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ミア迷宮完結編! その6



「それじゃ始めるわよ。みんな準備はいい?」

「「「はい」」」


 十一人が横並びで立ち上がる。

 その十一人がギリギリ視界に入りきる後方で立ち上がる。


「ね、ねえやっぱり考え直さない?」


 他に案が無いとは言えあまりにも無謀すぎる。この手の「落ち」は上手くいかないと相場は決まっている。


「まだ踏ん切りがつかないの〜?」

「当たり前じゃん! この作戦、チキンレースと同じじゃん!」

「それもまた乙」

「何が乙じゃこの脳筋野郎がーーーー!」

「お? エマがキレたで」

「どうどう〜」


「ウキーーーー!」


 もうどうなっても知らんからね‼︎


「それじゃ……『聖なる盾(ホーリーシールド)』」


 全員の前に七色の光の盾が現れる。

 前回迷宮で披露してくれた防御シールドの上位バージョンで、魔法だけでなく物理攻撃までも防いでくれるという優れもの。

 ただし私の手品(魔術)やリンの忍術(ニンニン)といった特殊な攻撃は防げないらしいが今回の敵た単なる体当たりしてこないだろうと踏んで、エマが失敗した場合の最後の保険として事前に掛けさせた。


 準備が整ったところで地響きが伝わってくる。

 そして程なく地平線を埋め尽くした。


「う、嘘……」

「な、なんやアレ」

「ま、マジけ⁈」


 何名かの顔が青褪めてゆく。


「菜緒」

「はい?」

「ちょっと試して……おきたい」

「……ここから届く?」

「うん」


 前を向いたままの姉妹の会話。

 菜緒の許可を待たずに菜奈は剣を抜くと、剣先をカバへと向け小声で何かを呟き始める。

 その様子を見ていた仲間達はカバへと視線を向ける。『光の盾』が城壁の如く現れ、横並びのカバの行く手を遮る。


 お? いけるかも……いやいって貰わないと。


 期待を込めて眺めていたがカバが光の盾に接触した瞬間、盾がすーっと消滅してしまう。


「「「!」」」

「うんやっぱり……無理だね」


 驚きと落胆の中、一人ウンウン頷きながら呟くと、皆の前に展開していた光の盾を解除してしまう。


「な、菜奈さん?」

「これ多分……防げない……ってかちょっと不味い……かも」

「な、何がや」

「あのカバ……物理だけじゃなくて……魔法無効化も入ってる」

「何故分かるの?」

「私の『聖なる盾(ホーリーシールド)』は……MPを消費する。つまり……()()()()()()()()()()()()()()()()だから」


 ……あ! (リンの)黒い稲妻! 多分あれもMP系の忍術だよね?


「お姉様! 不味くないですか?」

「ええ打つ手なし。状況は最悪ね」


 引きつった笑みを浮かべながらジリジリと前進を始める姉妹。

 珍しく彼女らも動揺しているらしく「攻めたいが逃げ出したい」との葛藤が分かり易いくらい言葉と態度が合っていなかった。


「まるで探索艦ですぅ」


 そ、そう、探索艦と同じじゃないか!


 探索艦の外装は既知宇宙の中でも最強の硬度。それは物理攻撃の無効と言えるし、魔法(電磁波)も一切通らない。

 特に探索艦をキラキラ石採掘(自分の趣味)に私的流用していた自分としては、苦も無く岩石を粉砕したりくり貫く性能を目の辺りにしている訳で、この後に待ち構えているであろう悲惨な結末が容易に想像が付いた。


 皆も同じ感想なようで、あのラーナでさえ皆と同じく一歩二歩と後退りしていた。


「エマ! どのカバでもいいから落とし穴を試して!」

「え? 予定と違うよ?」

「いいから早く!」


 まあ落とし穴ならこの距離でも作れるかと急かされるままステッキを振り、中心で快走している一体の前と遥か上空の二つに真っ黒な穴を開け繋げる。だが……


「あ……消えた」


 上空の穴が消滅した。

 基本的に穴は二つで一対。上空の穴が突然消え失せた、それは対となるカバの前に開けた穴が消滅したことを物語っている。


「消えたの~?」

「うん、それはそれはきれいサッパリとね」

「そ、それは不味いわね~」


 エリーが珍しく冷や汗を流して狼狽し出す。皆も同じようで私とリン以外は明らかに動揺している顔付きだった。


 動揺の原因。実は二つ目の案がエマの能力を使いカバの背中の鞍に「穴」を出現させて乗り込むというもの。

 この方法は穴さえ繋げられれば確実に乗り込めるという利点がある一方、穴同士を繋ぐにはエマが対象となる箇所を目で直接目見なければならないのが難点。

 そのエマの動体視力は至って平均的。さらに精神面も年相応。

 カバの背に乗っている鞍を目視で判別出来るのはいいとこ二百mくらいからで時速百kmで迫るとしたら約八秒以内で十二対の穴を繋げ、自分を含めた全員が飛び込まなければならない。


