業務報告
「今日の業務をお願いします。」
「承諾しました。」
いつ始まったか、何が目的だったのか、或いはそもそも勝利目標があるのか?そもそもそれを考える必要性を私は感じない。既に業務は承諾し画面の中には点と線と使えるはずの武装一覧が並ぶ。
ここは静かでいい。外の喧騒も歩く人の声も、或いは学校へ向かう学生の自転車のベルの音もない。ある人はここで仕事をしていれば数日と経たずストレスで胃に穴が開くと言っていたが、開くほど何かを考える必要性はあるのだろうか?
「点AC、地点Xへ。時間20分以内。Kはそのまま待機、TはK2を援護。Jは廃棄、救援不要。切り捨て・・・。」
Jは画面から消え代わりにZが居座る。線に面している分排除しなければならない。その先は昨日奪取しデポとした場所だ。装備品目から投下する装備を選び投下指示を下す。うんざりするほど見た3次元立体マップは、しかし同じ顔は見せない。
それが表情とでも言う様に代わりへこみもすれば山も出来る。大量の鉄の雨と火薬はニキビ跡と言うクレーターを作り、出来上がったクレーターにはどこかの部隊が潜み、或いは野戦病院として使われる。
別にそれは構わない。Zなら爆撃を行い業務をこなす。友軍なら指示があるまで待機しているだろう。指示なく動く者があれば違反者として処理してくれればいい。ここからではそれが違反なのか、スパイなのかは分からないのだから・・・。
「Dは進め、HとMは両翼から援護。損耗率は軽微、更に進め。T2、T3はK2が全損した際に前へ・・・。」
仮にここにストレスがあるとすれば、それは動かない時や想定外の損耗が出た時だろ。損耗は悪だ。私の評価に響く。指示とログで私の指示の正当性が担保されるなら構わないが、ミスと断定されれば悪評もでる。
ここにはその悪評は届かない。届かない代わりに何度も悪評が立てば私がAやKとして織り込まれる。そんなモノに織り込まれるくらいなら私はここで静にコーヒーでも飲んでおきたい。
繰り返される指示は俯瞰して見ていれば意味もわかるのだろうが、そんな視点を持ち得ない前線では神の声として従わされるのみ。黙って従えばいい。私のミスは私のミスだが、従わずに起こったミスはより多くの血で支払ってもらう。友軍、敵軍問わずに。
指示を出しつつ3次元立体マップに映り込んだ点は航空機か。爆撃を指示しろと表示されているが、どこの横槍だ?まぁ、渡されたチョコなら美味しく食べて心を満たそう。
「O1、O2、O3、前へ。目標対空兵器、装備投下。」
指示外のUが更に動く。Uはダメだ。既に防衛側としても配置し、残りのWとPの損耗率では拠点維持が出来ない。戻れのコールを繰り返すがUは戻らない。仕方がない。
「対空兵器機半壊後にO1からO3は離脱。爆撃機は離脱を確認した後爆撃。」
Uは囮になってもらう。半壊で撤退したと見せかけ、後続に現場を渡したと考えるなら対空兵器の場所から敵軍も動けない。その動けない所をU諸共爆破する。戦術評価とするなら友軍へのフレンドリーファイアは忌むべきものだが、指示に従わない不穏分子を残す方が後々バカを見る。
最前線で嫌われ者の指揮官が死ぬ理由は、敵からの凶弾ではなく部下からの背後撃ちだ。何も驚くことは無い。それだけ無能だからこそ部下も不満を持つ。仕方ない、妥協する、今の状況ではこれ以外ない。その限界点を上回れば誰でも嫌になり、既に殺すだけ殺したその手で1体死体を増やしたとしても気にめとめない。
寧ろ指揮向上まで見込めるなら仲間を作り引き金は引かれ、名誉の戦死だったと言う嘲笑が送られる。そう、誰も彼もが浮かべる嘲笑。私だって推移が良ければ笑顔を浮かべる。業務としていい成績が出せているから。
