第7話 奴隷商人 アガレスト
「馬鹿野郎!」
部屋に木霊する怒号に、アンドロイドハンターたちは一斉に身をすくめた。
豪華な絨毯が敷かれた部屋の中央で、奴隷商人のアガレストは右手に持ったワイングラスを一気に飲み干すと、そのまま惜しげもなく絨毯に叩きつけた。グラスは砕け散り、深紅のワインが黒い染みを作る。
「それだけの人数がいて、アンドロイド一体を見逃すとは、とんだ失態だなぁ」
アガレストの冷たい声が響き渡る中、リーダーらしき男が前に出た。「アガレスト様、確かに逃がしましたが、次の作戦は必ず成功させますので」
「本当なんだろうな」アガレストの声に、有無を言わせぬ圧力がこもる。
「連れてこい」
その言葉に、後ろの重い扉が開いた。二人のハンターが、ジャアの両脇を抱えた状態で部屋へと入ってくる。ジャアは顔にいくつもの痣を作り、服は破れ、見るからに疲弊していた。
しかし、その瞳にはまだ、微かな抵抗の光が宿っている。彼はアガレストの前に乱暴に突き出された。
アガレストは、ガスの顔を値踏みするように見つめ、ゆっくりと口を開いた。「なぁ、じいさん、俺たちに協力してくれないかな?」
その声には、一見友好的な響きがあったが、その奥には底知れぬ悪意が隠されているのが見て取れた。ガスの運命は、今、この男の手に握られている。
「お前たち、あの二人に何をする気じゃあ?」
ガスはアガレストの眼差しに臆することなく、問い詰めた。
アガレストはガタガタの歯を剥き出しにしてニヤリと笑う。
「あのミューズというアンドロイドを手に入れる」
その言葉に、ガスは今すぐその醜悪な歯を折り
たい衝動を必死で抑え込んだ。そして、静かに、しかしはっきりと告げた
「残念じゃが。それは無理な話じゃな」
アガレストの顔色が変わる。彼はガスの襟元を掴み、軽々と持ち上げて顔を近づけた。「何故?そんなことが言える」
「わしの息子が守るからじゃよ」
ガスの言葉に、アガレストは一瞬、呆けたように手を離した。尻もちをつくガスと、腹を抱えて笑い出すアガレスト。数十秒間、部屋中に響き渡る高笑いは、しかし突如としてピタリと止まった。
アガレストは再びジャアを持ち上げると、冷酷な目で睨みつけた。
「ほぉ、なら、試してみるか。お前たち、今すぐにミューズを捕まえに行け。奴らは宇宙船の発射場へ向かっているはずだ。次はしくじるな、いいな!」
「わかりました!」
ハンターたちが一斉に返事をする。
「それと、この爺を牢屋に連れて行け」
アガレストの命令に従い、数人の部下がジャアを連れて部屋を出ていった。アンドロイドハンターたちも、その後を追うように部屋を出ていく。
部屋に残されたアガレストの横に立つ男が不安げに尋ねる。「ボス、奴らだけで大丈夫でしょうか?」
「心配か?なら行くがいい」
アガレストがそう言うと、右腕であるフィアットも部屋を出ていった。フィアットは部屋を出るとすぐに死角に入り、慣れた手つきで携帯端末を取り出し、電話をかける。
「今からミューズに接触します」
「分かった。しくじるなよ」
フィアットの声は、アガレストに向けていたものとは全く違う、冷徹で計算高い響きを帯びていた