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空中転生 - 落ちこぼれニート、空の上でリスポーンしました -  作者: 蜂蜜
第4章 少年期 アラキア編

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第三十二話「『七神』の石碑」

 森に来て、三か月。

 ようやく、雨季が終わった。

 水はすっかり引き、雨季以前の森に戻った。

 現在、人々は力を合わせて物資などの運搬を行っている。


「もう、いっそのことずっと高台で生活したらいいんじゃないかしら。

 いちいち運ぶのって面倒くさいわ」

「まあ、大人の事情ってものがあるんだよ」

「その大人の事情ってなんなのよ。

 昔からお父様とお母様からよく言われてたけど、全く意味が分からないわ」


 それについては俺も同感だ。

 大人というものは、都合が悪くなると何でも「大人の事情」で済ませる生き物だ。

 すごく万能な言葉だから、将来子供を持つことがあれば使っていこう。


 ちなみに、今日はもう出発日だ。

 身支度は昨晩のうちに済ませておいたから、俺はいつでも出発できる。


「じゃ、あたしは準備してくるわ、バイバイ」

「はーい。行ってらっしゃい」


 当然、エリーゼは今から準備をする。

 やっぱ、あの夢は噓っぱちだったな。

 忌々しいサキュバスめ。

 変な夢見せやがって。

 おかげであの夢のことが頭から離れなくなっちまった。


「早かったね、三か月」

「そうですね。案外すぐ終わっちゃいました」


 最初は、三か月という月日は途方もなく長いものだと思っていた。

 だが、終わってみればどうだ。

 あっという間だったじゃないか。


「『終わっちゃった』ってことは、ちょっと寂しいんじゃない?」

「……そりゃ、そうでしょう。この旅の中で唯一、ゆっくり楽しく生活できましたから」


 ぐうたら生活はよくない。

 そう自分に言い聞かせていたが、結局かなりの時間をダラダラと過ごした。

 でも、俺はこの三か月で、ぐうたら生活がいかに尊いものであったかを思い知った。

 生前の俺は当たり前のように、そんな堕落した生活を送っていたが、

 今はいつ死ぬかもわからない殺伐とした世界で生きている。

 俺はこの三か月を、これでもかと噛み締めた。


 そして、


「ベル、エルシア。いつ頃出発するんだ?」

「多分、昼食をとった後だと思います」

「おっ、昼はこっちで食べていくのか。

 少しだけ、一緒に居られる時間が増えたな」


 オルフェンは、ふっと微笑んだ。


 この三か月を語る上で特筆すべきは、人々の温かさだ。

 これまでに寄った国や街の人々を下げる意図は決してないのだが、

 この森の人々の人柄は飛び抜けて良かったと思う。


 いうなれば、「家族」だろうか。

 大きな国でもなければ、国の中枢を担うような都市でもない。

 小さな小さな集落だからこそ生まれる集団意識が、自然とそう思わせるのかもしれない。


 オルフェンの家族のみではない。

 この集落で暮らしている全員、誰一人として俺たちを邪険に扱うことはなかった。

 正直、もうここで暮らしたい。

 みたいなこと、ラゾンにいた頃も言っていた気がする。

 まあ、住めば都っていうしな。


「ここを出た後にどこを目指すかは、もう決まっているのか?」

「次は、アラキア公国を目指すことになってます」

「おお、アラキアか。『黄金の国』って呼ばれてる国だったよな。

 行ったことはないが、いい所だって話はよく聞く」


 資金力があるなら、ご飯も美味しいんだろうな。

 この森で食べる食事は野性的なものばかりだったから、ご馳走が食べたい。

 もちろん、この森での食事もすごく美味しかったけど。


「じゃあ、食事の準備をしてくる。

 ゆっくりしているといい」

「ありがとう、オルフェン」

「ありがとうございます」


 そう言って、オルフェンは家の中に戻っていった。


---


「忘れ物はないか?」


 このランスロットの言葉も、もはや聞きなれてしまった。

 「宿を探すぞ」と「忘れ物はないか」。

