報告、不穏
どうも、作者です。56話です。
何時になったら涼しくなるんでしょうね?
私たちはウロクが買ってきたお肉をむしゃむしゃと食べている。レーシュは疲れていて、ほぼ無心で食べている。さっきの種族についての授業で残っていた体力を使い切ってしまったらしい。というか残っていた体力使ってでも種族の授業をしたかったのか、趣味について語る人間というのはそういうものなんだろうか。
ウロクもイサムもおいしそうに食べているが、イドハさんだけ、少し暗い表情をしている。いや、普段から顔に暗いトーンがかかっているタイプなのだが、純粋に深刻そうな顔をしている。大丈夫かな?
「それで、討伐に行った組の成果はどうだったんだ?」
「あ、そ、そうでしたわね」
報告することをすっかり忘れていたらしい、恐らく疲れとさっきの授業で忘れてたな。
「まず、やはりこの地域、と言うよりは一部の場所の魔獣の数が多いですわね」
「それは分かってたって、一部の場所?」
「はい、今日は冒険者の皆様は少なかったですが、よく狩場にしている場所にいる魔獣の数が多いという印象でした。おそらく、魔獣の数が多いわけではなく、一部の場所に密集しているから魔獣が多く見えていたのかと」
なるほど、通常ならまんべんなく広がっているはずの魔獣が、特定の場所に集まっているからそう見えたってことか。増えたというより、密度が上がったって感じかな。
「なるほどね、それで、縄張り争いに負けた魔獣がこの街の方に来て、被害が出る、魔獣の討伐依頼が増えるって感じか」
「そんな感じでしょうね」
「それで、そうなった原因があるはずだよな?」
そうなるよね、何か原因がなければそうはならないだろう。
「イドハさんに言われた、あまり人が寄り付かない場所に行ってみたのですのよ。そしたら、見たことがない魔獣がいました」
「見たことがない?」
「はい、四足歩行の黒い獣でレベルは恐らく50程度、それがすくなくともニ十体前後の群体でいましたわ、おそらくそれ以上の数がいますわね」
「・・・は?」
ウロクが持っていたフォークを落とす。それほどまでに愕然とする情報だったのだろう。レベル50というと、今の私がそれより高いくらいだが、私より圧倒的に強い。なんせ、魔獣との戦闘に秀でている冒険者のレベル換算で50ということだ。そんなのが少なくともニ十体、つまりそれ以上いるということになる。
そして、さっきの魔獣が密集している件にも合点がいく。この地域の魔獣は急に表れたその黒い獣に縄張りを奪われて、他の地域に逃げ出したわけだ。
「まてまて!? それはやばいとかのレベルじゃないだろ!」
イドハさんも深刻そうな目がより不安が強まった目をしている。
「そうですわね、だから聞きたいことが多いんですの、イドハさん」
イドハさんは急に向けられた言葉に動揺している。いや、わかっていたうえで、辛さが増した感じだ。
「この街の冒険者の平均レベルは?」
「レ、レベル20前後です」
「それは、遭遇しなくて幸いだったな。あの魔獣がより厄介になるところだったぞ」
イサムの言葉に他の人たちがより深刻そうにしている。確かに遭遇したらまず間違いなく食い殺されているだろうけど。厄介?
「厄介ってどういうこと?」
「某らが魔獣を倒すことで経験値を手に入れるように、魔獣たちも多くの人間を食い殺すことで強くなる。だからこそ、強い魔獣に勝てない人間が当たるというのは危険なのだ」
そうなのか。確かに、それは厄介だ。
「そしてもう一つ、イドハさんはどうしてあの場所を知っていたんですか? あまりにピンポイントすぎますわ」
確かに、教えてもらった場所に偶然いたというのは、少し話としてできすぎている気はする。
「・・・し、神父様です」
神父、その言葉に私とウロクさんはうろたえる。また神父だった。
「げ、厳密にいえば、私ではなく、ぼ、冒険者の皆様があの方から、あ、あのあたりには近づかない方がいいと言われていたそうです。こ、この街の冒険者は皆さま信心深いので」
信心深いがゆえに、神父さんの言葉に従っていて命拾いしていたという訳か。
「そういう訳か、クッソあの神父何なんだ」
「その神父というのは?」
「その話はあとの方がいいだろ、先にそっちの話を済ませよう」
ウロクは苛立ちが隠せないでいる。あの神父に手のひらで転がされている感覚が気に食わないのだろう。レーシュも、そちらの話を置いておいて続ける。
「とにかく、これでシゼルさんの話は正しくなりましたわね」
「シゼル? 何か言ったの?」
「ん? ああ、あれか、ギルドに要請が来てないのはおかしいって話だな!」
要請が来ていない、現に魔獣討伐の依頼は来ているのでは?
「ええ、その通り。このギルドへの要請ではなく、帝都のギルドに対する要請が来ていないのがおかしいんですのよ」
「そういうことね、そりゃおかしいわ」
んん? そうなのか? 確かに、帝都にいる冒険者たちは強い人がいっぱいいるから対処できるけど、別に来なくてもおかしくないのでは? だって別にこの街に被害は・・・あ。
「そうか、この街に被害がないのがおかしいんだ」
「その通りですわ。そんなに強い魔獣が近くにいて、この街に被害が出ていないこと自体がおかしいんですのよ」
「それどころか、この街の商人たちは、商売は順調に行ってる。そこから疑うべきだったな。魔獣の被害が報告されてるんだ。通常、そんな状態だったら商人は仕入れがうまくいかなくて商売に苦心するはずだ。それすらねぇ」
ああ、どんどんと嫌な予感が高まってくる。私たちが関わっているこの案件は思ったよりもまずい気がする。
「そ、それだけじゃないです」
イドハさんが口を開く。何かまだあるようだ。
「さ、先ほど、灰氷様から預かった魔獣の素材を見て、わかりました」
「わかった、ですか?」
「はい、レーシュさんたちが遭遇したその魔獣は魔大陸の魔獣です」
レーシュとウロクは白目をむきそうな勢いだった。ただでさえきつい状況に追い打ちをかけられたかのように、何よりあのイサムですら、驚いているような、笑っているような顔をしている。
「ま、間違いないんですの?」
「は、はい。実際にこの魔獣のことを報告書なので見たことがあるので、間違いないかと」
魔大陸、それはこの大陸とは別の大陸で、主に魔族が住んでいる大陸なのだとギルマスから聞いたことがある。その土地は、あまり豊かではない上に、魔力が濃く、強い魔獣がとにかく多いと。そんな土地の魔獣、それが何故この土地に。
「はぁ、いよいよやばくなってきたな。この案件、普通じゃねえだろ」
情報は順調に集まっている。だからこそ、どんどんと嫌な感覚が積みあがっている。
「何より、これでほとんど決まりましたわね」
「そうだな、敵さんの目的が嫌でもわかる」
流石の私でもわかる。明らかに意図的に連れてこられた魔獣、そして街を襲わない。そんな魔獣を恐らくはこの街の貴族が操っている。その上、商人たちはずいぶんと実入りがいいのだと来たら、きっと大元の貴族はもっとお金がある。魔獣という戦力と、潤沢な資金、それを王様嫌いの貴族が持っている。となれば、
「王殺し、いや」
「国家転覆と言った方がよろしいでしょうね」
私たちは、どうやら相当大変な案件に手を突っ込ませられたらしい。
読んでいただき、ありがとうございます。誤字脱字報告・コメントお気軽にどうぞ。
さて、どんどんと敵のやりたいことが見えたところですが、まだこの街に来て一日め、ちょっと順調すぎて逆に怖いですね。




