第四十二話「呼び声と咆哮」
三日が経った。
先日、俺たちを含めた全ての騎士団の人間が、支部の中に集められた。
そして、これから行われる作戦の旨を伝えられた。
第一段階として、デュラン率いる臨時調査部隊が、
昨日俺たちに見せてくれた白龍の鱗を持って郊外を調査しに向かった。
定期的に魔力を注ぐ必要があるので、
少数の魔術師も連れて調査に向かうとのことだ。
その調査に進展があり次第、第二段階に移るらしい。
この臨時調査部隊は、そこに集められた人数のうちわずか15人。
その代わり、少数精鋭を派遣することになっている。
万が一この部隊が壊滅するようなことがあったらかなりの痛手な気がするが、大丈夫なんだろうか。
まあ、少しでも強い反応を示したらすぐに撤退するよう命じられていたし、
大丈夫か。
デュランの実力はセリスと比べても遜色ないらしいからな。
それに、その調査部隊にはエリーゼとエルシアも同行するし。
他の魔物に絡まれても、負けることはまずないだろう。
ちなみに、俺はそちらには同行していない。
一度調査部隊に同行することを申し出てみたが、却下された。
そんな俺は、何をするのか。
結論から言おう。
何も、やることがない。
かといって何もしないというのはいただけないので、
ランスロットとセリスから許可を得て、アルス郊外へ出てみることにした。
もうすっかり暗くなり、少し遠くに見えるアルスの明るさが際立って見える。
今は全く寒さはないから、白龍が出現する心配はないはずだ。
必ず、異常な冷気が前兆として現れるからな。
何のためにここまで来たのかといえば、
魔物と戦って実戦的な動きを復習するためである。
アルスの近くには、広大な平原が広がっている。
ここには、割と強めの魔物が出ると聞いた。
強いとは言ってもそこまで手こずるような魔物ではないらしいから、
俺は誰も連れてこずに一人で魔物を相手する。
「――」
いた。
あれは……ゴブリンか?
ゴブリンを見たら、つい良からぬ想像をしてしまう。
そういう趣味はないのだが、どうも既視感のある光景が頭に浮かぶ。
実際仲間がああいった目に遭うようなことがあれば、
俺は人生をかけてそいつらを皆殺しにするだろう。
「『フレイムショット』」
指先に火を灯し、それをゴブリンに向けて飛ばす。
またフ〇ーザになった気分になれた。
「――ギャァァァァッ!」
ゴブリンは甲高い悲鳴をあげて、こちらを向いた。
緑色の体に、大きな頭。
どうやって支えているのかというくらい小さい体ごとこちらに向けて、
ゴブリンは俺に突っ込んできた。
不意打ちで、そして一撃で仕留めておけばよかったと言われればそれまでだが、
俺はある新技を試したくて、敢えて初撃を牽制程度に抑えておいたのだ。
まずは俺の魔力最大量を生かせるような動きをしたい。
そこで、
「『風』!」
地面に向けて、風の初歩魔法を撃つ。
すると、俺の体は反動で空中に浮いた。
ゴブリンは標的が目の前から消えたことで、
困惑するように頭を左右に振って俺の姿を探している。
俺は血眼になっているゴブリンの目の前に着地して、ゴブリンと目を合わせる。
そして俺の姿を見るなり、再び襲いかかってきた。
今度は、懐から剣のようなものを取り出して、俺の首目がけて水平に剣を振った。
「――っぶね!」
普通に危なかった。
あと少し遅れていたら、首が飛んでいた。
こんなところで死ぬのは勘弁だ。
剣が空を切る音が、下から聞こえる。
俺は再び、空中に浮いたのだ。
そして背中に背負った杖を抜き、杖先をゴブリンに向け、
「『岩砲!』」
俺の岩砲が、ゴブリンの脳天を貫いた。
ゴブリンは断末魔すら出す暇もないまま、ドサッと音を立てて倒れた。
俺がやりたかった新技というのは、これだ。
技名とかは特に考えてないし、付けるほどのことでもないんだが、
風魔法で体を宙に浮かせて、空中から魔術を繰り出すという新たな動き方である。
俺は、魔力最大量が多いと自負している。
勝手に、自負している。
せっかくの長所を生かしきるには、有り余った魔力を存分に使うべきだと考えたのだ。
まあ、こればっかり使うのはあまりよくない。
単純に魔力の消費量が増えるのと、
九星執行官のような人型の強敵を相手にするときは、浮いている間は完全に無防備だからな。
色々な動きであらゆる状況に対応できるように、くらいの技だ。
もっとも、白龍みたいな巨大な魔獣に対してもあまり使えなさそうだが。
……もしかして、あんまり意味ないか、これ。
無駄な時間を過ごしてしまったような気がしてならない。
いいや、いつか必ずこれが功を奏する日が来るはずだ。
まだ少し物足りないから、あまりアルスから遠くならない範囲で魔物を探そう。
しばらく魔術を使っていなかったから、ストレスと魔力の発散だ。
俺は杖を背中のロッドケースに入れて、一歩踏み出した――
『――こちらへいらっしゃい、ベル・パノヴァ』
銀鈴のような声が、どこからともなく聞こえてきた。
そして、目の前が真っ白になった。
---
……どこだ、ここ。
さっきまで、平原にいたはずだ。
持ち金が半分になってたりしないよな。
金なんて持ってきてなかったわ。
「お久しぶりですね、ベル」
久しぶり?
