びていった。
男はその何かを振りかぶると、何のためらいもなしに、少年に向かって放った。
5メートルもない距離。黒い何かは一直線に少年に向かって突き進んでいった。
そして。
「えっ……」
胸へと吸い込まれる様に突き刺さる。
胸からはドクドクと血が溢れだし、胸を押さえる自分の手を、腹を、滴りおちていった地を。夕日の紅にも引けをとらない赤が倒れていく周りを染め上げて行った。
「―――――!!」
少女が声にならない悲鳴で少年を呼ぶ。
しかし、血を溢れさせながら、倒れ行く少年の耳には当然の如くとどくはずもなかった。
それを最後に、男たちは少女をつれて、その場から消えて行った。消える直前、少女が零した涙を残して。
その涙が、地面に触れ、僅かに跳ねたんを最後に、少年の鼓動が地に響かなくなった。
公園からは、花も、無視も、少女も。そして、少年を。
すべての生命を刈り取られていった。
☆
そこは重力、空気、なんの流れも感じない空間。そこに、少年は佇んでいた。
そんな、何も感じない世界に、一つの声音が響き渡る。
『お前、能力は欲しいか』
言葉が鮮明に耳に届くと、少年は首を縦に一度振った。
「さきちゃんをまもれる……あの子をぼくがたすけてあげられるだけのちからを、ぼくにください!」
想いを乗せた願いは、世界に響き渡り、やがて彼方へ消えていく。
『そうか、ならばやろう。今のこの世界ではお前ともう一人、最強の天使しか、扱うことのできないこの能力をな』
その言葉が耳い届くのと同時に、少年の目の前に小さな焔が現れる。そしてゆっくりと少年を包んでいった。
『お前にそれはやる。しかし、一つ約束しろ。その焔と共にほかの4つの魂を封印するとな』
「え?たましい……?」
『そうだ、お前のその輪廻の焔を操り、戦う宿命だ。焔の扱いは、お前がその力に完全に目覚めた時、自然にわかるはずだ。それでも分からない時には、もう一人の焔使いに聞くが良い。だが、今説明してもお前は覚えていないだろうがな。だが、いつの日には思い出せ。我との約束を。-------」
それを最後に、声は、聞こえなくなった。
少年は、体を包む焔を汲み上げるようにしてもう一度見ると、目を瞑った。
☆
血に包まれている少年の小さな体に、何処からか火が灯り、血を気化させ、傷を治癒していった。
現在までで、多分謎だと思われる言葉。
・天使
・天力
・輪廻の焔
・強化(いつだかの話を参照
・美波の特権
ぐらいかな?