英雄祭
どうも、作者です。79話です。
三つ目のお祭り、英雄祭のお話です。最終話の前に少しだけ過去の英雄のお話をば。
赤月の終月、最後の日、町は祭りで盛り上がっていた。と言いたいが、今の時間は落ち着いてる。祭りの名前は英雄祭。かつて、この大地で英雄と呼ばれた者たちを祀るための祭り。今はその英雄たちに黙祷を捧げる時間だった。
私も、イサムとデイア、あとはイドハさんとウロクの四人と一緒に店の中で黙祷をささげていた。
街は今までにないほどの静寂に包まれている。まだ夜の方が騒がしいかもしれないくらいに。その静寂を壊すように鐘が鳴る。黙祷が終わる合図だった。
「すごい響くね、鐘の音」
この街でこれほどの鐘の音を聞いたのは初めて聞いたかもしれない。普段使われることがない鐘みたいだ。
「特別な鐘ですから、英雄祭の時にしか使われないものです」
「へ~、すごい特別な鐘なんだ」
「そうだな、英雄にのみ捧捧げられる鐘だ。かっこいいだろ?」
確かに、すごくきれいな響きだった。英雄にのみ捧げられる鐘の音。なんともかっこいいな。
「英雄祭か、英雄って、具体的に誰なの?」
「き、基本的には、地域によって違いますよ」
そうなんだ。ということはその土地の英雄が祀られる感じなんだ。それに、確かそれぞれの月の最後の日には、どの地域でも同じ祭りをやっているらしいから、やはり魔族なら魔族の英雄を祀ったりするんだろうか?
「私の土地だと、境界森の英雄さまでした!」
境界森、初めて聞いた単語だけど、デイアの地域ではその英雄さまが祀られていたらしい。
「某のところは、我らの忠義を教えてくれた異邦の剣士さまだ!」
ああ、それは聞いたことがある。確か、真狼を率いた異邦の英雄。刀とかも教えたらしいから、多分同じ土地から来た転移者な気がする。
「まぁこの土地の人間で言うと、”亡霊”様か、”読書家”様でしょうか?」
「あとは、やっぱり”勇者”と”理想の騎士”だろうな」
結構いろんな名前が出てきた。
「えーと?」
「”亡霊”っていうのは、この国ができるよりもっと昔にあった国の大英雄さまさ、最後にはもう一つあった帝国に滅ばされちまったがな」
ん? その話どこかで聞いてことがあるような?
「”読書家”様は、その”亡霊”様の子孫で、”亡霊”様は国を亡ばされた怨念で亡霊となれ果てました。そして、それを倒したのがこの帝国が栄えるきっかけとなった英雄で子孫である”読書家”様なんです」
あ、思い出した!”英雄譚”だ! その本で、確かそんな物語を読んだ気がする。その”読書家”の物語に関しては読んだことがある。そういえば、あの本を読み終わった後に私が誘拐された記憶が・・・!
つまりその二人は悲劇の英雄と、それを打ち破った英雄なのか。確かに、それは慕われているのは分かる気がする。
「ちなみに、”読書家”様はまだ生きているそうですよ」
「え? そうなの?」
そう言う英雄って大抵亡くなってるものじゃないの?
「英雄は生きてても英雄だからな」
確かに、言われてみればそうか。
「と、というか、それで言えば灰氷様も英雄側だと思いますし!」
「それだったら、お姉ちゃんも私にとって英雄です!」
「そうだな!」
従者と、従業員の持ち上げがすごい。デイアのお姉ちゃん呼びはいつの間にか慣れてしまった。かわいいから許せるし。別に私は英雄じゃないんだけど。でも、確かにイサムに関しては英雄側というのは納得できるなぁ。
SSランク冒険者で、きっとこれからも偉業を成し上げることになるんだろう。そしたら、イサムも”英雄祭”で祀られる側になる気がする。
「それで、”勇者”と”理想の騎士”って?」
「その二人は私も知っています! 世界にとどろいた大英雄さまですね。確か十年前に」
デイアが大英雄というほどの人か。というか、勇者ってもしかして。
「”勇者”様に関してはジョゼちゃんも知ってると思います。帝都のギルドマスター様、グリム様と共に旅したあの勇者様です」
やっぱり、その勇者か。そこまで言われるほどの大英雄なんだ。
「そして、”理想の騎士”様はその名の通り、全ての騎士の理想とされた最強の騎士様です」
「とにかくめちゃくちゃ強い、それでいて、騎士道を極めた人間という、一切の非の打ち所がない人間だ。まぁ、それだけすごい人だな」
ウロクがストレートに褒めるような人なのか。いや、別にウロクはストレートに褒めるな。でも、少なくともすごい強い人なのは分かる。
「でも、その二人って、結構最近の人だよね? 勇者は、亡くなってしまってるらしいけど、その”理想の騎士”様はどうなの?」
でも、二人が同列に語られる感じだし、多分同じ時代の人だと思うけど。
「・・・二人の英雄は、同じ戦場で亡くなりました」
同じ戦場で、そんな最強の英雄二人が同時に亡くなった? それって一体?