誰だよ、あんた。
ってか、ここはどこなんだ?
「余は、ルナディアですよ」
ルナディア?
えっ、月神の?
「はい。月神です」
何で声に出してもないのに、俺の言っていることがわかるんだ?
他人の頭の中を覗くなんて不躾なやつだな。
「覗きたくなくても、勝手に耳に入るのです」
なんだそりゃ。
生きづらそうだな。
それで、あんたはどこにいるんだ?
「ここに、おりますよ」
ここって、どこだよ……。
え、もしかして……。
「はい、それです」
この少女が、ルナディアなのか?
前に見たルナディアとは、随分違うな。
もっと、「大人のお姉さん」って感じじゃなかったか?
「今は月が半分しか出ていないので、不完全な姿でしかいられないのです」
なんだ、その制約。
めちゃくちゃ不便じゃないか。
じゃあ、完全な姿でいられるのは月に一度だけってことか?
「ええ。前にお会いしたときは、満月だったでしょう?」
言われてみれば、そうだったような。
ルナディア湖に綺麗な満月が反射していたのは覚えてる。
今日は満月だと思ってたんだが、あれはギリギリ違うのか?
「はい。あれは十三夜の月なので」
あー……。
聞いたことぉ、あるような……。
「嘘をついても、頭の中が読めるので無意味ですよ」
はん!
そうかよ!
……でもよ。
何でここに呼び出す必要があったんだ?
んで、そもそもここはどこなんだ?
綺麗な銀色の霧が光ってて眩しいんだけど。
「ここは、余の意識空間のようなものです。
この姿で地上に降り立つことはできないので、
貴方を意識空間に引き込むことしかできなかったのです」
……なんか話がよくわからんくなってきたな。
呼び出すのはまあいいんだが、俺の肉体はどうなってる?
まさか、意識だけここに呼び出したわけじゃないんだろうな?
俺はさっきまで、魔物がいる平原にいたんだぞ。
このまま一生ここに閉じ込められるなんてことはないよな?
「ご安心ください。貴方の肉体ごと、ここに呼び出しました」
それならいいけど。
で、何か用があって呼び出したんだろ?
前みたいに、「話し相手」とかいうよくわからん理由じゃないだろうな。
「貴方に……会いたくなったのです」
……は?
どういうことだよ、それ。
特別な理由があって呼び出したわけじゃないってことか?
「前回、お別れをしたときに、『また逢う日が来たら魔眼の感想をお聞かせください』と言ったはずでしょう。
その感想を、お聞きしたくて」
そんなに顔を赤らめても無駄だぞ。
またそんなしょうもない理由かよ。
ちょっと可愛いのやめろよ。
感想、ねぇ。
まあ、思ってたより役には立ってるよ。
月が出てるときだけだけど、魔力が増大してる感覚はある。
いつもより強い威力の魔術が撃てるから、気分もいいしな。
ただ、あの痛みには見合ってないと思うぞ。
俺を騙して眼球取り出して、新しい眼球埋め込むなんて……。
人間のやる所業じゃないんだよ。
「余は、人間ではありませんので」
やかましいな。
そういうのを屁理屈って言うんだぞ。
とにかく、めちゃくちゃ痛かった割には、能力は見合ってない。
これが率直な感想だ。
「そうですか……」
……そんな悲しそうな顔するなよ。
ちょっと言い過ぎたよ、悪かった。
まあ、便利な魔眼だとは思う。
オッドアイになったから、ビジュアル的にも映えるしな。
ありがとよ。
「いえいえ。こちらこそ、感想をありがとうございました」
おう。
それで、もうこれで用は済んだのか?
