肯定されない暗夜
どうも、作者です。67話です。
前書きにいつも雑談めいたものを書いてるんですが、今回ばかしは必要ないかなと思う作者です。
「奴隷の居場所が大まかにわかった」
「どこですか?」
「あした伝える」
どうして明日なんだろうか。別に今日でもいいような。
「今日ジョゼに休めと言ったのはこっちだし、レーシュも疲労が目に見えるくらいは溜まってるだろ」
モロゾフはそう言う。レーシュは図星をつかれたのか言い返せないでいる。それに、休んでほしいというのはイドハさんもウロクも同じなようで、無言の肯定をしていた。
こうなると休むしかなさそうだ。まぁ、別にすぐにやりたいわけでもない。今日のところは休もうか。
「わかった、とりあえず今日はだらだらしとくよ」
「そうしてくれ」
時刻はまだ昼過ぎ、時間はたくさんあるのだ。とりあえず本でも読もう。
買った「文化紀行記」を読んでいるうちにお腹が減ってくる。いつの間にか夜ご飯の時間である。私が本に集中しているうちに、他のみんながご飯は用意してくれたらしい。今日は本当に至れり尽くせりである。
基本的にできものの食べながら、モロゾフも含めてみんなで食事をしている。何となく夕飯はいつもみんなで食べているが、こんな空間にも慣れていた。
「ジョゼさん、あの本はどうですか?」
あの本、「文化紀行記」のことだろう。まだ途中だけど、結構面白い。基本的には日記として描かれており、その地域での文化や人々に特徴を事細かに書かれている。これが読みにくいかと思えば、どこか物語風味で描かれているから、すごく読みやすいし、いわゆるどうしてこんな文化が生まれたのか、という考察がすごくわかりやすくて納得感がある。純粋に呼んでいるうちに時間が進んでいる。すごく面白くて時間が進むというよりは、やめるタイミングがなくて読み続ける。そんな本だった。
「面白いよ、読みやすいし、わかりやすい」
「が、学術書としては、とてもいい好評ですね」
「なんだ? 本って?」
モロゾフが話に入ってくる。イサムは食事中は一切喋らないというか、食事に夢中である。ウロクの方も、本の話にはあんまり興味がないらしい。
とりあえず、モロゾフに今日本を買ったことと、その本の内容について教える。
「ふーん、中々難しそうな本読んでるな。ガキにしては偉いじゃねぇか」
ガキに言われたくないんだけど、いや、中身がおっさんなのは聞いてるけど、それでもなんか腹立つ。
「ま、こっちの世界に来てから暇つぶしとしてできるのがこれくらいだし」
「あ~、なるほど。遊びたい盛りの子供としてはそうなるか。テレビゲームもないしな」
うわ、人からテレビゲームという言葉がきけるとは。なんかすごく新鮮。私以外のみんなはぴんと来ていない。当たり前だけど、ここは異世界なんだなぁ。
「そういうモロゾフは普段何してんのさ」
「ああ? 暇なときか、んまぁ、あっちといた時とあんま変わらんな、酒と筋トレ。いやあっちいたときは酒とテレビだったけど」
酒って、少年姿で酒って。
「それって犯罪者じゃない?」
「バカ野郎! 俺は三十後半だぞ!見た目がこれなだけで!」
うーん、少年ボイスでそれ言われてもなぁ。
「で、でもその姿で酒は変えないのではなくて?」
「いや~、子供に酒売る商人なんていくらでもいるぜ?」
どうやらこの世界でも子供はお酒が飲めないらしい。地域にもよるかもしれないけど。ウロク曰く売る人はいるそうだが。
「だから、子供じゃあねぇよ俺は。はぁ、だがここの酒は度数が低い。ウィスキーが飲みてぇ、度数が低すぎるんだここの酒は」
ウィスキーって、子供の姿で言われるとすごい場違いだな。でも何だろう、少し何か重い雰囲気を感じる。何かを思い出している? まぁいいや。
「でも、何で筋トレ、強くなりたいから?」
「いや、半分癖だ。動かしとかないと変な感じがする」
そういえば、モロゾフは元軍人何だっけ?それで動かさないと変な感じになるんだろうか元というか、別にやめたわけじゃないだろうか、現役?