「十年前の魔獣災害。それを止めたのがその二人の英雄です。そして、その二人の英雄がなくなったのがその戦場です」
それは、どれほどすさまじい戦場だったのだろう。恐らくはイサムより強い英雄が二人、その二人が死力を尽くしてやっと止めた戦い。どれほどの物なのか、想像もつかなかった。
少しだけ、場の空気が落ち込む。英雄二人がなくなる戦場、それは語るだけで、気分を落ち込むには十分だったかもしれない。
「おいおい、お前ら何辛気臭い顔してるんだ! 今日は祭りだぜぇ!」
「そうですよぉ! お祭りの日くらい明るいか押しましょお! せっかくの休みなんですからぁ!」
「ギルマスさんと、何でもう出来上がってるのバンカさん?」
どういう訳か、バンカさんは完全に出来上がっていた。めちゃくちゃ酔っている。
「そりゃぁ! 外でのんっ出たからなぁ!」
酔っ払いは二人いた! まさかのバーレさんも完全に出来上がっている。これは完全に三人で飲んでた。
「てめぇら、流石に酔っぱらいすぎだろ!」
まさかの怒ったのはウロクだった。ウロク、流石に面子は保つ・・・
「俺も飲ませろよ!」
「「これは『俺』『私』のだぁ!!」」
違った、自分だけ飲めないのを恨んでただけだわ。情けない大人同士の奪い合いに少し引きながら、恐らくバンカさんの恥ずかしい姿を初めて見たであろうデイアの思考停止の顔を見ながら、私は厨房に向かう。せっかくのお祭りだからと、いろいろと皆が食材を買ってきたから、今日ぐらいは手を抜かずに作ろうか。
「はぁ、俺が来る必要あったか?」
「せっかくのお祭りなんですから、人が多い方がいいでしょう?」
厨房に向かう途中にレーシュとモロゾフまで来た。来て早々見た酔いどれ三人衆の痴態を見て驚いている所をイサムに話かけられている。
「手伝うよ」
「あ、ギルマスさん・・・ありがとうございます」
意外なことに手伝いに来てくれたのはギルマスだった。まぁ他に料理できそうな組は酒に夢中だけど。
私はギルマスと厨房で黙々と料理をする。少し気まずいような、落ち着くような。
勇者の仲間。ギルマスは、グリムさんは今何を思っているのだろう。
「ジョゼ、こっちでの生活はどうだ?」
「・・・楽しいよ。一杯友達ができたし、楽だしね」
「それは良かった。戦いは辛くなかったか?」
「きつかったよ、痛かったし、できればもうやりたくないかな」
「・・・そうか、それはすまんな」
「いいよ、別に私が決めたことだから」
「変わらんな、お前は」
「・・・、・・・ギルマスさんは変わらないって言うんだ」
「変か?」
「他の皆には変わったって言われるから」
「確かに、変わったところはある。でもお前の中身は、瞳は何も変わらない。初めて会ったときのままさ。どこまでも強い瞳のまま」
「・・・私ってそんな目してる?」
「はっはっは!普段は眠たげだが、ああ間違いない。そんな瞳をしているよ。俺が言うから間違いない」
「どんな根拠なのそれ?」
「・・・知ってるからさ。お前とそっくりな目を」
「それって誰?」
「友人さ、ただの、友人だよ」
「ふ~ん」
会話はそこで途切れて、そのまま流れで料理は完成する。私とギルマスは厨房から出て、料理を並べる。みんな美味しそうに食べるものだから、普通にうれしくなった。
宴は夜が深くまで続いた。ああ、私もたくさんの友達ができたなと思った。本当はもっとひっそりと生きていくつもりだったのに、これじゃあにぎやかで仕方ないな。
読んでいただき、ありがとうございます。誤字脱字報告・コメントお気軽にどうぞ。
さて、次回で最終回となります。あまり感傷もないラストかもしれませんが、どうかお付き合いくださいませ。




