第四十三話「『全てを、全員で』」
--- ベル視点 ---
「卿の姓はどこかで聞いたことがあるとは思っていたが、
まさか父親が『剣帝』だとは」
「まあ、息子の僕は剣術はからっきしですけどね」
「剣の天才の子だからといって、必ずしも剣術に長けているとは限らない。
卿は卿の道を歩めばいいのだ」
寝ようと思ったが眠気が飛んだので、
セリスの部屋を訪れた。
すると、思いのほか雑談で盛り上がってしまった。
普段の凛々しいセリスからは考えられないほど、柔らかい表情で俺の話を聞いてくれる。
セリスの話も聞きたいところだが、いかんせん過去が辛いからなぁ。
「いつか卿の父親と会う機会があれば、一戦交えてみたいものだな。
まあ、私に勝ち目はないだろうが」
セリスは、雷聖級剣士だ。
対して、ルドルフは火特級剣士。
普通に戦ったら、セリスに勝ち目はないかもしれないな。
「やっぱり、剣術にも属性の相性はあるんですか?」
「無論だ。ただ、ルドルフが火属性剣士なら、私の剣術との属性相性はあまり関係ない。
どのみち、私が勝てる見込みはないだろう」
セリスの全力を知らない以上何とも言えないが。
いや、ルドルフの全力も知らないわ。
何もわかってないじゃねえか。
「――団長!」
「む?」
びっくりした。
部屋の扉が、蹴破られたのかと思うくらい勢いよく開いた。
そこには、疲弊しきった騎士の姿。
あ、この人。
白龍の、臨時調査部隊の人だ。
思っていた何倍も早い帰りだったな。
「何か、進展はあったか?」
「副団長が……。副団長が……!」
「……デュランが? 何かあったのか?」
良い報告を持ち帰ってきたかと思ったが、
どうやらそうではないらしい。
焦燥に満ちた騎士は、上手く喋れていない。
「落ち着いて、何があったのかを話せ。
どんなことでも、決して怒らないと約束しよう」
「……白龍が、出現しました。
鱗にはほとんど異常がなかったのにも関わらず、
突然凍えるような寒さとともに雪が降ってきて……。
そしてすぐに、上空に白龍が現れました」
「――」
待て。
話が違うぞ。
はっきりと前兆があるから、出現するタイミングはわかりやすいんじゃないのか?
前兆こそあったものの、寒気が観測されてからすぐに現れるなんて、聞いてた話と違う。
「それで、デュランに何かあったのか?」
「はい。――副団長が私たちを逃がすため、ただ一人その場に残りました」
「――何?」
…………は?
デュランが、ただ一人だと?
「他の者たちは、無事なのか?」
「はい。副団長以外、全員無事に帰還いたしました」
「……そうか」
セリスは少し間をおいてそう言った。
ということは、エリーゼとエルシアは無事なのか。
それはひとまず安心だが、それよりもデュランの安否が心配だ。
――セリスと前団長の姿を重ねたくないって言ってたのに、
お前が前団長に重なってどうするんだよ。
「状況はわかった。――直ちに、騎士を緊急招集する」
そう言って、セリスは立ち上がった。
そして、早足で部屋を後にした。
一時間も経たずして、俺たち含めた騎士団が集結した。
数にして…………わからない。
まあ、数百人くらいはいるだろう。
セリスが現在の状況について説明しているとき、
雪がちらついてきた。
すごく、嫌な予感がする。
もしかして、こっちに向かってきているのか。
それなら、デュランはどうなってしまったのか。
そうやって、様々な推測をしてしまう。
説明の途中から最後まで、騎士たちは終始ざわついていた。
そりゃ、自分たちが慕っている副団長が危険にさらされているとなると気が気じゃないだろう。
「ベル」
「っ! エルシア、エリーゼ!
