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取り巻き令嬢たちのメタモルフォーゼ

取り巻き令嬢カトレアの初恋と幸せ

作者: 城壁ミラノ

 さぁ、お茶会に行く支度ですわ――!


 恋しい、あの方。

 アレクサンダー•シード公爵様もいらっしゃるはず。

 皆さまと似たような流行りのドレスにアクセサリーにメイクでも、見ていただけるかもって思うと気合いが入りますわ。さりげない仕草や視線の練習なんかもしたりして。


 ドレスアップも楽しい〜――かったですわ、最近までは。


 恋のライバル、ジュディ様が現れるまでは。

 現れたと言っても、ジュディ様は取り巻き仲間でずっと一緒にいたのですが――

 同じ人を好きだとわかってからは、教えあったわけではありません、なんとなくお互いわかったのですわ。


 それからは、アレクサンダー様を巡って競い合っていますの。


 同じ立ち位置で同じような姿だから、どちらがアレクサンダー様の心を射止めるかわからなくて、だからこそ一瞬も気を抜けませんわ。気が気じゃないですわ。

 私とジュディ様の間には緊張感のようなものがバチバチ漂っていて――チクチク痛いですわ。家に帰るとなんだか疲労困憊ですわ。

 一人になってアレクサンダー様を思い浮かべても、ジュディ様が一緒に浮かんできたりして――


 あぁ、辛いですわ、苦しいですわ……


「さぁ、行きませんと」


 まるで、行くのが嫌みたいな言い方してしまいましたわ。


 恋が叶う呪文を唱えるのも忘れずにしませんと。

 取り巻きの皆さま知っている呪文、ジュディ様も唱えていて先に効果が出て、アレクサンダー様と恋を叶えたら?


 そんな瞬間、見たくないですわ〜


 怖いですわ、お茶会に行くのが。


 でも、行きませんと。


 初恋ですもの。叶えたいですもの。



 さぁ、到着〜いつも通り。

 取り巻きの輪に入って、ジュディ様とも笑顔で挨拶を交わして。だけど、その裏には言えない想いが渦巻いていますわ……


「ごきげんよう、レディたち」


 アレクサンダー様〜! 今日もお優しい笑顔!

 銀色の髪と瞳が魅力的ですわ〜

 やっぱり、来て良かったですわ〜

 取り巻き令嬢一人一人に瞳を合わせてくださる、並び順で私が先、ジュディ様が後、この前は順番が逆でしたわね。

 今はまだそれだけの違い。ここからが勝負なのですわ……一瞬も油断できませんわ。

 アレクサンダー様以外見てはいけませんわ、周りにも魅力的な殿方がいるのがわかる、私とジュディ様をはぶく取り巻きの皆さまは楽しそうですわ〜。

 美味しそうな、お茶とケーキも遠くに見える。アレクサンダー様と一緒に食べるのは嬉しいですが、味がよくわからないのですよね。

 久しぶりに思いっきり食べたいですわ〜……


 幸いなことに?

 アレクサンダー様は高位の令嬢とケーキのテーブルに行かれた。あの方は侯爵令嬢のサイラ様、美しい方……

 私もジュディ様も見守るしかない状況。

 これはこれで辛いのですけど……ジュディ様も力が抜けているご様子……

 今なら、今だけ、ちょっと休憩しましょう。

 お茶とケーキを取ってと。一人になれるベンチに行ってと。



「ふぅ〜〜……」


 ため息混じりの一息で、お茶を冷まして。


 飲んでみると、ほっとしますわ〜。

 ケーキも美味しいですわ〜〜もう一個〜。

 誰にも遠慮なく取ってきてよかったですわねぇ。

 恋を頑張ってるご褒美ですわ〜特別贅沢で幸せな瞬間ですわ〜。

 これだけでも恋してよかったと思えますわ。

 このまま気持ち良く食べ終わり、恋も……


「食べたら戻りませんとね」


 本当は戻るか、戻らないか――

 悩むけれど、やっぱり戻らなきゃ。

 初恋だから叶えたいから。


 初恋だからって執着してる気がしますけれど。

 夢見ていた美しい楽しい嬉しい恋とは違うのが苦しいのに……


「ふぅ〜」


 あっ、誰か、ご令嬢が来ますわ。

 なんでもない風にしないと〜!


