主君に求めるは、ただ
どうも、作者です。79話です。
前回の続き、イサムの戦いの続きです。
真狼、かつて我らはクー・シーの中の特徴のない一種族でしかなかったらしい。それを変えたのは、とある異邦人だった。国から逃げてきたその男は我らにたくさんのことを教えた。
刀の握り方、扱い方。忠を尽くすということ、義を重んじること。今の我らの根幹となるものは彼の者から教わったのだと。我らはそんな彼を主君と呼び、そしてそんな彼も我らの忠義に答えてくれたのだと。氷のような人であったが、その芯には何よりも熱いものを持っていたのだと。
そんな彼と我らの間では絶対の信頼があり、それは永劫続くと信じていた。だが、それは敵わない。単純な話だ。妖精たる我らと、彼では寿命に違いがありすぎた。彼に仕えたのはわずかに四十年、たったそれだけだったという。
そんな彼が最後に残した言葉を、己も父や族長より聞いた。
「お前らを残すのは惜しい。しかし、天寿に逆らうことはせぬ。忠を尽くしてくれた獣たちよ、お前たちが俺に仕え続けるのは許す。だが、子供達には、新たな主君を見つけさせよ、貴様らの忠義は、何物にも代えがたい誇りなのだから」
その言葉を当時彼に仕えていた、真狼たちは最後の命令と受け取った。その教えを守るため、当時の真狼は子供ができるために教えた。そうしていつの間にかそれは、我らが生き方そのものに変わった。
”忠義”を尽くす。それこそが我らが真狼だと。真狼とはそういうものなのだと。
俺もまた、そんな真狼の一人だった。同じ年に生まれた友と、主君を探すために真狼の里を旅立った。そんな我らを、家族も種族の皆も祝福してくれた。
そこから二十年、妖精の大陸を冒険者として、歩き続け、自分の主君となる人物を探し続けた。そんなことをしている間にいつの間にか、SSランク冒険者という肩書を得て、獣の大陸に降り立った。
そこでも、中々主君と定める人は見つからなかった。いつの間にかたどり着いたのはこのカウデンという名の国だった。
そこで、己より先に主を見つけたのは、友であった。友が主君と定めた人は、未だ上に立つものとしては未熟だったが、それを補って余りある聡明さと持っていた人だった。実際己の目から見ても、主君と定めるには確かに人間だった。
だが、己は何か違うと感じて、友と離れた。そして帝都へと向かった。
そこで出会った薬屋のジョゼ殿は何かが違った。何が違うのか己でもわかりはしなかった。印象的なのはその瞳だった。けだるげな瞳の中には、それでも何かを備えていた。
ジョゼ殿の強さを見たのは、あの日、カウデンのギルドマスター殿から頼まれごとをされていたあの日だった。ジョゼ殿が受ける必要のない依頼。その上、命にかかわる可能性があるそれを、ただ世話になったからと、それだけで請け負ったことだった。
面倒だと、やる気が起きないと、いつも言っているのに、義を通すだけに面倒ごとを請け負っていた。
そこからは、何度も、ジョゼ殿の強さを見た。そうだ、この人は強いのだ、恐怖にも、怒りにも、立ち向かう。
この人にはきっと自分では気づいていないであろう”信念”があるのだとわかった。それを確信したのは、あの日だった。そう、奴隷の話を聞かされたあの日、己は、魔獣討伐のためにその場にはいなかった。己がその場にいても、意味がないとわかっていたから。
戻ったときに見たその瞳は、何者より強かった。優しさを内包したその瞳には、彼女の”信念”が、彼女の人生が見えた。ああ、俺はこの人に仕えたいと思った。
大義はないかもしれない。それでも、この人の時間を守りたいとそう感じてしまった。この人らしく歩むその道をみたいと思った。これが忠なのだと、己の忠義なのだと悟った。人に仕えるのに、意味などそれだけでいいのだと己はその時悟ったのだ。
異常な速度で戦うイサムと獣に私の目は全く追い付いていなかった。気が付いたときには、イサムは足を負傷していた。正直意味が分からなかった。負けるはずないと思っていたイサムが苦戦どころか、死にそうになっている。
そんなイサムが、相手にダメージを与えて隙ができた時、私に願い事があると。
「どうか某の、主となってくれまいか?」
「・・・は?」
急に、死ぬかもしれないこの時に意味が一瞬理解できなかった。確かに、主に見つけ仕えるのが、真狼の生き方だというのは聞いていたが、何故私なのだろうと、思った。
自分で言うのもなんだが、正直使えるには不十分だと思う。だって、別に大それたをしているわけでもなければ、人生の果たしたいことなどのない人間だ。
「どうして私なの?」
「ただ、己が仕えたいと思ったからだ」
それだけらしい。
「どうした、ちびジョゼ!? イサムはどうなってんだ?」
ウロクはそんなことを聞いてきた、何も聞こえてないし見えてないんだから仕方ない。
「私を主にしたいって、意味わかんないこと聞いてくる。今死ぬかもしれないのに」
「・・・何が意味わからないんだ?」
え?
