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空中転生 - 落ちこぼれニート、空の上でリスポーンしました -  作者: 蜂蜜
第5章 少年期 『白い災厄』編

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第四十一話「一人じゃない」

「その必要はないって……どういうこと?」

「言葉通りだ。扉の向こうで、卿らの会話は全て聞いていたからな」


 エルシアの問いかけに、腰に手を当てながらそう応えるセリス。

 かっこいい感じ出してるけど、やってること盗聴だからな。

 余計な手間が省けて助かったが。


「それに、これから卿らに話をしに行こうと思っていたところだったのだ」

「話って何よ」

「私たち騎士団も、卿らと同じ考えだったという話だ」


 セリスは部屋に入り、あぐらをかいてそう言った。

 それなら、話は早いな。


「いつ討伐に向かいますか?」

「まあ待て、ベル・パノヴァ。

 口にするのは簡単だが、実現するのはかなり難しい」


 身を乗り出して尋ねたが、一蹴された。

 冷静じゃなかったな。

 反省。


「まあ、詳しいことは明日、デュランを含めたこの面々で話をするつもりだ。

 今日はゆっくり休むといい――」

「お、団長! ここにおったんか!」

「デュラン……」


 俺はタイムリープでもしたのか?

 状況から台詞まで、全てが記憶に新しいんだが。

 いや、デュランは見るからに寝間着だし、その可能性はないか。


「そないな顔で見んといてぇな、エリーゼ!

 せっかくのかわええ顔が台無しやで!」

「うっさいわね。元々こんな顔なのよ」


 エリーゼの顔を悪く言いやがったのか。

 その無駄に大きな体に風穴空けてやろうか。

 無駄ではないか。


 エリーゼは、デュランを睨みつけている。

 ように見えるが、これはただ見つめているだけの目だな。

 目つきが悪いのは昔からだから仕方ない。


「皆さんお集まりで、何を話しとったんや?」

「ああ。白龍の件だ」

「討伐作戦に、コイツらも巻き込む気なんか?」

「無論だ」

「待ちぃな。冒険者のコイツらを巻き込むのはアカンやろ。

 ワイら騎士団だけで解決するべきや」

「……」


 デュランの勢いに押し黙るセリス。

 この男、俺たちを気遣ってくれているのだろうか。

 それとも、俺たちは戦力として見ていないということか。

 後者なら解せないな。


「デュランさん。

 僕たちもちょうど、白龍を討伐する方向で方針を固めようとしていたところなんですよ」

「なんやて?」

「俺たちは、中央大陸の東に存在していたグレイス王国という国に帰る道中で、この一件に巻き込まれたのだ。

 旅を続けるには、白龍の存在が邪魔になっている。

 だから、お前やセリスに白龍の討伐に協力してもらえないか相談にいくところだったのだ」

「ほう……。グレイス王国っちゅうと、大陸の東にあった国やったな」

「だからそう言ってるじゃない」


 なるほど。

 人の話をあまり聞かないタイプか。

 方言も相まって、これはコミュニケーションが大変になるぞ。


「アンタらは、あの怪物を相手にしても怖気づかへんのか?

