報われた日
どうも、作者です。88話です。
本当に、風の気持ちよさが秋のそれで、夏が少し遠ざかったと思えるようになってきました。まだ暑い日は暑いですが。でも、今度は花粉に脅える毎日です。
私はあの日、誰かに救われました。優しい顔のお姉さん。顔も思い出せないその恩人に私は思いをはせています。せめてお礼ぐらいは言えたらよかったのに。
「バンカさん、これはどうすればいいですか?」
「それは、隣の部屋の棚に入れてもらえると――」
あれからずいぶんと時間が経ちました。私は今ギルドでお手伝いをしています。あの日解放されたほとんどの皆さんは自分の故郷に帰っていきました。しかし、私のように、故郷が滅んでいる人や、人間の皆さんの多くは売られた人たちだったので、今はギルドでお世話になっています。
子供のほとんどは、ギルドが新しく作った宿舎から学校へ。大人の皆さんのほとんどはギルド関係の職か冒険者になりました。私は、文字も書けたし多少計算もできたので、学校へは行かずにこうしてギルドのお手伝いをしていました。
「デイアさん、ギルドの仕事には慣れましたか?」
「はい、バンカさんや他の皆さんのおかげで慣れました」
「それはよかったです・・・本当に学校に行かなくても大丈夫ですか?」
「大丈夫です! 私、こっちの方が向いているので!」
それに、私は成長が遅いだけで、20を超えているのです。身長は同い年の皆と違って伸びていないだけです。
「それに、ギルドにいた方が、あの人に会える気がするんです」
名前も知らない、顔もわからない、だけれど私たちを救ってくれたあの人に。
「・・・そうですか」
バンカさん優しく微笑んでそう言いました。会えたらいいですね、とは言いませんでした。
きっと、バンカさんは私たちを救ってくれた人を知っている気がします。バンカさんはただの受付嬢ではないですし、ギルドがこうして私たちを助けてくれるのも、あの人が関わっているからだと思います。
だけど、それを聞く気はありませんでした。だって、助けてくれたのにそれを名乗り出ないのは、きっと事情があるからだと思います。そもそも、私たちを助けてくれた人が女の人だと知っていることさえ知らない人がほとんどだったから。
私だって、何もわかりません。でも唯一、一つだけわかることがありました。私にかけてくれたあの声だけは忘れられなかったのです。きっとあの時の声を聴けばわかる気がするから。
だから、私はその人に会えるのを諦める気はありませんでした。せめて、自力で探すことだけは諦めたくはなかったのです――
「ふ~、最近忙しい気がする」
帝都に戻ってきて、早半月、いつの間に赤月の時期は終わりかけている。そのせいか、町は少しずつお祭りの準備が増えてきた気がする。送魂祭、収穫祭ときて、次はどんな祭りなのだろう。
「やっぱり、ギルドに人が増えたせいでしょうね。まだまだ皆さん新米でポーションの需要は高いですから」
ギルドには今たくさんの新米冒険者がいる。青月の時と程ではないが、やはり新米冒険者がたくさん増えたらしい。まぁ、その原因を作ったのは私と言ってもいいのだが。
新米冒険者の大半はあそこで助けた奴隷にされていた人たちだ。他にも、この前で魔獣災害で職を失った人なんかもいるらしいけど。
「う~ん、それなら私も頑張らないとか」
「お嬢が頑張ろうとするとは、槍でも降るんじゃないか!」
失礼な、私だって頑張ろうとする期間だってあるのだ。あの時もそうだったし、そう、二、三か月に一回くらいは頑張るのだ。
「ふふ、ジョゼちゃんは本当に優しいですね」
「まぁね、それにせっかく助けたのに、折れられても困るでしょ?」
「そうですね」
あの時助けた人たちは、やはりギルドのおかげで再起できた人たちが多かったらしい。イドハさんもバンカさんもそのフォローでここ最近はすごく忙しかったし。
「とはいえ、流石に疲れるな~」
薬の供給を増やすと、必然やることが増えるのだ、そのほとんどはナインやシゼルに投げれるが、人前で気軽に召喚獣が使えない以上、必然自分でやらなければいけないことも増えてくる。それに事務処理は基本自分でやらなきゃだし。
「灰氷様に頼んでみては?」
まぁ、イサムなら確実に手伝ってくれるだろうが、流石に人前でイサムをこき使うのはちょっと目立ちすぎるから勘弁だ。
「それに、イサムには冒険者業に集中してもらった方がいいしね」