「ジョゼ殿! できるだけ早く頼む!」
どうやら、あのバカでかい魔獣が起き上がったらしい。イサムは先ほどよりは対応できているようには見える。ほとんど分からないが。
「確かにお前は怠惰なちびちゃんだぜ。だが、あいつが仕えたいっていうのも、俺は何となくわかる、俺だって、別に任務だからってついてきたわけじゃない。お前が行くって決めたからだ。俺はそれについていきたいって思った」
「そんなん言われたって、意味わかんないよ」
「お嬢がわかる必要はないんだよ! 俺たちがなんとなく理解できてればな!」
「シゼルの言う通りだ。別にわかる必要はないよちびちゃん。ただお前は、灰氷の言葉に応えたいかそれだけ考えればいい」
シゼルの願いに応えたいか。イサムといるのは何となく楽しい。多分それだけだ。でもそれでいいんだろう。それに、私のやることが減る。うん、なんだいいことではあるじゃん!
「イサム」
「何だ!」
「これからも皿洗いとかしてくれるってこと?」
「ああ! 当然だとも!」
イサムは大きく笑った。うん、それで十分か!
「わかった! 君の主になったげる! だから、そいつ倒して私のところまで帰ってきて!」
「その下命、必ずや果たそう! 主君よ!」
主ができた。ああ! なるほど、これが主に仕えるという感覚か! 己の血に刻まれた喜びか!
血が沸騰しそうだった。己が肉が躍りそうだった。目の前の獣に負ける気などしなかった。何より、己が魔法の意味を理解した!ただ今は、己が主君の命令を忠実にこなそうぞ!
己は獣の一撃を避ける。先ほどより少し遅い。再生した足が馴染んでいないのだろう。ならもう一度切ってしまおう。今なら、簡単に行けるだろう。
己は極限まで敵に近づく。それを察知したか、敵は土の槍を飛ばしてくる、また三発。だが、軌道は見切った。
一発目と二発目は避けた。三発目は切った、油断しなければもう食らわぬ。槍の先、獣の懐に入り込む。己は一度『灰域』を解除する。ああ、これは己のわがままだが、今だけは押し通そう!
『氷は密に、鉄の如き』
『氷牙』を起動し、一刀叩きつける。異常な冷気を伴ったその刀はいともたやすく敵の前足を切断した。再生したその足はまだ脆い!
『結晶は巻き上がり、熱を奪って闇のように』
もう一度、灰の領域は広がる、それと同時に一度退く。だが、相手は今度は再生を優先せずに突っ込んできた。危険を察知したか、しかし、体勢を崩した一撃とは笑止!
己はその一撃をその剣でいなして距離を取り、詠唱を続ける。
『冬はついえて雪残す。残雪たる己はただ、定めた主がため!!』
『灰氷残雪』
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さて、前回の時点で何となくわかったでしょうがジョゼがイサムの主になりました。さて、それと同時にイサムの完全詠唱。本当の意味での初使用です。
捕捉としては、イサムの三段階目の魔法の使用条件は主を定め仕えることでした。ということで次回、イサムの本気です。