 この二つは、きっと特定の状況でランスロットから発せられるようプログラミングされているのだろう。


 森での最後の昼食は、楽しいものだった。

 いつもと変わらない、肉と野草の料理。

 しかし、大事なのは豪華さではない。

 誰と食べるか、だ。


 もうすっかり当たり前となった、

 オルフェン、リュミナ、そしてオルフェンの妻であるアルセアとの食事。

 まるで本当の家族であるかのような時間を過ごした。


「エリーゼ! ベル!」

「――! リュミナ!」


 リュミナが、こちらに向かって走ってきた。

 エリーゼがリュミナを抱き留めると、リュミナは大きな声をあげて泣きだした。


「行かないで! エリーゼ!」

「そんなこと言われても、あたし達は帰らなきゃなのよ」

「嫌ニャ! ずっと一緒にいるニャ!」


 俺には、リュミナの泣いている顔しか見えない。

 エリーゼの顔は、リュミナの顔の向こう側にあるから見えない。

 だが、


「絶対……絶対、また会いに来るからっ……!」


 エリーゼの声色から、泣いていることは分かった。

 最初は俺に懐いていた感じがあったが、エリーゼに剣を教わり始めてからはエリーゼにデレデレだった。

 エリーゼもかなり可愛がっていたし、別れるのは寂しいだろうな。


 ああ、何か俺まで泣きそうだ。

 中身はおっさんだから、涙腺が脆くてしょうがない。


 会いに来れるさ。きっと。

 そのためにも、まずは無事にラニカに帰らなきゃな。

 そして、未だ情報がない家族と、エリーゼの家族も捜す。

 全てが解決した後で、改めて遊びに来ればいいさ。

 まあ、ちょっとそこまでとかいう距離ではないが。


「ありがとう、皆。お前たちがいなければ、運搬作業は絶対に間に合わなかっただろう」

「こちらこそ、お前たちのおかげで雨季を凌ぐことができた」

「出会いこそ、最悪だったがな」


 守護獣様のことを攻撃したことがきっかけで、オルフェン達にも攻撃されたんだったか。

 あれは、急に襲ってきたから……。


 ……あ、違うか。

 エリーゼが先制攻撃したんだったな。


 終わり良ければ総て良し。

 こうして平和に終われたんだから、出会いをとやかく言う必要はないだろう。


「ランスロット。また会うことがあったら、今度は手合わせ願うぞ」

「ああ。今度は、雨季ではない時に来るとしよう」

「ははっ。そうしてくれ」


 ランスロットとオルフェンは、互いに笑い合った。

 この二人、この三か月でずいぶんと仲良くなったな。

 エリーゼはリュミナと、ランスロットはオルフェンと、それぞれ仲を深めている。

 俺とエルシアは、特に誰とも仲良くはなっていな……。


「――エルシア姉! もう行っちゃうの?」

「もっと遊びたかったよ! エルシア姉!」

「また来るから、その時にたくさん遊ぼうね!」


 エルシアの周りに、ぞろぞろと子供たちが集まってきた。

 瞬く間にエルシアは取り囲まれ、皆で別れを惜しんでいる。


 あれ?

 友達いないの、俺だけ?


 引きこもっていた弊害が出たか。

 生前を思い出すぜ。


「エリーゼ! これ!」

「ん? 何よこれ」


 リュミナは涙をぬぐって、懐から何かを取り出した。

 紅く光る、ペンダントのようなもの。


「こっそり、作った! プレゼント!」

「わぁ、すごいわ……! ありがと、リュミナ!」


 エリーゼは、リュミナから手渡されたペンダントを握りしめ、それを胸に抱いた。

 これを、一人で作ったのか。

 こんなに小さいのに、器用だなぁ。

 俺は手先が不器用だから、絶対に無理だ。


「はい、ベル!」

「……えっ、僕にも?」

「二人に、作ったニャ!」


 リュミナは、ニコニコしながら俺にもペンダントをくれた。

 エリーゼのペンダントとは違う、エメラルドグリーン色だ。

 まさか、


「これ、僕の目の色?」

「エリーゼの目、赤。

 ベルの目、緑ニャ!」


 やっぱりか!

 すごいな、そこまで考えてくれたなんて……。

 それに、エリーゼだけじゃなくて、俺にも作ってくれたのか……。


「泣かないで、ベル」

「ありがとう……リュミナ……!

