第四十話「氷の王都と炎の誓い」
ぞろぞろと、エリーゼたちや他の騎士たちも壊滅した王都を見つめる。
――わけが、わからない。
ここは、本当にラヴァニア王国の王都なのか?
「……行くぞ」
「……え?」
「中に入って、状況を確認しなければならない」
セリスは王都に背を向け、地竜にまたがった。
俺もそれに続き、セリスの後ろに乗った。
丘を下り、王都へ入る。
「うっ……! 寒い……!」
体が震える。
というより、体の芯から震える。
全身の毛穴が開き、それぞれが悲鳴をあげている。
「――」
酷いありさまだ。
建物はほとんど全てが倒壊し、なにより――、
「――凍ってる」
あちらこちらに、凍死体が倒れている。
凍っているためか腐敗臭は全くない。
だが、確実に死んでいることは明らかだ。
「あの、悪龍め…………!」
セリスの、憎しみに満ちた声。
手綱を握る手が、プルプルと震えている。
寒さからなのか、怒りからなのか。
きっと、後者だろう。
これも、白龍の仕業だというのか。
この寒さ、そして無数に転がる凍死体。
間違いは、なさそうだ。
「酷いわね……」
隣に、エリーゼの乗った地竜が並んできた。
「――ぁ」
そのとき、どこからか、人の声が聞こえた。
掠れた、今にも死にそうな声。
生存者がいたのか。
「何が、あったのだ?」
「白……龍が……あら、われて……」
「ベル! 治療をしてあげて!」
「はい!」
俺は壁にもたれている男に駆け寄り、治癒魔法をかける。
しかし、
「……効かない」
「え? 効かないってどういうことよ」
「効かないんです! どれだけ魔力を注いでも、全く傷がふさがりません!」
この男の体温も、著しく低下している。
体温自体は、治癒魔法ではどうにもならない。
そもそもの話、治癒魔法は傷をふさぐ魔法だからな。
それでも、この男の体に治癒魔法が効かないのだ。
「……白龍の冷気によって傷ついた肌は、並の治癒魔法では癒やすことができない」
「――」
セリスの言葉に、俺は突然無力感に包まれた。
俺が使える治癒魔法は、中級までだ。
これで治療できないなら、俺にはどうすることもできない。
「『フレイム』」
俺は右手に炎をともし、男に近づける。
「あぁ……温かい……」
男は震えながらゆっくりと腕を上げ、その炎に手を近づけた。
今にも消え入りそうな声は、もはやただの吐息のようだ。
「生存者は……第二、都市に……避難、しています……。
セリス様……私を、楽、に……!」
「――」
「私、だけが……生き、延びてしまい、ました……。
もう、苦しみたく……ありません……」
男の言葉の意味を理解したセリスの瞳は、小刻みに震えている。
「……ダメだ。お前も、第二都市に連れて行く」
「……」
セリスがそう言うと、男は二度、首を横に振った。
「セリス、様……」
「――!」
「ころ、して……」
セリスに向けて腕を伸ばした男。
その腕は、セリスに届く前に力尽きた。
まもなく、息がなくなった。
目から、光が消えた。
「――」
セリスは拳を握り、唇をかみしめている。
「……どう、しますか?」
「これから、二つの隊に分かれる。
第二都市・アルスに向かう隊と、王都に残り、遺体の処理や情報収集をする隊だ。
シリル、パトリック、それからアルカードは私に着いてこい。
その他の者はここに残り、私の指示通り動け」
セリスは気持ちを切り替えたのか、また凛々しい声色で指示を出し始めた。
その切り替えの早さに騎士たちは若干動揺しつつも、言われた通りに動き出した。
「俺たちは、どうすればいいのだ?」
「ベル・パノヴァ一行は、全員私とともに第二都市に来い。
卿らの安全を保証すると言ったのは他でもない私だ。
責任を持って、卿らを安全な場所まで送り届ける」
セリスは、強い。
まさに、騎士団長の器にふさわしいと言えるだろう。
その後俺たちは踵を返し、方向を変えて第二都市に向かった。
---
また丸一日かけて、俺たちは第二都市・アルスに到着した。
かなり大規模な街だが、これで第二都市か。
……本当の王都は、これよりも大きかったってことなんだろう。
地竜で一日かかる距離だから、ここは白龍の被害を受けていなかった。
大体、地竜は時速50kmくらいだから、約300kmは離れている。
「長旅、ご苦労だった」
セリスの地竜に対する労いの言葉を聞きながら、俺は地竜から降りた。
誰も欠けることなく無事に到着できたのはいいが……。
「……ここはここで、混沌としているな」
ランスロットの言う通り、アルスは人でごった返していた。
突然の難民を受け入れきれず、あちらこちらに人が横たわっている。
これは……死んでいるわけではないんだよな?
