神災魔獣
どうも、作者です。78話です。
一体何が起きるのか、こうご期待。それとも、覚悟して読んでください。の方がよろしいでしょうか?
灰氷はもう四、五十匹は魔獣を殺している。しかし、一向に魔獣が減る気配はない。いったいこの地にどれほどの数の魔獣がいるんだ?
いくらなんでも魔獣の数が多すぎる。 この数が今まで姿を隠していたとは考えられない。それこそ、この数があらわれるとしたら、ダンジョンぐらいしかないが、灰氷とレーシュの話ではこのまわりにダンジョンの類はなかったはずだ。
なら一体どうやって? そもそもどうやって連れてきたのか。遠く離れた地からここまで魔獣が出てくるとしたら、まるであの時の魔獣侵攻のようだ。あの時と同じ奴の仕業だとするなら、魔眼の王が関わっている? いや、恐らく考えても無駄だ。
多分、俺からすればスケールが違いすぎる何かが動いている。
「ウロク、そっちはどう?」
その声がする方を振り向くと、レンズがそこにいた。レンズがこっちまで来たということは、つまるところ、ジョゼの方はうまくいったらしい。
「こっちは今のところ問題ねぇ。苦戦している様子もなけりゃ、疲れが顔に出てるわけでもないようだからな」
ここまでの戦闘、最初に連携を取っていたことを驚きはしたものの、そこからは一切苦戦はしていいない。さすがはSSランク冒険者だ。
「そ、それなら大丈夫そうだね」
灰氷はこっちの方をちらりと見た。喋り声が聞こえて気になったらしい。
「ジョゼ殿、うまくいったのだな!」
大声でこちらに話しかけてくる。少し声がうれしそうだ。
「うん、うまくいったよ~」
レンズ、というかジョゼの声はあまり大きくなかったが、灰氷は聞こえたらしい。相当に耳いいよな。
「ならば、某はここに置いていけ! こやつらをすべて倒してから追いつこうではないか!」
「わかった」
ジョゼは即答する。実際そっちの方がいいだろう。ジョゼはともかく、俺はいても足手まといだし。救出した人たちも、アークの中にいて問題はないとはいえ、できるだけ早く解放した方がいいだろう。
「というわけでいこうか、ウロク」
「!? お前いつの間に後ろいた・・・」
目の前と後ろから同時に声がして俺は驚く。俺は咄嗟に後ろを振り向くと、モンジに乗ったジョゼがそこにいた。ジョゼは左手を差し出して、俺を後ろに乗せようとしていたが、その手には、傷跡が残っていた。
「? どったの?」
ジョゼはどうやら気づいてないらしい。
「左手、傷跡残ってんぞ」
「え? まじか、ライフとシゼルの薬で完全に治したと思ったのに」
いつもなら、茶化しそうなシゼルも、今回は口を閉ざし、モンジの表情も、どこか暗い。
恐らく、左手をかなり負傷するほどの戦いだったのだろう。俺はここで監視をしていただけなのに。今まで、死地を経験したこともない少女にこんな重荷を負わせる。
「情けねぇな」
「何か言った?」
「なんも言ってねえよ」
俺はジョゼの手をつかんでモンジに乗っかる。ジョゼはそこで、灰氷の方を向く。
「じゃあ、私達先に都市に戻ってるね。レンズは残しておくから。何かあったらレンズ使って。あと頑張って!」
灰氷に対する激励。その言葉に、面くらったような顔をしたあと、灰氷は笑う。
「おう!」
魔獣切りながらしてる笑顔じゃねえな。まぁ、でも。
「勝てよ!」
「頑張れ! 狼の人!」
その言葉に、灰氷は大きく笑う。任せてほしいと言わんばかりに。大丈夫だろう、灰氷なら。何せあいつは、SSランク冒険者、人類でも最強クラスの奴だ。
息絶えゆく男は言った。魔獣同士で共食いを刺せるように仕組んだと。
「神災魔獣!?」
通常、魔獣は共食いをしない。だけど、まれに味方すら食い荒らす魔獣がいる。そういう魔獣を神が神災魔獣と呼ぶ。神災の名に負けないほど、強い。それは国を滅ぼせるほどに。
「はは・・・ははは・・・・ははははははははは! この国に、あのお方に仇なす者に!! 滅びあれ!」
男はそこで息絶えた。どうにかして、このことを、いや駄目だ。今から伝える手段はない。何より、私もかなりのダメージで、そこまで行ける体力はない。
「ジョゼ様、ウロク様、灰氷様、どうか、どうか」
私はもう、祈ることしかできなかった。
ジョゼ殿から、ウロク殿から、シゼル殿からそう言われて、負けるわけにはいかないと、改めて気持ちを入れなおす。二人はもう都市へと向かったらしい。といっても
「ま、レンズはいるんだけどね~」
レンズ殿がいる故、ジョゼ殿とは会話できるのだが。
敵をもう七十匹ほどは切っただろうか。そこから、魔獣がぱったりとこなくなった。
「ありゃ、もういない感じ?」
ジョゼ殿はそう言う。しかし、己の勘が言う。終わりではないと。まだ、魔獣の気配は残っている。いや、減っているような、増しているようなそんな気配がする。なんだ? 何が起こっている?