 そこまでやるようには見えへんけどな」

「デュラン。この者たちのことを甘く見ていては痛い目を見るぞ。

 特にこの子供二人は、見た目にそぐわない強さをしている」

「へぇ。どんなもんなんや?」

「僕は雷聖級魔術師です」

「あたしは火上級剣士よ」

「――」


 俺たちがそう言うと、デュランの顔から感情がなくなった。

 そしてすぐに目を見開き、口をポカーンと開けて、


「それ、ホンマなんか?」

「はい、ホンマです」

「マジかいな! そりゃホンマにすまんかったな!」


 デュランはパンと両手を合わせ、俺たちに頭を下げた。

 鼓膜がぶち破れそうな音が、部屋中に響いた。

 両手から血とか出てないか心配になるレベルだ。


「ちなみに、このエルシアという女は風聖級剣士で、

 こちらのランスロットという竜人はあの名高いソガント族の戦士だ」

「ほえぇ……。正直、アンタらのこと見くびっとったわ。

 堪忍してな」

「まあ、白龍を前にしたら全く歯が立たなかったけどね」


 エルシアは「あはは……」と肩をすくめる。


「仕方のないことだ。

 あの怪物を前にして恐れをなさない者などいない」

「ワイは全貌を見たわけちゃうけど、あの咆哮と冷気だけでもおっそろしいヤツやって分かる。

 あれとまともにやり合うんは、ほとんど自殺行為みたいなもんやな」


 これから討伐に動くぞってときにそんなこと言うなよ。

 いざそう言われると怖気づいてしまうだろ。


「それでも、やらなければならない。

 彼らの旅のため、そして、滅びてしまった王都と失われた命のためにな」

「……せやな。団長の言う通りや。

 柄にもなく弱気なこと言うてもうたわ」


 セリスは、俺たちの旅のことまで気にかけてくれているのか。

 王都のことで頭がいっぱいだろうに。

 騎士団長以前に、人として尊敬するべき人間だな。

 また尊敬する人が増えた。


「過去に行われた白龍の討伐作戦は、たったの三度だ」


 三回?

 セリスが話してくれた討伐作戦の他に二回もあったのか。


「一回目は三百年前だった。私が生まれるよりもはるかに前だ。

 記録には、約50人のうち生存者はゼロだったと記されている」

「ゼロ……そもそも、あの化け物にたったの50人で臨んだわけ?

 とんだ命知らずじゃない」

「当時はそこまで恐れられていたわけではなかったらしい。

 だがその一件が徐々に広まっていき、今のように世界中で恐れられるようになったのだ」


 セリスが出陣した前回の討伐作戦の人数は、確か400人くらいだったか。

 八分の一って考えると、確かに少ないな。


「二回目は百年前だ。百五十人の騎士が出陣し、白龍を一体撃破したという記録が残っている。

 一人を除いて、誰も生きては帰れなかった」

「一体撃破って、どういうこと?」

「問題は、そこだ」


 エルシアが首を傾げると、セリスは腕を組んでそう言った。

 「一体撃破した」ってどういうことだ?