「カトレア様〜」

「あっ、ミレーユ様〜」

「お隣、よろしいかしら〜?」

「どうぞ〜」


 ミレーユ様は取り巻きの中でも "取り巻きエキスパート" と陰で呼ばれているベテランの方。私も取り巻きに入った時から指導いただいている、お姉様のような方。


「このケーキも美味しいですわよ〜」

「ありがとうございます〜」


 優しいミレーユ様に相談すべきかしら?

 私だけズルいかしら?

 ジュディ様はもう相談しているかしら?


「どうなさったのですか? お顔が暗いですわ」


 心配そうなミレーユ様、どうしよう。


「アレクサンダー様への恋、諦めてしまったのですか?」


 相談する前に聞かれた!!


「え、え!?」

「デリケートなことを聞いてごめんなさい。ですが、カトレア様のアレクサンダー様へのお気持ちはわかっていましたから」


 エキスパートなだけでなくエスパー?


「いつも、アレクサンダー様のお側にいらっしゃるから」


 そうでしたか、行動でバレていましたのね。

 ジュディ様との静かなバチバチも?

 まさか――


「取り巻きの皆さまも知って?」


 ミレーユ様は苦笑いなさりうなずいた。

 私とジュディ様の居ない輪ができて、皆さまが話している姿が浮かびますわ~。

 もう仕方ありません、うなずいておきましょう。


「私たちには何もできないですけれど」


 ミレーユ様は声を落とされた。


「カトレア様がアレクサンダー様から離れて一人になられているのを見て、気になって来てしまいましたの」


 恋を知られたのは恥ずかしいけれど。

 見守ってくださり、心配して来てくださって、


「ありがとうございます……」


 ミレーユ様には話しましょう。


「私……悩んでいますの……アレクサンダー様との恋がなかなか進まなくて」


 真剣な顔で聞いてくださっている。

 どうか、アドバイスをください、助けてくださいませ〜!


「アレクサンダー様は公爵様ですものね。なかなか、私たち取り巻きを見てくださらないのも仕方ありませんわ」

「はい……」

「それに、こんな事を話すとカトレア様を傷つけてしまうかもしれませんが」


 ミレーユ様の深刻な表情での前置き。

 予想外の話みたいで怖いですが、覚悟を決めて聞きましょう。


「どんな事でしょうか?」

「……アレクサンダー様は、私たちが取り巻く高位のご令嬢と結ばれるべき方ということですわ。見たでしょう? サイラ様とご一緒なのを。私たちは本来それを見守るしかない立場ですわ」


 現実を突きつけられてしまった――


 アレクサンダー様はサイラ様と結ばれる!?


 私の初恋は叶いませんの!?


「ですが、そればかりではありませんわ~!」


 暗く沈んでいく顔を、ミレーユ様が優しく両手で包んで上げてくださった……


「私たち取り巻き令嬢でも高位の殿方との恋を叶えることはできますわ。聞いたことがおありではありませんか? 取り巻き令嬢の間に語られる、そんなご令嬢たちの話を」

「はい……何人か」

「そう、何人もですわ〜!」


  取り巻きの私でもアレクサンダー様と結ばれる!?

 希望が湧いてきた――と思ったら、ミレーユ様から笑顔が消えた!?


「とはいえ、取り巻き令嬢の長い歴史の中でも数えるほどの存在で……だからこそ、伝説の令嬢たちとして語られているのですけども」


 伝説――

 私の初恋は叶えば伝説になるほどの

 難しいもの……


「カトレア様にも伝説になっていただきたいですわぁ〜!」


 ミレーユ様の期待に励まされて。

 笑顔を返せましたわ。

 安心してくださったみたい。


「どんな恋をしようと……幸せになってくださいませね」

「はい……! ありがとうございます〜!」


 元気が戻ってきましたわ〜

 ミレーユ様に相談してよかった。


「では、ジュディ様にも同じ話をしてきますわね。取り巻き仲間として平等に応援したいですから〜」

「はい〜」


 もし、ミレーユ様の話を聞いて励まされたジュディ様が恋を叶えても。

 恨みっこ無しで祝福できる。

 今ならそう思えますわ。

 厳しい現実を知って冷静になれたから――


 さて〜、そこでここから私はどうしましょうかしら?

 やっぱり戻らずにはいられませんわよね!?

 初恋が叶えば伝説の令嬢になれるかもしれないと聞いては〜!


