6話 これが、俺の選んだ人生
2013年春。
高橋健と鈴木あかりは、静かな結婚式を挙げた。
式は鈴木家の庭で行われた。
親族と健の数人の親しい友人だけ。
派手な演出はなく、白いドレスを着たあかりが、健の腕に寄り添って歩く姿が、ただ美しかった。
あかりは21歳。
健は28歳。
年齢差は7歳。
周囲からは年の差婚として少し話題になったが、鈴木家の両親は誰よりも喜び、健くんがいてくれるなら、もう何も心配ないと涙ぐんだ。
新居は、健が数年前に購入した都心のマンション。
高層階の角部屋。
大きな窓から東京の夜景が見渡せ、リビングは広々として、あかりの好きな白と淡いピンクを基調にコーディネートされていた。
引っ越し当日。
あかりは荷物をほとんど持たず、健の腕にしがみついて部屋に入った。
「ここが……私たちの家」
あかりの声は震えていた。
喜びと、少しの不安。
健はあかりを抱き寄せて言った。
「そうだよ。ずっとここで、一緒に暮らそう」
あかりは健の胸に顔を埋めて返す。
「うん……ずっと、ずっと」
結婚生活は、穏やかで、甘く、静かに始まった。
健の日常は、完全に不労所得中心になった。
朝は遅く起き、コーヒーを淹れて新聞を読む。
午前中は株価チェックとポートフォリオの微調整。
午後は読書や散歩、時には新しく趣味になったガーデニング。
特許のライセンス料が毎月数百万単位で入金され、配当金と合わせると、月収は軽く1000万円を超えていた。
2025年の記憶を基にした投資は、すべて的中していた。
ビットコインは2017年の大暴騰で一部売却し、その後も適度に保有。
アベノミクス後の株高、コロナショック後の回復、すべてを予測通り乗り越え、資産は10億円を軽く超えた。
健はやりすぎないルールを守り続けた。
目立つような大口投資は避け、税理士と顧問契約を結び、合法的に節税。
マスコミに取り上げられるような派手な生活は一切しない。
あかりは、そんな健の生活に完全に寄り添った。
朝は健より早く起きて、朝食を作る。
健の好みのトースト、目玉焼き、フルーツ。
コーヒーの淹れ方も完璧に覚えた。
「健さん、今日の予定は?」
あかりはいつも、健の顔を見ながら聞く。
健が、家でゆっくりと言うと、じゃあ、私も一緒にいるねと、嬉しそうに笑う。外出するときは、必ず健の手を握る。
街を歩くときも、腕に絡みつく。
レストランでは、隣にぴったり寄り添い、メニューを一緒に選ぶ。
健が、今日は一人で出かけようかと冗談を言うと、あかりは目を潤ませて、嫌……置いていかないでと、すぐに抱きついてくる。
深い依存は、結婚後も完全に消えなかった。
あかりの友人関係はほぼゼロ。
SNSもやらず、スマホは健との連絡と写真撮影だけ。
近所の奥さんたちとは挨拶程度。
健以外の人とは、必要最低限の会話しかしない。
しかし、健に対しては、極端なまでの従順さと献身。
健が疲れて帰ると、すぐに肩を揉み、お疲れ様。今日は私が全部やるから、休んでてと言って、風呂を準備し、食事を作り、夜は健の胸に寄り添って眠る。
健が、ありがとうと言うと、健さんのためなら、何でもするよと、微笑む。性的な関係も、結婚後は自然に深まった。
あかりは健にすべてを委ね、健さんがしたいようにしてと、恥ずかしがりながらも積極的。
健の好みを覚え、下着の色も、香水も、すべて健の好みに合わせる。
健は、そんなあかりを大切に扱った。
決して乱暴にはせず、いつも優しく、愛してるよと囁く。
あかりはそれだけで、涙を浮かべて喜ぶ。
2015年。二人の間に、初めての子供が生まれた。
女の子。
名前は未来とつけた。
あかりは出産後、すぐに体を回復させ、子育てに没頭した。
健は在宅で仕事(と言ってもほとんど投資管理)をしながら、子守も積極的にした。
未来が泣くと、あかりはすぐに抱き上げ、あやす。
そして未来が笑うと、健さん、見て。未来ちゃん、笑ってると、幸せそうに言う。
健は未来を抱き、あかり、ありがとうと、感謝を伝える。
あかりは微笑み、私の方こそ……健さんがいてくれるから、こんな幸せなんだよという。
2020年。未来は5歳。
元気いっぱいの女の子。
あかりは専業主婦として、未来の幼稚園の送迎、習い事、すべてを完璧にこなす。
健の資産は、インフレと投資の複利で、2025年価値で予定を超えて20億円を超えていた。
もう、何もする必要はない。
健は時々、2025年の記憶を振り返る。
あの頃の自分は、朝起きて会社に行くのが苦痛で、貯金は少なく、老後の不安に苛まれていた。
今は違う。
朝、目覚めると隣にあかりがいる。
未来の笑い声が聞こえる。
窓の外には、穏やかな東京の景色。
「これが、俺の選んだ人生か」
健は静かに思う。
どこかで歴史が変わったかもしれない。
でも、それでいい。あかりが生きている。
未来が生まれた。
そして、自分は幸せだ。
2025年を超えた、ある夏の日。
健はベランダでコーヒーを飲みながら、あかりと未来が庭で遊ぶ姿を見ていた。
あかりが未来を抱き上げ、パパも来て! と、笑顔で呼ぶ。健は立ち上がり、二人の元へ歩いていく。
あかりは健の胸に寄りかかる。
「健さん……私、幸せだよ」
健はあかりの髪を撫で、俺もだと返した。
未来が二人の足にしがみつき、言う。
「パパ、ママ、大好き!」
家族三人で笑い合う。
健は心の中で呟いた。
(ありがとう、未来の俺。そして、ありがとう、あかり)
記憶のタイムスリップは、ただのきっかけだった。本当の幸せは、ここにいる家族たちと、これからの時間で作っていくものだ。健はあかりの手を握り、未来を抱き上げた。
夕陽が、三人を優しく包んだ。
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