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底辺サラリーマン40歳独身未来に希望無しの俺が、20年前に戻ってやり直し!  作者: frandre scarlet


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3/6

3話 抜ける棘

 2005年9月下旬から10月にかけて、秋の気配が住宅街を包み始めた。

 高橋健の日常は、表面上は変わらず淡々と続いていた。

 大学では中間試験が近づき、講義出席率をギリギリ保つためにノートを写す日々。


 コンビニの深夜シフトは週5日に増え、時給が少し上がって900円になった。

 株の含み益はすでに50万円を超え、任○堂が好調でソフ○バンクもじわじわ上昇。

 特許出願の優先権は確保済みで、審査請求のタイミングを待つだけ。


 それでも、心のどこかに小さな棘が刺さったままだった。

 鈴木あかり。

 健は意識的に「様子を見る」ことにしていた。

 直接話しかけるつもりはない。

 ただ、近所を歩くとき、公園を通るとき、コンビニの前を通るとき。

 視線を少しだけ向ける。

 それで十分だと思っていた。


 しかし、10月に入ると、状況は静かに、しかし確実に悪化していった。

 最初は小さな変化だった。

 ある朝、バイト帰りの途中の住宅街。

 あかりが一人で通学している姿を見かけた。

 いつもより肩が落ちていた。


 後ろから見ても、明らかに元気がない。

 健は足を止めず、通り過ぎた。

 次は、公園。

 夕方、ジョギングの帰り道。

 ベンチに座るあかりの姿。


 今度は一人ではなく、近くに数人の女子中学生。

 声は聞こえなかったが、俯いているあかり。

 周りの女子たちはひそひそとしゃべり、時折りくすくす笑いながら、あかりを指さしたり、携帯を向けたり。

 健は木陰から数秒見つめ、すぐに視線を外した。


(いじめ……始まってるな)

 記憶が正しければ、夏ごろから始まっているがこれはまだ序盤。

 陰口、無視、持ち物を隠す。


 それが徐々にエスカレートし、冬近くになると集団での暴行、そして最悪の結末。


(まだ、直接手を出す段階じゃない)


 そう自分に言い聞かせた。

 でも、棘は少しずつ深く刺さっていく。

 10月中旬。


 頼まれて代わりに入った夕方のシフト中。

 午後4時過ぎ、客が途切れたタイミングで外を見ると、制服姿のあかりが店の近くの自動販売機の前に立っていた。

 鞄を地面に置いて、財布を握りしめている。


 健はレジから動かず、ただ見ていた。

 あかりはお金を入れようとして、お金を落とし、拾い、また落とす。結局、何も買わずに立ち去った。

 背中が小さく見えた。


「……」


 健は深く息を吐いた。

 あの子、今、何を考えてるんだろう記憶のニュースでは、あかりは親に何も言ってなかったらしい。

 一人で耐えていた。

 親は資産家で忙しく、娘の異変に気づかなかった。

 学校も、表向きはいじめはないと認識していた。

 そして、最終的に……。


(もう、見てられない)


 その夜、シフトが終わった後。

 健はアパートに戻らず、近所の公園へ向かった。

 誰もいないベンチに座り、夜空を見上げた。


 ルールを変えるわけじゃない自分のためだけに記憶を使う。

 後悔しない人生も、自分のためだ。

 もしこのまま何もしなければ、

 数ヶ月後、あかりは死ぬ。


 ニュースではぼかされていたが、ネットに上げられた事件の詳細は残酷だった。

 性的暴行。

 集団による陵辱。

 そして、絶望の末の自殺か、事故死か。

 いずれにせよ、救われなかった命。


(知ってるのに、見て見ぬふりをするのか?)


