背火の陣
どうも、作者です。74話です。
今回はレーシュの戦闘回です。今回のレーシュは本気です。
私は、SSランク冒険者や、かつて最強といわれた騎士に憧れていた。彼らはただ強いのではない、その生きざまに信念がにじみ出ているのだ。それは、実際にレイド様や灰氷様に出会って確信した。彼らは己が強さに慢心しない。己が信念を曲げぬもの、それでいて、自分の強さを信じて進める人たち。それがきっと私が憧れた人たちだった。
ですが、その強さを持つ人が私の近くにいた。面倒くさがりで、適当で、マイペースな彼女は、それでいて誰かが困っていたら面倒くさがっているように見えて、何もためらわずに手を差し伸べる人。一緒に過ごしていて、私よりきっとそういうのに向いている人だなと感じた。
本人は決して強くない。それでも、きっと彼女は、強いのだ。でも決して彼女が目立つことはないだろう。きっと書物にもかかれない。英雄にならない英雄だろう。
そんな彼女が進むというのなら、私は助けましょう。彼女に助けられたものとして。彼女が間違いそうになるのなら、私が叱りましょう。彼女の、友として。
背中には炎上した倉庫、私を取り囲む敵。数にすれば、数十人。確か、背水の陣という言葉があるのだったか。この前、ジョゼさんがバーレさん、ウロクさん、バンカさんに責められた時、反論しようとして言っていた。まぁ、反論のはの字も出ていなかったが。
こんなことを考えられるほどにはリラックスしているらしい。私は身長に周りを見渡す。そして、敵の号令がかかる前に口を開く。
「一つだけ聞きますわ!」
「!」
敵の隊長各と思わしき男はいらだちを顔に出していた。
「あなたたちは、戦争に利用されている奴隷にされている方々に何の疑問も抱きませんの!? 何も事情を知らぬまま、虐げられるあの人たちに理不尽すら感じないというの!?」
そこにいる人々は、その言葉に疑問符を顔に浮かべている。何を言っているのか理解できていないのか、それとも、疑問を抱く必要すらないと感じているのか。
「そんなもの、何故感じる必要がある!」
先ほどの男が口を開く。
「 あれらを消費するだけでいいのなら! そんなものは損失にすらならん! 何より、誰があいつらを虐げているという! はなから獣風情を使ってやっているに過ぎない!」
その言葉にここにいる人間は否定の言葉どころか、否定の感情すら出さないというのか。
「はぁ、そうですか」
私は剣を引き抜く。ならば、この戦い、容赦はしない。
一番強い人間でレベルは50。それでもほとんどは雑兵。何より、全員を倒す必要はない。ここにいる人間をくぎ付けにして時間を稼げればそれでいい。何より、生かす必要はない。
「かかれ!」
私に向かって隊長と思わしき人間が号令をかける。敵のほとんどは槍使い。一般の兵士だろう。少しためらいがあるら動きだ。いくら顔を隠しても、何となく年は察してしまうものらしい。人を人と思わなくても、そんな感情は出るものなのですね。
だが、
ここは戦場だ。
私に槍を向けることを最も躊躇している敵を狙う。その人間は動揺して、反撃することさえ忘れているようだ。懐へと入り、あばらとあばらの間へとその剣を突き刺す。男の手から槍が抜け落ちる。私はそれを左手でつかみ、少し遠くの魔法使いと思わしき相手めがけて投げる。
命中。それ以上気に掛ける必要はなかった。一連の動作に唖然としている敵を、一人、二人、三人。
「くっ! 貴様ら何をやっている! 敵はたかだか一人だぞ!」
一瞬で数人やられたことに動揺してか、それとも隊長の人間の言葉に気おされてか、正面から何人か突っ込んでくる。私はその人間たちの懐を抜けて、位置を入れ替えた。敵の正面に広がるは、燃え盛る倉庫だ。
『吹け』
『突風』
飛ばされた敵のほとんどは炎の中に突っ込む。その勢いで、建物の正面は崩れ落ち、脱出することすら困難になった。
「くそ! 魔法兵士!」
「「は、はい」」
唐突の指令に応えようと、敵の魔法兵士は魔法の詠唱を紡ぎあげる
左右からの魔法詠唱、片方を止めれば、片方は止まらない。なるほど、それならば、私も避けきれないかもしれない。だが、それは悪手だ。
私は左の魔法兵士に突っ込む、敵の半分は動揺して、詠唱を中止した。訓練不足がにじみ出ている。敵ながら同情してしまう。しかして容赦をすることもなく、詠唱を中断しなかったものから即座に喉に突き刺す。