私たちはその後もうだうだと喋りながら食事を終える。そのあとはまた少し本を読み進めながら、眠くなってきて、布団に入った。
赤き月が雲に隠れて随分と暗い夜。私は小さな明かりを頼りにかりかりと、紙に学校で習った内容を反復していた。そんなことをしているとノックする音が聞こえてきた。
「レーシュ、話がある」
どうやら、モロゾフさんのようだ。私は、扉を開けると、モロゾフさんがついてくるようにジェスチャーをしていたので素直についてくと、大部屋にでる。ジョゼさん以外のみんなが集められていた。
「どうしたんですの?」
「どうしたんだ?」
灰氷様は寝ているジョゼさんを慮ってか、いつもより音量が控えめである。
「いや、先に話しておこうと思ってな」
「は、話しておくですか?」
恐らく、今日何があったか、だろう。実際、ウロクさんも後ろにいることから、確実にそうだろう。
「ああ、さっき伝えたが、俺たちは奴隷が監禁されてる場所を大まかにわかった」
「よ、よくわかりましたね、さ、流石です」
モロゾフさんは別に何ともといった感じだ。
「別に、俺たちのおかげじゃねえよ、ノルマさんが、昔奴隷を売っていた市場の中心地があるってんでその場所を教えてくれた、そこがドンピシャだった」
なんというか、すごく都合がいい感じだ。たまたま協力してくれた人が、昔の奴隷市場の位置を知っているというのは、いやこの都市に昔からいる商人なら知っているのでしょうけど。
奴隷市場、というのはあまり聞き心地の良い単語ではなかった。我が、フーニルの領地では元々奴隷は禁止されているのもあって、あまり気分のいいものではない。それもあって、この地域とは仲が悪かったわけだが。
「とはいえ、市場跡地が広いうえ、魔術的な結界で守られていて、中には入れなかった」
だから、大まかという訳か。広い市場のどこかにいるかまでは割り出せなかった、という訳だ。
「な、なんでそこに奴隷ってわかったんですか」
「「・・・」」
二人はそこで沈黙していた。一体何を見たんだろうか。
「実験、いや予行演習って言った方がいいか」
ウロクさんが口を開く。思ったより冷静なのはウロクさんの方らしい。だが発せられた言葉には嫌な予感しかしない。
「奴隷の一人が、外に連れ出されてたんだ。あの魔獣どもがいる地域にな」
・・・そういうこと。彼らの目的はやはり。
「ジョゼさんを除いたのは、そういうことですか」
奴隷たちを魔獣に食わせることで、魔獣を強くすること。それが彼らの目的だったのだろう。そして、今日、その予行演習が行われて、無事に成功した、ということになる。
「ああ、ジョゼは目はそらせても、見て見ぬふりはできない」
ジョゼさんは根本的に優しいのだ。面倒くさがりで、いやなことからは全力で逃げる。でも、誰かが困っているのを見てしまえば手を差し伸べる、それがジョゼさんだ。
「・・・お前たちは俺たちを裁くかい?」
「裁かんよ」
口を開いたのは、灰氷様だった。
「某たちは結局雇われであり、依頼を遂行することこそ、本懐だ。そのために其方らが”最善”だと思う行動をしたのならば、少なくとも某は責めん」
ウロクさんは頭を書いて、目をそらす。その回答が悲しいかのように、それともそう言われるのがわかっていたから、ジョゼさんだけを除いたのが苦しいかのように。
「そ、そうですね。私も、誰かを見殺しにしたことがあります。それが正しいとは、今でも思いません、でもそうするほかないほど、あの時の、今の私たちは弱いんです」
イドハさんはそういう。その通りだろう、正直な話、今の私たちは余裕がない。いくら敵の目的を見つけて、それを阻止できる状況までもっていた今でも、いやそんな状態だからこそ、綱渡りだ。私たちに求められているのは完璧な阻止。
同じようなことを二度起こさせないための、今回の戦いになる。
「ええ、そうですわね、私も何も言いませんわ。今の私は”騎士”としての矜持を捨てましょう」
それは一重に私が弱い故、今の私に”騎士の矜持”と、”王の使い”として役割を兼任できない私の弱さ故。
「私はあなた達の行動を肯定します。・・・殺しを正当化する、兵士として」
「・・・そうか。すまん」
モロゾフさんは今回の自分の行動に相当にいら立っているように見える。きっと納得はしていない、それでも任務を優先したんだろう。
「だが、どの道、奴隷の詳細な居場所はジョゼに託さないとならない、情けない話だがな」
「け、結界ですか」
結界、恐らく人が通れば感知する仕組みのものだろう。しかも、かなり高度な、モロゾフさんはそういった探知をある程度無効化するスキルを持っているが、恐らくそれが効かない。
「ああ、あの結界を越えられるとしたら」
「ジョゼさんの召喚獣、だけですわね」
レンズさんなら越えられる。レンズさんの探知無効化は、モロゾフさん以上、まさしく規格外だ。
私たちは、重い雰囲気にとらわれる。それはつまり、ジョゼさんにあの惨状を見せるのが確定してしまうことに他ならない。
「それでも、もう戻れませんわ」
私たちはもう、犠牲者を出してしまった。国のため、依頼のため、一人ではなく大勢を救うため、友のため、どんな理由でもきっと他者に肯定されてはいけないもの。それでも、やると決めたのならば、ならもう、きっと立ち止まれはしない。私たちはやるべきことをやらなければならない。
読んでいただき、ありがとうございます。誤字脱字報告・コメントお気軽にどうぞ。
人の死を正当化することなどあってはならないが、正しいかどうかで世界の事象は完成しえない。
さて、後半急に重くなりましたが、前回言っていた通り、休息が終わりました。ジョゼは奴隷という存在をどう受け止めるのか、ぜひ見守っていってください。よしなに。