「思ったよりも、生存者は多そうだね」
「ええ……。なんかエルシア、久しぶりじゃないですか?」
「確かに。元気にしてた?」
「そこまでじゃないですけど」
この状況でも明るいエルシアには、地味に心が救われる。
とはいえ、エルシアの表情までは明るくはない。
彼女も、ただごとではないことくらい分かっているようだ。
「卿らは、これからどうするつもりだ?」
「正直、何も決まってません。
何もかもが突然すぎて」
「……そうだな、すまなかった。
私はこれから、近衛騎士団の支部へ向かう。
同行してはくれないか?」
俺はエリーゼたちの顔を覗き込む。
まあこの後どうするかは全く決まっていないしな……。
「あたしはいいわよ」
「わたしも」
「無論だ」
三人の考えも同じようだな。
「では、同行させてください」
「わかった。着いてくるといい」
セリスにそう言われ、俺は再び地竜に乗った。
少し地竜で歩くと、大きな建物の前に辿り着いた。
「……セリス団長!」
中に入ると、騎士たちは揃って敬礼をした。
この世界にも、敬礼の文化があったのか。
やっぱりかっこいいな。
「支部の中に、王都の本部から避難してきた者はどのくらいいる?」
セリスがそう尋ねると、何人かがゾロゾロと手を挙げ始めた。
「ふむ……では、詳しく当時の状況を聞かせてくれ。
関係のある者だけ、奥へ来い」
俺たちも手招きされ、支部の建物の奥へと進んだ。
支部とは思えない、豪勢な建物だ。
王宮かと錯覚してしまいそうなほど広く、装飾も豪華だ。
セリス、そして白龍の被害を受けた騎士たちの後に続き、部屋に入った。
そして各々席に着き、軽く自己紹介を済ませた。
「さて……。話を聞かせてもらおうか」
「……」
そんな尋問みたいな問い方しなくても。
ほら、すごく緊張してるぞ。
「騎士さん。セリスさんはただ、
王都が白龍に被害を受けたときのことを話してほしいだけなんですよ」
「……そう、なのか?」
「何、私がお前たちを叱りつけるとでも思ったのか?」
「…………はい。我ら近衛騎士団は、白龍の出現を目の当たりにしたのにも関わらず、
全く抵抗もできないまま逃げ惑うことしかできなかったので」
「……」
騎士の言葉に、セリスは少し鼻息を漏らす。
まさか、本当に叱りつけるつもりか。
「お前たち騎士が、責任を感じる必要はない。
そもそも、白龍は『世界四大魔獣』の一角であることを忘れてはならない。
曲がりなりにも五百年以上生きているあの怪物を、
何の準備もなくそれを討伐するというのはいささか難しい話だ」
騎士たちは安堵の表情を浮かべる。
そりゃ、アンタらは悪くないぜ。
むしろ、セリスがその場にいなくて良かったのかもしれない。
突然の襲撃で、騎士団長を失っていた可能性だってあったのだ。
……ていうか、五百年以上も生きてるのか、あいつ。
まあ、大国二つが手を組んでも歯が立たなかったような魔獣だからな。
不意打ちされた近衛騎士団たちで殺せるなら、とっくにヤツは死んでいるだろう。
「聞かせてくれ、コラード。いつ、白龍の襲撃を受けた?」
「セリス団長たちが王都を発ってから、二日ほど経った夜でした。
国民も我々騎士団も寝静まった真夜中の襲撃だったので、パニックに陥ってしまい……。
何とか応戦しようと剣を取った者もいましたが、戦おうとした騎士は誰ひとり生きて避難することができませんでした」
「お前は、剣を取ったのか?」
「……いえ、私は先ほども申した通りパニックになってしまいました。
ですので――」
「――近衛騎士たるもの、必要ならばどのような状況でも剣を抜け。
ラヴァニア王国近衛騎士団の教訓の一つだろう」
「――」
セリスにそう指摘され、押し黙ってしまったコラード。
セリスの目を直視できず、うつむいてしまっている。
俺がこの人でも、目は合わせられないかもしれない。
それだけ、威圧感がある。
「白龍を殺せなかったことを咎めるつもりはない。
それは、私がいようがいまいが、変わらぬ結果となっていただろう。
だが私は、お前が剣を抜かなかったことに対して失望しているのだ」
「……申し訳、ありません」
「コラード、お前の気持ちは理解できる。