 あっ、また誰かいらっしゃる。

 殿方……あれは……



 アレクサンダー様〜〜〜!?



 目の前に立たれた――!


「やぁ、カトレア嬢」


 眩しい笑顔が私に向けられている〜!


「あ、アレクサンダー様〜っ!?」


 これはっ


 伝説の始まりですの!!?



「隣、よろしいだろうか?」

「はっはい〜っ、もちろん〜!」


 アレクサンダー様と並んで座るなんて初めてっ。

  空のカップとお皿を端に片付けてっ、ドレスを綺麗に整えて〜!

 お行儀よく座ってと――

 優雅な身のこなしでアレクサンダー様も座られ――ああ!?


 アレクサンダー様が私の肩に腕を回してきたっ。

 こんないきなり恋人同士みたいな距離に!?


 はやあぁぁ〜〜!!


 早くありませんか!?

 伝説とはもっと時間をかけて築くものだと思っていましたわっ。

 それなのに、もうこの距離!

 横を向くと……アレクサンダー様の顔がすぐ目の前に!?

 銀色の瞳が私を見てる!!


「あっ、あのっ」


 顔が赤くなって体が震えてもう口が聞けないぃ!


 アレクサンダー様のほうは余裕の笑顔ですわ……

 じっと見つめられて何事っ、


「気になって来たんだ。いつも一緒にいてくれるのに急に居なくなったからね」

「気づいてくださって……」


 アレクサンダー様!

 私がいつもそばに居たこと、気づいていてくださったのですね……

 胸がっ、嬉しさでいっぱいですわ〜〜!

 言わなければ……っ、この気持ちをもうっ、このまま伝えたい!


「私、胸が苦しくなって座っていましたのっ……アレクサンダー様は、あなた様は私の初恋の方で……好きですっ! お、お慕いしていますわ〜っ!」


 言ってしまいましたわ〜〜!!


 急な展開にアレクサンダー様も動揺しているようですわっ……



「ありがとう」


 いつもの優しい笑顔――!


「君の初恋の相手になれて嬉しいよ」


 感謝の言葉と共に……


 おでこにキスッ〜!? されましたわ!!


 こんなっ、こんな形で恋が叶うなんて!


 目の前がぐるぐるして心臓がドキドキし過ぎてっ

 死にそう、気絶しそうですわっ

 アレクサンダー様の胸に倒れてしまう……

 その前に、もう一度、お顔をみたい……


 あら?

 アレクサンダー様は別のほうを見ている……

 視線の先には――


 ジュディ様!!?


 泣きそうな顔で駆けていってしまいましたわ……

 私とアレクサンダー様のキスを見ていましたの?

 どうすれば……!?


「失礼するよ」

「あ、アレクサンダー様っ〜〜」


 追いかけていってしまいましたわ……


 お優しい方ですものね、当然ですわ。

 私は、ここで待つべきかしら?

 気になりますわ〜!

 私も追いかけて、様子を見ましょう〜〜!



 見つけましたわ。

 お二人は別のベンチに並んで座っている。

 アレクサンダー様がジュディ様を慰めていらっしゃる……何を話しかけているのかしら?

 私とのことですわよね……


 えっ?

 今、ジュディ様のおでこにもキスしたような?

 慰めるため?

 確かに、ジュディ様は泣きやんだけれど、もやもや。

 お二人が何か、いい雰囲気になっているような?

 木の陰からこっそり見ているこの私は、どうすべきですの?


 あら、他の令嬢がいらした。


 あれはサイラ様、あれ? アレクサンダー様は今度はサイラ様と行ってしまいましたわ……

 ジュディ様は呆然としていますわ。泣きやんだとはいえ、居なくなるの早すぎですわよね。

 私もですわ。

 恋が叶った瞬間居なくなって早かったですわ。

 素早い方ですわ、アレクサンダー様〜〜



 さて、どうしましょう。今度はベンチに戻って待ちましょうかしら。



 待っても待っても戻ってこないまま。

 次のお茶会の日になってしまいましたわ〜

 何事もなかったようにジュディ様と並んで……

 皆さまと並んでの挨拶も終えて、


「やぁ、カトレア」

「あっ、アレクサンダー様〜」


 個人的に呼んでいただけた〜


 けれど、アレクサンダー様は他の方の話相手をしながら行ってしまいましたわ。

 また違う令嬢と、今度は殿方と、令嬢と――忙しい方。入る隙がないですわ。

 割り込みたい気持ちもあるけれどレディなら慎ましく。

 また、ベンチで待ちましょう〜



 まだ来てくださらない……

 このまま人生が終わりそうな感じですわ。

 私の伝説は一人ベンチで恋する人を待ちながら終わり?

