4話 早期リタイアの基盤完成と依存の花
2005年11月下旬、事件の余波が住宅街を静かに覆っていた。
鈴木あかりは、学校を休みがちになった。
いじめっ子たちは警察沙汰となり、転校や補導で姿を消した。
学校側は表向きに「いじめはなかった」と主張したが、匿名通報の証拠が効き、学校に指導が入った。
あかりの両親は、娘の異変にようやく気づき、カウンセリングを勧めたが、あかりは頑なに拒否した。
彼女の心は、事件の傷跡で深く抉られていた。
一方、高橋健は日常に戻っていた。
介入したことを後悔はしなかったが、余計な注目を避けるため、近所での行動を控えめにしていた。
株の含み益は60万円を超え、特許の審査も進展の兆し。
コンビニのシフトを減らし、大学に集中するふりをしながら、投資の勉強を深めた。
ある夕方、健はアパートの前で郵便物を確認していた。
ポストに、丁寧な封書が入っている。
差出人は鈴木家。中を開くと、手書きの感謝状。
あかりの両親からだった。
「この度は、娘を助けていただき、ありがとうございました。
通りすがりとはいえ、勇気ある行動に心から感謝申し上げます。
もしよろしければ、一度お礼を申し上げたく存じます。
鈴木」
丁寧な長い手紙だったが要約すればこんなものだろう。
連絡先の電話番号が記されていた。
健はため息をついた。
(巻き込まれたか……)
でも、無視するのも不自然だ。
翌日、電話をかけた。
鈴木家の父親は、穏やかな声で応じた。
不動産関連の会社を経営する資産家らしく、丁寧で上品。
「お会いして、お礼をしたいのですが」
健は断る理由を探したが、結局、週末に鈴木家を訪ねることにした。
鈴木家は、住宅街の奥にある大きな一軒家。
庭には高級車が停まり、門構えが立派。
健はスーツ姿で訪れ、緊張しながらインターホンを押した。迎えに出たのは、鈴木の母親。
あかりの母親だけあって美人で優しげな中年女性、丁寧に家の中へ案内した。
リビングで待っていたのは、父親と……あかり。
あかりはソファに座り、俯いていた。
制服ではなく、私服のワンピース姿。
可愛らしい顔立ちが、近所で評判なのも頷ける。
しかし、目は腫れ、表情は暗い。
「高橋さん、ありがとうございます」
父親が頭を下げた。
母親も涙ぐみながら礼を述べる。
健は軽く会釈し、たまたま通りかかっただけです。気にしないでくださいと、控えめに答えた。
あかりは最初、健を見ようともしなかった。
しかし、父親が「この人が助けてくれた人だよ」と言うと、ゆっくり顔を上げた。目が合った。
あの廃墟での、涙に濡れた瞳。
「あ……ありがとう……ございます」
小さな声。
震えていた。健は微笑みもう、大丈夫? と、兄のような言葉をかけた。
鈴木家のお礼は、夕食の招待。
高級な寿司の出前を取り、雑談。
父親は健の大学生活を聞き、将来有望ですね。もし何かあれば、相談してくださいと、名刺を渡した。
あかりはほとんど口をきかず、ただ健の顔を時々見つめていた。
帰り際、門まで見送りに来たあかり。
「また……来てくれますか?」
小さな声で言った。
健は驚いたが、うん、機会があればと、優しく答えた。
それから、鈴木家との交流が始まった。
最初は、月に一度の訪問。
お礼の名目で、夕食やお茶。
両親は健を信頼し、娘の話し相手として歓迎した。
あかりは、徐々に健にだけ心を開き始めた。
2005年12月、クリスマスの頃。
健が鈴木家を訪ねると、あかりが手作りのクッキーを渡した。
「これ……お兄さんにあげます」
「お兄さん?」
健は笑った。
あかりは頬を赤らめ、だって……助けてくれたし、優しいから……お兄さんみたいと、小さな声で言った。
それ以来、健はあかりにとってお兄さんになった。
健は兄のように接した。
勉強を教えたり、ゲームをしたり。
事件の話は避け、楽しい話題だけ。
しかし、あかりの変化は明らかだった。
学校では、友人を作らなくなった。
クラスメートを避け、休み時間は一人で本を読む。
親にさえ、事件の詳細を話さない。
人間不信が、深く根を張っていた。
唯一の例外が、健。
あかりは健にだけ、甘えるようになった。
訪問のたび、隣に座り、腕に寄りかかる。
「お兄さん、今日も来てくれてありがとう」
健が「宿題やった?」と聞けば、素直に頷き、見せてくる。
健が「外に出てみようか」と言うと、喜んでついてくる。
2006年1月。
健の株が大きく動いた。
ライ○ドアショックで市場全体が暴落。
しかし、健は事前に一部を売却し、現金を確保。
暴落底で買い戻し、利益を倍増させた。
資産は100万円を超えた。
特許の一つが審査を通り、ベンチャー企業からライセンスの問い合わせ。