「――私が読んだ文献には、『白龍を撃破した後、再び新しい個体が現れた』と記されていた」

「新しい個体だと?」

「ああ。現れた二体目の白龍に、その討伐隊は壊滅させられた」


 それを聞いて、ランスロットは顎に指を当てる。


 撃破してもピンピンした個体が出てくるなんて……。

 セリスが「一番討伐が難しい」って言うだけあるな。

 とっとと寿命迎えて死んでくれないかな。

 たまたま俺たちの出発と同時に死期を迎えるってことになったら助かるんだが。


「三回目は、隣国のフェルゼン皇国との合同作戦だった。

 総勢四百名の騎士が集まって戦いに臨んだが、結果は惨敗だった。

 一体も撃破できず、私を含む20人ほどが王都に逃げ帰った。

 その戦いでは、数多の戦友たちを失った」


 セリスの言葉で、重苦しい空気が流れる。

 声色ひとつで、セリスの感情が一瞬で沈んだことがわかった。


 というか、三回目は二回目よりも酷い終わり方だったのか。

 普通なら、相手の手の内がだいぶ明らかになったであろう三回目の方が……。

 と考えようとしたが、それは野暮ってものだろう。

 その時そのときの運の巡り合わせとかがあるだろうし、一概には言えない。


「まあ、ゴタゴタ言うても事態は動かへん。

 討伐の難しさもやけど、まずはどうやって白龍に出会うかが最初の問題や」


 確かに……。

 白龍は、いつどこに現れるか分からない。

 前兆こそ知っていれば分かりやすいものの、タイミングまでは分からない。

 出現の周期とかはないっぽいし、神出鬼没なタイプの魔獣だしな。


「悔しいけど、あんたの言う通りだわ、デカブツ。

 どんだけ戦略を立てても、遭遇できなきゃ意味ないものね」

「誰がデカブツやて」

「ブフッ……」


 デカブツて。

 これまたひでぇあだ名つけれられて可哀想だな。


「それに対しては、私の方で考えがある」

「考えって?」


 エルシアが再び首をかしげる。


「これを、見て欲しい」


 セリスはそう言って、懐をまさぐり始めた。


「……すまない、部屋に忘れてきた。

 少し、待っていてくれ」


 セリスは振り返ることなく、部屋を後にした。

 セリスも忘れ物とかするのか。


「――ワイは正直、白龍殺しは無理や思てる」

「――はい?」


 聞き間違いだろうか。

 それとも、デュラン以外の誰かがそう言ったのだろうか。

 いや、関西弁を喋るのはデュランしかいないし、それは無理がある。


「急に、何を言い出すのだ」

「そうだよ。団長のセリスがあんなに燃えてるのに」

「白龍は、五百年もの間この世界に君臨し続けてきた最恐最悪のバケモンや。

 ワイも過去の討伐作戦の文献を読み漁ったけどなぁ。

 第一回、第二回のどっちも、世界でも一目置かれるような精鋭が集められたんや」

「……それが、どうしたのよ」


 デュランは下を向いて、ひと呼吸おいた。


「――二回目の討伐作戦は、『剣神』ヴァルディアも参加してたんや」

「ヴァルディア……というと、現『剣神』アベルの先代の剣神か」

「そうや。二回目の討伐作戦で唯一生き延びたのは、そのヴァルディアやった」


 その事実で、一気に絶望感が増した。

 世界で最強の戦士と謳われる七人の第五位の戦士がいても、完全撃破には至らなかったのか。

 弱気になるべきじゃない。

 それはよく重々承知の上だ。


 ……だが、それを聞いた途端に気持ちが後ろ向きになった。


「団長がはっきり言わんかったんは、

 アンタらに不安感を与えんようにするためやろな」

「なら、何であんたが言ったわけ?

 これならセリスの気配りも無駄になったじゃない」

「……ワイは、アイツに勝てる気がせぇへん。

 せやから、アンタらにこの事実を伝えて、団長を止めてほしかったんや。

 ワイ一人やったら、団長は聞く耳を持ってくれへん思てな」


 自分が弱気になってどうするんだ、みたいな雰囲気を醸し出していたが、

 あれは表面上で取り繕っただけだったってことか。

 コイツはどちらかというと、最前線で俺たちを引っ張ってくれるような頼りになる兄貴分だと思っていたが、本当は違うらしい。


 ……そりゃ、怖いよな。

 俺たちも、今みたいな状況におかれてなかったら参加していなかったかもしれない。

 それだけ、あの「白龍」という魔獣は恐ろしいものだ。


 恐れるのは当然だ。

 ただ、今言うことではないだろう。


「頼むわ。団長を止めてほしい。

 アンタらならできるはずや――」

「――うるさい!」

「――ッ」


 部屋に、乾いた音が響いた。

 エリーゼが、デュランの頬を強く叩いた。

 デュランはひどく動揺した顔で、叩かれた頬を押さえている。


「エリーゼ、落ち着いてくださ――」

「あんた、それでも副団長なの!?」


 エリーゼの怒号は、部屋だけにとどまらず、支部中に響いている。

 ただでさえ通る声を荒げて、デュランに対して怒りをむき出しにしている。


「何が『一人じゃ聞く耳を持ってくれない』よ!

 セリスにまだ何も言ってないくせに!」

「――」

「セリスがいなくなったタイミングでそんなこと教えて!

 あの人の前でだけ恰好がついてればそれでいいってわけ!?

 ダサすぎんのよ!」


 デュランの深紅の目が、小刻みに震えている。

 恐怖や動揺、色々な感情が入り混じっているんだろう。


「ワイは、まだ諦めるとは言うてへんやないか……」

「それは屁理屈ってもんでしょう!?

 あんたの言葉からして、諦めさせようとしてるのがバレバレなのよ!」

「――」


 デュランは再び押し黙る。

 必死に言葉を探しているようだが……。

 一度火が付いたエリーゼは、誰も止められないんだよな。


「団長を、失いたくないんや……。

 もし負けて、団長が死ぬことになったら……。

 ワイは、耐えられへん」


 デュランは、震える声でそう言った。

 テーブルに腕を置き、拳を強く握っている。


「団長の過去の話を知っとるか?

