ミア迷宮完結編! その7
菜緒復活?
すいません。区切れなかったのでフロアクリアとエリスは次回に持ち越しとします。
*今回は会話多めです
「カバさん大人しいなの!」
「これ食べる~?」
「姉様危ないですよ……あ、食べた」
先程までの凶悪さは鳴りを潜めており、今は動物園にいる大人しいカバそのもの。
違うのは鞍が備わっている点と、ペットの様に懐いている点。
疑心暗鬼で近付こうとはしないエマ達とは異なり、リンランソニアは直ぐに打ち解けて触れたり擽ったり、さらには足元の草を千切って与えると進んで口を開ける程の仲良しになっていた。
「そんで『後はヨロシク〜』の後はどうなったんだ?」
よくも脅してくれたなとジト目で睨む。
「それがね~私にも〜良く〜分からないのよ~」
私の心情を理解しているから、視線をカバへと向けながら首を傾げて惚けてみせる。
偶然? それは有り得ない。止まったのには必ず理由がある筈。本心から出た言葉だろうが分からないでは済ませたくない。
まさかただの予定調和だった? ってことはあの姉妹の性格を考えたら無い……よね?
まあ暴走が収まったのだから良し! としたいのだが、暴走スイッチがどこにあるのかだけでも見極めておかないと、コレだけ接近していたら落ち着いて話しも出来ない。
「どうみてもラーたんが何かしたからこうなったんじゃない?」
その証拠? に全てのカバの体は不自然なくらいにラーナに向いており、つぶらな眼も怖いくらいにラーナの一挙手一投足を見逃さまいと注視している。
この状態は主従関係にも見える。
「え? えーーと……エマちゃんが〜消えた直後に~急に~大人しく~なっちゃったの~」
「あの後?」
「う、うん」
「何かした? もしくは何か隠してない?」
「ううん、なんにも」
この笑顔はマジの困り顔。笑って誤魔化すかと思ったがそうではなかった。だとしたらこの一連の流れはラーナの与り知らぬということ。
前回とはラーナの立ち位置が違う? ミアノアがラーナをハメている?
……ラーナに対して彼女ら自らが企画するのはあり得ない。可能性で言えばラーナよりも立場が上の存在。そう思えば腑に落ちる。だから何も言わずに流されている。
ただ何のためにこんな真似を?
「カバには真の強者の笑顔が分かるのでは?」
「えへへ〜そうかな~」
確かに人類最強なのかもしれないが……この締まりのない笑顔が真の強者?
──ラーナはダメだ。あとシェリーも。この二人はゲームを満喫している。
ならばとあの場にいた菜緒を見る。菜緒は合流時には既に泣き止んでおり、ラーナの背に隠れながら私達の到着を待っていた。
その二人に菜奈が真っ先に駆け寄り一言二言話してから菜緒を連れ出し、皆から離れた場所で何やら話し込んでいた。
その時の様子だが一つを除き、普段と変わらない表情や仕草で話していた。なので期待に応えてくれるだろう。
と声を掛ける前にコチラの視線に気付き、菜奈が菜緒を引き連れこちらへとやって来た。どうやら主導権は見た通りに菜奈が握っていたようだ。
「先程は取り乱したりしてごめんなさい。心配をお掛けしました」
微妙に離れた位置で立ち止まった菜奈の脇を擦り抜け私達の前へ。そして開口一番、菜緒がぺこりと頭を下げてきた。
見た感じではいつもの凛々しい表情に戻っている。もう別れ際に見せた怯えた雰囲気は一寸も感じられない。
「もう平気?」
「ええ。それよりどうして敵が『カバなのか?』と、大人しくなった理由が知りたくない?」
「分かったんか?」
「ええ。あの子達らしいダジャレね」
凛々しい表情で力強く頷く。
およよ? そうきたか。自らか、姉妹の絆が働いたかは知らないが見事に立ち直れたようだ。
それより大人しくなった理由だけでなくて、カバでなければならなかった理由があったんだ?