 絶対、会いに来るからな」

「?」


 ああ、そうか。

 まだこのレベルの人間語は難しいか。


『絶対、会いに来る!』


 俺が獣人語でそう言うと、リュミナは再び笑顔を咲かせて、


『約束!』


 と言って、小指を出した。

 この世界にも、指切りの概念はあったんだな。


「あたしも混ぜなさい!」


 エリーゼも加わり、三人での指切りになった。

 こんがらがって、よくわからないことになった。


「じゃあ、そろそろ行くぞ」

「はい」


 ランスロットは馬にまたがり、手綱を握った。

 エルシアも子供達に別れを告げ、幌の中に乗り込んだ。 


「じゃあね、リュミナ」

「元気でいるんだぞ。また会いに来るからな」

「うん! バイバイ!」


 出会いがあれば、別れもある。

 それは、どう頑張っても覆すことのできない自然の理だ。


 永遠の別れじゃないんだ。

 きっと、また会える。


---


 湿った地面を一歩ずつ、馬車に揺られて進む。

 森を抜けて平原に出るまでは、三日ほどかかるらしい。

 この森はかなり大きいから、それだけの時間がかかることにも頷ける。


「いい場所でしたね」

「あそこに住みたいわ」


 それについては同感だ。

 俺もあそこでぬくぬく生活したい。


「次の何とか公国までは、また二週間くらいかかるんでしょ?

