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第1話 最貧の惑星サイオン


灼熱の太陽が照りつける昼間は、とても活動できるような気温ではない。人々が動き出すのは、すべてが深い藍色に染まる夜になってからだ。


19歳のYUTAKAも、例に漏れず夜に活動していた。血は繋がっていないが、自分をここまで育ててくれたガスと二人、細々と日々の糧を得ている。彼らの住む掘っ立て小屋の窓からは、遠くの街明かりがぼんやりと瞬いているのが見える。


今日もまた、YUTAKAは趣味の機械いじりをするため、秘密の場所へと向かう。そこは、この星の文明が排出したありとあらゆる機械の残骸やガラクタが、まるで雨のように降り注ぐ場所だ。


サイオンの重力が弱いため、軌道上の宇宙船や人工衛星から廃棄された物が、そのまま地上へと落下してくるのだ。YUTAKAにとっては、それはまるで宝の山だった。


夜風が彼の頬を撫でる。遠くから、何か大きなものが大気圏に突入する低い音が聞こえてきた。新しい獲物が、もうすぐ降りてくるだろう。ユタカの胸は、期待に静かに高鳴っていた。


サイオンの夜は、いつも通りの静けさだった。YUTAKAは、降り積もったジャンクの山を慣れた手つきで漁っていた。錆びた金属片、歪んだ回路、見慣れない部品、それら一つ一つが、彼の好奇心を刺激する。何か新しいものを組み上げられないか、常にそんなことを考えていた。


その時、YUTAKAの真上で、空間が不自然に歪んだ。まるで水面に石を投げ入れたかのように、漆黒の亀裂が広がる。人工ブラックホール。まさかこんな場所で、それもこんな近くに現れるとは。ユタカが驚きに目を見開いた次の瞬間、その穴から何かが勢いよく飛び出してきた。


「うわっ!」


それは、人型……いや、アンドロイドだった。薄い布を身につけたその姿は、そのままユタカの上に落下し、彼をジャンクの山ごと下敷きにした。鈍い音と共に、ユタカの身体から空気が押し出される。


「ご、ごめんなさい。大丈夫ですか?」


細く、しかしはっきりと聞こえる声。YUTAKAは息を詰まらせながら、のしかかるアンドロイドの顔を見た。そこには、混乱と、わずかな怯えが浮かんでいた。

YUTAKAは、突然の衝撃からようやく息を吹き返した。身体の自由が利くようになると、のしかかっていたミューズがすぐに身を起こし、彼から離れた。


「ご、ごめんなさい」


彼女の声は震えていた。YUTAKAもゆっくりと立ち上がり、服についた細かなゴミや埃をはたき落とす。見上げれば、先ほどまでミューズが落ちてきた空間の裂け目は、すでに閉じかけていた。


「あの……ここはどこですか?」ミューズが不安げに尋ねた。


YUTAKAは、慣れない状況に少し戸惑いながらも答えた。「ここは最貧の惑星、サイオンだよ」


そして、今度はユタカが問いかける。「君は、どこから来たんだ?」


ミューズは返答に詰まり、言い淀む。その顔には、何か隠したい過去があるかのような複雑な表情が浮かんでいた。ユタカはそれを見て、無理に問い詰めるのはやめた。


「ごめん。無理に話さなくていいよ」


彼の言葉に、ミューズの表情にわずかな安堵が浮かんだ。


「君の名前は?俺はYUTAKA」


YUTAKAが問いかけると、ミューズは小さな声で「私は…ミューズ」と答えた。その視線は、依然としてYUTAKAを警戒していた。無理もない、とユタカは思った。突然、見知らぬ惑星に放り出されて、いきなり目の前の人間を信じろと言われても、それは無理な話だ。


このままここにいても埒が明かない。YUTAKAはそう判断し、ミューズに提案した。


「あのさ、良かったら家に来ないか?ここにいてもしょうがないし、君も行くあてがないだろう?」


ミューズは一瞬躊躇したが、やがて小さく「ええ…わかったわ」と答えた。


YUTAKAは歩き出すと。ミューズは、まだ警戒心を解かないまま、数歩後ろを付いてくる。サイオンの夜空には、きらめく星々がいつもより近くに見えた。その光が、二人の奇妙な影を地面に長く伸ばしていた。

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