 それは、40歳の自分が味わった何もできなかった後悔を思い出させる。

 少しだけ……介入すると決めた。

 ただし、やりすぎない。

 歴史を大きく変えない範囲で。

 まずは、証拠を集める。

 いじめの内容を把握する。


 あかりを直接助けるのではなく、いじめっ子たちを追い詰める。

 それなら、俺の存在は表に出ない。

 警察や学校に通報すれば済む。

 健は携帯を握りしめた。


 2005年の限られた機能で、何ができるか。

 まず、録音。

 次に、写真。

 そして、タイミング。


 10月下旬。健は大学とバイトの合間を縫って、行動を開始した。

 学校帰りの時間帯に、住宅街を散歩するふりをして、あかりの通学路を観察。

 いじめっ子たちのグループは、いつも決まったメンバー。


 リーダー格の女子、名前は記憶にないが、髪を茶色に染めかけている子。

 その取り巻き2人。不良っぽい男子も2人、時々合流。

 彼らはあかりを待ち伏せ、強く押したり、足を引っかけたり。

 健は遠くから見守り、ガラケーのカメラで証拠を撮った。


 画質は悪いが、十分に状況は伝わる。

 録音も、隠れてマイクを向けた。


「金持ちで生意気」

「親にチクんなよ」

「黙ってりゃいいんだよ」


 そんな言葉が、鮮明に録れた。

 11月に入り、事態はさらに悪化した。

 あかりの登校拒否が始まった。

 近所で噂になる。


「あの鈴木さんちの娘、最近あまり学校行ってないみたい」


 健はそれを聞きながら、計画を詰めた。

 決定的な証拠が必要だ。

 いじめがただの陰湿なものから、犯罪行為に移行する瞬間。


 記憶では、それが11月下旬。放課後、廃墟となった古いアパートの空き部屋に連れ込まれ、

 暴行が始まる。

 性的なものにまで及ぶ直前。

 そこで、健は介入する。


 健はカレンダーに印をつけた。

 11月25日、金曜日。

 記憶では、その日が事件の始まりだった。

 健は準備を進めた。

 まず、学校に匿名で通報する手紙を作成。

 内容は、「鈴木あかりさんがクラスメートからいじめを受けています。 証拠として写真と録音があります。早急に対応してください」と、簡潔に。


 証拠のコピーを同封。

 もちろん、健の指紋はつけないよう注意。

 次に、警察への匿名通報も準備。

 110番ではなく、警察署の相談窓口に郵送。


 最後に、自分が直接動くためのバックアップ。

 11月25日当日。

 健は大学を早退し、午後3時から張り込んだ。

 場所は、記憶にある廃墟アパート。

 近所の外れ、雑草が生い茂る古い建物。


 まだ解体されていない頃。

 健は遠くの路地から見張る。

 午後4時過ぎ。

 あかりが一人で歩いてくる。

 鞄を強く握りしめ、俯き加減。

 後ろから、いじめっ子グループが近づく。


「ちょっと来なさいよ、あかり」


 リーダー格の声。

 あかりは抵抗せず、引きずられるように廃墟へ。

 健の心臓が激しく鳴った。


(今だ!)


 健は走った。

 廃墟の入り口で、深呼吸。

 中に入る。

 薄暗い廊下。


 2階へ上がる階段。

 声が聞こえる。


「脱げよ」

「誰も来ないから」


 あかりの小さな悲鳴。

 健は階段を駆け上がった。

 部屋の扉は半開き。

 中に入る。

 中には5人。

 女子3人、男子2人。


 あかりは壁際に押し付けられ、制服のブラウスが乱れ、スカートが捲られかけている。


「やめろ!!」


 健の声が響いた。

 全員が振り返る。


「誰だよお前!」


 男子の一人が詰め寄る。

 健は冷静に、ガラケーを構えた。


「今、全部録画してる。警察呼ぶぞ」


 実際は録画機能はないが、ブラフ。


「証拠はもう学校と警察に送ってある。お前ら、終わりだ」


 リーダー格の女子が顔を歪めた。


「ふざけんな!」


 男子が殴りかかってきた。

 健は避け、逆に腕を捻り上げた。

 20歳の体だが、40歳の経験の中に格闘の記憶がありは少しできる。


「動くな」


 低い声で言う。

 あかりは震えながら、健を見上げた。

 目が合った。涙でいっぱいの瞳。

 健は優しく言った。


「もう大丈夫だ」


 その瞬間、外からサイレンの音。

 健が事前に匿名で通報しておいた効果。

 パトカーが近づいてくる。

 いじめっ子たちは慌てて逃げようとしたが、健が出口を塞ぐ。


「逃がさない」


 数分後、警察が到着。

 全員確保され、あかりは保護された。


 健も警察に同行を求められ、同行通りすがりの大学生として助けただけといい、詳しい事情は話さず、警察の調書に応じた。

 助けた側であるが、そこそこの時間をとられ、帰るころには夜遅くなっていた。


 健はアパートに戻り、ベッドに倒れ込んだ。

 手が震えていた。


「やった……」


 助けた。

 歴史は変わった。

 でも、それでいい。

 自分のためだ。

 後悔しないためだ。

 翌日、ニュースはまだ出ていないが、近所では噂が広がり始めた。


「戸野倉さん家の子が捕まったって」

「不良っぽかったものね。何かやると思ってたわ」


 健は静かに微笑んだ。

 これで、あかりは生きる。

 そして、俺の人生も、少しだけ変わった。

 心の棘は、抜けた。


 代わりに、新しい何かが胸に芽生えていた。

 それは、まだ名前のない感情。

 でも、温かかった。



お読みいただきありがとうございます。

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よろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
あかりちゃんを助けられて良かった。自分のためだけじゃなく誰かのために記憶を使えて良かった。
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