「先ずは最大の疑問である「どうして大人しくなったのか」の理由から。それはラーナさんのある行動が原因」
「わ、私~?」
やはりこいつだったか、と皆の視線がラーナに向けられる。
いや別にラーたんが悪いわけじゃないし責めてるわけでもない。寧ろ止めてくれたんだから感謝している。
だからオドオドしないで堂々としてなさいって。
「はい。正確にはラーナさんが無意識下で取った仕草が、ですが。ちょっと試すので、カバ達の動きをよく見ていて下さい」
菜緒が片腕をビシッと水平に突き出してから親指立ててグーをして見せる。するとその仕草に全てのカバが一斉に一度だけピクリと反応を示す。
ただ反応はした、けどそれがどしたのといったレベルの動き。
「人類がまだ地球圏から出れなかった時代。陸上での移動手段として使っていた、小回りが利く乗り物は?」
……大昔……乗り物……タイヤ……車?
「そう。その車の中で形を変えながら今でも存在している、誰でも気軽に利用出来る乗り物と言えば?」
……タクシー?
「そう、ご存じのタクシー。今は考えるだけでどこからともなくやって来て無料で乗せてくれるタクシー。とここで皆に質問。タクシーの使命とは?」
……使命?
「そう。現在のタクシーの趣旨で考えてみて」
「……客を目的地まで連れて行ってくれるサービス?」
「そう、現代で言えば転送装置がない場所への移動手段。つまり我々の移動を『カバー』してくれている」
「…………カバーとカバ」
「…………うわ」
「そうきたか!」
「このオヤジ的発想はノアやね!」
「今とは違い、商売として成立していた大昔。その頃は『競争原理』が常に働き客の奪い合い。だからそれらしい者を見掛けたら我先にと近付く。でも客かそうでないかはタクシー側からは見分けがつかない。なので客側が乗車の意思の表れとしてコレを採用したのが始まりらしいわ」
「もしかしてコレの起源がソレ?」
「と言われている」
「「「へーーーー」」」
ホンマかいな。
「起源は別として、つまりコイツらはただ単に迎えに来てくれた、と?」
「結果的にはそうなるわね」
「つまり今、大人しいのは……乗車待ち?」
「そう」
グーの音も出ない。もう頓智の粋とは言えない難癖レベル。
私は知らないしエリーやマリマキも知らなかっただろう。
もしここに菜緒がいなかったら詰んでたかもしれないレベル。
「そう言えば昔見たアニメで「その仕草」を見掛けたような?」
「ああアレね」
また始まっちまったよ。
「どんな内容?」
「誰もいない夜の山道で、配達を兼ねての車の運転の練習をしていた老人が『ひっちはいかー』と出会ったんですが間に合わずに轢き殺してしまったんです!」
「へ?」
「一応『ひっちはいかー』の飛び出しということで、老人にはお咎め無しとなり練習を再開したのですが」
「ですが?」
「ある日、何気無くバックミラーを覗いたら、亡くなったはずの『はいかー』さんが、そのポーズのまま全力疾走で追い掛けて来たんです!」
「……もしかしてホラー系アニメ?」
「いえ、ドキュメンタリーアニメです!」
「……ネタバラプリーズ」
「その後、次々と現れる『はいかー』と抜きつ抜かれつのバトルを経験したことにより、運転技術が向上したお爺さんは世界最高峰のレースで見事年間王者に輝き、富と栄誉そして念願だったハーレムを気築き上げ幸せな余生を過ごしましたとさめでたしめでたし、というストーリーです!」
「何事も努力次第で夢が叶うという良い見本なアニメでしたね」
「はい! エンドロールの最後にお爺さんがグーを突き出した時の笑顔がとても感動的でした!」
──ここにも暗号を知っていた奴がいたか……いやそれよりそのアニメってコメディじゃないの? あんたら姉妹は色々とおかしいよ! ……あっそうだ!
