ミア迷宮完結編! その4
出た途端、眩しくて目を閉じる。だが迷宮にいるという自覚があるからか直ぐに目を開ける。
「……ここが迷宮?」
視界に真っ先に飛び込んできたのは地面に生えている、膝上ほどの青々とした草。
そう、自分達は草原? の中に転送されたようだ。
仲間達も同じタイミングで辺りを見回す。
周囲何十キロに渡り視界を遮る物が何もない、360度綺麗に弧を描いている地平線。
さらに迷宮の中の筈なのに空があり太陽までがサンサンと輝いるではないか。
「これは……不味いわね」
菜緒の呟き声。
「何が?」
周囲に目を向けながら聞いてみる。
「目印、というか目標が定められない」
確かに。
こんな状況では何処から調べたらよいのか、行先が決められない。
今までの迷宮探索では「次の階に行く階段」や「迷宮からの帰還用魔法陣」など先に進む「出口」となるモノは常識の範囲内の大きさだった。それをこれだけの広範囲の中からピンポイントで探し出すには、余程の強運の持ち主でない限り無理な話で、下手をしたら永遠と彷徨い続けることになる。
「むこうで何かがうごいてるのね〜」
「へ?」
リンは片手の親指と人差し指で輪を作り、その輪を通して地平線に目を向けていた。
皆も見ている方向に目を向けるが……誰一人として見つけられなかった。
「あ、いい案を思いつきました!」
「「「?」」」
「ラーナさんに姉様を出来るだけ高く打ち上げて貰い、ついでに周囲を見て貰うんですぅ!」
……おお! それは良いアイディアかも。リンなら難なく着地出来るしね。
「あれれ〜? 不味いかも〜」
「何が?」
何故かの困り声。
「目が合っちゃったのね〜」
……へ?
「みんなふせるのだ~」
本人が伏せたので皆も反射的に伏せた。
「姉様、何が見えます?」
まだ気配はしない。だが今、顔を出せば迫りくるその何かに確実に見つかってしまう気がする。なので今はリンだけが頼り。
そのリンは我々と同じく草むらの中で敵地を偵察している兵士と同じくうつ伏せになりながら、先程と同じ仕草で迫る「何か」を観察していた。
「えーーと……名前は弾丸カバ? 数が二百で~レベルは二十九~」
──へーー障害物関係なく見えるんだ。
これで彼女が使っているのは魔法かスキルだと確定。
「でどないする? 戦うなら準備せんと」
マキの言う通り、先手を打った方が戦いを有利に運べる。
名前は気になるがレベルは高くないので腕試しには丁度いい。
「今は戦わない方がいいのでは」
菜緒の提案。因みに理由は?
「来たばかりでこのフィールドの特性が何も判明していないでしょ」
確かに。遥か遠くからこちらを見付けられる能力を有しているのはアイツ等だけとは限らない。能力も不明で数も多い。倒すのに手間取っている間に騒動を聞き付けた増援がわんさかと押し寄せるかも。
囲まれでもしたら隠れる場所が無いここではテレポートの一択となる。
但し、無事に逃げ帰っても「あの魔法陣」を使う限りはここを攻略しなければ先へは進めない。なので可能な限りは踏み留まりたい。
──ん? 先に進めない? 進む?
「我は一戦交えた方が良いと思うが……」
はいはいシェリーさんや、理由をお聞きしても?
「早急にこの迷宮のレベルや特性を確かめておくべきかと」
うん、こちらもごもっともな意見。
「なら決めたラインを越えたら戦うということで~?」
「リーダー、それでいい?」
エリーが妥協点を提案。そのままラーナに丸投げ。
「は~い。合図は~私が決めま~す」
良かった起きてたよ。口を挟まずウキウキオーラも出さずに大人しかったから寝てるかと思ったよ。
まあ戦うにしても勝つ手段はいくらでも思いつく。
例えば落とし穴と盾かマッチョの合わせ技で防御している間に野郎どもが反撃に転じたり。さらにリンの「分身の術」で囮として使っても良い。
勿論、菜緒の危惧も気になるけども帰還の準備もしてあるし、エリーさえ元気ならばいくらでもやり直しが利く。
「では準備だけはしとこかね」
「「「了解」」」
それぞれが横になったまま準備を始めたところ、敵を監視していたリンからの報告が。
「へ~? 逸れていくぞ~」
真っすぐこちらへ猛進していたが我々が伏せてからは微妙に逸れ始め、今では勢いそのまま現れた方へとUターンし始めたそうだ。
「エマ姉様!」
どしたソニア急に?
「視認している敵にのみ反応を示すタイプなの!」
「……つまり今は見失っている? もし草から少しでも顔を出せば見つかっちゃう?」
「敵との距離にもよるけどある程度離れたら座った程度ならば見つからないなの!」
「そうなの?」
「エマちゃん……大地は丸いから」
「……お! そーゆーことか!」
という訳で接敵しなかったのでやり過ごすことに決めた。
それから十分程、仰向けになりながらお空を眺めて過ごす。
一応、リンに周囲を見て貰ったが見える範囲には何もいないと。なので上半身を起こして座る。
すると皆の無事な姿が目に入る。
「お姉様、一つ気になる点が」
ランが周囲を見回しながら声を掛けてきた。
ラン曰く、受付けのお姉さんもここに来ている筈だが、見える範囲に訪れた「痕跡」が見当たらないよと。
そうそれ!
彼女は先に進めたからこそ無事に戻って来れた。彼女は一人でここを切り抜けた。つまりここを無事に通過できたということ。しかも魔法は一切使わずに。
通ったのだから、ランの言う通り半日程度なら痕跡が残っていてもいい筈。
コレの意味する所は?