表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
空中転生 - 落ちこぼれニート、空の上でリスポーンしました -  作者: 蜂蜜
第2章 少年期 邂逅編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/50

第十八話「港町・ラゾン」

「ベル! 見て! 海よ!」


 何の障害もなく、港町・ラゾンに到着。

 はしゃぎ回るエリーゼの先には、見渡す限りの青。

 これがこの世界の海だ。

 当然だが、この世界の海も青かったんだな。

 何で他の色だと思っていたのかは俺にもわからん。

 逆に教えて欲しい。


 俺達は今、砂浜にいる。

 ここから見える景色は、まさに絶景だ。

 ただ大海原が広がっているだけだが、それでも映えるほどに美しい。

 見ていて心が洗われていくようだ。


 まるで俺の心みたいに広……


「ねえ! 泳げるのかしら!」

「泳っ……!?」


 何と。

 12歳の少女の水着姿を拝めるチャンス到来だ!

 俺に春が来た!

 あ、今は春か。


「やめておけ。

 浅瀬でも魔物はいるし、そもそも水着なんて持っていないだろう」

「水着は買えばいいし、魔物は倒せばいいじゃない」

「簡単に言うな」


 クソぅ、せっかくの好機だったのに。

 え?気持ち悪いって?

 裸を見たいと言っているわけじゃないからいいだろ!

 これが男の性だ!


 ……気を取り直して。

 これから俺達は、ここに約二ヶ月泊まることになる。

 なるべく、褒賞金で得た金は使わないようにしなければならない。

 とはいっても、二ヶ月も泊まるとなれば、宿泊代がバカにならない。

 だから、冒険者活動は欠かさずに続けると取り決めた。


 褒賞金である白金銭55枚は、ランスロットが責任をもって管理する。

 その中から金を使った人間、もしくは使おうとした人間は罰が与えられる。

 それは、怒涛の一週間連勤だ。


 俺達はこの港町にいる間、基本的に全員で活動をすることはない。

 流石に過労死してしまうからな。

 だが、白金銭を使おうものなら、過労死覚悟で働かせる。

 それくらいの罰がなければ、どっかの酒飲みさんが使ってしまわんとも限らないからな。


 シャルロッテは見た目や口調に反して、割と金遣いが荒い。

 普段は節度を守っているが、打ち上げをするとなるととにかく酒を飲みまくる。

 ガラウスを出る前にもギルドの酒場で食事をしたが、

 その時もかなりの量の酒を飲んだ。

 肝臓が心配になるほど飲んで、気絶して、ランスロットに運ばれた。


 旅をしている間にショック死とかしないか怖いんだが。


「ねえ、浅瀬で水浴びくらいはいいでしょ?」

「まあ、それくらいなら構わん。

 だが、足元には気を付けろ」

「分かったわ!」

「え、ちょ」


 エリーゼは俺の手を引き、海際へと駆け出した。

 靴の中に砂が大量に入った。

 水浴びをするなら靴は脱いでおいた方がいいか。


「うわっ! 冷たっ!?」

「やり返してきなさいよっ!」

「ふふ、覚悟はいいですか?