 そんな悲しいものになりますの??


 嫌ですわ〜〜! !


 アレクサンダー様〜〜どこ〜〜!


「アレッ!?」


 アレクサンダー様ではない殿方が近づいてくる!



「ごきげんよう、カトレア」


 ルディ•プランツ伯爵様ですわ。


「ルディ様〜、ごきげんよう〜」

「隣、いいだろうか?」

「ええ、もちろん〜」


 ルディ様も優しい方ですのよね〜

 それにしても、お久しぶりな気がしますわ。

 アレクサンダー様に夢中で他の殿方が目に入ってなかったから。

 ルディ様の揺れる金髪も魅力的ですわぁ、私を見つめる緑色の瞳、優しい〜ことを思い出しましたわ。癒し効果さえ出ているようで見つめ返してしまいますわ〜。

 はにかんだような笑顔も、つられてしまいますわ。


「カトレア」

「はい?」

「最近、一人でベンチに座っているから気になって来たんだ」

「ありがとうございます……」


 ルディ様まで気にして来てくださるなんて。


「よければ、私と話さないか?」


 アレクサンダー様を待つ間――

 ルディ様とこのまま。


「喜んで〜」


 アレクサンダー様は来てくださらないようだし。

 待ちくたびれてきていましたの。

 ルディ様の登場は救いのように思えて。

 嬉しそうな笑顔を見れて私も嬉しい、ルディ様は私と居るのを喜んでくださっているのがわかる。お茶とケーキの味もわかる。二人でいると次々わかってくる、お互いのことが色々と。


 アレクサンダー様のことはわからないまま。

 すれ違う時はずっと続くもので、お姿さえほとんど見れないまま日が過ぎていった。

 けれど、気にならなくなっていますわ……


 ルディ様と一緒にいるからですわ〜


 楽しい〜〜嬉しい〜〜ですわ〜〜!


 ベンチに座るルディ様の姿は絵になって素敵ですし。

 駆け寄って隣に座る時の嬉しさ特別感〜最高ですわっ

 それから不思議なことに安心できますの。

 ルディ様の肩に頭をあずけて目を閉じると、この幸福感。

 そっと目を開けてみると、同じ安心と幸せを感じてくださっているご様子。

 穏やかに微笑みながら寄り添って。

 これが――

 私が恋の先に求めていたものだと、はっきりわかりますわ。


 アレクサンダー様のことは……目が姿を探しても、やっぱり居ない……


 ルディ様の手が私の手をギュッと――!?


「誰か気になるの?」


 いつもの優しい問いかけだけど――不安そうに聞こえましたわ。

 見つめてくる緑の瞳は気にしないで行かないでと訴えているみたい――いいえ、行かせないって強く――


「誰も気になりませんわ」


 そう答えて手をギュッと握り返して見つめ返した瞬間。


 この恋に生きると決めましたわ。


 もう待てない、待たない。


 さようなら、アレクサンダー様……


 あの、おでこのキス――私の初恋は叶ったということかしら?


