第3話 俺の高校生活終了のお知らせ
俺は思わず愚太郎を一本背負いで投げ飛ばしてしまい流石に怪我してないかと心配になったが、愚太郎は未だピンピンしている。バカは風邪もひかないしそもそも怪我もしないんだと初めて分かった。
「あはは!もっと投げてよ」
その上で相変わらず狂っているなこの男。このバカは適当に後ろの昂虞に預けるとして周囲を確認する。これだけの騒ぎがあってなお振り返りこそあれ誰一人動かないとは中々カオスな環境だな。
これからの生活を心配する間もなく次のお方が登場する。
「……おはよう」
ふいに、静かな声が耳に届く。
振り向くと、そこにいたのは白髪ロングの美少女舞香だった。両隣は親しそうな女子たちがいる。
昨日と同じ、落ち着いた無表情。
なのに。
なぜか彼女の登場に少し安心してしまう自分がいる。知っている人を見つけた時特有の安心感だろうか。
「……お、おはよう」
俺は挨拶をして舞香を見る。
「……隼人くん」
「何ですか?!」
自然に名前を呼ばれ、俺は緊張で背筋がピンとなって反応する。
「席、となりだよ」
「え?」
舞香が俺を手招きして黒板を指差す。
歩いた先にあったのは黒板に貼られた座席表。
そこには確かに。俺の隣に舞香の席が並んでいた。
大体初めての交友関係と言うものは席が近い奴同士で始めることが多いだろう。逆を言えば充実した交友関係は席の良さで決まると言ってもいいはずだ。高校にもなると中々席替えする機会も無いだろうし、俺は窓側において舞香をほぼ独占する権利を与えられた勝ち組である。
こうした俺のささやかな喜びは後ろから聞こえた「あ、うっかり扉外しちゃった」の一言ですべて消えた。
ハァ?扉外れるって何。どんだけ力入れて開けたんだよ!俺はそう思って振り返ってみると。扉を片手で軽々と持ち上げたギャルがあちゃーと頭を抱えていた。
もう一度言う昂虞のようなゴリラではなくこの金髪ポニーテールのギャルである。ホントのゴリラ枠はこっちだったかもしれない。
「あっ琴音、扉外しちゃったんだね」
「まっしゃーない。アタシの腕力に勝てないドアが悪いって事で」
琴音と呼ばれた女子は舞香に苦笑しながら答えてからゴリゴリとドアを嵌めていく。
「おいおい琴音大丈夫?間違えてドア真っ二つに折らないよな?」
「うっさいグタロー。小学生じゃないって言うの」
まず小学生の時点でドアを破壊するなよ!それで愚太郎も普通に受け入れてるしさ。いや彼の場合まず状況を理解していない可能性が1割くらいあるんだが。
「それよりアンタの身体を真っ二つに折り畳もうか?」
「ひっ!」
愚太郎は俺の背後に隠れる。多分理解してるな……
「隼人くん?」
「そっか俺らは隣同士か」
「あ、ゴメンゴメンでも俺らで隣の席って凄い偶然だね。この時点で凄い運命だよ」
「俺この学校についてよく知らないから色々教えてもらえると嬉しいよ」
俺と舞香は仲良く並んで歩く。変なのはいるけど幸せな学校生活になりそうだ。
そう思っていた時期が俺にもありましたとさ。
舞香の席は俺の左隣にあり、舞香の席のすぐ隣には窓があった。前後としては後ろから2番目で教室の左奥側で教卓から近くも遠くも無い絶妙な位置だ。つまり窓側を見ればいつでも舞香の姿を拝める好環境。右前に愚太郎が居てしょっちゅう話しかけてくるとかいうバカみたいな環境でも無ければ……
「やったね隼人。僕といっぱい話そうね!」
「お、おう」
絶対色々質問してくるじゃん。止めろよ授業中に下ネタでいちいち振り返って来るの。これに対して不満を持っているのは俺だけではないようで。
「うわ最悪グタローの後ろじゃん。絶対授業中に下ネタでいちいち振り返って来る……」
琴音も不満だったようだ。俺の右隣は彼女だったらしい。
「よろしくお願いします」
「うんよろしく~」
ギャルらしい雑な対応だ。
「やったじゃん転校生!」
ギャルが身を乗り出してくる。
「舞香と隣とか当たりじゃん!」
「当たり。そうなのかな」
「あっでも授業中にチラチラ見ちゃダメだよ?見たらアタシがゲンコツするから」
そう言って拳を握って差し出す。
はい絶対ムリです。さっきの扉外すようなメスゴリラのゲンコツなんて軽く殴られただけで下の階の授業に乱入してしまうことになるだろう。
授業中ではない今のうちに見ておこう。左に目線をやると舞香が微笑んでいる。
――隣。
やっぱり、近い。
物理的な距離じゃない。
なんというか、存在の距離が近くてありがたい。そんな存在である。
そう陽気に浮かれていた俺の背後に威圧感が鎮座する。
覇気だけで振り返ってみるとやはり昂虞だった。男女が半々ではないためどうしても後半では男女交互にはならなくなってしまう。しかしいざ後方に3mの巨体が鎮座していると何というか逆に立派に見えるような気もする。まぁ授業中肩を小突かれたら即死だろうけどね。
まだ全てが揃ったわけではないけど、ここまでを総括して一つ言えることがある。
俺の高校生活は開始半日も立たずに終了したかもしれないということだ。