 さらにもう一つ「縛り」が存在する。それは繋がるまで誰一人としてその場から動けない、というもの。

 ただでさえ動き回るカバを目で追いながら穴を設置するには半端ない集中力を割かなければならないワケで、仲間の突入用の穴にまで気を遣う余力はどこにもない。

 なので他の者達はエマの負担を少しでも減らすべく、迫り来るカバでも眺めながらジッと耐えなければならなかった。

 だが耐える前に新たに舞い込んだ事実。カバの周囲は魔法が無効化されるようで、思惑が早々に破綻、ジリ貧状態となった。


 因みにエマは何とな〜くこうなる気がしていたので皆に比べれば動揺は少ない。


「こここここりゃアカン! サッサと逃げるど!」

「にににに逃げるって何処へ?」

「上空しかないなの!」


 横一列で迫りくるカバ達の隙間は無いに等しい。さらのここまで接近されてしまうと、一部を除けば足を使った逃走は不可能。


 ──私の心の叫びを無視するからこうなるんだわさ!


 迷っている時間はもう無い。急いで退避ルートを繋げないと。

 奴らの後方は土煙で目視は効かない。

 左右に逃げても奴らの視界の範囲なら即追撃。

 残るは上空のみ。


 ──これしか無い!


 ステッキを掲げ先ずは遥か上空に出口の穴を作ってから手元のスイッチを押す。すると全員のそばに人一人分が通れる穴が出現する。

これはステッキの新機能で、予め決めた場所にボタン一つで穴を出現させられるという便利な機能。



「一度上空に退避すっから全員(穴に)飛び込め!」


 皆が反射的に穴に飛び込んでゆく。これなら余裕で間に合いそう。

 自分も入ろうとしたその時、青褪めブルブルと震えた状態で立ち尽くす菜緒が視界に入る。


「何してるの! 早く入って」

「い……イヤ……私無理……」


 遥か上空に開いた漆黒の穴をみて足元の穴から後退る。

 カバの足音はもう間近。

 ここに辿り着くには数秒もかからないだろ。


 ──だーーーーもう間に合わない! 


 そうは思うが体が反応し菜緒に向け足を一歩踏み出していた。


 景色がスローモーションの如くゆっくりと進む。

 手を伸ばすがいつまで経っても距離が縮まない。

 その時、誰かに肩を掴まれクルリと体の向きを変えられると菜緒が飛び込む筈だった穴に足が入ってしまう。


 ──だ、誰?


 地面の感触が無くなり下へと沈み込んでいく。

 視界に入ってきたのはラーナだった。

 スローモーションで進む中、彼女は素早く菜緒をお姫様抱っこすると、エマに向け親指立ててグーをして見せる。そして口を動かす。



 ……後はよろしくね……



 そう聞こえた。


 引力に引かれて穴に落ちてゆく。

 視界の片隅にはカバの第一陣が通り抜けてゆく。

 そして最後に見えたのは菜緒を抱えた笑顔のラーナに群がるカバ達。

 そこで全身が穴に入りきり視界が切換る。

 気付けば上空でパラシュート無しのスカイダイビング状態で地面に向けて落下していた。


「「「ひえーーーーー」」」


 真下には先に飛び込んだ仲間達の姿と悲鳴の数々。


 ──…………ハ! こりゃ不味い! 二人は気になるが今はこっちを何とかしないと。


 着陸先となる場所を探す。

 真っ先に視界に入ったのはカバが通ってきた跡の地面。


 ──良しあそこならカバの死角になる!


 落下の先に大きな穴を開き着地点とした地面にも穴を開け繋げる。さらにその穴の四十m程直上に一つ、最後に地面に垂直にもう一つ穴を繋げて完成。


「リーーーーン! フォローしてーーーー!」


 息をするの困難な状況だがリンなら聞こえる! 