とっとと魔物倒して、帰って寝たいんだけど。
「お、お待ちください。
そこまで、余と一緒にいるのは嫌なのですか?」
え?
別に、嫌ってほどでもないけど。
急にわけのわからん空間に転移して、びっくりしてるんだよ。
そんで、呼び出した理由がそれだったし。
「それは、すみません。
余はただ、本当に貴方とお話がしたくて」
何で、俺と話がしたいんだ?
他の人でも良かったんじゃないのか。
「貴方が……いいのです」
…………ほう。
あの、前に会ったときと色々と変わりすぎじゃありませんか?
姿もそうだが、なんというか、そんな感じだったっけか?
まるで、俺のことが好きみたいな言い方じゃないか。
「余は、貴方に大変興味を持っているのです。
魔眼を授けた者として、貴方をもっとよく観察したい。
もっと、貴方をよく知りたいのです」
知りたいて。
なんかちょっと照れるな。
「これから、貴方は白龍との戦いに臨むのですよね」
ああ……待て、何で知ってるんだ?
「余は、この意識空間の中では貴方の頭の中を全て見透かすことができるのです」
んな無茶苦茶な。
羨ましい能力だな。
「貴方の頭の中は、
今後臨む白龍との戦い、
自分たちの旅の行方、
そして、余の開いた胸元でいっぱいですね」
なっ……何故バレた!?
卑怯だぞ、お前!
「ふふっ。全て、お見通しです」
可愛く笑ったら帳消しにできると思うなよ。
可愛い女には弱いが、あんたはどうも好きになれないね。
「今は、それでも構いません。
徐々に、気に入っていただければいいので」
徐々にって……。
今後も、あんたに会わなきゃならないってことか?
「それは、わかりません。
しかし、今後、余は貴方に恩返しをしたいのです」
恩返し?
俺、あんたに何かしてあげた覚えなんてないぞ。
「ええ。覚えているはず、ないでしょう」
む、なんだ。
何かありそうな口ぶりじゃないか。
詳しく聞かせてくれよ。
「それでは、そろそろお別れの時間ですね」
おっ、おい、待てよ。
何から何まで急すぎるだろ。
「此度のこと、そしてこれから余と会って話すことは、決して誰にも話してはいけません」
え、何でだよ。
おい、聞いてるのか?
おい、おい――――!
---
目が覚めると、俺はなぜか支部の部屋の中にいた。
ルナディアが、ここに転送してくれたってのか?
何でこの建物、この部屋がわかったんだ?
……何から何まで、さっぱりわからない。
あと、すごく頭が痛い。
ルナディアの声が脳内に残っているみたいな感覚だ。
あいつ、直接俺の脳に語りかけてきてたのか?
まあ確かに、面と向かって話している感覚はなかった。
「ベル。戻ってきていたのか」
「は、はい。ちょうど今戻ったところです」
「そうか。手ごたえはどうだった?」
「倒したのはゴブリン一体だけでしたけど、初めてにしてはいい感触でした」
ランスロットが部屋に入ってきた。
エリーゼたちは、すでに調査部隊として白龍の調査に向かっているため不在だ。
ルナディアのヤツ……。
もしこの部屋に全員いたらどうなっていたことか。
「調査、上手く行ってますかね」
「あのメンバーがそろっているのだ。心配するに足らんだろう」
「……そうですね」
とはいっても、心配なものは心配だ。
少しでも異常を感じたら撤退させるとは言っていたが、
相手が相手だから何が起こるか分からない。
無事に、調査を終えて帰ってきてくれればいいんだけど。
---
一方、その頃。
「ふぁぁ……」
エリーゼはあぐらをかき、大きなあくびをする。
今日の昼にアルスを出発した調査部隊は、
アルスを出て北へと続く、クレメンタル街道を進んでいる。
この街道は魔大陸へ渡るための港町へと繋がっているが、
中央大陸から魔大陸へ渡る人間などほとんどいないため、あまり使われていない。
白龍の出現する場所とタイミングは予測不能なため、
辺りをしらみつぶしに調査するしかないのである。
そのため、すでに脅威は去っている可能性もあり得るということだ。
だが、白龍は出現したのち、その付近に居座ることが多い。
実際、第三回の討伐作戦の際も、数日間その付近に居座ったと記録されている。
数週間滞留することは稀であるが、数日間というのは非常に多いパターンである。
「眠そうだね。大丈夫?」
「大、丈夫よ……。ちょっとあくびが出ただけ……ふぁぁ……」
エルシアは、地竜の手綱を握りながらふっと微笑む。
地竜の操縦はあまり経験がないが、どういうわけか教わってからすぐに操縦許可が出た。
エルシアには、地竜に乗る才能があったのだ。
「フェルゼン皇国付近まで行ったら、今度は南に方向転換するでぇ!
