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転生したら国を滅ぼす予定の悪役令嬢でした!?〜青写真どおりの破滅なんてごめんです!〜  作者: ちょこだいふく


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1/6

1.

――静寂。

音のない白い世界がすべて塗りつぶしていた。


そこに、ぽつりと“彼女”は立っていた。

水原みずはら すみ

22歳。都内の中小企業に勤める、ごく普通の事務員だった。


朝は満員電車に押し込まれ、昼は理不尽な上司に頭を下げ、夜は誰もいない部屋でコンビニ弁当を食べる日々。


たまの休日に見たネット小説やラノベが、彼女にとって唯一の“現実逃避”だった。物語の中では誰もが努力を報われ、悪意にはきちんと罰が下る。

 ――そんな世界を、どこか羨ましく思っていた。


その日も、いつも通りの帰り道だった。

スマホに気を取られ、車に気づいたのが、ほんの一瞬遅かった。


雨上がりのアスファルト。きらめく水たまり。

耳に残ったのは、ブレーキ音と、誰かの声。


(……ああ、終わったんだな)


意識が遠のくなかで、なぜか涙は出なかった。

むしろ、どこかで「ようやく休める」とすら思っていた。


けれど――。


「……本当に、それでいいのですか?」


ーー声がした。

静寂を破るように、柔らかく響いたその声は、どこか懐かしかった。


顔を上げると、そこには光が人の形を取っていた。

金の粒子をまとった、美しい女性。

その瞳は深く、どこまでも優しい。


「あなたは、よく頑張りましたね。

 傷ついても、裏切られても、それでも人を信じようとした」


「……信じたかっただけです。

 誰かとちゃんと、笑い合いたかったから」


女神のようなその存在は、悲しげに微笑んだ。

まるで、澄のすべてを知っているかのようだった。


「では、あなたに一つ――“選択”を与えましょう」


「選択……?」


「ええ。あなたはもう、この世界では生きられません。そのまま…他の魂同様、穢れを落とし、次の輪廻を待ちます。けれど、私が提示したいのは、別の世界でなら“生き直す”ことが出来ると言うことです。

 ただし――そこは、すでにある“青写真”に基づく世界です」


女神が手をかざすと、白い空間の中央に、淡い青の光が現れた。

それは、水面のように揺らめき、やがてひとつの“物語”の形を取る。


金色の髪、翡翠の瞳。

ドレスを纏い、王宮の中心に立つ少女。

優雅で、完璧で、まるで絵の中の存在のように美しい。


 ――クラリス・アルメリア。


青の光は物語を映すように、澄の目の前で展開していった。


王太子の婚約者として称えられる彼女。

けれど、完璧さを求め、独善的なその姿は次第に人々から忌み嫌われ孤立を深めていく。

唯一の理解者であったはずの王太子にも距離を置かれ、

やがて、彼女は狂気に飲み込まれてしまう…。


抑えきれない魔力の暴走。

城も、街も、人々も――光の奔流に呑まれて消えた。


「……まって。これ……もしかして、転生先って……!」


「ええ。クラリス・アルメリアとして、生きてみる気はありませんか?」


「この子……国を滅ぼす“悪役令嬢”じゃないですか!!?」


思わず叫んだ澄に、女神はふっと笑った。

その笑みはどこか寂しげで、けれど温かかった。


「そう、“予定”では。

ですが未来は確定ではありません。

あなたはこの青写真を“見た”上で、選べます。

それをそのままなぞるのか、塗り替えるのか。」


澄はしばらく黙った。

胸の奥に、静かに火が灯るのを感じた。


青写真の中で孤独に泣いていたクラリスの姿。

あれは他人事とは思えなかった。

ずっと、人との距離に苦しんできた自分と重なって見えたのだ。


「……この子の運命を、描き直したいです。

幸せにできるかどうかはわからないけど、少なくとも“滅ぼす未来”は選びたくない」


女神は目を細め、澄の頭に手を置いた。

その指先は春の日差しのように温かい。


「あなたらしい答えですね。

ですが覚えておいてください。

転生とは、“他者の心を生きる”こと。

あなたが彼女を救おうとするほど、あなたの心もまた、彼女の影響を受けるでしょう」


「……それでも、構いません。

 今度こそ、誰かの笑顔を守りたいんです。そして、本当に心から…笑いたい。」


女神は、そっと頷いた。

光の粒子が舞い上がり、澄の身体を包み込む。


「――行きなさい、澄、そしてクラリス。

青写真を、あなたの手で描き直すのです」


世界が溶ける。

光が流れ、記憶が混ざり、意識が遠のく。

最後に聞こえたのは、やわらかな祈りの声だった。


「どうか、幸福を見つけてください――クラリス」


ーーー


まぶしい朝の光。

ふかふかのシーツ。手を伸ばすと、小さな指先。


絹のカーテン、薔薇の刺繍の天蓋。

息を吸い込むと、花と香油の匂い。


(……ここ、どこ?)


そう思った瞬間、胸の奥に“別の感情”が流れ込んできた。

寂しさ、怯え、そして――母を求める幼い心。


「……おかあさま……どこ……?」


声に出してしまった瞬間、自分でも驚いた。

涙が頬を伝う。止めようとしても止まらない。

それは澄の涙ではなく、“クラリス”の涙だった。


(泣きたくないのに……この子、どんな想いで……)


胸の奥が締めつけられる。

まるで、二人の感情が重なっていくような感覚。


 ――そうか。

これはただの転生じゃない。

“クラリスとしての人生を生きる”んだ。


扉がノックされ、柔らかな声が響いた。


「お嬢様、朝でございますよ」


澄――いや、クラリスは小さく息を吸い込んだ。

手の甲で涙を拭きながら、そっとつぶやく。


(大丈夫。今度こそ、笑って生きよう)


“青写真”は、ここから描き直される。

まだ何も知らないクラリスは、この瞬間――

確かに、新しい人生を歩き出したのだった。


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