初めて目にするあの巨躯に対して、恐れをなすことはむしろ当然だ。
しかし、騎士であるお前が剣を抜かずして、誰が抜くと言うのだ」
「……」
セリスは冷徹な目で、椅子に腰かけるコラードを見下ろす。
そこまで怒らなくても……。
コラードだって剣を抜きたかっただろうが、
いざアレを目の当たりにしたら怖くて体が動かなくなってもおかしくない。
……ただ、俺みたいな素人には分からないような、騎士としての在り方があるのだろう。
騎士団長はセリスだ。
ある程度理不尽でも、セリスの言うことが絶対なのだろう。
だから、コラードは反論できない。
「……だが」
「――」
「よく、生きていてくれた。
これ以上は、お前たちには何も言うまい」
「……っ。申し訳っ……! ありませんっ……!」
コラードは涙を流しながら頭を下げた。
セリスはやはり、嫌な上司ってわけではなかった。
部下を叱りつつも大切にする、いい団長じゃないか。
「さて。他の者も、体験したことを洗いざらい教えてくれ」
「はい。白龍の咆哮が聞こえた瞬間、街中の建物が一気に吹き飛ばされました。
私もその凄まじく冷たい息吹に飛ばされましたが、奇跡的に生き延びました」
そう話した男は、頭に包帯を巻き、片腕は首から吊り下げてある。
本当に、よく生きていたな。
あの冷気をまともに食らって命があるとは驚いた。
あの冷気を吸い込んだ途端、肺が裂ける感覚がした。
そして、すぐに血がこみあげてきた。
あんなのを直接肌に食らったら、普通は王都で出会ったあの人のように凍り付いてしまうはず。
運が良かっただけなのか、何かからくりがあるのか……。
その後も、集められた王都の騎士たちは当時の状況を口々に話した。
「デュランは、生きているのか?」
「――お、団長! ここにおったんか!」
バンと扉が勢いよく開き、腹から出たような威勢のいい関西弁が部屋に響いた。
……え、関西弁?
「噂をすれば何とやら。デュラン、よく生きていてくれた」
「そんな簡単に死ぬほどヤワじゃないっちゅうねん!
アンタみたいな偉大な団長を置いて逝けるかい!」
入ってきたのは、屈強な男。
乱れた赤い短髪で、歯をむき出しにして笑っている。
にこやかとはまた違った種類の笑顔というか。
肩と腕を露出した軽鎧には、黒いマントがついている。
外見だけで見るなら、かなり俺のタイプだ。
それにしても、コテコテの関西弁だ。
まさか異世界でもお目にかかれるとは思わなかった。
「……珍しい喋り方ね(ボソッ」
「世の中にはいろんな人がいるんだよ(ボソッ」
「なんや、お二人さん! よぉ見たらべっぴんさんやないか!」
「べ、べっぴん? ってなに?」
「可愛いってことですよ」
「ふん! あんたに言われても別に嬉しくもなんともないわ!」
「そない釣れへんこと言わんといてぇな! 仲良く行こうや!」
コテコテ&ガツガツ系か。
エリーゼと相性最悪だな。
エルシアは褒められてまんざらでもなさそうだが。
「ほう。卿はヴァルド弁を知っているのか」
「ヴァルド弁?」
「ラヴァニア王国の南部地方、またはヴァルド地方の方言のことですよ。
強い訛りがあるのが特徴です」
「へぇ……そうなんですね」
「ヴァルド弁のことを知らない卿に、どうしてデュランの言葉が理解できるのだ?」
「それは、ええと……。
し、知り合いに似たような喋り方の人がいるので、何となくそうかなって……」
コラードの説明に思わず初耳であるかのような反応を示してしまった。
この言い訳でなんとか通ってくれて助かった。
もちろん、知り合いにこんな話し方の人なんていない。
「兄ちゃん、仲良うなれそうやな!」
「あ、あはは……そうですね……」
エリーゼと相性が悪いと言ったが、
俺ともあまり相性は良くないかもしれない。
ガツガツ来られるのは嫌いじゃないが苦手だ。
いや、同じ意味か。
なにも、拒んでいるわけではない。
ただ、慣れるまでに時間がかかりそうだなって話だ。
俺たちは再び、デュランに向けて簡単に自己紹介を済ませた。
一人の自己紹介が終わるたびにその人のもとへ行き、手を握って激しく上下に振った。
危うく肩が外れるところだった。