 遠すぎるわ!」

「いや、それなんだがな。どうやら俺の思い違いだったらしく、

 そこまで時間はかからないと教えてもらった」

「えっ、そうなんですか?」

「ああ。森を出たら、もう国の全貌が見えるらしい」

「それ、めちゃくちゃ近いじゃん! 激アツじゃん!」


 いや、ほんと。

 激アツじゃねえか。

 一週間くらいで行けるだろうか。


「ん? 何だこれ」


 エルシアの視線の先に、奇妙な石碑があった。

 ランスロットは馬車を止め、馬から降りた。


「これは、『七神』の石碑だな」

「七神って確か、この世で最強の戦士達よね」

「見て、名前が彫られてるよ」


 エルシアが指を当てた場所には、『七神』の名前が書いてあった。

 上から順に、


=========================

・第一位『龍神』アスフィロス

・第二位『魔神』ファルゼス

・第三位『獣神』ベリクス

・第四位『天神』アストリア

・第五位『剣神』ヴァルディア

・第六位『地神』グラニクス

・第七位『月神』ルナディア

=========================


 といった感じで、それぞれの紋章のようなものと共に名前が彫られてある。

 あれ、今の『剣神』の名前ってアベルじゃなかったっけか。

 リベラの実父が現在の『剣神』のはずだが。


「これ、かなり年季が入ってるね。

 相当前のものじゃない?」

「俺がまだエルシアくらいの年齢だった時の『剣神』がヴァルディアだった。

 だから、これは恐らく古い石碑だろう」


 なるほど。

 確かに、『七神』は世代交代をする者もいる、みたいなことを聞いたことがある。

 この石碑に彫られている『剣神』の名前は、きっと先代の『剣神』の名前なんだろう。


「それにしても、何でこんなところにこんな石碑があるのかしら」

「こういう石碑は、世界中の至るところに存在する。

 たまたまここに置かれていただけなのだろう」

「ふーん」


 偶然だった、ってことか。

 そうは思わないけどな。

 何か意図があって誰かしらがここに置いたんだろう。

 百年も前のものなら、その意図なんて知りようがないが。


「『七神』と『九星』って、どっちが強いのかしらね」

「そりゃ、人数の多い『九星』でしょ。

 ただでさえ個々の強さが尋常じゃないし」

「どちらが強いかは、一概には言えん。

 だが、『龍神』と『太陽神』が直接的に戦うことがあれば、この世界は滅びるだろうな」


 えっ、そんなにやばいのか。

 どちらもとんでもなく強いとは聞いたことがあるけど。


 というかそもそも、『七神』と『九星』の間に何か関係はあるのだろうか。

 流石に互いの存在くらいは知っているとは思うが、

 その二つの勢力がぶつかった歴史とかは聞いたことがない。


「ちなみに、仮に『七神』の誰かが死亡すると、この石碑からも名前が消える」

「へぇ。何か儚いね」

「でも、一つも名前がなくなってないってことは、誰も死んでないってことよね」

「ああ。大体が、姿を眩ませているだけだからな」


 偉業を成した人や、戦争などで命を落とした人なんかの名前を、こういう石碑に彫ってあるのは見たことがある。

 それは、どれだけ時間が経とうとも名前を忘れることがないように形に残しているものだ。

 だが、この石碑の場合、死んだら名前がなくなるってことだろう。


 語り継ぐべき最強の戦士の名前を、死んだら消えるようにプログラムするのってどうなんだ。

 なんて言っても、俺にはどうすることもできないが。


「ってか、ベルはこの中の『月神』に会ったんでしょ。すごいじゃない」

「しかも、そんなオシャレな魔眼までもらってね」

「そんな軽い感じで言ってますけど、すっごく痛かったんですからね。

 制御するのにも時間かかりましたし」


 言われてみれば、『七神』に会ったという経験はすごいのかもしれない。

 でも、眼球をほじくり出されて別の眼球を埋め込まれたんだぞ。

 次に会ったら何をされるかわからないから、できるだけもう会いたくないな。

 感想を聞かせてとは言われたものの、どこかに消えてしまったし。


 まあ、今となってはこの魔眼はかなり優秀だといえる。

 月の出ている夜間限定ではあるが、戦闘能力の上昇ははっきり分かるほどのものだ。

 これから強敵と戦う時は、夜の間がいいな。

 月が出ていなければあまり意味はないが。


「ランスロットじゃ、この『七神』には勝てないの?」

「分からん。だが、せいぜい『月神』と少しやり合える程度だろう。

 俺では、誰にも勝てん」

「えっ、そんなもんなの?」

「『七神』は、思っている何倍も強いと思っておいた方がいい」


 ランスロットは再び馬にまたがった。

 コンコンと馬の腹をかかとで蹴ると、馬は歩き出した。


 ランスロットのレベルで、『月神』と互角にやり合える程度。

 「誰にも勝てん」ってことは、最終的には負けるってことだろ。

 でも、ランスロットは『九星』執行官の第八位、『天王』に一人で勝った。


 ということは、ランスロットってやっぱりとんでもない強さなんだろう。

 そして、それよりもさらに強い『七神』や『九星』がどれだけ化け物なのかも分かる。


 上には上がいる、ってこったな。


---

 