現在、バンカさんやイドハさんがそうであるように、イサムも忙しい。ギルドから打診されて私が許可したからだけど、今イサムは今冒険者のスキルアップの講師をしている。案外、イサムは人に教えるのが上手いらしい。道に迷うという致命的な欠点を除けば、やはり冒険者としてめちゃくちゃ優秀なのだ。
「そうですね、かといって今だと私たちは手伝えませんし、バーレ様やウロク様にも手伝わせるわけにはいきませんか」
その通りだ。いくら忙しくても、現状、お店関係で頼れる人がいない。
「となると、やっぱり新しい人たちを雇ってみるというのはどうでしょう」
つまり従業員だ。う~ん、私の代わりに働いてくれる人がいれば最高なんだけど。
「この店にそうそう新しい人をいれるのも厳しいしなぁ」
「そうですね」
イドハさんと二人で何となく悩んでいると、それだけで結構疲れてきた。こういう時は、
「イドハさん、デートしよう!」
「ひぇ!? そ、その言い方やめてくださぁい!」
ふふ、相変わらずイドハさんは表情豊かでいじりがいがあるぜ。
私たちは商人街に降りる。そこで何となく本を買い漁ったあと、外で食事をして、結局ギルドの道に戻ってきた。
「結構本買っちゃったなぁ」
「大分本が増えてしまったんじゃないですか?」
そうなのだ。部屋は余っているし、一室書斎のようなものを作ってもいいかもしれない。ナインにDIYでも教えたらできるかな?
私はイドハさんと喋りながら、ギルド方面、というか自分の家に帰る。
「あ、あの!」
後ろから急に声を掛けられる。そこにいたのは、見覚えがある気がする少女だった。
「あ、デ、デイア様、こんにちは」
「はい、こんにちはイドハさん! ってそうじゃなくて!」
どうやら、イドハさんの知り合いらしい。ということはギルドの関係者かな?
「イドハさん、その、隣の人って」
「は、はい彼女はジョゼちゃ、ジョゼさんです・・・あ」
流石に人に紹介するときは、ジョゼさんか。でも、いつの間にかジョゼちゃん呼びが浸透してるのうれしい。それにしても、最後のあってなんだ? イドハさんは何かに気づいてきまずそうだけど。
「も、もしかして、私を助けてくれた人ですか?」
・・・そういうことか。思い出した、この子、あの時助けた少女だ。イドハさんはそれを知っていたから、きまずそうだったのか。
「あ、え、えとこの人は、この街にいるただの薬屋の人で、ただ親しいだけというか」
少女の確信はかなり強いものらしく、あまりイドハさんの言葉をあまり信じていない。その目には何か強いものが見える。
「どうして、そう思ったの?」
私はそう問いかける。あの日、私は黒い面を指定て、存在がはっきりはしていなかったはずだ。それこそ、彼女の記憶には、私の顔や背格好もほとんど分からなかっただろう。それなのに、どうして私だと気づいたのか。
「・・・声です。ジョゼさんの声は、あの時、私にかけてくれた声と同じだったから」
あの時の少女はたったそれだけのことで私だと見抜いたのか。これは敵わない気がするな。
「・・・そうだよ。私で合ってる、私があの時君を助けた人だよ」
「ジョゼちゃん」
私は、イドハさんに目配せをして、少女と目線を合わせる。本当に助かったんだね。
「良かった、君が当たり前に生きてくれて」
「はい、はい、貴方のおかげで、私は、」
少女は泣きそうだった。あ、まずい、流石にここじゃすごく目立つ。私は少女とイドハさんの手を取って、店まで駆け込む。あそこなら、涙もばれないから。
私は今日、やっとあの日の行いが正しかったんだと認められた気がした。別に今までも間違っていたとは一度も思ってなかったけれど。それでも、やってよかったと言えたのはきっと今日が初めてだった気がする。
私はその日、少女と語り合った。なんて事のない他愛の話を。デイア・レインパインと本当の意味で出会った日で、初めて従業員を雇った日のことだった。
読んでいただき、ありがとうございます。誤字脱字報告・コメントお気軽にどうぞ。
ということで、最終回ももうすぐということではありますが、薬屋に小さなエルフの少女が従業員となりました。
ジョゼの行いがジョゼのものだと歴史に残ることはありません。ですが、これがきっと彼女にとって一番の報酬だと思います。
一応、残り二話を予定しております。どうか、最後までお付き合いいただけると幸いです。