無事でよかったです!」
「わたしたちは無事だけど、デュランが……」
「ええ。聞きました」
二人が、人込みをかき分けてこちらにやってきた。
エルシアは元気そうだが、
エリーゼは、ぐったりとした顔をしている。
エリーゼの身に何か起きたわけではないだろうが、
多分デュランのことだろう。
なんだかんだ、デュランのことは嫌いじゃなかったんだろう。
「――諸君。聞いてくれ」
その一言で、騎士たちのざわつきがピタッと止んだ。
「――これより、作戦を開始する」
「――!?」
騎士たちは、再びざわつき始めた。
今から、白龍を討伐しに行くってのか。
ざわつく気持ちはとてもわかる。
「そんな、突然作戦開始なんて……」
「何も、準備できてないぞ……」
そんな声が、口々に飛び交っている。
しかしセリスは、
「デュランは、我ら近衛騎士団の副団長だ。
決して、最後まで見捨てたりはしない」
その一言で、ざわつきはまた止まった。
「恐れる者は、ここに残れ。責めはしない」
「――」
「――だが、私は行く。デュランを、救うためにな」
沈黙する騎士団の中で、力強い声がただ一つ。
「これは完全な、私のエゴだ。
しかし、同じ剣を握る仲間として、デュランを見捨てることはできない」
騎士たちは、そろって下を向いた。
みんな、今すぐにでも動きたいだろう。
だが、相手は世界最恐の魔獣。
そう簡単に「ついていきます」とは、言えないのかもしれない。
「――あたしは、セリスについて行くわ」
「……エリーゼ?」
エリーゼが突然、口を開いた。
周りの騎士たちは、一斉にエリーゼの方を向いた。
「はっきり見たの。デュランの覚悟を決めた顔を。
『白龍を殺すまでは絶対に死なない』って叫んで、たった一人で白龍に立ち向かって行ったわ」
「――」
騎士たちは沈黙する。
セリスまでもが、口を挟むことなくエリーゼの言葉を聞いている。
「あたしは信じてるわ。デュランは絶対に生きてるって。
でも、このまま放っておいたら確実に死ぬわ。
だから、あたしはセリスと一緒に行く。
たとえ二人きりだったとしても、あたしはデュランを助けに行くわ」
エリーゼの声は、強く響いた。
物理的にも、俺の心にも。
エリーゼのこんな顔は、あまりお目にかかれない。
強い決意を持ちながらも、今にも泣きだしそうな不安な顔。
声も、わずかに震えている。
長年一緒に過ごしてきたんだから、それくらいはわかる。
「……わたしも、行くよ」
エルシアも、エリーゼに続いて口を開く。
「デュランは死んでない。きっと今も、一人で白龍に立ち向かってる。
まだ戦ってるのか、もう負けてるのかはわからない。
でもどちらにせよ、わたしたちは戦いに行くべきだと思う」
「エルシア……」
普段からは考えられない、エルシアの顔。
この顔も、滅多に見ることはできない。
エリーゼもエルシアも、目の前で見たんだろう。
デュランが隊列から逸れて、単独で白龍に向かって行ったのを。
俺はその場に居なかったからわからないが、想像に容易い。
セリスを失うことをあんなに恐れていたデュランが、
仲間のために命を投げ捨ててまで戦場に残った。
「僕も、行きます」
――その決意を、蔑ろにできるはずがない。
「……俺も、行きます」
「オレも!」
「私も!」
俺が発した声に、続々と騎士たちが口を開いた。
その声は瞬く間に広がっていき、もはやだれが何を言っているのかわからないほどに、
全員の決意が膨れ上がっている。
「……ならば、私に続け。
速やかに地竜を手配し、準備ができ次第、すぐに出発する」
「――了!」
騎士たちの束になったような声が、十三夜の月が光る夜空に響いた。
横にいるエリーゼも、大きな声をあげていた。
---
解散した後、セリスと数人の騎士たちはアルス中を奔走し、
ありったけの武器やら道具やらを集めた。