置いていかれへんようにな!」
「了!」
「エリーゼぇ。返事が聞こえへんぞぉ」
「むにゃ……」
「エリーゼ寝てるから、起こさないであげて」
「地竜の上で寝るのは危ないやろ。起こしたって」
竜車は全速力で走っているわけではない。
むしろ、ゆっくりとした歩様で歩いている。
いざというときに逃げ延びるために、地竜の体力は温存しておく必要がある。
いくら馬よりも優れた身体能力を持っているとはいっても、
動物である以上限界はある。
エルシアは肘でエリーゼの横腹を小突き、夢から現実へと引き戻した。
「エリーゼ、デュランが『了』って言って欲しいみたいだよ」
「なによ……そんなことで起こしたの……?」
「わたしも本当は寝かせてあげたいんだけど、地竜の上は危ないからね。
もうちょっとで調査を中断してキャンプを立てるらしいから、それまで頑張ろう。ね?」
「ええ……わかったわ」
エリーゼはため息をつきながら、背伸びをした。
そして、エルシアの硬い背中に顔をうずめた。
「鱗に変化はある?」
「今んとこはないなぁ。ずっと同じ方角を指しとる」
白龍の鱗は、さながら方位磁針のように同じ方角を指している。
その方向に向かって、調査部隊は進んでいるのだ。
すでに、出発してから軽く五時間近く経っている。
その間、ほとんど休みなしで移動し続けている。
アルスからはかなり離れているが、まだアルスの街並みははっきりと見える。
「――寒いわ」
エリーゼの一言で、エルシアとデュランの背筋が凍った。
言われてからようやく、二人はその寒さに気が付いた。
地竜の操縦は、かなりの精神力と集中力が必要になる。
もう何時間も手綱を握り続けている二人は、寒さなど感じる余裕もなかったのだ。
「……雪も、降ってきたね」
辺りに、純白の結晶がちらつき始めた。
デュランは眉をひそめて、手元の小箱の中に入っている鱗を見る。
「なんでや。そこまで強い反応は示してへんで」
「それ、本当に白龍が近くにいたら反応するの?」
「そのはずやけどな――」
デュランがそう言って前を向いた、その瞬間だった。
「――――ッッッッ!!!」
耳をつんざくような咆哮が、辺り一帯に響き渡った。
全ての地竜が足を止め、全員が空を見る。
満月と星が出ていた夜空はいつの間にか雲に包まれ、
それを突き破るようにして巨大な影が現れた。
「何でよ……。全然、反応なかったじゃない!」
再び夢と現実の狭間をさまよっていたエリーゼは、
絶望感に満ちた声でそう言った。
「――――白龍やぁぁぁぁ!
総員、退避やぁぁぁぁ!」
デュランは叫びながら地竜の腹を強く蹴ると、
地竜は踵を返してアルス方面へ走り出した。
それに続いて、全地竜が一斉に走り出す。
白龍が巨大な翼をはためかせると、凄まじい突風が吹き荒れた。
生じた風は凍てつくほど冷たい冷気とともに、退散する調査部隊を襲う。
「絶対大丈夫や! ワイを信じろ!