・・・己はただ構えを崩さず。灰域の中心に立つ。灰域は場所を変えられはしない。そうするためにはもう一度魔法を唱える必要がある。それだけは、まずい。そんな気がする。
「・・・イサム、何が来るの?」
「わからぬ、ただ」
何かが近づく。少しずつ、少しずつ近づく。久方ぶりの冷や汗。これは、死の気配。
「くる」
敵の影が見える。その形は異形とはいえぬ、ただただ四足歩行の獣。毛は真っ黒に染まり、影との境目はない。あの獣どもより、二回りほど大きい。その姿が見える。いや見えた。
刀のガードが何とか間に合うが、その形が見えた次の瞬間には攻撃が来ていた。速い、異常な力、こいつは、己より強い。
灰域ギリギリで何とか持ちこたえる。だが、間髪入れずにこちらに向かってくる。さっきよりは遅い。恐らくさっきのは力をためての一歩。その上この領域によって動きが鈍っているだろう。ならばそれだけ隙もあるだろう。そう何度も使ってこない。
某も一太刀を浴びせる。間合いはこちらが上。だが、小さな切り傷をつけた程度だった。獣は勢いが緩んだもののその前足の攻撃を止めるには至らない。勢いを利用して横に飛ぶが足が間に合わない・・・!
「ぐっっっ!?」
「イサム!?」
己の足の具足が粉々になることだけは防いでくれた。まだこの足は動く。この腕は無傷!
『冷たき息吹をただ一刀に』
『氷刃!!』
敵の側面その攻撃で緩んだ前足めがけて一刀。エンチャントを利用した渾身・・・! 今度は確実に切り伏せる。
「ぐわああああああ!!」
獣は叫ぶ。己はもう一太刀、その考えを押し殺し、後ろに飛ぶ。
「なっ!?」
土の槍、数にして三発。当たるは一発左肩。
「!?」
声も出ぬ痛み。出すことは許されない。それをすれば、負ける。一手の間違いで負ける。それほどまでに強い。ただでさえ、異常な膂力と、速さ。その上、土の槍を生成飛ばす魔法。威力も速度も一級品と来た。その上、今この瞬間に足が再生している。勝てぬ。そう思ったのはいつ振りか。
やはり、この世界には、己がかなわぬ相手がごまんといる。それだけ強くなれる。己が本能が喜ぶ。だが、それもここで死ねば終わるだろう。
何より、ここで己が死ねば、少なくともこの街にいるものは残らず死ぬ。ジョゼ殿とイドハ殿ならぎりぎり生きれようか。それでも、それが限界だろう。いや恐らくそれでは終わらぬ。
何せこいつは、この強さでまだ、発展途上。恐らく力を手に入れてすぐであるがゆえに、その力を十全に発揮していない。その上、己を食らってさらに強くなるだろう。そうなれば、国が滅ぶ。だからこそ、ここで死してでもこいつを止めねばならぬ。
相手は、足の再生に時間をかけている。凍り付く一撃であったというのに、再生を遅らせる程度しか効果はなかったらしい。
「大丈夫なの!?」
そう言いながら、レンズ殿は何かを己に浴びせかけてきた。自身の肉体はみるみると回復していく。
「シゼルが作れるめっちゃ強いポーション! 一応もたせてたの!」
ジョゼ殿は用意周到だ。敵の再生はまだかかりそうだ。といってもあと少しだろうが。
「ジョゼ殿、一つだけ願いを聞いてくれないか?」
「え? 今!? 戻ったらいくらでも」
「いや、できれば今お願いしたい」
少しの空き時間、これだけは譲れなかった。この人に聞かねばならなかった。
「・・・何?」
「どうか某の、主となってくれまいか?」
「・・・は?」
これだけは今、聞かねばならぬ。
読んでいただき、ありがとうございます。誤字脱字報告・コメントお気軽にどうぞ。
今まで圧倒的であったイサムの苦戦。そして最強クラスの魔獣。作中でも描写しましたが、ここでタオ避ければ今までの努力は水の泡という崖っぷち。実質こいつがラスボス。
イサムは無事勝てるのか。何より、ジョゼはご主人様になっちゃうんでしょうか? 次回も、よしなに。