段々と、雪が強くなってきている。
少しずつ、騎士団支部の庭園に白い雪が降り積もっていく。
出陣の前にアルスを襲撃に来るとかは、やめてほしいものだ。
騎士たちは各々で、地竜の準備をしている。
頭を撫でている者もいれば、
食べ物を腹に蓄えさせている者もいる。
どの地竜も、落ち着かない様子でソワソワとしている。
やっぱ、地竜って賢いんだろうな。
これから何が起こるかがわかっているかのようだ。
「ベル」
と、背後から声が聞こえた。
振り返ると、何やら浮かない顔をしたエリーゼが立っていた。
「いよいよですね」
「ええ」
まあ、思ってたのとは違ったな。
ちゃんと全員無事に調査を終えて帰ってきて、
持ち帰った手がかりを辿って白龍を討伐しに行く。
そんな流れを想像していたんだが。
……そう簡単には、行かなかったか。
「……怖いですか?」
「べっ、別に怖くなんかないわよ。
ただ、ちょっと不安なだけ」
「それを、怖いって言うんですよ」
相変わらず、ごまかしが下手だな。
目を伏せて、少しだけ下を向いている。
「何で、わかったのよ」
「何年、相方やってると思ってるんですか」
俺がそう言うと、エリーゼは一瞬目を泳がせた。
なんだ、照れてるのか。
俺も照れ臭くなってきた。
エリーゼが不安になるのもわかる。
というか、実際俺もかなり緊張してるし。
特にエリーゼは、ミリアの襲撃事件で唯一、戦いを経験していない。
俺とエルシアは『海王』と、ランスロットは『天王』とそれぞれ戦った経験がある。
だが、エリーゼは避難所でずっとシャルロッテの帰りを待っていた。
だから、まだこれほど規模の大きい戦いに参加したことはないのだ。
俺たちも、強敵との戦闘経験があるとはいえ、
あの時はあくまで人間が相手だったからな。
人間だったかは怪しいが。
だからこそ、エリーゼは燃えているのかもしれない。
何もできずに仲間を失った悔しさを、二度と味わいたくないんだろう。
あの場で一番に口を開いたのも、それが理由だったのかもしれない。
「ベル、エリーゼ」
歩いてきたのは、ランスロットだ。
いつもの引き締まった表情を崩すことなく、
まったくマイナスな感情を感じさせない。
やっぱり、ランスロットには大人の余裕があるな――
「――」
「……ちょっと。何すんのよ、いきなり」
ランスロットは両手を、俺とエリーゼの頭に置いた。
「お前たちは、本当に立派な子供になったな」
そう、微笑みながらポロッとこぼした。
「いきなり、どうしたんですか」
「さっきのセリスの演説のとき、俺は敢えて黙っていた。
あの場面でエリーゼが一番に口を開かなければ、
本当にセリスとエリーゼの二人だけでの出撃になっていたかもしれん」
確かに、誰も口を開く気配はなかったな。
エリーゼが勇気を出して声をあげたからこそ、
こうして士気の高い状態で作戦に臨めるようになった。
それは、間違いないだろう。
「絶対に大丈夫だ。何があっても、お前たちを死なせることはない。
そして必ず、白龍を討伐する」
「はい。もちろんです」
「ランスロットも死なないでよね。
というか、死なせないわ」
「ああ。全員、無事に帰ろう」
ランスロットは両手を動かし、頭を撫で始めた。
最初の頃より、ずいぶん撫でるのが上手くなったな。
あのぎこちない動きが、もはや懐かしい。
「ちょっとちょっと。わたしは仲間外れかな?」
「来るのが遅いのが悪いのよ」
「準備を手伝ってたの! 仕方ないでしょ!」
「ほら、エルシアも」
エルシアも加わり、いつものメンバーがそろった。
このメンバーだけは、誰も欠けることなく旅を終えたい。
この戦いは、そのための最難関の壁になるだろう。
「ベル・パノヴァ」
「あっ。セリスさん」
次から次へと、役者が集まってくるな。
セリスは、俺たちを救ってくれたあのときと同じ鎧を身にまとい、