 そらっ!」

「ちょっと! 魔術は卑怯でしょ!」


 風魔術を使って、エリーゼに大量の水を浴びせた。

 ちょっとやりすぎてしまったか。

 エリーゼは体中びしょ濡れになっている。


 わお、服が透けて下着が見えちゃってるじゃないか。

 何と壮観なこと。

 いや、わざと透かそうとしたわけではないぞ。

 本当だぞ。


「こんのっ……! やったわね!」

「わっ! やりすぎですって!」

「あたしと同じくらい濡らしてやるわ!」


 エリーゼは水を大きくすくい上げ、俺に思い切り浴びせた。

 俺もエリーゼも、互いに全身びしょ濡れだ。


「二人とも、そんなに濡れてどうするつもりですか」

「す、すみません……」

「こっちに来てください。

 ベルに、ある『合魔術』を教えてあげます」

「ほう。何ですか?」

「とにかく、こちらに」


 ビショビショのまま、俺達はシャルロッテの所に向かった。

 俺の知っている合魔術と言えば、水魔術と火魔術を合わせてお湯を作るやつくらいだな。


「こんなに濡れていては、到底町なんて歩けません。

 なので、体を乾かしましょう」


 シャルロッテに手招きされて、俺はかがんでいるシャルロッテの足元に座る。

 すると、俺の体に温風が当たり始めた。

 あ、俺この合魔術知ってるぞ。


「これは、風魔術と火魔術を合わせた合魔術です。

 お風呂から出た後いつも使っている、お気に入りの魔術なんですよ」

「そ、そんなものがあったなんて……」

「知らないのが普通です。

 魔法学校に通っていないと教えられないものですし。

 それに、そもそも難易度が高い魔術なので」


 ここはひとつ、泳がせておこう。

 せっかく教えてくれようとしているんだからな。

 知らないフリをしておこう。


 温風は、シャルロッテの手のひらから出ている。

 やはり、あったかくて気持ちがいいな。

 エリーゼは寒そうにブルブルと震えている。

 ちょっと可哀想だし、変わってあげよう。


「私も、これを習得するには何か月もかかりました。

 学校では、上級魔術を覚えるのと同じくらいの難易度だと言われましたからね」

「そんなに難しいんですか?」

「最初は習得できる気がしませんでした。

 ですが、習得してからは何故あんなに手こずっていたのか分からないくらい、簡単にできるようになりました」


 まあ、魔術って基本そんなもんだよな。

 魔術に限った話じゃないけど。


「僕も、習得したいです」

「いいですよ。

 雷魔術と同時進行で、教えてあげましょう。

 将来魔法学校に行くのなら、先に覚えておけば少しはアドバンテージになるでしょうし」


 何回かできないフリをして、ある日突然できるようになる。

 そして、「ベルはやはり天才ですね」と褒めてもらおう。

 

