当たり前という異常
どうも、作者です。53話です。
日常だと思い込んでいるものは、誰かにとっての異常。
霊族、魔族、獣族。私にはその区別はよくわからない。私からすればみんな異界の人たちで、ファンタジーの存在だ。だからこそ、そのありふれているんだろう差別の意味も知らないし、どうでもよかった。でもそれは、目をそらせるから言えたんだと何となく自覚してしまう。なんとも嫌な話だ。
「おそらく、この街の人々には霊族や魔族に対する根本的な差別意識があります」
「どうして、ですか?」
彼女はその事実を語るためなのか、理由は分からないけれど、特徴的な丸眼鏡をはずす。しかし、裸眼は伏せられて見えはしなかった。
「・・・奴隷です。この街では元々奴隷産業が盛んだったそうです」
「奴隷」
その言葉は、なんとも嫌な言葉だった。国による教育のたまものか、それとも根本的なものかはわからない、言い表せない嫌悪感がある言葉。
「はい、奴隷を買い、育て、売る。そうやって栄えた土地だったそうです。帝国は霊族との確執をなくすため、奴隷に関する売買の一切を禁止しました。奴隷という身分も含めて」
「霊族との?」
霊族との確執、その言葉で察する。つまりそれは、
「はい、霊族との。それはつまり、それだけ多くの霊族の方々が奴隷となっていたことでしょう。それだけ。彼らが虐げられていたのでしょう」
彼女は淡々と語っていた。できるだけ感情をこめないように、しかし最後の一文にははっきりと、感情が乗っていた。
「それだけ、ですか」
「はい、それだけです。過去の足跡が残っている。たったそれだけの話です」
私は起こればいいのかわからなかった。それはきっとこの街の人にとって日常だったのだろう。人は当たり前のことが当たり前であると認識できないのだ。母親が意味もなく怒鳴るのを、父が初めて見るその日まで、それが異常だと気づかなかいように。
「でも、それを加速させてしまったのはきっと魔人です。私はそれを」
彼女は言葉をそこで途切れさせる。きっとその先は表せない何かだったのか、それとも言いたくない言葉だったかはわからない。
「言わなくていいですよ、別に興味がないので」
「す、すいません。・・・ありがとうございます」
どうして謝るのだろう。私、結構ひどいことを言ったと思うんだけどな。
「はぁ、よし!」
私があげた声にイドハさんは驚く。
「ど、どうしたんですか」
「いえ、どうでもいいなって思ったんです」
「ど、どうでもいいですか?」
どうでもいいのだ。この街に染み付いたものなど私には興味がない。きついけど、うざいけど、煩わしいけど、それだけだ。この街から出ていけば、消えていくものだ。解決しようとも思わない、私はきっと、英雄にはならない。
「さっさと解決して、帝都に帰ればいいんです。なんだったら、イドハさんも一緒に帝都に来ません? 多分帝都の方がましですよ?」
イドハさんはきょとんとした顔をしている。でも、すぐにこらえきれなかった笑いが飛び出る。
「それもいいかもしれませんね」
私も初めて見たその笑顔に、つられて笑ってしまう。そういえば、眼鏡はいつかけなおしたんだろう。
食事を楽しむ気分が微塵もなかったので残っているお昼ご飯を口にほおばる。でも我ながらいい出来である。それを見たイドハさんが私がさっさと仕事に戻ろうとしていると感じたのか、いそいそと食べ始めた。別にそういう訳でもないのだが。
「ん!?」
明らかにのどに詰まらした人しか出せない声を出す。
「ああ、急いで食べようするから」
私は水を手渡す。イドハさんはその水を全力でのどに通している。
「っはぁ!?」
どうやらのどにできたダムは決壊したらしい。
「しゅ、しゅいません」
「無事ならいいですよ」
食べて、少しだけ二人でぼーっとしていた。少し眠気を感じてきたので、目を閉じる。いい心地だ。うん、こういう時は、眠って嫌な記憶を消すに限る。
私は水が流れる音で起きる。いつの間にか長椅子の上で寝ていた。私は寝相はいい方なので勝手に移動したということはないだろう。つまりイドハさんが移動させてくれたらしい。
私は体を起こして、カチャカチャと音がする方へ向かう。予想通りにイドハさんが洗い物をしてくれていた。
「イドハさん、ありがとうございます」
「あ、ジョ、ジョゼ様起きましたか。い、いえ、料理を作ってくれたので、こ、これくらいは」
小さな体で必死に食器を洗う姿は少しほほえましい。でも多分私より年上だよね。でも抱っこしたい。いやまて、恐らく身長は140センチのあの体格で私を運んだ。しかも私を起こさずに、結構すごいことなのでは? というか私は抱っこされたのか。写真ないかな。じゃない、どうやって運んだんだ?
「ど、どうしました、ジョ、ヒョゼ様、あ、噛んじゃった」
うーん、まぁいいか。かわいいし、うんうん、何か深刻な話をしていた気がするけど忘れたな。そういうことにしよう。
さて、そろそろあっちもお昼ご飯を食べ終えたころだろう。ということで、レンズと接続しよう。
「おーっす、進捗どうですか?」
「やめろその言い方、ボスも似たような言い方して詰めてくるから嫌いなんだよ」
ふむ、そうなのか。次から気をつけよう。というか、ボスってマフィアのボスのことだよね。どんな扱い受けてたんだ。
「それで、何か、新しい情報とか得られた?」
「いや、特に新しい情報はないな」
そんな予感はしていたが、やはり特に目新しい情報はないらしい。
「うーん、流石に頭打ちかねぇ、そろそろ街のひそひそ話でも拾ってみるか?」
ひそひそ話、その言葉でいやな記憶が思い出す。でもちょうどいいや、ウロクにも聞いてみよう。
「ウロク、この街の差別、というか奴隷売買について知ってた?」
「・・・しっちまったか。知らないなら知らないでいいと思ってたんだがね。それに無視できんしな」
やはり知っていたらしい。知っていたんなら教えてくれても、いや正直知って色々とむかむかしたので知らなくて良かったけど。というか無視できない? 一体どういうこと?
「いや、俺も詳細は知らん、ただ他国から奴隷が運び込まれた可能性があるらしい」
それは、なんというか、純粋にいやな話である。そうだとすると、その運び込まれたという奴隷を見つけてあげたい気持ちがある。それに、必ず何かさせられることになるだろう。
「ま、とりあえず今日は休んでいいだろ」
「そうしよそうしよ」
「お、お昼は何もやってないような気がしますが」
「ま、収穫はあったんだしいいでしょ~」
レンズ越しに見る、ウロクの顔は完全にお前何もやってないだろという顔をしているが、私には関係ないのである。
「ま、あっちが何か見つけてるかもしれないからな」
イサムとレーシュ、そしてシゼル、あっちはちゃんとやっているんだろうか?
読んでいただき、ありがとうございます。誤字脱字報告・コメントお気軽にどうぞ。
少し重たい話でしたが、ジョゼはすぐいつもの調子に戻りますね。それがジョゼ。