 まだ副団長やった頃のあの人が参加した三回目の討伐作戦で、

 先代団長のエルドが死んだんや。

 エルド前団長は、あの人とそっくりでな。

 最期の最期まで戦場に残って、他の騎士たちを逃がすために奮闘したんや」

「それが、どうしたっていうのよ」

「その話と、未来が重なって見えるんや」


 その言葉に、今度はエリーゼが押し黙る。

 さっきまでの威勢はどこへやら、複雑そうな顔をしてデュランから目線を逸らしている。


「『剣神』レベルの戦士がおっても勝てへんかったような相手に、

 人並み外れた能力も持ってへんワイらが挑んで、勝てる未来が見えん。

 もしそんな窮地に追い込まれたとしたら、団長はきっと、ワイらを逃がすために戦い続ける。

 ――エルド前団長みたいにな」

「――」

「団長は、エルド前団長にずっと憧れてるんや。

 やから、同じような状況になったら、きっとエルド前団長と同じ選択をするはずや。

 それだけは……絶対に嫌なんや」


 目には、少しばかり光るものが見える。

 エリーゼはそれを横目で見て、またすぐに視線を逸らした。


 デュランの言葉には、説得力がある。

 言葉一つ一つが重くて、デュランの言っている状況が目に浮かぶ。


「あんた……何で負けるなんて決めつけてんのよ」

「……勝てるわけ、ないやろ。

 剣神がおっても、勝たれへんかったような相手やで――」

「――そんなのやってみないとわかんないじゃない!」

「――」


 エリーゼはまた、声を荒げて怒号を飛ばす。

 デュランはまた、その声に肩をビクつかせた。


「なら、勝てるって言えるんか?」

「そうは言っていないわ! それも……やってみないことには分からないの!」


 エリーゼのボキャブラリーに早めの限界が来たようだ。


「デュランさん。僕たちは今まで、一度たりとも諦めたことはありませんでした」

「――」

「いずれ話そうとは思っていましたが……。

 僕たちはここに来る前、デュシス大陸の南に位置するブルタ王国の都市国家、ミリアにいました」

「……ミリアやって? 聞いたことあるな」

「はい。ご存じの通り、『九星』執行官の襲撃を受けた都市です」


 俺がそう言うと、デュランは目を見開いた。

 ものの一年足らずで、こんなところにまでその話は広まっているんだな。


「待ちぃ……。まさか、アンタら……」

「僕たちは、ミリアを襲撃した二人の執行官を撃破しました」

「――!」


 デュランは先ほどよりもさらに大きく目を開いた。

 眼球が飛び出そうになっている。


「僕とエルシアは第九位『海王』を、ランスロットさんは単独で第八位『天王』を。

 ……正確には、僕とエルシアのほかにもう一人いたんですが、海王を倒すために自ら犠牲になりました」


 言いながら、シャルロッテの顔が浮かんだ。

 溢れ出そうになる涙を抑えて、軽く咳ばらいをする。


「あの戦いは、戦力的にも絶望的でした。

 単純な実力の差が露呈していたので、普通なら勝てるはずがありませんでした。

 ですが――」

「――」

「――諦めたいとは思わなかった」


 何度も、負けるかと思った。

 一回一回の攻撃を見るたびに、勝てるわけがないと、何度もそう思った。

 でも、諦めようとはしなかった。

 最後の最後まで、戦い抜こうと思った。


「一パーセントでも希望があるなら、それに賭ける。

 わたしは今まで、そうやって生きてきたよ」

「俺はお前のように、何度も諦めようとした。

 それでも諦めずに生き抜いてきたから、ベルやエリーゼ、エルシアと出会えたのだ」

「――」


 デュランは片膝を立てて、腕を乗せる。

 その腕に顔をうずめて、拳を握った。


「僕たちはあなたになんと言われようと、白龍と戦います。

 そして、必ず殺します」

「……本当に、できるっちゅうんか?」

「できるかできないか。それはわかりません。

 でも、僕たちはやるしかないんです」

「――」

「お前は見たんだろう?

 王都が滅びていくさまを」

「……ああ」

「無残に死んだ者とその遺族のために、

 王国を背負う団長の右腕であるお前が、立ち上がるべきなんじゃないのか?」


 ランスロットは真っ直ぐな目でデュランを見つめる。

 その目は腕に埋もれているが、その言葉は届いているのだろうか。


「……あんたは一人じゃない。あたしたちもいるし、何より――」

「…………」

「騎士団の仲間が、いるんじゃないの?」

「……っ」


 エリーゼは落ち着いた声で、デュランを包み込むようにそう言った。

 デュランはそのエリーゼの言葉で、とうとう肩を震わせ始めた。


「アンタらの、言う通りや……っ!

 ごめんっ……! ごめんなぁっ……!」


 デュランはその大きな体に見合わないほどの声で泣き出した。

 立ち上がり、デュランのそばへ行こうとした瞬間、


「――心配しなくとも、私はお前を置いて逝かん」


 忘れ物を取りに行ったセリスが、部屋に戻ってきた。

 そして、子供のように泣きじゃくるデュランの肩に手を置き、そう言った。


「団長ぉっ……! ワイは、どうしようもない副団長やっ!」

「そんなことはない。まだ、諦めるとは言っていないんだろう」


 待て。

 いつから聞いてたんだ?