 今、ちょうどシャルロッテから雷魔術を教えてもらっているところだが、全くできる気がしない。

 街と街の間を移動する間にレクチャーしてもらっているが、成長しているとは言えないだろう。


 現在の俺の魔術の階級は、


・火上級

・水中級

・雷中級

・風初級

・土初級


 と、こんな感じだ。

 得意不得意が顕著に表れている。

 雷聖級であるシャルロッテから魔術を教わっているが、

 この三週間では全く成長が見込めない。


 もちろんシャルロッテのせいではないのだが、

 少しだけ気負っているようにも見える。

 人に教えた経験がないようだし、まだ一か月も経っていないから仕方ない。


 まだまだ長い旅になるし、ゆっくりいきましょうや。


---


 まだ昼間だが、早めに宿をとっておくことになった。

 海の荒れが収まる二か月後に備えて、宿を取りに来る旅行客が殺到するらしい。

 幸いまだピークは先であるため、問題なく宿をとれた。


「この町は、治安がいいことで有名だ。

 犯罪が起こることもめったにないらしい」

「ほ、本当ですか?」

「ああ」


 あんなことがあったばかりだから不安だが。

 それがフラグにならないことを祈ろう。


 ということで、俺は町を見て回ることにした。

 エリーゼに一緒に行くかと聞いてみたが、振られてしまった。

 今日は疲れたから、ゆっくり休みたいとのこと。


 一人で町を回るのは、初めてかもしれない。

 ラニカ村を除けば、の話だが。

 たまにはこういうのもいいかもしれない。


 でも、一人で町を歩くって言ってもな。

 一応、ランスロットから小遣いは渡されたから、何か食べるか。

 それか、手土産でも買っていくか。

 誰にあげるわけでもないが。


 もらった小遣いは、翡翠銭5枚。

 大体2500円くらいと考えたら、普通に美味しいものくらいなら食べられるな。

 適当に歩いて回って、気になった店に入るみたいな感じでいいか。


「ベル」

「シャルロッテ?」

「ちょっと買いたいものがあったので、ついていってもいいですか?」

「もちろんです」


 後ろから、シャルロッテが走ってきた。

 ちゃんとランスロットに許可を取ってお金を貰って来たんだろうな。

 でないと、一週間連勤地獄が待っている。


 目に入るもの全てが新鮮だ。

 港町というのもあって、普段は見ない品物が並んでいる店ばかり。


 特に、魚や貝などの海産物。

 天大陸の他の街ではあまり見られなかったから、ちょっと嬉しいかも。

 肉ばかり食べていたから、たまには海産物が食べたかったんだよな。


「こうして二人で歩くことはありませんでしたね。

 手でも繋ぎますか? ベル」

「いいですよ?」

「……冗談だったんですが」


 何だよ。

 俺は割と本気だったのに。

 俺はこういうのを本気にするタイプだからな。


「買いたいものってなんですか?」

「新しい杖が欲しいんですよね。

 使っていたものが壊れてから、ずっと素手のままなので」

「杖って、消耗品なんですか?」

「そうですよ。

 魔力を注いで使うものなので、使い続ければいずれ壊れてしまいますからね」


 そうだったのか。

 てっきり、老人が使う杖と同じで一生モノだと思っていた。

 いや、その杖も壊れることはあるか。


 シャルロッテは、杖のことについて詳しく説明してくれた。


 杖ありと杖無しでは、魔術の威力がかなり変わるらしい。

 大体、3倍くらい違うという。

 もちろん、その倍率は杖そのものの性能にもよるが。


 基本的に、杖の価格は幅広い。

 短い杖でも、モノによっては高価なものもあるらしい。

 高価な杖に共通している特徴としては、杖に魔石という石が埋め込まれていること。

 それだけで価格は倍以上に跳ね上がる。


 シャルロッテは、素手でも十分高威力の魔術を放てる。

 ということは、買った杖次第でかなりパワーアップするんじゃないか。


「ベルは、杖が欲しいとは思わないんですか?」

「僕は近接型の魔術師になるつもりなので、要らないと思ってます」

「近接型とはいっても、杖の有無で火力が段違いになりますよ。

 持っておくだけで、戦いやすさも変わると思いますし」


 うーむ……。

 確かにありかもな。

 別に、長い杖を買わなくたっていい。

 短い杖なら、戦う時に邪魔にならないし。


 シャルロッテと杖を見て回るついでに、ちょっと見てみるか。

 杖を使うだけで魔術の威力が上がるなんて、魔術師からしてみればお得すぎるしな。


「この店です。さっき町に入った時から気になってたんですよね」


 年季の入った建物だ。

 扉を開けると、軋むような音がした。

 蹴ったりしたら倒壊しそうだな。


「らっしゃい」

「こんにちは」

「おや、親子で杖を見に来たのかい?」

「違います!」


 シャルロッテって、結構年齢とか容姿を気にする時があるよな。

 確か、31歳なんだったか。

 長命族でいう31歳って、まだ子供みたいなものだろう。

 なんなら赤ん坊くらいか?

 この世界における成人年齢は、15歳だとされている。


 ……えっ、エリーゼって後三年で成人なのか?

 もうそんなに年月が経ったのか……。


 せめてエリーゼが成人するまでには、ラニカ村に帰りたいな。


「長杖はこっちで、短杖はこっちだ。

 この辺りじゃ、この店が一番品揃えがいいんだぜ」

「ありがとうございます。

 ゆっくり見ていきますね」


 かなりの数の杖がある。

 見ているだけで楽しいな。

 この予算で買える杖があれば、買うことも検討しようかしら。


---


 無理だった。

 翡翠銭15枚以内で収まる杖は、どれも木の枝みたいだった。

 やっぱり、杖ってそこそこの値段するんだな。


 一方、シャルロッテは一本の杖を購入。

 後衛型というのもあり、長杖を買った。

 それもなんと、魔石付きの高級長杖。

 白金銭20枚分もした。

 っていうか、そんなにお金をもらっていたのか。


「よくそんなお金を持ち合わせていましたね」

「ランスロットに杖を買うことは伝えていたので。

 ですが」

「ですが?」

「『その分働け』と言われたので、明日から連勤です」


 シャルロッテは、とほほ、と肩を落とした。

 新しい武器の試し打ちができるんだから、いいじゃないか。

 ……なんてことはないか。

 だが、金を使った分働くというのは至極当たり前のことだ。


「僕はちゃんと我慢しましたよ」

「この杖が私を呼んでいたんです」

「ちなみに、何て?」

「『わたしを使って! お願い、シャルロッテちゃん!』

 って感じです」


 こんなにイカつい杖からそんな言葉が出るわけないだろう。

 もっとこう、「我を使え、シャルロッテ」みたいな感じじゃね?


