どこまで、飛んでいくのか
どうも、作者です。17話です。
今回は少し悲しいお話です、よしなに。
アレスは、戦争の時などに偵察や味方への伝達の騎士貴族の家に生まれてきました。別になんて事のない、普通の少女だったと思います。もちろん、騎士として、貴族として厳しく育てられました。私はよく周りの大人から褒められました。才能があると、私も期待に応えようと努力をしました。今にして思えば、それがよくなかったのでしょう、期待にに応えようとして、私の心はずいぶんと疲弊していたのです。
真面目だね、そんな期待、無視してしまえばいいのに。
えぇ、周りの先生方にもよく言われますが、私は真面目なのでしょうね、自分ではそんなつもりはないのですが。ですがそんな私を支えてくれたのが、一匹の大鷲、アレスです。
アレスは、戦争の時などに偵察や味方への伝達、つまるところは伝書鳩ですわね。そうやって育てられ、我が家に飼われていた子でした。
私がアレスと出会ったのは、お父様の戦争に備えた訓練についていった時でしたわ。そおとき、お父様の腕に止まっていたのが、アレスでした。私は、まだ幼かったもので、アレスが少し怖かったですの。そしたら、お父様がアレスを私の方に寄せて、
「おとなしい子だから、きっと受け入れてくるだろう」
と。私は恐る恐るあの子に手を伸ばしましたわ。そうしたら、あの子の方から私の手にお収まってくれましたの。訓練が始まるまでの数分間、アレスとお父様、三人で遊びましたわ。
楽しかったんだね。顔に笑顔が漏れているよ。
そ、そうかしら、でもそうですわね、私はあの時のことはきっと忘れませんわ。それ以来、私がアレスのことを随分と気に入ってしまいましたから、何かあるたびにお父様にアレスに会えませんかとせがんだものでしたわ。
お父様も、将来の訓練になるからと、アレスに会わせてくれましたわ。私は、辛いことがある度にアレスと遊んで、その心を癒してくれましたわ。ずいぶんと、アレスに救われていましたの。
ただ、貴族の子どもは、この帝都の学校に入るのが慣習ですので、必然的に家を離れることになりました。そうなれば、もちろんアレスとも離れることになりました。
学校でも、私は努力をしましたわ。フニール家の娘として、ふさわしいように、と。自分で言うのもなんですが、実際優秀な成績は残せたと思いますわ。そのおかげかいろんな人から頼られました。
昔とあんま変わってなくない?
そうですわね、ただ私もずいぶんと成長したのでしょう。昔よりはずいぶんと心に余裕がありましたわ。いえ、きっとアレスと会えるのだから問題ないとどこかで思っていたのでしょう。そう思っていたのです。
今から一か月程前ですわ。フーニル家の領に、小さな魔獣災害が起きました。お父様とアレスは、その災害を抑えるために、出動しました。いつも通り、簡単に制圧できるはずでした。しかしその魔獣たちは、空への攻撃手段があったのです。
それで、偵察に飛んだアレスが。
はい、打ち、落とされたそうです。それでも、それでもアレスはお父様に敵の情報をつたえたそうです。
それで、アレスはどうなったの?
飛び続けたそうですわ、西の方に向かって。
どうして、西にむかって、
フーニル家の領は、帝都から東の方角にありますわ。つまり、帝都に向かって飛んでいったそうです。どこまで、飛んだのかはわかっていません。
なら、生きている可能性は。
あり、えませんわ。あの子には、位置と、生命活動が続いているかどうかわかる、魔道具がついておりましたから。アレスが死んだとき、お父様の持っている、ペンダントが壊れるようになっていました。
...。
わたくしは、わたくしは、あの子の最後の姿さえ、見れなかったのです。学業があるのだからと、捜索を手伝うことすら、させてはもらなかったのです。
私は何か、できないかとやれることを探し続けました。その時、お父様に聞かせてもらった話を思い出したのです。
その昔、この帝国の前身となった王国には、送魂祭の日に光るポーションを使って、町を飾る習慣があったのだと。わたくしは、あの子が迷わぬようにできるのならと、そのポーションについて、調べました。
それはきっと私の自己満足でしかないと知っていながら。それでも、私はアレスに何かしたかったのです。何もできないのは嫌だったのです。
先生方に聞いたり、古い文献を探したり、そうしてレシピはどうにか見つかりましたの。ですが、いくら探しても、バルド草の行方だけは分かりませんでした。
「そうして、最終的にギルドを頼ってあなたの場所にたどり着きましたわ」
隣に座る彼女の顔は見えない。ただ、少しだけ嗚咽が聞こえる。今は、何も声をかけることはできなかった。
時間がたって日はすっかり落ちていた。緑色の月と、星々が夜を飾っている。彼女の横顔を見る。彼女は空を見ていた。何かを探しているように。彼女は私の方を向いて、目が合う。瞳の奥では何を探しているのだろう。
「ジョゼさん、そろそろやりましょうか」
「うん」
私たちは、川に近づく。慣習において、川に発光ポーションを流すことで、死者たちが迷ないようにするそうだ。発光ポーションに毒がないかと心配になったけど、『鑑定』やシゼルの分析も利用して安全性は確かめた。問題はない。
「では、やりますわ」
レーシュが持っているポーションは、夜の星空にも負けぬほどに輝いている。そのポーションを川に差し出す。光は、あっという間に拡散していき、流れにそって、帯のように、光の道を作っていく。不思議な光景だった、光の道に、緑の月だけが写っている。
「あの子は、たどり着けるでしょうか」
どこが、とは聞けなかった。今度ははっきりと、その顔を見てしまったから。涙が浮かんだその顔を、下からの光に照らされた涙を、空を見続けるその顔を。
「きっとたどり着けるよ。だって君の、親友なんだから」
「ええ、ええそうで、すわね」
ただ、私は川を見続けることにした。この光の行く先を考えながら、あったこともない、その子の飛ぶ姿を想像しながら。
時間にしたら、きっと一時間もなかったと思うけど。それでも随分と長い時間だったように思う。レーシュは気持ちに整理したのか、少しだけすっきりした顔をしている。
「ありがとうございます、ジョゼさん」
「んにゃ、私は依頼をこなしただけだよ。結局バルド草とったのもレーシュだしね」
私は笑う。だって今日は明るく送り出す日なのだから、最後ぐらいは笑うのだ。
「ふふ、そうでしたわね」
それにつられたのか、レーシュも小さく笑う。それは強がりなのかもしれないけれど、それでも彼女なら大丈夫だろう。根拠はないけれどそんな気がする。
「それじゃ、帰ろっか」
「ジョゼさん」
「ん? なに?」
なんだか、レーシュがそわそわしている、あんまり表情が見えない。
「よ、よろしければ、またあなたのお店に行ってもいいですか?」
私は一瞬きょとんとする。何せ、許可を取る必要もないことを聞かれたのものだから。
「どうしてそんなこと聞くの? 私の店は、いつでも開いているよ」
彼女は、豆鉄砲を食らったみたいな顔をした後、小さく声を漏らしながら笑う。
「それもそうですわね」
私たちは帝都の中心まで戻る。緑の月を背にしながら。
読んでいただき、ありがとうございます。誤字脱字・コメントお気軽にどうぞ。
彼は何を目指して飛んで行ったのでしょうね。いらない話ですが、この世界の月も、東から西に向かうそうです。




