End……??
気が付いたとき、私はベッドの上で横になっていた。
体を起こそうとすると、右肘らへんに鈍い痛みがはしった。私はその身に覚えの無い痛みに驚いて起きあがるのを止めた。
「お気づきになられました?」
急に声が聞こえてびっくりした。声がした方を向くと、そこには先ほどお別れしたばかりの女医さんがパイプ椅子に座っていた。
「ここはどこですか?」と聞くと、「病院です。先ほどあなたが来られていた病院の病室です」と言って溜息をついた。
「ヤモさんは別室にいます。呼びますか?」
「ヤモ? いるのか? 何がどうなっているんだ?」
私は未だにどうして私がここで寝ているのか理解できなかった。
「あなたが気を失ってから約15分経過しました。まだ混乱しているように見えますので、もう少しお休みになられていてもよろしいかと。一泊しても宿泊代は頂きませんので」
「いや、そんなことより、どうして私がここに?」
「現場にいなかったので何があったかは知りませんが、ヤモさんの弁明を聞くには、ちょっと驚かしたら気絶しちゃってびっくりした、だそうです。まさかヤモさんがこの近くに住んでいるとは思ってもいませんでしたが、そんなことよりもう25歳なのだからいい加減ドッキリとか止めればいいのにって思います。推測ですが、簡潔に言うとあなたはヤモさんに驚かされて意識を失い、そして私はヤモさんに呼ばれて車で迎えに行った。そしてあなたをこの病室まで連れて寝かせた。以上です」
「私が気絶した? それでここまで?」
「細かいことはヤモさんに聞いて下さい。私の命の恩人といえど、さすがに今回のことは呆れて何も申せません。最近こっちに来たとか言ってますが、だったら何もあんな手間暇かかること私にさせないで自分からあなたに会いに行けばいいじゃないですか。そう思いませんか? そうでなくても私に一言ぐらい挨拶に来てもいいじゃないですか。どうして、せっかく作ったのだから全部うまくいくかどうかぐらい確かめたいとか、本当に、もう」
何を怒っているのだろうかと思いながら私は彼女の話を聞いていた。
「とにかく、そこにいて下さい。いまからヤモさんを呼びますので。それでどうぞ二人でお話でも何でもして下さい。感動の再会でも何でもお好きなように」
そう言って彼女はポケットから携帯電話を取り出し、電話をかけ始めた。
彼女の口元が一瞬引きつったかと思うとすぐに電話を切って不機嫌そうに口を開いた。
「ただいまお休み中のため、電話にでることができないそうです。
今から起こしに行ってきます。ここで待っていて下さい」
そう言って彼女は椅子から立ち上がると、くるりと向きを変えてさっさと出口のドアの方まで歩いていこうとした。
「ちょっと待ってくれよ」
私がそう言うと彼女は足を止めて振り返った。
「何でしょうか?」
「何って。ヤモはいるのか? 本当に」
「いますよ。別室で反省もせずに寝ているそうです」
「だったら私から会いに行くよ」
「駄目です。私も医者のはしくれです。気絶してすぐに行動すると、また気を失って倒れることもあります。そこでゆっくりしていて下さい」
彼女から静かな怒りを感じた私は素直に従った。
そうして彼女は部屋から出て行ってしまった。
一人きりになった私はどうなっているのか考えようとした。
私はヤモに会ったのだろうか? そんな記憶はどこにもない。
ショックで忘れているだけだろうか。
病室の棚の上に置いてあった湯呑茶碗の方からカチャンという音がした。
その音に驚いて私は振り向いた。
誰もいない。気のせいだと思った瞬間、
そこから一人の女がパッと現れた。
「ハロー、元気?」
私は悲鳴をあげた。たぶん悲鳴に近い声を出したと思う。
「そんな驚かないでよ、久しぶりの再会なんだから」
夢に違いない。いやホログラムかあれも。どこからだホログラム。
その女が近付いてくる。ホログラムじゃない。
足音がしない。ゆっくりと近付いてくる。
誰だ、あんな前髪の長い女性は知らない。
助けてくれ。
私は布団にもぐりこんだ。恐怖のあまり咄嗟にとった行動だった。
「ねえ、大丈夫だから。さっきは本当にごめんって思っているんだから」
さっき、
そうだ。私は確か、十字路交差点のところで女の幽霊に出会って
その幽霊がなんでここにいるんだ。
布団の上から何かが乗っかってきた。
動いている、それによって私の体が揺さぶられている。
布団がはぎとられようとしている。
暗い布団の中に光り差し込むすき間が出来て、
そっちに目をやると、
髪の毛のすき間から女性の目が見えた。目と合った。
あ、力が抜ける。もう慣れたぞ、この感覚。また気を失うんだな私は。
「何ですか! いまの悲鳴は!」
「げ! ピーちゃん!」
「ヤモさん! まさか!」
「だって、せっかく作ってもらったのに。この透明マント。
それにすごいでしょ、この靴。足音消せるようになっててね」
「馬鹿じゃないですか! 患者さんにドッキリやるなんて!」
「だって、やってみたいじゃない! 笑って許してくれる友達も少ないんだから!」
遠ざかる私の意識の中、女性と女性が喧嘩する声が聞こえて、遠く聞こえてきて。
私はどうなってしまうんだろう。
ここは現実、夢、仮想世界? いつからどこで、どこからいつだ?
「脳内パンク寸前です」という声がどっからか聞こえた。
そう言えば、どうして私はここにいるんだ。
ああ、近眼手術をしに来たんだっけ。
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