 でも、シャルロッテと一緒に杖を見て、杖が欲しくなった。

 こんなに長い杖じゃなくてもいいから、短くて小回りの利く杖。


 先日のナルシスとの戦闘の時にやった、走りながら『岩弾(ロックショット)』を撃つやつも、

 杖があれば威力が倍以上になる。

 俺には速さが必要だが、技の威力はそれと同じくらいに必要だ。

 少なくとも、持っていて損をすることはなさそうだし。


 買うなら、魔石が埋め込まれているやつがいい。

 魔石はただのお飾りではなく、更に威力を上げてくれるらしい。

 杖に流れた魔力を、魔石がもっと強くしてくれるんだとか。

 どうりで魔石付きの杖が高いわけだ。

 魔術の世界って奥が深いな。


 二か月仕事を頑張って、お金を貯めよう。

 自力で稼いだお金なら、好きなように使っていいって話だったし。

 こんなに高いものじゃなくてもいいから、そこそこの杖を買いたいな。


「さあ、もう少し町を回りましょうか」

「もう目的は果たしたんじゃないんですか?」

「明日から地獄の連勤ですよ。

 今日は思い切り羽目を外さないと」


 連勤はあなただけなんですけどもね。

 今後特に予定があるわけでもないからいいけど。


「そういえば、魔法学校って、世界にどのくらいあるんですか?」

「そうですね……。

 小さなものも含めれば、5000くらいはあるんじゃないでしょうか」


 そんなにあるのか。

 いや、少ないのか?

 確か、日本の学校は、幼稚園から大学までを含めて約60000校あると聞いたことがある。

 そう考えると、あまり多いとは言えないのか。


 まあ、みんながみんな魔術を使えるようになりたいわけではないからな。

 ずっと魔法というものに憧れ続けてきた俺からしてみれば、

 その気持ちは一生理解できないが。


「私が通っていた魔法学校は、ケントロン魔法学院という所です。

 世界的に見れば、五本の指に入る名門校なんですよ」

「前に、言ってましたね」

「あの学校に行くには、学校側からの推薦状を貰わなければいけません。

 そして、この大陸からだとアクセスがとても困難なので、大変でした」

「言われてみれば、どうやってあの大陸まで行ったんですか?」


 ケントロン大陸は、ここ天大陸の真北にある大陸だ。

 だが、ここからケントロン大陸に真っ直ぐ渡ろうとすると、

 ヤワニ海という険しい海で確実に命を落としてしまう。


「まず、ケントロン大陸行の船は存在しません。

 ですから、東端にあるイーストポートからボレアス大陸へ渡り、

 そこから真西に船で行きます。

 ざっと一年半かかりました」

「学校に行くまでに一年半?!」

「はい。まあ、あちらには生徒の寮があるので」

「そういう問題じゃ……。

 それで、ここに戻ってくるにも同じような経路で?」

「いえ、帰りは転移魔法陣ですよ」


 転移魔法陣だと?

 そんな便利なものがあるなら、

 最初からそれを使わせてもらえばよかったのに。

 

 東端からしか行けないように聞こえたが、

 一応こっちからも行けるらしい。

 ただ、この町から船で行くと、

 イーストポートから行くよりも時間がかかるんだとか。


「ベルは、魔法学校に興味はありますか?」

「え、ええ……まあ……」


 学校には嫌な思い出がたくさんあるからな。

 まだこの年齢だし、本格的に考えるのは先になるだろうが。


「ケントロン魔法学院は世界でトップクラスの学校です。

 ベルが大きくなるまでに故郷に帰ることが出来たら、入学を視野に入れてみてもいいかもしれないですね」

「でも、推薦状ってどうやってもらうんですか?」

「私の場合は、『魔術が使える竜人族がいる』という噂を聞きつけた校長からもらいましたね。

 いかに学校関係者の耳に自分の名前を届かせるかが大事でしょう」


 じゃあ、すげえことを成し遂げればいいってことか。

 口で言うのは簡単だけどな。

 俺はこれまでに、これといって偉業を成し遂げてはいない。

 そこそこ大きな街の住民を戦慄させていた誘拐事件は解決したが。

 その程度じゃアピールにはならないだろう。


 魔術を上達させたいなら、学校に通うのが一番いい。

 ロトアのような大魔術師が身内にいれば話は別だが、

 ラニカに帰れても、すぐにロトアが見つかるとも限らない。

 というか、すぐに見つかるはずがない。

 もっとも、ロトアが先にラニカ村に帰っていれば話は別だが。


 せっかく魔術が使えるなら、行けるとこまで行ってみたい。

 それこそ、ロトアに並ぶようなトンデモ魔術師になってみたい。


「まあ、考えるのはゆっくりでいいでしょう。

 まずはベルとエリーゼを故郷に送り届ける。

 話はそれからですね」

「シャルロッテは、ラニカに帰った後はどうするつもりなんですか?」

「そうですね……。

 それも、また追々考えますよ」

「そんなに先延ばしにして大丈夫なんですか?」

「私は追い込まれれば追い込まれるほど本領を発揮する対応の人間ですから。

 常に、ギリギリで生きているんですよ」

「は、はあ……」


 いつか、痛い目を見そうだな。

 