「本題に戻るが……。デュラン、お前も白龍を見たのか?」
「おう、見たで。ワイは優雅にバスタイムを楽しんどったのに、
急に外からデッカイ鳴き声が聞こえたんや。
そんで、耳を塞ぐ間もなく建物ごと吹き飛ばされたわ」
「それ、裸であの冷気を受けたってことなのかしら」
「せやで。バリバリフルチンや」
やめんか。
エルシアは唐突に飛び出たワードに吹き出してむせ込んだ。
エリーゼはその背中をさすりながら、デュランのことを軽く睨みつける。
「よく、それで生きてましたね」
「まあ、ワイの体は人間の何百倍も頑丈やからな!」
「へー」
「エリーゼ。デュランは一切の誇張をしていない。
言葉通り、人よりも遥かに頑丈な体を持っている」
頬杖を突きながら聞き流そうとするエリーゼに、セリスが一言。
エリーゼは頬杖を解除し、目を丸くした。
「ワイの体のこと、説明したろか――」
「いや、大丈夫だ。私が説明する。
お前の言葉では、大半の事実が正しく伝わらん」
「団長の言う通りや。ほな、任せたで」
言葉を遮られても、嫌な顔ひとつしない。
もしやこの関西人……ヴァルド人、思ったよりいい人なのでは。
セリスは、デュランの体のことを説明し始めた。
どうやら彼の出身地であるヴァルド地方に住む人間は、
中央大陸を南北に分断する「龍脊山脈」という山脈の近くにあるため、
過酷な環境に耐えられるように、古来より人よりも体が頑丈につくられるよう進化してきたらしい。
そういった背景によってただでさえ丈夫な体であるのに加え、
デュランの体には「炎気」という特殊な力が宿っているという。
その力のおかげで剣を抜くと異常なまでに体温が上昇し、さらに体の強度が上がるというわけだ。
白龍の冷気をまともに受けたデュランの体に傷一つないのは、そういう理由があったのだ。
俺にもそんなチート級の何かが欲しかったものだ。
いや、今の「聖級魔術師」というステータスでも十分だな。
ないものねだりはやめにしよう。
「それで、デュランは今まで何をしていたのだ?」
「団長が来る前に、領主の所に行っとったんや。
ようやっと、騎士団支部の混乱も落ち着いたからな」
状況報告って感じだろう。
そりゃ、いきなり王都からとんでもない数の人が避難してきたら混乱もするわな。
「これから、どうするつもりや?」
「……正直、まだ何も決まっていない。
何も、分からん」
まあ、そうだろうな。
せっかく調査の結果を無事に持ち帰れたと思ったら、
王都そのものがなくなってしまっていたのだ。
心の整理もできないままアルスまでやってきて、今後の展望が見えるはずもない。
「宿屋は、もう空いていないのか?」
「せやな。冒険者のコイツらが全員泊まれるような宿は、どこも空いてへん」
「そうか。それなら、しばらくはここで生活するといい」
「いいのか?」
「数日間も共に過ごした卿らを、このまま見捨てるわけにはいかない。
遠慮せず、ゆっくりするといい」
セリスは、少し頬を緩めた。
こんな状況なのに、柔らかな表情だ。
きっと、俺たちを不安にさせないようにするために気丈に振る舞ってくれているのだろう。
セリスは、俺たちを案内すると言って立ち上がった。
俺たちも続々と椅子を離れ、セリスの後ろを歩き出した。
---
俺たちは、騎士団支部の建物の一室を丸ごと借りた。
好きなだけくつろいでいけと言われたが……。
「また、しばらく進めなさそうだな」
俺たちの旅の目的を忘れてはいけない。
あくまで、ラニカに帰郷することが目的だ。
正直なところ、ここで長い間くつろいでいる場合ではない。
「これから、どうしましょうか」
「早い所、アルスから出発したいわね」
エリーゼの言う通りではある。
というか、それが皆の本意だ。
セリスたちの厚意はとてもありがたいものだが、
何週間もここに留まり続けるのもなぁ……。
いや、アルスに滞在するのが嫌だというわけではない。
出発しようと思えば、竜車でも馬車でも買って出発できる。
金は十分あるし、もう今後は竜車でラニカまで突っ走ればいいだけだ。
何が俺たちを妨げているのか。
答えはひとつ。
――白龍である。