腰には竜紋のような形をした鍔がついている剣を提げている。
「どうだ。緊張しているか」
「……はい。緊張で、心臓が口から飛び出そうです」
「そうか」
「セリスさんは、緊張していないんですか?」
セリスは、全く緊張していないように見える。
ランスロットと同じく、余裕すら感じる。
「緊張、というよりも、そうだな……」
セリスは一瞬考え込むような素振りを見せた後、
「――ようやく、この時が来た。
という気持ちが強いな」
セリスは、表情を変えた。
まるで、恐れるものなどないと言わんばかりの顔。
両方の口角を持ち上げ、不敵に笑っている。
「改めて、感謝する。
このような機会には、卿らに出会わなければ二度と出会えなかったかもしれない」
「いえいえ」
「感謝は、無事に討伐作戦が終わってからにした方がいいよ」
「……ふっ。それもそうだな」
珍しくエルシアが正論パンチをかました。
こりゃ明日は雪が降るな。
いや、今から白龍は殺すから降らないか。
降るのは、雨だ。
「どんな状況に陥ろうとも、最後まで戦い抜く。
……エルド前団長のようにな」
そう言いながら、セリスは腰に引っさげている剣を抜いた。
……うおっ、かっちょええ。
「この剣の鍔は、エルド前団長が剣につけていたものだ。
第三回討伐作戦の後にもう一度戦場に戻ったときに、これだけが地面に落ちていた。
私はこれを持ち帰り、この鍔とともに新しい剣を打ってもらったのだ」
セリスは悲痛な顔をして、その剣の鍔に手を当てる。
その当時のセリスを襲った喪失感は、計り知れないものがあっただろう。
「……大切な仲間を亡くすことの辛さは、よく知っています。
この杖も、シャルロッテという僕の師匠のような人の遺品です」
「……そうだったのか。
――やはり、卿と私はどこか似ているな」
誰かを失うのは、もうごめんだ。
それが誰であっても、もう絶対に誰も死なせたくない。
エリーゼだろうが、
エルシアだろうが、
ランスロットだろうが、
セリスだろうが、
そしてデュランだろうが、絶対に死なせない。
「デュランは生きている。私は、その姿を見るまで信じ続ける」
「あたしもよ。あのバカ、『絶対に死なない』って言ってたもの」
「ああ。少し頭が悪いところはあるが、誰よりも熱い男であることは確かだ。
文字通り、あの屈強な体を燃やして、戦い続けているだろう」
ちょっとディスられてるのは可哀想だが、相当セリスからの信頼が厚いんだな。
あんなに白龍と戦うのを嫌がっていたのに、
自分から白龍の相手を買って出たのだ。
アイツの中で、何か心変わりした部分もあったんだろう。
調査部隊のリーダーとして、そして近衛騎士団の副団長として、
責務を全うする覚悟ができたってことだ。
この短期間で、立派になったじゃないか。
「団長として、仲間は誰一人として見捨てるつもりはない。
命を懸けてでも、仲間の命は守る」
セリスは剣を鞘に納め、そう言った。
責任感に満ちた言葉だな。
これが団長たる所以なのか。
「セリス。一人で背負いすぎるな」
「そうよ。あんたは一人じゃない」
「わたしたちもいるし、騎士団の仲間もたくさんいる。
『私が守らなきゃ』ってプレッシャーばっかり感じてたら、押しつぶされちゃうよ」
「……」
三人の、言う通りだな。
セリスの団長としての在り方は素晴らしいが、
全てを背負う必要はない。
「――全員で、背負いましょう。
先代の遺志も、ここにいる騎士たちの思いも」
「……そうだな。その言葉、胸に刻んでおこう」
セリスはまたふっと笑って、俺たちに背を向けた。
「準備ができ次第、結団式を行う。
それまで、ゆっくりしているといい」
セリスはそう言って、歩き出した。
その背中には、色んなものを背負っているんだろう。
それらの思いを、これから出陣する全員で背負う。