ツッコミを入れようかと思ったが、先に確かめとかなければならない重大な案件を思い出す。。ここで確認を怠ると、今後取り返しのつかない事態もあり得る。
「いやそっちはもういいや。無事問題案件が解決したところで申し訳ないんだけど、もう一つだけ確かめておきたいことがあるの」
重大案件。なので表情を引き締めてから菜緒に話し掛ける。
「? 何を?」
「菜緒さんや、ちょいと後ろ向いててくれるかい?」
「え? うん」
「大事な事だから、いいというまで決して振り向かないように」
「へ? あ、はい」
私だけでなくそばの五人の表情が引き締まっているのを見て何かを察したのか、素直に指示に従いこちらに背を向ける。
そこで皆に目配せをしてから菜緒の背後でしゃがみ込み、それから思いっきり……
バサッ!
マントごとスカートを捲り上げる。
「うん、履いてたね」「青だな」「どちらかと言えば紫かかった青ですね」「マキ見てみ! 尻が殆ど透けとるで!」「コレ正面から見たら前屈みになるヤツやわ」「総レース柄で可愛い~」
私だけでなく皆真剣に覗き込みそれぞれの評価を口にした。
大方の予想通り履いていた。予想外だったのは「いろっぺー」要素だけ。
──しかし相変わらず綺麗な御御足だなや……
身体強化を行える一般人とは異なり、我々探索者がこのレベルの『美』を手に入れるのには途方もない労力を必要とするに違いない。一体どんな手入れしたらこうなるんだろ?
そんな事を考えていた太股に手が伸びる。
──ハッ! そうじゃないって! 泣いた原因がパ〇ツにあるのかどうかを確かめる目的で捲っただけだって!
本来の趣旨を思い出す。ただ予想を覆すことなく履いていた。これでは判定を下せない。
早々に手を引っ込める。私の後ろからは一斉に「うーーん」と悩む声が。
その時、スカートを持っていた手が勢いよく払い除けられる。
見ればパ〇ツの主が真っ赤な顔の涙目で私を睨んでいた。
「…………」
「い、いや……綺麗な脚だと思って、ね?」
パーーン!
頬に紅葉マークが出来た。
「それでは〜全員乗ったかな〜?」
「「「はい」」」
手綱を握る手に力が入る。これからあの爆走が始まると思うと五体満足で目的地に辿り着けるか不安になってくる。
と言うのも、跨ぐというより座るとの言葉がぴったりの広々とした背。これでは「ニーグリップ」で姿勢制御が出来ないし、どうしても大股になってしまい不安定この上ない。
そのせいでスカートを履いている菜緒とランはそれぞれの姉妹の後ろに同乗していた。
「それじゃ〜次のフロアに~進める魔法陣まで~お願いね〜」
ヒヒーン!
「「「…………」」」
それ馬の鳴き声ね ×全員
カバの機嫌を損ねたくなかったのでツッコミは我慢した。
馬上、では無くカバの背で揺れに耐えること約十分。
唐突に全てのカバが停止する。
「こ、ここがゴール?」
「池とお立ち台以外何も無いなの」
何処までも続く青空と草原の中を快走したその先にはそこそこの広さを有した、お世辞にも綺麗とは言えない水質の池が。
この場がカバにとっての始発点であり執着点であるのは、正面に広がる池を見れば一目瞭然。多分ここがこいつらの住処を兼ねているのだろう。
その手前には草の背丈よりも僅かに高い位置で揃えられた一枚岩の舞台? とその上に岩が一つ置いてあるだけ。
池の畔でカバが膝を折り、降車を促してくる。これ以上は動かないなと判断し全員カバから降りると順に静々と池へと入ってゆく。
モノ言わぬカバとお別れをし周囲を観察する。
先ずは大岩の舞台から。
「あっ魔法陣がありますぅ!」
この模様は間違いなく転送用魔法陣、なのだが条件を満たしていないらしく輝いていなかった。
「この岩は4~50kgといったところか」
シェリーがどっこいしょっと両手で持ち上げ重さを計ってから下に降ろす。
次に池を眺める。すると中頃、約二百m程先に唯一の小島が見えた。
「ねえ、何か見えない?」
遠くてハッキリとしないが小島に何かがある、いやいる。
「……人?」
こんな場所に人がいる? 誰?