「爆撃成功、O1〜O3は再編成し以後O1O2として運用。待機時間10分、爆撃地点から離脱する者は射殺。」
雨なのか晴れなのかも分からない戦場にあるのはホコリのみ。視界が悪い中で指示外の場所から来る者があるならそれは敵に等しい。既にUの識別マーカは消した。盤面上でUは死に現地でもUだった者達は既に屍となっている。単純に数が増えただけだ。なにも気にすることはない。
損耗率を下げろと指示を下されるなら更にUには戻れと指示しただろうし、O達の危険を感じても爆撃指示を遅延も考慮した。考慮するがそれはイタズラに判断を遅らせ鈍らせるだけで無価値なモノだ。現に今も私は他の者に指示を出し損耗率を最小限にしている。
誰が死ぬかではない。運が悪いから死んだ。それだけの結果に対して感情論を持ち出すのはいささか過剰過ぎる。その様なエネルギーがあるなら別の事に使えばいい。生きているならいくらでもやる事はある。
「Kは前進、ポイント26で装備回収。急行、敵軍装備品に接近。」
点の移動速度を考えればギリギリKは間に合う。端金で作られた物を命がけで奪い合いトロフィーの様に他にした者だけがその場での勝者たり得る。2番手はいない。それは死体だ。
「K、回収出来たなら応戦。引くな。」
待機時間は与えた。他より休んだなら動かす。当然の権利でその権利を使ったなら当然仕事はしてもらう。しかし損耗率が高い。先程Uが無駄な動きをしなければスムーズに事は運んだのだろうが、悪態をつく対象は既に消えている。
「MはKの援護、Kは戦闘終了後Mに再編。」
誰が何処にいるのか、或いは生きているのか死んでいるのか。再編を繰り返し残された者だけが顔見知りとなり、それも一瞬の後には見知らぬ誰かが横にいる。私は誰とも顔を合わせたくはない。この静かな場所が心地よく、不快とするなら今はUと言うノイズだったもの。それさえも消えたので不快感もない。冷えたコーヒーを一口。新たな不快だ、思ったよりも苦い。
「休憩時間です。」
「受諾。以後休憩終了まで待機者に任せる。」
休憩とはそのままなにもしない事だ。軽く飴を舐める程度で画面の事は考えない。どうせ後任が指示を出して新たな配置になり再考して判断を下す事になる。幾度か配置をシミュレーションしたがそうはならなかった。
無駄な配置に無駄な装備投下、そして何より残るはずの点が消えて残らないはずの点が残る。再編したならそれでいい。しかし、再編指示も読み取れないまま残る。そう言ったモノはあまり使いたくない。
誰もがそれぞれの癖と言うモノがあるにしても、戦術論や配置設計と言う観点から見れば他人が打った棋譜を途中から改変して負けを勝ちにするのは難しい。アチラだって同じ様に兵を動かす。コチラだって兵を動かす。
局地的な生存が必ずしも後の友軍の生存に繋がるからとは限らない。必要なのは平坦化された盤面で如何に突出を防ぎ、突出させたならカバーを行えるかだ。孤軍奮闘を映し出されれば私は即座に孤軍を切る。優秀な指揮官はそもそも孤軍にはならず他と同調して進む。
それが弾除けであり、生存率が一番高い方法だから。航空機の脅威があるにしても、それは叩けなかった誰かの責任であり接敵を検知出来なかった者が背負うモノ。私に悪態をつかれても困る。
地上と言う画面を運用し他から来る航空機との連携を取るように配置しているが、それもまたこの休憩の間にいじられて危うい画面を見る羽目になるかもしれない。指示ログはある。私の運用した盤面と違い即座に損耗率が上がったならソイツの責任だろう。
「休憩終了となります。業務を開始して下さい。」
「終了を受諾。」
飴を噛み潰しジャリジャリとした破片と歯に付いたモノが溶けていく。後を引く甘さにコーヒーを一口。新たな画面は配置が代わりKは消えている。それだけではなくMも消えて代わりにC2の表記がある。
