第5話 ロッカーでの密着
俺たちは廊下の外に出たが、既に他のクラスの連中は出てしまっていたようだった。
おいおい絡繰りがあるってどこにあるんだよ……俺は新米だから何も分からねぇぞ?
俺が困惑しているのを舞香は察したらしく、背中をツンツンと突いてくる。
「私はずっといるからやり方知ってるよ」
え?そのまま俺の手を引いていく。
ちょ待てよ。一体どこに……舞香は俺の手を引いてどこか別の場所に連れていこうとする。てか俺今女の子と手を繋いでないか?!顔がぽっと紅くなる。
「ほらこっち」
やって来たのは隣にある空き教室であった。
そのまま目の前にあるのは掃除用具入れのロッカー。高さは天井まであるので備え付けだろう。どういうことだと思っていると腕を引かれる。
一瞬で視界が揺れて――
ガコン。
気づいたら。共にロッカーの中に押し込まれていた。
「……え」
狭い。というか。近い。
目の前に、舞香の白く美しい髪がすぐそこにある。
「しー……狭いから響くよ」
小さく指を立てて唇に当てる。
その距離、数センチ。
近い近い近い近い!マジで息がかかる。
微かに香る、柔らかい匂い。
シャンプーなのか、よく分からないけどとにかく落ち着かない。
「髪の毛の匂いをかがないで」
「この距離でそれは無理だよ!」
俺はまた暴れて外に出ようとしてまた止められる。案外力が強い
「……すぐだからここにいて」
舞香が小さく呟く。その声すら近い。
いやそれよりこの距離がまずいって!
体が触れてる。
肩も、腕も。逃げ場がない。
その時。
ぐっ。
「……うおっ」
バランスが崩れる。
舞香が少し体を寄せてくる。完全に密着だ。
「……ごめん」
「いや大丈夫じゃないけどなんか大丈夫」
何言ってるか自分でも分からないよ。
と言うか顔が近い。近すぎる。
舞香は、相変わらず無表情で。
でもこうも言ってくる。
「……顔、赤いよ」
「仕方ないだろ。こんな密着してるんだもん」
小声で反論する。
「……もしかして暑がりさんなの?」
「マズいのはこの状況だよ!!」
舞香は少しだけ考えるようにして、
「……こう?」
さらに、近づく。
「近い近い近い!!なんで寄る!!」
「……隼人君が落ち着くかと思って」
「逆だよ!!」
でも彼女はぎゅっと服の袖を持っているので出られねえ……
この距離のまま、俺にどうしろと。
「……ねえ」
舞香が小さく言う。
「なに」
「……ちょっといい匂い」
「は?」
一瞬、思考が止まる。
「隼人くん……これで落ち着く?」
そのまま、少しだけ額が触れる。
「ちょっ!」
その瞬間。
ガコン!
「……は?」
間の抜けた音。
次の瞬間。
ガコンと床が、動いた。
「え、ちょ、待て」
ロッカーが、揺れる。
「……じっとして今降りてるから」
舞香が平然と言う。
「いや何が!?」
さらに。
チーン。
ガチャ。
ロッカーの扉が開く。
そこは――
入った時とは大違いだった。
「…………」
沈黙。
そして俺はゆっくり振り返る。
「あの舞香さん?」
「ロッカーはエレベーターになってて下に降りられるんだよ?」
「なんでロッカーがエレベーターなんだよ!!!!」
「……敵襲に備えるため」
舞香がポツンと一言。
「何で高校に敵襲の想定があるんだよ。忍者屋敷かここは!!」
「最初に忍者養成所って言ったじゃん」
なんで一般高校が忍者の養成所なんだよ。
「これでも新人の隼人君用に大分優しい方法だよ?」
舞香はそう言ってベランダを指さす。するとそこには壁をロープで降りている奴らが……
「男子は壁をそのまま降りる人が多いかな。やんちゃな人だとロープも使わずに手だけでクライミングみたいに」
舞香は手をワシワシして掴まる様子を表現している。
「は?」
混乱している俺をよそに、舞香はロッカーの中にずっと手に握っていたモップをしまう。
「上の階に上ることもできるよ」
「知るかもういいよ!!」
俺は顔を背ける。
でも。さっきまでの舞香との距離を思い出して、
少しだけ顔が熱くなる。
……なんなんだよ彼女たちは。
隣を見る。
舞香はいつも通り無表情で。
でもほんの少しだけ。ほんの少しだけ彼女も顔を赤くしているように見えた。