 そう信じて大声で叫ぶとランを抱えて落下していたリンとは別にもう一人、最後に開けた穴の前に分身を出現させるとこちらに向け大きく手を振って応えてくれた。


 その直後、先頭のマキが落下先の穴に潜り込み後続も後に続く。

 その(入口)の出口となる地面の穴から姿を現すと落下速度そのまま()()()()()()()()()()

 だが今度は逆向きに引力に引かれるので速度が徐々に落ちてゆく(逆バンジー状態)

 そして減速が終わる寸前に上空に開いた穴に最突入。最後の横穴(出口)から地面へストンと放り出された。


「ハアハア、み、みんな怪我してない?」


 リンラン以外は尻もちをついた状態。見た感じ大した怪我もしてなさそう。


「……菜緒は……どこ?」

「ナーラさんもいないなの!」


 皆も周囲を探すが何処にもいない。

 それが分かると全員の視線が私に集まる。


「分からない。多分あそこ」


 煙が巻き上がる方に視線を向ける。


「逃げ遅れたのか?」

「多分。菜緒が上空に開けた穴を見て逃げるのを躊躇って。そこにラーたんが駆け付けたところでカバに襲われて……」


 言葉に詰まる。その後は……分からない。

 歯切れの悪い言い方を見て皆が察してしまう。


「なら二人共……」

「な、菜緒はなんで躊躇ったんや?」

「それは……私にも分からない」


 雰囲気から「他に何か原因があるな」と思ったが想像がつかない。なので取り敢えずその場は胡麻化す方向へ話をずらす。


「……あ! 今日もスカートだから? もしかして今日はパ〇ツ履き忘れてたとか?」

「それでか」


 ……とは言ったものの子供じゃあるまいし、○ンツ履き忘れたくらいであそこまで泣くとは思えない。あの雰囲気は間違い無くパン○が原因じゃない、と思う。


「ま、まあやられたと決まった訳でもないしな」

「そやそや。姉さんの足なら逃げれるってな」

「そうそう!」


 それは言えてる。あの時のフラグになりそうな言葉は気になるけど。


「皆さん、そう言えば静かじゃありません?」


 ランの指摘に全員が口を閉ざし周囲を見回す。


「……振動が収まってる」

「奴らが動きを止めたのか?」


 一斉に顔が同じ方向に向く。


「「「あ!」」」


 土煙が徐々に収まると見えてきたのは横一列に並んで停止しているカバの姿が。


 どうやって止めた? まさかラーたんが?


 モニターを開きラーナの状態を表示させる。

 ステータスでは『live』となっており生存扱いとなっていた。


「ラーたん生きてる⁉︎」


 呼び掛ける。すると『あはは~』との返事が。そこに菜緒もいるのかと尋ねると『いるよ〜』との返答。

 こちらも全員無事だと伝えそちらに向かおうかと聞くと『は〜い、こちらは〜もう大丈夫だから~ゆっくり来てね~』と。


 土埃も晴れてきた。

 何故止まったかは知らないが、今は敵意も感じられず大人しくしているのでもう大丈夫だろう。

 なので今度は歩いて移動した。


「もう一度、ダイビングしたいなの!」

「そうか? なら今度はドリーでやるか」

「ほ、ホントなの⁈ やったーーなの!」

「リンリンもやりたいのね〜」

「ああ。勿論リンもだ」

「良かったですね、姉様」

「お姉様も!」


 和気藹々の一団。その後方では、


「ウチはもうええ」

「ウチもや」

「私も〜」


 肩を落としてトボトボと歩く三人。

 確かにパラシュートも無しで高所から落ちたらトラウマにもなり得る。

 そう思っていると菜奈が私の腕にしがみ付いてきた。


「エマちゃん……ありがとう」


 ()()()()()耳元で囁く。


「何が?」


 年相応な自然な振る舞いに疑問も感じずに菜奈に合わせた小声で聞き返す。


「菜緒」

「ん? 特にお礼を言われるようなことはしてないよ? 言うならラーたんに」

「ラーナさんにも言うけど……エマちゃんにも感謝を」

「そお? ならその感謝、受け取るね」


「うん! エマちゃん……大好き!」


 首に抱きつかれた。


 ……へ? そ、そう? って鎧が当たって痛いって。抱きつくなら鎧を外してからにして。


 何に対しての感謝かは知らないが、菜奈が喜んでいるからこれ以上の詮索はせずに皆の後についていった。


次回はフロアクリアと「歌って踊れるスーパーアイドル」の登場……の予定。

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