焦らずに、アルスを目指して走れぇぇ!」
地竜は、その突風をもろともせずに走る。
足腰の強い地竜は、ちょっとやそっとではよろけることすらない。
操縦者の何らかの操縦ミスがない限り、転ぶことはない。
故に、デュランは「信じろ」と叫んだ。
自分を、そして共に走っている地竜を信じろと言わんばかりに。
「――――ッ!」
白龍は逃げ惑う調査部隊を、空から見下ろす。
そして、恐ろしく大きな翼を動かして追いかけ始めた。
「魔術師は、できる範囲で応戦せえ!」
「了!」
三人の魔術師が、デュランの声に応えた。
各々が口を開き、詠唱を始める。
そして、三頭の地竜の背から三発の魔法が放たれた。
「――――!!」
白龍の甲高い悲鳴が、調査部隊の鼓膜を強く刺激する。
「魔術師、攻撃を続けろぉ!
姿が見えんくなるか、魔力が尽きる寸前まで撃ち続けるんやぁぁ!」
デュランの指示を受け、魔術師団は二度、三度魔術を放つ。
白龍の体に命中し、大きな音が白龍の巨躯から生じる。
しかし、悲鳴をあげながらも白龍は追跡を続ける。
手綱を動かしながらその様子を横目に見るエルシアは、思考を巡らせる。
――前にベルが魔術を撃ったときは、全然効いていなかった。
――でも、何で今は魔術が効いてるの?
エルシアは、唐突にあのときを思い出した。
初めて、白龍に遭遇したとき。
あのときは、ベルが放った魔法はまったく効果がなかった。
――しかし、ベルはあのとき、聖級魔術を使った。
それでも、白龍の体には傷一つ付けられなかったのだ。
それなのに、今回の魔術師の攻撃は確かに効果がある。
「――ア! エルシア!」
「ひゃいっ! どうしたの!?」
「ワイが時間を稼ぐ。
無事に戻れたら、団長に報告してくれ」
「――え?」
エルシアよりも先に、エリーゼが反応した。
「何考えてんのよ、あんた!
そんなことしたら、絶対死んじゃうわよ!」
「全員同じ方向に逃げとったら、アルスまで追っかけてくるかもしれへん。
ワイが、アイツの気を引く。その間に、アンタらはアルスに逃げろ」
「ダメだよ! デュランが死んじゃったら……セリスがどれだけ悲しむと思ってるの!?」
「全滅するくらいなら、ワイだけが死んだ方がマシやろ!
それになぁ――」
デュランは、背中に背負った大剣に手をかける。
そして、片手に握る小さな小箱をエルシアに託し、
「――ワイは、死ぬつもりなんてさらさらないねん。
何で端っから死ぬ前提で話進めてんねんドアホ」
そう言いながら、隊列から逸れた。
迫り来る巨大な白い影に相対し、
「――――ワイは、絶対に死なへん!
あのキッショいバケモンを叩き殺すまではなァァァ!」
デュランの声が、白龍の咆哮と共鳴する。
エリーゼは振り返り、遠くなっていくデュランの背中を見つめる。
「……止まりなさい」
ボソっと、しかし聞き取れる大きさで、そう呟いた。
「無理だよ!」
「止まりなさいよ!」
「無茶言わないで!」
エリーゼはエルシアの体を激しく揺する。
エルシアは必死に形相で、手綱を動かし続ける。
体を激しく揺すられた反動で、地竜がわずかに左右によろけた。
「じゃあ見捨てるって言うの!?」
「違う! 信じて進むしかないの!」
「……何、言ってんのよ。
あんな化け物を相手にして、生き延びられるわけないでしょ!?」
「どうしようもないんだよ!
何人一緒に戦ったって、今の状態で勝てるわけない!」
エルシアは声を荒げる。
一秒経つごとに、デュランとの距離は遠くなっていく。
それと同時に、白龍の追跡も終わっている。
しかし、まだ雲が晴れていないのを見れば、
まだ白龍の脅威は去っていないことがうかがえる。
「デュランはきっと、何か考えがあるんだよ。
近衛騎士団っていう大きな組織のナンバー2だよ?
考えなしに命を捨てるようなことはしない」
「…………絶対、無事なの?」
エリーゼにそう問われ、言葉に詰まる。
軽率に首を縦に振るなんて、無責任なことはできない。
かといって、「言い切れない」なんて不安を煽るようなことは言えない。
ゆえにエルシアは、
「……信じよう、デュランを」
そう、言うことしかできなかった。