CはAと共に運用し再編の予定もAから離す気もなかった。配置上、この2グループで防衛ラインは形成され、戦力の捻出は装備品投下と後方からと考えていた。コレではA単体でライン形成を行わなければならない。
「C2、Aと合流。ライン維持に当たれ。無理な交戦は控え急行。対空装備をAラインに投下。」
哨戒機とされているが欺瞞だろう。この場に偵察するだけの価値はない。既に血みどろの戦場は形成された戦況としてはコチラが有利になりつつある。デポは完全に取られたがライン維持をしたおかげで後方の準備も整いつつある。そんな中で航空機が来ると言うならそれは偵察ではなく、頭を抑えてラインを上げさせない為に制空権を取ろうとしているとしか思えない。
そう、既に敵の対空攻撃拠点は潰した。地上の敵軍が少ない中で悠長に偵察などしている暇はない。他のいくつかの部隊にも対空装備を投下し頭上を警戒させる。全ての部隊に渡す必要はない。経路となる地点の部隊さえ持っていればいい。
そもそもコレが本当に偵察機なら一撃で仕留められるだけの武器性のは有している。しかし、その武器さえも投下の衝撃で使い物にならない時がある。本来なら多くは投下する気はないが、下す判断としては継続戦闘を選び後に備える。
どの道先に野戦特科から砲撃されれば前に出て戦わせるしかない。その際頭上には航空機があり、相手もそれが分かっていれば航空機を出して制空権を取ろうとする。いくら長距離砲とは言え航空機は簡単に落とせない。
3次元立体マップにコチラも航空機を上げたと点が増える。航空機には私が指示をするのではなく、そちらのオペレーターが運用する。はっきり言えばあの爆撃機もノイズだ。確かに地上を管理する私ならどの地点を爆撃すればいいかはわかる。分かるが、それを不意に飛ばして指示しろと言われればロジックも変わる。
必要な時に必要なモノを必要なだけ管理して運用する。残された武器も担保出来るならわざわざ鉄屑にする必要もない。点は無限に増えない、武器も無限に増えない、増えるのは業務と構造だけ。
全ての点が消えれば業務は終わるのだろうか?それは困る。私が失業してしまう。始まりも定かではないなら終わりも定かではない。定かではないが結果が出ればそれが終わりを意味する。
「D対空攻撃。」
哨戒機とされた航空機の点は残る。地上戦と違い地対空攻撃は交わされやすい。人1人に戦闘機ほどの価値があるのか?残念な事に貴重な航空兵器と人とでは全く釣り合わない。だからこそ航空機はフレア等で誘導を逸らし生き残りを目指す。
既に哨戒機から戦闘機と名称を変えられた点は考えあぐねているだろう。この先も地対空装備があるのか?それとも虎の子の一発なのか?或いはこの地を奪還する戦力計算をどうするのか?
パイロットが考える領分ではないのだろうが、ジェット燃料を消費した分の仕事は課せられるだろう。ただ既にこの戦闘機は終わっている。地対空攻撃をされた時点でフレアを撒いたなら上がってきた友軍が見逃すはずがない。その考えは正しく戦闘機は程なくして画面から消え代わりに友軍機が増える。
このオペレーターは怒られる。過剰に航空機を上げすぎて燃料損耗率がバカにならない。臆病、或いは友軍思いとも取れる判断なのだろうが、その判断を下すには遅すぎる。哨戒機に時点ならまだ防衛の名目もあった。しかし、戦闘機撃墜が相手に知られればその時点で価値の低いこの地に航空戦力を出してくるとも思えない。
「本日の業務は終了しました。評価を確認しますか?」
「終了を受諾。悪評を抽出。」
「悪評はありません。損耗率、被害率、防衛率共に規定範囲内です。」
「ならいい。」




