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剣士の間合い

どうも、作者です。72話です。

今回はイサムこと、灰氷の剣士の戦いです。SSランク冒険者の戦い、こうご期待。

ジョゼさんたちが、ダマ―ヴの町に出発してから早一週間。ジョゼさんたちは大丈夫だろうかと、ふと思う時がある。


そんな今も、ギルマスと一緒に休憩をしていても、ジョゼさんのことを考えてしまっている。やはり行かせるべきではなかったのではないかと。


正直なことを言えば、私自身のエゴがあった。同胞、といっても私はハーフエルフだが、それでも彼らが奴隷として使われるているのは、やはりいい気分ではない。


だからこそ、今回ジョゼさんが依頼を引き受けてくれるのであれば、それは何よりも心強いと思った。しかし、それが危険で死の可能性がゼロではなかったはずだ。ジョゼさんはそれも承知の上で引き受けてくれたとしても、私のあの考えは軽率だったのではないかと感じてしまうのだ。


「ジョゼのことが心配か?」


「そんなことは・・・いえ、そうですね。心配で仕方ないです」


否定したところで、この人には通じないだろう。


「心配する必要はないだろう。あいつは強い」


「それは分かっています」


彼女はあれでとても強い人だ。本人は召喚獣が強いだけと言うだろうけど、間違いなく本人も強い。それは力だとか戦闘力ではなく、本人の精神性が。


「それに、レーシュやウロク、それにあっちにはイドハもいるからな。何より、イサムがいる」


イサム、冒険者としての異名は灰氷。現状五人しかいないSSランク冒険者の一人にして、恐らく霊族の中でも、”王”や目の前のこの人に最も近い一人、つまるところ最強クラスの人間。


「ハ・・・一応レイドと言っとくか。あいつも言ってたからな」


「レイドが? 一体何を?」


「恐らくタイマンで戦えば、私が勝つ、ってな」


それは、そうだろう。彼女は純粋に最強だ。単純な戦闘能力だけならSSランク冒険者最強と言っていい。


「しかし、条件次第じゃ負けるかもってな」


「それは一体?」


あのレイドが? 条件ありきといえ、負けるところは考えられない。ハンデあり、とかそういうことではないだろう。


()()()()さ、それを第二段階まで解放されたら、恐らく五分だってな」


第二段階。灰氷様の固有魔法は段階で別れている。第一段階『氷牙』、そして第二段階『灰域』、もう一段階あるらしいが、それは本人も未だ知らない領域。


だが、あのレイドと五分とは一体どんな強さなんだろうか。そして、第二段階の時点で対等というのならば。


「第三段階では? まぁ、本人も知らない魔法だ。どうなるかわからないし『灰域』より弱いかもしれない。だが、まず間違いなく、あの狼は本物だ。それは間違いない」





いつものごとく、『氷牙』を起動する。己の固有魔法にて、そのはじめ。すべてを凍らすほどの冷気を自分の得物に纏わされるエンチャント。


その刀をもって、目の前に現れた獣を一棟に切り伏せる。その冷気によって、魔獣の肉は凍てつき、一切の防御がないほどまでに脆くする。これなら先ほどよりは早く殺せる。


己は刀身にかかったエンチャントにさらに魔力を込めて振り上げる。魔力の伝播、遠くの敵にまで、その冷気を飛ばす。少々時間はかかるが、敵の元までその冷気は届き、敵の四肢を凍らせる。どれほど離れていても、逃す気はなかった。


数にして、八匹、やはり獣どもは連携をしている。本能か、それとも誰かに調教でもされたか。某が数匹の獣に対応しているうちに脇からジョゼ殿がいる場所まで向かおうとする個体さえいた。今のところはどうにかなっているが、いつまでもつかもわからない。


何より敵の数がわからない。勘ではあるが、恐らく百は越える数がいる。今のところは問題ないだろうが、流石にその数が来られては、いつかは抜けてしまうだろう。倒す分には問題ないのだが。


ジョゼ殿の元まではいかせない。そういう命令だ。何より、今回だけは失敗することは己が許さなかった。彼女に頼まれたから、何より、裏切りはしたくないから。それは誇りが傷つくと己が自覚してしまったから。