---


「明日からは、今度こそ冒険者活動を再開します。

 ですが、この間話し合った通り、一日ずつ交代での活動になります。

 明日は私とベル、その次はランスロットとエリーゼですね。

 まあ、私は連勤地獄ですが……」

「自業自得だな」

「自業自得ね」

「自業自得ですね」

「急に辛辣にならないでくださいよ!」


 まあ、自業自得だしな。

 白金銭を20枚も使ったのだ。

 必要な物だったとはいえ、当然の報いだ。


 シャルロッテが話したように、タッグを組んで活動を行う。

 俺はシャルロッテとペアになった。

 エリーゼが俺と一緒がいいと駄々をこねたため、最終的にくじ引きで決めた。

 エリーゼは分かりやすく肩を落としていた。


「もう……ベルとペアが良かったわ」

「そんなに僕と一緒にいたいんですか?」

「当たり前でしょ」

「いつも一緒に寝てるじゃないですか」

「そ、そういう問題じゃないの!」


 そういうことじゃなかったのか。

 女心って難しいな。


「この辺りの魔物はそこまで強くない。

 が、代わりに集団で行動している魔物が多い」

「では、報酬は……」

「報酬自体はガラウスとそう変わらんだろう」


 どちらにせよ、二か月はこの町に滞在する。

 今後のためにも、地道に金を稼いでおかなければ。

 金も稼げて、強くもなれる。

 一石二鳥とはこのことだ。


 俺も金を稼いで、杖を買うんだ。

 自分で稼いだ金なら、使うなり貯めるなり好きにして構わないと言われたし。

 俺は欲しいものがあれば、それまで金を貯める主義だ。

 一度決めたことは貫き通すぞ。


「では、明日のペアを決めましょう」

「どうやって決めるのだ?」

「ジャンケンです」

「何ですか?それ」


 嘘だろ……?

 ジャンケンも知らずに、今までどうやって意思決定をしていたんだ?

 命懸けの決闘でもやるのだろうか。

 ケーキの取り合いがきっかけで殺し合いが始まったりするのか。


「拳を握るのがグー、

 人差し指と中指を立てるのがチョキ、

 手のひらを全部広げるのがパー。

 グーはチョキに、チョキはパーに、パーはグーに強いです。

 相手と同じものを出した場合は『あいこ』になり、もう一回戦います」

「お、覚えることが多いわね……」

「慣れるまでに時間がかかりそうです」

「やっていくうちに分かりますよ」


 掛け声などを説明して、いざ勝負。

 両ペアの代表として、俺とエリーゼがジャンケンをすることになった。


「最初はグー! ジャンケンポン!」

「しゃぁぁぁぁぁぁ!」

「負けたわ! もう一回!」

「えぇ、僕が勝ったじゃないですか」

「お願い! もう一回!

 ……ダメ?」


 そ、そんなに上目遣いで見つめられても。

 俺にだって、男としてのプライドが……。


「しょうがないですね」


 クソっ、思わず承諾してしまった。

 自分の強みと男の弱みを知っていやがるな。


「最初はグー! ジャンケンポン!」

「あいこでしょ!」


 俺はパー。

 エリーゼはチョキ。


「勝ったわ! わーい!」

「ま……負けた……」

「甘えに釣られて負けるとは。

 ダサいですね、ベル」

「やめてぇ……傷抉るのやめてぇ……」


 ハニートラップにかかったてしまった結果、

 明日の活動は俺とシャルロッテが行うことに決まった。

 クソぅ。

 プライドを捨てて面目も潰れちまった。

 言いだしっぺが負けるって都市伝説は本当なんだな。


---


 その後数日に渡り、エリーゼの中にジャンケンブームが発生した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