これで十分。確かにもう片方は間に合わないし、十分な人数による面攻撃。このままでは食らうだろう、私の方も詠唱をしていなければ、だが。
『大地よ、わが身を守る盾となれ』
『土盾』
私の目の前の大地は盛り上がり、魔法を防ぐ。
「なっ!?」
むしろ、唐突の指令に逃げ遅れた魔法兵士以外の兵士たちに被害が出る。
「本当に、練度が不足しておりますわね。おかわいそうなこと、せめてもう少しましな指令を出してあげなさい?」
もうずいぶんと苛立ちを隠しきれていない。もう少しだろうか。
「くそ! 残るものは陣形を組みなおせ! 数で攻めろ! 何人かが突っ込んでいるうちに後ろからつぶせ!」
「で、ですが」
「俺に意見か?」
「い、いえ」
はぁ、本当に、いい加減私の方が苛立ちを隠しきれなくなりそうですわ。上に立つものとしての自覚が欠如している。
だがそれでも、容赦はしなかった。敵は、意を決して前に出ようとする者たちがいた。だが、それでも死にたくないのか一番最初になることを避けている。それが結果的に、ほぼ同時の攻撃になり、友好的な一撃になりうるのだから、皮肉だろう。
正面と後ろ、そして側面。私は正面の敵の槍をつかみ、後ろの人間の心臓部に誘導する。ほんの一瞬遅れた側面の敵の攻撃に合わせて、心臓を刺されてぶれた槍の方へと体を傾ける。あとは、体の合った場所に、剣を置いておくだけでいい。反撃の形をとる必要すらない。
敵の方から剣に刺されに来る。私は一度剣を手放し、仲間を刺して動揺している敵の体を引っ張って、腰に掛けていたナイフを取り出し首に沿わせる。これで、突撃してきた人間はおしまい。
体勢の崩れた私を見て、隙と感じたのか数人が突っ込んでくるが、先ほどとは違いばらばらだ。私は一度体勢を立て直し、一番近くにあった槍を手に取り、一人ずつ丁寧に対応する。
私の周りには、いつの間にか、死体が増えている。ずいぶんと、手も赤く染まってしまいましたわね。
「はぁ、本当に使えない指揮官に使われてかわいそうだこと」
男は怒りで、顔が真っ赤になっている。
「俺が使えないだと!?」
「ええ、そう言っていますわ。それともこう言い換えた方がいいですか、結局は獣風情に頼り、兵士を育てることすら放棄した指揮官様」
男は怒りのまま剣を抜く。そして、駆け引きの仕様のないほどの猪突猛進ぶりで、私に向かってくる。
レベル差は、恐らく15レベル程。あちらの方が高い。通常であれば、一対一ではそう覆らないレベル差。だが、それは同じ剣術レベルをもつものであれば、の話だ。私と目の前のこの男では、その程度のレベル差では、技術差は埋まらなかったらしい。
私は、力のまま撃ち込まれたその剣を軽く受け流し、予備で持っていたナイフを相手の目をつたって頭まで突き刺す。己が剣でとどめを刺すことすら、はばかられた。
「これで、終わりですわね」
「あ、が」
「はぁ、兵を鍛えることを怠ったばかりか、己が身すら鍛えることはしなかったとは、どこまでも哀れですわね。もう聞こえてはいないでしょうが」
それが戦うものの気概だというのか。これでは薬屋にすら勝てはしないだろう。恐らくはレベルも奴隷を利用して、いやこれ以上は考えるのはやめよう。
残るはそう強くはない兵士のみ。これから増援はくるかもしれないが、まだ余力は有り余っている。先ほどの相手が来てもいなせるくらいの力はある。十分だ。
「あなた達の指揮官は討ち取りましたわ! それでも、来るというのなら来なさい! 存分にお相手してあげますわ!」
誰一人として、その腕を上げるものはいなかった。
読んでいただき、ありがとうございます。誤字脱字報告・コメントお気軽にどうぞ。
今までレーシュはそこそこ戦闘描写がありましたが、実は本気のレーシュ、というより本領を発揮したレーシュという方がいいですね。本領のレーシュを描写したのは初めてでした。今までの相手は本来苦手な魔獣相手だったり、一切殺すなという指令のもと戦っていたので。
騎士であれど、戦場で戦う者。いや騎士だからこそですね。本気の戦場でレーシュは容赦しません。
地味にここまでのイサム、ジョゼと来て一番書くのに苦労しました。ただ、ジョゼと似たような戦いでしたが、かなり違いがあって書いていて二つの戦いの違いを感じるようにと頑張って書いていました。
しかし、次の戦いが一番苦労気がするので、次も頑張って書き上げたいと思います。
どうか、次回も読んでいただけると幸いです。