 かなり前からじゃないか?


「私も、この頼もしい少年たちも、騎士団もいる。

 負けることなど、ありえない」

「――」

「――――黙って私に、ついてこい」


 セリスは柔らかく、しかし芯のある声でそう言って、デュランの頭に手を置いた。

 ……まるで、母親と泣き喚く息子みたいだな。


「セリスさん……」

「すまない、待たせた。本題に戻るぞ」


 セリスはデュランの頭から手を放し、椅子に腰かけた。


---


「見せたいものって、何ですか?」

「ああ、これだ」


 セリスはそう言いながら、先ほどのように懐をまさぐる。

 そして、何かを取り出した。

 小さな……小箱のようなものだな。


 セリスはその小箱を開き、俺たちに見えやすいように机の上に置いた。

 その中には、


「何だこれ。真っ白だね」

「鱗、のようだが」

「そうだ。これは、白龍の身体から落ちた鱗だ」


 言われてみれば、これは鱗だ。

 反射した部屋の明かりが目に刺さって痛い。

 アラキア公国はもう出たはずなんだけどな。


「待って。この鱗、動いてるわよ」

「……本当ですね」


 気持ちの悪い動きだ。

 不規則にカタカタと動いている。

 思わず顔をしかめてしまった。


「この鱗は、初めて討伐隊が組まれたときから使われている、いわば白龍の探知機のようなものだ」

「鱗が、どうして探知機になるの?」

「まあ、見ているといい。ベル・パノヴァ、この鱗に少しだけ魔力を注いでみてくれ」

「は、はい」


 言われるままに、俺は目の前の鱗に魔力を注ぐ。

 すると、


「――!?」


 不規則だった動きが、鱗の先端がある方向を向いて止まった。

 そしてしばらく見つめていると、また動き出した。


「魔力を注ぐと、白龍の体に戻ろうとするという性質があるのだ」

「こんなんあったんか? 知らんかったで」

「知るはずがない。この鱗は、歴代の騎士団長しか在り処を知らされていないのだ。

 今は私と国王のみが、この鱗の存在を知っている」


 まあ、悪用されても困るしな。

 それに、こんなに便利なものをむやみに使わせて失くされでもしたらたまったもんじゃないだろうし。


 ……そんな大事なもの、部屋に忘れてきちゃダメだと思うんだが。


「これがあれば、白龍の大体の居場所は突き止められる。

 あとは、撃破するのみだ」

「白龍の攻撃方法とか弱点とか、そういうのはわからないのかしら」

「ただでさえ討伐隊が組まれた前例が少ない上、

 生きて情報を持ち帰った者も過去に数人しかいない。

 第二回の討伐作戦で唯一生き残った先代の『剣神』も、もうとうの昔に死んでいるからな。

 私も数少ない生存者の一人だが、カギになる情報は何もない。すまない」

「文献にも、そういった情報は書かれていないのか?」

「ああ。そもそも、白龍が観測されること自体が稀だからな」


 それなら、討伐は困難を極めるだろうな。

 俺たちも白龍の攻撃は受けたが、あれは恐らくごく一部だ。

 それに、白龍は俺たちと「戯れている」だけだったらしいし。

 お遊びで肺損傷してるんですけど。


 つまり、俺たちはほとんど何も知らない「ゼロ」の状態で討伐に挑むことになる。

 正直なところ、普通に戦えば無理だ。

 俺が今まで戦った相手の中で一番強かったのは間違いなく『海王』だが、

 アイツは人間だった。

 いや、ある意味人間ではなかったが。


 対して、今回は魔獣だ。

 人間ではない、異形の相手。

 それも、世界最恐だとさえ言われている巨大魔獣だ。

 事前にどれだけ対策を練っても、

 勝てる可能性は限りなく低いだろう。


 それでも、やらなきゃならない。

 あんな言葉をデュランにかけた以上、

 もう今更、「やっぱなし」とは言えない。


「明日から、徐々に作戦を開始する。

 白龍の尻尾を掴み次第、本格的な討伐に動くつもりだ」

「了!」

「了ってなによ」

「ん? あー、騎士団は、団長やら上官やらの指示を受け入れた合図として、この言葉を使うんや。

 お前もやってみぃ?」

「りょ、了……」

「ガッハッハ、まだまだ足らんで!

 明日から、ワイが特訓したるわ!」

「いいわよ、面倒くさいから!」


 立ち直るの、早いな……。

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