数百万円の契約金が見込める。
一方、あかりは学校を休む日が増えた。
両親が心配し、転校を検討。
しかし、あかりは学校なんて行きたくないと泣く。
そんな時、健が訪ねると、あかりは健の膝に頭を乗せて寝てしまう。
「お兄さんだけがいればいい……」依存の始まりだった。
健は心配したが、少しずつ回復するさと、楽観的に優しく撫でた。
2006年春。
あかりは14歳、中学2年生。
転校せず、同じ学校に通うが、孤立を深める。
クラスメートを信用せず、教師にも相談しない。
近所の友達も避ける。健の訪問頻度が増えた。
週に2回。
両親の依頼で、勉強の家庭教師役も引き受ける。
あかりは健の言うことだけを聞く。
「お兄さんが言うなら、やってみる」
宿題を完璧にこなし、テストの点数を上げる。
健が褒めると、満面の笑み。
しかし、他者に対しては冷たい。
母親が友達作ったら? と言うと、いらないと人間不信が、健への依存を強める。
2006年夏。
健の資産は500万円に達した。
任○堂のW○iブームで株価急騰。
特許のライセンス料が入り、初の1000万円が見えてきた。
あかりとの時間は、日常になった。
公園で散歩したり、図書館で本を読んだり。
あかりは健の手を握り、離さない。
「お兄さん、ずっと一緒にいて」
可愛らしい顔立ちが、ますます評判に。
近所の奥さんたちが、あかりちゃん、綺麗になったわねと言う。
あかりは健にだけ、笑顔。
依存は深まる。
健が遅れると、不安で泣く。
電話で、早く来てと懇願。
健が来ると、抱きついて離れない。
依存からの変貌が、始まっていた。
健は気づいていた……。
ただ、甘えん坊な妹みたいだなと、優しく受け止めた。
2007年。
あかり15歳、中学3年生。
健22歳、大学4年生。
健の人生は加速。
iPho○eの発売で株価さらに上昇。
資産2000万円。
特許をもう一つ取得し、企業売却で数千万円の利益。
大学卒業後、就職せず、フリーランスのエンジニアに。
表向きは普通の会社員を装うが、投資と特許で不労所得を構築。
あかりは高校受験。
健の指導で、偏差値の高い私立高校に合格。
合格祝いに、健が某夢の国へ連れて行く。
あかりは興奮し、健にべったり。
アトラクションで手を握り、お兄さん、好きとまだ、妹のような好き。
しかし、依存は恋の影を帯び始める。
高校入学後、あかりの人間不信はさらに強まる。
クラスで孤立。
部活に入らず、放課後は家で待つ。
健の訪問を、心の支えに。
2007年秋。
あかりが風邪を引いた。
健がお見舞いに来ると、ベッドで健の手を握り、お兄さん、側にいて……と言われ、健は徹夜で看病。
あかりは涙を流し、ずっと、こうしていたいと、依存が増す。
健の好みを覚え、料理を作ったり、部屋を掃除したり。
「私、何でもするよ。お兄さんのためなら……」
2008年。
リー○ンショック。
健は予定通り、事前に売却し、大損を避け、安値で買い戻す。
資産は一時減ったが、回復で1億円近くに。
あかり16歳、高校1年生。
学校では相変わらず孤立。
いじめのトラウマで、女子グループを避ける。
男子からも距離を置く。
健との時間だけが、喜び。
週末はデートのような外出。
映画を見たり、カフェに行ったり。
あかりは健の腕に絡み、お兄さん以外、誰もいらないと思う。
依存が、恋心へ移行していく。
健の優しさに、胸が熱くなる。
夜、一人で健のことを思い、頬を赤らめる。
2009年。
あかり17歳、高校2年生。
健24歳、表面上はエンジニアだが、ほぼリタイア状態。
投資の配当金だけで、生活可能。
そしてあかりの依存はピークに。
親にさえ、反抗的する。
健が言うなら、聞く。
健が、学校行けと言うと、素直に行く。
ただ健が、友達作れと言うと……試みるが、失敗。
結局、健だけ。
夏祭りで、浴衣姿のあかり。
健に寄り添い、お兄さん、私のものになってと冗談めかしたが、本気。
2010年。あかり18歳、高校3年生。
健25歳、資産3億円超。
早期リタイアの基盤完成が完成していた。
あかりの恋心が、芽生えから花へ。
依存は、恋の形に。
健に触れるたび、心臓が鳴る。
お兄さん以外、考えられない健はまだ、兄のように。
しかし、あかりの視線に、変化を感じ始める。
2010年春。あかりの誕生日。
健がプレゼントを渡す。
ネックレス。
あかりは抱きつき、愛してる……お兄さんと言った。
言葉の重みが、変わっていた。
依存が、深く根を張り、恋を育てている。
あかりの人生に、健の存在が欠かせないものに。
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