表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生したら国を滅ぼす予定の悪役令嬢でした!?〜青写真どおりの破滅なんてごめんです!〜  作者: ちょこだいふく


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/6

2.

クラリス・アルメリアがこの世界に生を受けて、六年が経った。


 生まれながらに豊かな魔力の加護を持ち、礼儀作法や読み書きも早く覚えた彼女は、周囲の大人たちから「完璧なお嬢様」と評されていた。

 ――けれど、その“完璧”は、澄が努力で形づくったものだった。


(この世界では、うまくやらなきゃ。

 青写真では、この頃から少しずつ孤立していったんだもんね)


 今日は王太子との初顔合わせ。

 アルメリア侯爵家と王家の関係を正式に結ぶための、幼いふたりのお茶会。

 まだ婚約ではないが、周囲の空気には「次期王妃候補」という期待が漂っていた。


 鏡の前で髪を整えるクラリスは、そっと姿勢を正す。

 白いドレスの裾がふわりと広がり、幼いながらも凛とした淑女の姿だった。

 だが、鏡の中の自分を見つめるその瞳には、どこか影がある。


 横に控えていた侍女のミリアが、やわらかく声をかける。

「クラリス様、今日の笑みもお見事です。まるで王妃様のようでございます」


 クラリスは鏡越しに視線を落とした。

 青写真の中の“自分”――冷たいほど完璧な淑女。

 誰もが称賛するその微笑みは、まるで仮面のようだった。


(……あの時の私は、笑っていたんじゃない。

 ただ、貼り付けたような“淑女の笑み”を浮かべていただけ)


 少し息を整えて、クラリスは静かに尋ねた。

「ねえ、ミリア。

 “微笑み”って、淑女の義務かしら? それとも、相手のためにするもの?」


 ミリアは少しだけ目を瞬かせて、それから優しく微笑んだ。

「どちらでもございます、クラリス様。

 けれど、今日のような日は“あなたがそうしたいから”笑うのが、一番素敵ですわ」


 クラリスは短く息を吐いた。

 ――なら、今日は“義務”ではなく、“自分の意志”で笑おう。


 鏡の中の少女が、ほんの少しだけ口角を上げる。

 それは完璧ではなく、けれど確かにあたたかい笑みだった。


 やがて侍女が告げる。

「クラリス様、王家の馬車が到着されました」


 胸の鼓動が早まる。

 深呼吸をひとつして、クラリスは庭園へと向かった。


 春の風が、青薔薇の花びらを揺らしている。

 アルメリア邸の誇る庭園の中央には、白布をかけた丸いテーブルと二脚の小さな椅子。

 王家の紋章が刻まれた馬車が静かに止まり、扉が開いた。


 金髪に淡い紅の瞳を持つ少年――王太子、リアン・サフィール。

 まだ幼いながらも背筋を伸ばし、立ち居振る舞いに品がある。

 彼は父王に一礼してから、クラリスの前に歩み寄った。


「はじめまして、クラリス・アルメリア様。

 王家のリアン・サフィールです」


 丁寧で、少し緊張した口調。

 形式どおりの挨拶なのに、真面目なその声がどこか初々しかった。


 クラリスは裾をつまみ、深く礼をする。

 青写真では、彼女は冷たく完璧に振る舞い、この瞬間に“距離”を生んでいた。

 ――けれど今度は違う。


「はじめまして、リアン殿下。

 お目にかかれて光栄です」


 そして、少しだけ柔らかく微笑む。

 その瞬間、リアンの瞳が一瞬だけ見開かれ――やがて、小さく笑った。


「ぼくも……クラリス様に会えてうれしいです。

 青薔薇が好きだと聞いたので、飾ってみました」


 クラリスは驚いて、庭園の中央を見た。

 そこには淡い青薔薇の花束。

 ――青写真にはなかった“ひとつの違い”が、確かにそこにあった。


(この瞬間から、少しずつ変わっていくんだ……)


 風が吹き、青薔薇の花びらが光の粒のように舞う。

 クラリスは微笑みながら、そっと言った。


「まぁ……なんて素敵。ありがとうございます、殿下。

 では――ご一緒に、お茶をいただきましょうか?」


「はい!」


 リアンが嬉しそうに頷く。

 テーブルに並んだティーカップが、陽光を受けてきらめいた。


 その日、ひとつの“青写真”が静かに書き換わった。

 完璧な令嬢ではなく、“心を込めて微笑む少女”としてのクラリスが、

 この世界に、確かに息づきはじめたのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