――皆で、勝つんだ。
---
ほどなくして、再び騎士団が集った。
雪がかなり、強くなってきた。
騎士たちの吐く息は白く、体の芯から震えるような寒さだ。
そんな中、少しも寒がる様子も見せず、
俺たちの眼前には、淡い紫髪を一つに束ねたセリスが立っている。
「――五百年だ」
セリスの力強い声が、騎士たちのざわめきを止めた。
「あの怪物は、五百年もの間、我々人間を苦しめ続けてきた」
一段と、重々しい空気が流れる。
思わず、背筋がピンと伸びた。
場に集まる全員からの注視を浴びるセリスは、剣を抜いて地面に突き刺している。
「白龍がこれまでに奪った命は、数えきれない。
己が死んだことにすら気づかないほど一瞬で命を失った者、
討伐に向かって戦場で散っていった者。
挙げていけば、キリがない」
騎士たちはそろって下を向く。
だが、これは深い悲しみを起因とする行動ではなさそうだ。
爪を立てて拳を握り、血をにじませている人もいれば、
歯を食いしばって顔を歪めている人もいる。
全員が、燃えているのだ。
「そしてつい先日、あの忌々しい魔獣の猛威によって、我らがラヴァニア王国一の王都が滅ぼされた」
その言葉で、俺の頭に王都の凄惨な光景が蘇る。
そして、目の前で力尽きてしまった、凍り付いたあの青年の顔も浮かんだ。
いつしか、俺も下を向いてしまっていた。
「ここに集った者の中にも、家族や友人を亡くした者がいるであろう」
「――――」
「――その全ての無念を、心に宿せ」
周りの騎士たちは、ハッとして顔を上げる。
肩を震わせて泣き出した騎士。
その騎士の肩に手を置いて、一緒に涙を流す騎士。
どちらも、同じ境遇なのかもしれない。
「目を閉じ、胸に手を当てろ。
そして、失った大切な者の顔を思い出してほしい」
言われるがままに、俺は目を閉じて、胸に手を当てる。
――浮かび上がってきたのは、シャルロッテの顔だ。
彼女の命は、白龍によって奪われたわけではない。
むしろ、仇はすでに死んでいる。
だが、俺はシャルロッテの思いを文字通り背負っている。
一緒に旅を終えられなかったシャルロッテの無念を、背負っているのだ。
ここにいる騎士たちとは、「背負うもの」は違ってくるだろう。
でも、「背負う」という意味では俺も同じだ。
「二度と還らぬ数多の魂には、それぞれの無念がある。
私たちは、その無念を共に背負う仲間だ」
「――」
「――――私たちは、一人ではない」
セリスの声が、その場に響いた。
そして、その場にいる全員の心にも響いていることだろう。
「周りの騎士と、顔を見合わせてくれ。
隣にいる者、前にいる者、後ろにいる者。
その全員が、これから白龍と戦うための仲間だ」
騎士たちは、横に、後ろに顔を動かす。
ある者たちは互いに笑い合い、頷き合っている。
ある者たちは互いに笑い合い、肩を組んでいる。
ある者たちは互いに笑い合い、握手をしている。
誰も、不安そうな顔をしている様子はない。
「ベル」
「……はい?」
右を見れば、エリーゼがいる。
左を見れば、エルシアがいる。
後ろから頭に伸びてきた手は、ランスロットだな。
俺には、仲間がいる。
どこもかしこも、仲間だらけだ。
「私たちは負けない。
どんな状況になったとしても、決して下を向くな」
「――――」
「私に着いてこい。
騎士団長として、敗北という結果に導くつもりはない」
セリスは、地面に突き刺した剣を抜いて。
そして、月の見えなくなった夜空に剣先を向け――、
「――――――出陣する!」
「――了!」
呼応する騎士たちの声が束となり、轟音が騎士団支部の庭園を揺らした。
「――今宵、我々の手で白龍を討つ!!」
セリスの声は、庭園を越えてアルス中に響き渡った。
いよいよ、始まるのだ。
四度目の正直が。
――――――白龍討伐戦が。




