第6話 入学式
そのままロッカーから出て降りると目の前に愚太郎や昂虞などがいるのを見つけた。
「おーい!二人ともここにいたんだね!」
愚太郎がブンブンと手を振っている。そこはある程度クラスメイトが固まっていた。
先頭にいる甲三郎先生が手を叩く。
「はいそれじゃこれから入場じゃ」
講堂の扉が開くと拍手とともに入学式に迎え入れられた。
新入生用の椅子に座ってやっと落ち着く。公的な行事だしきっとちゃんと進むだろう。
それが俺の幻想にすぎなかったことがすぐに証明されたのだが。
中は広くやたら豪華だ。
赤い絨毯が中央に敷かれ、壇上には大きな校章が掲げられている
そこだけ見れば、ちゃんとした高校の入学式だ。
……よし、流石に入学式くらいは普通だ!
そう思った次の瞬間。
「開式の言葉。教頭先生お願いいたします」
「ただいまより激王学園入学式を開始します。新入生の皆さま、本日はご入学おめでとうございます」
若々しい声が聞こえる。壇上に立っていたのは――
どう見ても20代後半にしか見えない女性だった。
黒のスーツを綺麗に着こなし、長い髪を片側に流している。
どこからどう見ても若いはず。
「……は?」
思わず声が漏れる。
隣の席の愚太郎が振り返った。
「見てみて教頭先生綺麗だね!」
「え?あれが教頭先生なのか」
「そうだよ確か九条先生とか言う名前で28歳じゃ無かったかな。金でこの地位買ったとか言われてる」
何でそんな噂が普通に流れてんだよ!!
しかも周囲の誰も驚いていない。これは完全に日常らしい。
彼女の挨拶は妙にスムーズだった。言葉遣いも丁寧で、声も通る。見た目の年齢以外は完璧だ。
……それ以外は。
「続きまして校歌斉唱です。ご起立ください」
司会はそのまま続いていき、俺たちは起立する。
指揮棒を持って吹奏楽部の前に歩いて来たのはチンパンジーだった。
「…………」
しかも一丁前にスーツと蝶ネクタイをしている。
そのまま指揮棒を持ち上げて叫ぶ。
「ウッキッキィッ!!」
バッ!!
指揮開始。
次の瞬間、それに従う吹奏楽部の演奏が始まる。
しかも普通に上手い。指揮棒を振っているチンパンジーとそれによく合わせられた部員の演奏技術は賞賛するほかなかった。
俺のツッコミをよそに、全校生徒は普通に歌い始めた。
隣の舞香も、静かに口を開く。
歌っている声が少し聞こえるが透き通った声で聞きほれてしまう。
学園生活が長いということなので効果は何回も歌っているのだろうが……
いや何で聞きほれるほど成立してんだよ!!
斉唱が終わり、皆でまた席に着く。
「続きまして来賓の紹介に移らせていただきます」
来賓だ!そうだよこれ入学式なんだから来賓が大勢いるはずだよね。流石に来賓祝辞ができるほどの社会的地位がある人々ならまともなはずだ。
教育委員会の職員やら、市議会議員やらが起立して祝辞を述べていく。ここまでは良い。だが問題はこの後だった。
「百賀流忍術師範。百賀忍様」
「ご入学おめでとうございます」
布で顔を隠した女性がペコリと頭を下げた
は?
なんで忍者がまだ来てるんだよ。
その後も訳の分からない人々が挨拶を続けている。極め付きは。
「その辺を歩いていたオッサン様」
「席が余ったから詰め込まれたんで何をするのか分からんけどとりあえずおめでとう」
そもそも知らないオッサンを入学式に呼ぶなァ!
「それでは最後に校長先生より祝辞です」
壇上に、穏やかな老紳士が現れた。
優しそうな笑みに整ったスーツ。そして物腰も柔らかい。
……やっとまともな人が現れたんだ。
本当に、そう思った。
「皆さん、入学おめでとうございます」
落ち着いた声。
「この学園では、何よりも生徒の個性を尊重しています」
ここまでは良い校長の挨拶だ。
「そして多少の常識外れも、若さゆえの輝きです」
……ん?
「多少の爆発、多少の破壊、多少の動物ロボットなどの乱入は自由です。そして皆さんには、自由に学園生活を楽しんでいただきたい」
穏やかに微笑む。
あ、この人が一番ヤバいわ。
起こっていること全てを理解し、許容している。
この異常空間を“正常”として回している元凶なのだと。
隣から小さな声。
「……隼人くん」
「なに」
「……大丈夫?何か緊張してるみたいだから」
舞香が静かにこちらを見る。
「……正直、全然大丈夫じゃないけど大丈夫だよ」
そう答えると。
舞香はほんの少しだけ目を細めた。
「……でも」
「?」
「……私が隣にいるから」
軽く、舞香の指先がこちらの手に触れた。
それだけで少しだけ、呼吸が落ち着いた。
意味不明な激王学園。
でも。まあ。隣だけは悪くないかもしれない。