 よくわからないまま、さようなら私の初恋。


 伝説には至らなかったですが、後悔はありませんわ。




 それから幾日過ぎ去ったか――


 婚約発表パーティーの招待状が届きましたわ。

 アレクサンダー様と公爵家のご令嬢との……

 やっぱり、そうなりましたわね。

 取り巻き令嬢としての儚い想いが胸を一瞬よぎったけれど。心と体に影響もなくドレスアップの準備もできて。

 パーティー会場にいつも通りついたけれど、


「カトレア様、大丈夫ですか?」


 ミレーユ様がそっと心配してくださった。


「大丈夫ですわ」


 笑顔をみせると安心してくださったみたい。

 ミレーユ様には恋の結末を話しておきましょう。


「私、アレクサンダー様に好きですと告白したんですの」

「まぁっ、凄い! 凄いですわ〜」


 にやついてしまいますわ〜、勇敢でしたわね、私。


「アレクサンダー様はなんて?」

「 ありがとう嬉しいとおっしゃってくださいましたわ」


 おでこにキスは私だけの秘密にしておきましょう……


「ですから、私、それだけで……アレクサンダー様への恋は……!」


 言葉にならない想いにうなずくしかできないけれど。

 それに、


「伝説にはなれませんでしたけれど」


 ミレーユ様は笑顔で首を振った。


「公爵様に告白するような勇気をだせない私からすれば伝説のご令嬢ですわ〜! それに今はプランツ伯爵様と幸せなのでしょう?」

「ええ、そうですの〜」


 ルディ様のこともしっかり知られてましたわね。

 これはもう隠さず笑っていましょう〜


「では、アレクサンダー様のご婚約、一緒に祝福いたしましょうね〜」

「はい〜」


 ミレーユ様について行き取り巻きの輪に入ると。

 皆さま残念そうな様子、これは殿方が婚約なさるといつもこんな風になるんですけども――

 ジュディ様もですが、私と同じように、もう吹っ切れてるようにも見えますわ。


「アレクサンダー様、ついに婚約ですわね〜」


 ミレーユ様が切り出すと、


「切ないですわね〜」

「素敵な方でしたものね〜」


 皆さま、私とジュディ様をチラ見してきましたわ。


「結局、公爵家のご令嬢と婚約なさいましたわねぇ」


 残念そうに肩を落とされた。

 期待していただいていたのですね。ちょっと無念が湧いてきましたわ。


「アレクサンダー様ったら婚約する前、色んな方に思わせぶりにしていましたわよね〜」


 そうなのですか?

 私とジュディ様とサイラ様だけじゃなくて?


「婚約者を探していたのかしら? 独身時代最後のお遊びのつもりだったのかしら?」


 そんな、恋多き方だったの……


「侯爵家のご令嬢同士ではアレクサンダー様を巡って少しもめてしまわれたりしたそうですわよ〜」

「罪な方ですわね〜」


 意外な一面が……これ以上聞くのが怖いですわ。


「まぁまぁ〜、婚約発表のパーティーで独身時代の噂話は厳禁ですわよ〜」


 苦笑いのミレーユ様が止めてくださった。

 皆さまも祝福モードに戻られたから。

 私もこれ以上、気にしないでおきましょう。


 初恋は美しいまま――思い出に――


 そう決めた時、アレクサンダー様と婚約者様が現れて。


 心から祝福することができましたわ。




「私たちも婚約しようか!」


 ルディ様がパーティーの後のデートでおっしゃった。

 アレクサンダー様の婚約に触発されたご様子。

 感謝しかありませんわ、私の初恋。


「喜んで〜!」

「嬉しいよ! これを受け取ってください」


 婚約指輪〜!!


「我が伯爵家の "伝説の指輪" だよ」

「伝説!?」


 忘れかけていた言葉がこんな形で……


「爵位を手に入れた先祖がつけていた指輪で、我が家を守ってくれるんだとか。妻になる者に代々受け継がれてきたんだ。次は君に!」

「光栄ですわ〜!」


 指に嵌めていただいて。

 伝説の令嬢にこんな風になれるなんて〜!

 人生って不思議ですわ〜〜


「ありがとうございます。プランツ伯爵家の妻として大切にしますわ」


 取り巻き令嬢の伝説は終わり、貴婦人としての伝説が始まるのですわ。

 気持ちを切り替えて。

 ルディ様との幸せを守っていきましょう〜



 婚約してどれくらい経ったか。

 ジュディ様も伯爵家の方と婚約なさった。

 私たちは伝説にはならずに取り巻き令嬢の一人のまま。

 結婚してなにげなく取り巻きの輪を抜けましたわ。



「さぁ、社交界に行きますわよ〜」


 私もジュディ様も貴婦人生活を謳歌していますわ。

 貴婦人になっても取り巻き仲間をしていて、それがよくわかりますの。


 アレクサンダー様とばったりお会いすると……


 あの頃が蘇って甘酸っぱい気持ちになりますけれど〜


 届かない人に叶わぬ恋をする


 それは取り巻き令嬢だからこそできることでしたわね


 切ないけど楽しくて美しい思い出ですわ〜


 さぁ、感傷に浸るのはこの辺にして――!


 今日も元気に〜!


 取り巻きに行きますわよ〜〜!!

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