己に、SSランク冒険者としての自覚は、誇りはあるのか、と問うてきたものは多かった。しかし、己にそんなものはなかった。ただ鍛錬の中でいつの間にかどり着いた過程にすぎなかった。だkらこそ、負けることも失敗することも受け入れてきた。それが鍛錬というものであろうと、己が感じていたからこそ。己が鍛錬をするはいつか自分が認めた主に対してのみ。


なら今のこの感情は何か、どうして誇りが傷つくと感じたか、それがどうしてかは今は考えぬようにしよう。それはただの雑念だ。


だからこそ、今ここで解放してしまおう。


「ウロク殿! 離れろ! 巻き込んでしまう!」


ジョゼ殿の友人を、そして、ともに戦う戦友を己が手で失うわけにはいかない。


「! 分かった!」


ウロク殿は全力で離れる。もう少し、今。


『結晶は巻き上がり――』




「その、灰氷様の『灰域』とは一体どんな魔法なんですか」


「その前に、イサムのスキルについて話そうか」


「スキル、ですか?」


スキル、その人間が持つ能力。魔法とは別系統の力にして、その人間の力、引き出し強くするもの。また、スキルの研究者たちはよくこう語る。


()()()()と。


「イサムの特徴的なスキルは二つ。『灰氷の真狼』と『雪花の太刀』」


『灰氷の真狼』は彼の魔法と合わせて、彼の異名になっているものだ。確かに常時速度と五感を強くし、雪の天候時にさらに強くするスキルだったか。


「特に『雪花の太刀』に関しては、やばくてな」


「そうなんですか?」


あまり、そちらに関してはあまり聞かない。そもそも、彼に関しては一緒に活動していた真狼以外、ほとんど共闘もしていない故に、分からない情報が多い。


「基本的には、氷のエンチャントが強くなることと、あいつが持ってる剣、刀っていうんだが。その刀の切れ味が上がるってものだ」


ふむ、それだけを聞くと、さして珍しいスキルとは言えないだろう。特徴的ではあるが、それだけ。


「そして問題は三つ目、ある一定以下の温度の空間にいるとき、間合いが広がる。もう少し、細かく言えば、その一定以下の温度の領域全体が刀の間合いになる」


「・・・それはつまり?」


「範囲内なら、時間的な遅延なしの斬撃が繰り出し放題になる」


なんだ、それは。剣士に弱点があるとするなら、射程だ。どんなに強力な剣技でも、剣が届かなければ意味がない。だからこそ、間合いから逃れれば、剣技は無意味となる。


通常、それは速度や魔法といったもので補う。しかし、もし間合いそのものが広がるのであれば。


()()()()()なんてものはなくなる。なんだったら、同じ剣士どうしなら、圧倒的に優位になる」


今この説明をしたということはつまり、あのレイドが五分といったのはつまり――




『結晶は巻き上がり、熱を奪って闇のように』


そう唱えると同時、剣にかかっていたエンチャント、魔力の奔流が、一瞬にして広がった。広がった魔力に覆われた空間において、己以外のすべての物は凍り付く。


『灰域』


効果はごく単純、異常なまで、気温が下がること。この空間内において、魔獣たちは強靭な肉体と法則耐性? と友は言っていたが、それによって生存することは可能だ。しかし、寒さに特別強くなければ、動きは異常に鈍る。


はっきり言ってしまえば、この魔法はしかしてそれだけだ。特別切れ味が増すだとか、氷を降らせるとか、そんなものはない。人間でも耐えようと思えば耐える手段はいくらでもある。それでも並の人間は厳しいが。


だが、この魔法はそれでいい、何せこの空間すべてが己が刃が届く範囲だ。


距離にして通常では届きえない敵、距離にして約四町、己を無視しようとした獣にその剣を向ける。一度剣をしまっての抜刀。その一太刀は、大地と共に獣を両断する。


ここから先、獣どもが通る場所すべてが己が間合い、例外なく切り伏せてしまおう。ジョゼ殿からの指示は守れそうである。

読んでいただき、ありがとうございます。誤字脱字報告・コメントお気軽にどうぞ。

SSランク冒険者の一角、灰氷の実力が垣間見れたでしょうか、そうでしたら幸いです。正直侍とかに憧れる人間なので、自分で作ったキャラながら戦闘中のイサムはかっこいいなと思います。戦闘中は。

レイドの時は強すぎて、本来の力を見せることができなかったので、ちょっとしたリベンジの意味も込めて書いていました。

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