 出発してから二日目の夜。

 未だ森を抜ける気配はないが、着実に目的地に近づいているはずだ。

 ランスロットは俺とは違って方向感覚に優れている。

 竜人族は、空間認識能力に長けているらしいからな。

 東西南北すら危うい俺にとって、こんなに羨ましい能力はない。

 ルナディアに、空間認識力に優れた魔眼をもらえばよかった。


「戻ったぞ」


 ランスロットが、暗闇から現れた。

 こんな風貌の男が茂みから現れたら、知らない人が見たら泣き叫ぶだろうな。


「今日はイノシシの肉ね!」

「ご馳走じゃん!」


 ランスロットは、食材調達係。

 一日三回の休憩の度に、俺たちの元を離れて狩りに出る。

 こいつは強すぎるから、いなくなる心配がない。


「木の枝たくさん持ってきたよー」

「助かります」


 エルシアは、俺たちの目の届く範囲で木の枝を集める。

 火を起こすための燃料だな。

 薪を集めるくらいならそんなに遠くまで行く必要はないため、その辺で調達できる。


「『フレイム』」


 そして、火起こし係は俺だ。

 飲料用の水も、俺の魔術で賄える。

 魔術って、つくづく便利だなぁ。


「丸焼きでいいか?」

「他にできそうな料理もないしね」


 ランスロットは大きな木の枝にイノシシを丸ごとぶっ刺した。

 そして、俺が起こした火の上に置いた。

 肉の焼けるいい匂いが、鼻腔を通って脳に直接染みわたる。

 塩コショウとかあれば、最高なんだろうけどな。

 そんな贅沢は言えないから、素材の味を楽しむしかないわけだが。


「暇!」


 どっしりと胡坐をかいて座っているエリーゼが声を上げた。

 そう、エリーゼはやることがないのだ。

 否、できることがない。


 食材調達を手伝おうにも、ランスロットが一瞬で片付けてしまう。

 薪の調達も一人で事足りるし、魔法も使えない。

 ずいぶん前に俺が教えたものも、もうやり方を忘れてしまったらしい。


 綺麗に役割分担されているから、エリーゼが入る余地はないのだ。


「いいじゃないですか。エリーゼは王女様なんですから、僕達に任せてゆっくりしていてください」

「いつの話してんのよ。あたしはもう王女じゃないわ」


 エリーゼの隣に座ると、ぷいっとそっぽを向かれてしまった。

 国が滅びようが、王女は王女だ。

 苗字が変わらない限り、エリーゼは一国の王女様なのだ。


「エルシアって、料理はできるの?」

「一人で暮らしてた時期は、自炊してたからね。

 ある程度の料理ならできるよ」

「ふーん。じゃあ、あたしに教えなさいよ」

「生活が落ち着いたら、教えてあげようじゃぁないか」


 そういえばミリアにいた頃、一時期ではあったが料理にはまっていた時期があったな。

 毎回、試食役が俺だった。

 お世辞にも美味しいとはいえなかったが、決して口には出さずに黙々と口に運び、「美味しい」という毎日だった。

 十年間で十本の指に入るくらい、苦痛な毎日だったな。


「でも、どうして急に料理なんて?」

「お、王女たるもの、料理の一つくらいできなきゃダメでしょ!」

「都合のいい王女様だなぁ。

 それとも、誰かに作ってあげられるようになりたいとか?」

「……ちっ、違うわよ!」


 と、エルシアの言葉に強めに否定した後、俺の方をチラチラと見る。

 頬を赤くしながら、何度も視線を合わせては下を向く。

 なんだい。はっきり言ってごらんよ。


「む。この肉、美味いな」

「これ、普通のイノシシの肉ですか?」

「ああ。というか、この辺りは全く魔物が出ない」

「集落に行くまでには、何回か遭遇したよね」


 こんなにうっそうと木々が生い茂っているのに、そんなことあるのか。

 普通、こういう場所って魔物の巣窟になるはずなんだけどな。

 言われてみれば確かに、ここまで魔物に遭遇したことがない。

 ラッキーというべきか、嫌な兆候なのか。

 前者であることを祈ろう。


 もう、頼むから平和に帰らせてくれ。

 どうして毎度毎度、災難に見舞われなければならないのだ。


 この中に、トラブルメーカーがいる。

 絶対俺だな。


「恐らく、明日には森を抜けられるはずだ」

「やっとかぁ……。

 こんなに木ばっかりの所に長い間いたら、気が滅入っちゃうよ」


 そうだろうか。

 茶色と緑に包まれた空間で、目に優しいと思うんだけどな。

 木と草の匂いも心が落ち着くし。


「アラキアには、どのくらい滞在するの?」

「前にも言ったが、アラキア公国には中央大陸とデュシス大陸を結ぶ港がある。

 そこからは、週に一回定期便が出るのだ。それに合わせるように、考えて生活しなければならない」

「それ、今度こそ大丈夫なんでしょうね。

 前みたいに、何か月も街にいなきゃならない、みたいなことにならないかしら?」

「全部、集落で聞いたことだ。信憑性は高い」


 天大陸からデュシス大陸に渡る際、海が荒れる時期にラゾンに到着してしまったため、二か月ほどラゾンで待たされることになった。

 まあ、そのおかげで俺は杖を買えたわけだが。

 でも、もうその杖を使うことはもうないんだろうな。

 このシャルロッテの杖は、絶対に手放せない。


「腹を満たしたら、すぐに寝るぞ」

「その前に水浴びだけでもさせなさいよ。お願いね、ベル」

「えぇ。また僕がやるんですか?」

「ベルしかできる人いないでしょ?」

「じゃ、わたしもお願いしよっかなー。チラチラ」


 口でそう言いながら、ニヤニヤしながら俺を見るエルシア。

 別に、水を浴びせるぶんにはいいんだけど、なんか変な気分になるんだよな。

 美人二人に自分の体で作り出される水をかけるなんて、こじらせた人からしてみれば絶頂ものだろ。

 俺は正常で紳士なジェントルマンだから、そうはならないが。


 それに、いくら背中を向けてもらっているとはいえ、ほぼ素っ裸だぞ。

 俺がどれだけ心を無にするのに苦労しているか、知らないだろうな。


「今日は水浴びなしです」

「何でよ!」

「アラキア公国に着いたら、好きなだけお風呂に入ればいいじゃないですか」

「そういう問題じゃないのよ! あっ、待ちなさい!」

「迷子にならないようにするんだぞ」

「見てないで助けてください!」


---


 道中、なんと森の中に温泉が湧いている場所を見つけた。

 エリーゼがすぐに服を脱ぎ捨てて温泉にダイブした時はかなり焦ったな。

 もしかしたら、何者かが張った罠であるかもしれないし。

 油断は禁物だと何度も言っているのに、本当に困った奴だ。


 エリーゼ、エルシアの順に温泉に入ったため、男二人は後回しになった。

 まあ、入れたからいいけど。


---




 そんなこんなで、森を抜けた。

 ようやく、中央大陸に一番近い国に来たのだ。

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