「白龍が完全に姿を消すまでは、旅を続けるのは危険だよねー」
「そうね。また前みたいに遭遇したら、今度こそ殺されるわ」
アイツが出現する可能性が1パーセントでもあるなら、出発するべきじゃない。
俺たちの戦力は、その辺の冒険者たちとは比べものにならないだろう。
周りに誇示したくなるくらい、役者がそろっていると思っている。
それでも、歯が立たなかった。
白龍からしてみれば俺たちと戯れていただけなのかもしれないが、
少なくとも俺たちは死力を尽くした。
今まで戦ったどの魔獣とも比にならない、圧倒的な存在感。
あの龍から放たれる冷気を吸い込んだだけで、肺が裂けた。
もう二度と、姿を見たくない。
これが、正直な気持ちだ。
「……でも、このままでいいのかしら」
エリーゼは、床に胡坐をかいてそう言った。
「このまま待ってるだけじゃ、出発がいつになるか分からないわよね。
もし白龍が何年もこの辺りに居座り続けるって言うなら、
あたしたちはここから動けないじゃない」
「……そうだね。第一、アルスが絶対に安全だとは言い切れないし」
エルシアも、神妙な顔でそう言った。
確かに、ここアルスが安全であるとは言い難い。
ただでさえ同じ国の一部に属している王都が滅ぼされたのだ。
第二都市であるアルスが次のターゲットである可能性だって捨てきれない。
白龍の知能がどの程度なのかは知らないが、
狙って王都を襲撃したって線もありえる。
もしそうだとすれば、一時的に人が集まっているアルスは標的にされやすいだろう。
ならば――、
「白龍を、倒す……」
「え?」
「いえ、ちょっと考えてみただけです」
俺はその場しのぎ程度にそう答えたが、実際このままじゃ埒が明かないのは事実だ。
それは、全員が重々承知しているはず。
しかし、相手が悪すぎる。
世界四大魔獣の中でもとりわけ討伐が難しい白龍を、殺す……。
なんて、口で言うのは簡単なんだけどな。
「ベル」
「はい?」
「――俺は、やってみる価値はあると思うぞ」
「……え?」
ランスロットは、俺の目を真っ直ぐ見てそう言い放った。
睨んでいるわけじゃないんだろうが、鋭い目つきだ。
それはいつものことなんだが、いつもに増して鋭い。
「白龍が姿を消すのが、今後俺たちが旅を続けるための絶対条件だ。
だが、エリーゼとエルシアの言う通り、このまま待っているだけでは埒が明かん」
「それは、そうですけど……」
「それに、俺たちだけで討伐しようとしなくてもいいんじゃないか?」
「――」
俺たち、だけ。
この四人であの巨獣を討伐するのは、アリがゾウを転ばせるくらい難しいことだ。
つまるところ、不可能に近い。
いや、不可能だ。
だが、なにも俺たちだけで解決しようとしなくてもいい。
今までに経験した事件は、全て俺たちだけで向き合ってきた。
他に頼れる者もいないし、頼るにはまず俺たちの事情を事細かに説明する必要があった。
しかし、今回は違う。
――セリスやデュランがいるじゃないか。
そこまで仲が深いかと言われれば、それは嘘になる。
エリーゼやランスロットと比べれば、知り合ってたかが数日だ。
デュランに関しては、まだ数時間ほどしか経っていないし。
でも、二人とも頼りになることは間違いない。
セリスには命を救われたが、デュランの実力はまだどんなものなのか知らない。
だが、副団長なら、セリスに次ぐナンバー2であることは間違いないだろう。
「あたしも賛成よ。あの化け物、あたしを食べようとしたんだから。
やり返さないと気が済まないわ」
「わたしも! 寒いの苦手なのに、こんな真夏に雪降らせるとか……。
絶対許さん!」
エリーゼとエルシアは、途端にやる気になった。
二人とも、それぞれの恨みがあって目が燃えているようだな。
俺としても、ヤツは許し難い。
アイツのせいで、とんでもない痛みが胸の中に走ったんだ。
おまけに吐血までさせられたし。
「では、まずはセリスさんたちに話をしてみましょうか――」
「その必要はない」
「――セリスさん!?」
変わらず凛とした佇まいで、しかしどこか柔らかい表情。
勢いよく立ち上がった俺の目の前に、扉にもたれかかったセリスが立っていた。




