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ミア迷宮完結編! その3


「えーーとこれって……」

「決まりですので」


 料金と鑑定終了までの流れが説明が書かれた『念書』を差し出したまま笑顔を崩さない店員さんとは対照的に、カウンターを挟んで座っているエリーは渋面。


 この窓口で行っている『鑑定』は装備品やアイテムを対象とした二種類のみ。

 一つは「呪われているかいないか」の判別で、定額で夕食一回分相当の料金ととてもシンプル。

 もう一つの「名」の判別までしてくれる方は……料金に問題が有った。


「料金設定が……ない?」

「はい」


 規定料金なるモノは無い。その代わりに『出来高制』を採用しているとのこと。


 エリーは先程(教会で)無事に『鑑定(ジャッジメント)』の魔法を取得した……筈なのだが、何故か『ボルダック商店』の二階に来ている。



 その理由を説明する前に『鑑定(ジャッジメント)』と『解呪(ディスペル)』についての説明を少々。

 先ず『鑑定(ジャッジメント)』だが「名」が判明していない、モヤの掛かった品を確定させる手段は主に二つ。


 ①装備品や効果を発揮するアイテムの類いならば「一か八か」で使って試す。ただこれは非常にリスクが高い。もし試す品が呪われていた場合、試用者はその身に『呪い』を受けることになり、さらに攻撃や防御の効果が「ー」だったり、ステータスに悪影響を及ぼす効果だったら……目も当てられない。


 ②ボルダック商店二階の買い取りコーナーで鑑定を依頼する。呪いの恐怖に怯えることなく眺めているだけ。こちらなら代金さえ払えばどんな品でも鑑定してくれる。

 そう、()()()()()()()()()


 厄介なのは(呪いの)種類がランダムである点と呪いの解呪手段である『解呪(ディスペル)』の魔法。

 呪いを受ける場面は「装備やアイテムを使用」「トラップに引っ掛かる」「敵からの攻撃」の三つ。


 対し解呪の方法は二通り。

 一つは司教(ビショップ)が覚える『解呪(ディスペル)』の呪文。必要なのはMPだけとお手軽に使えるが、残念なことに(エリーは)まだ覚えていない。


 もう一つは教会に行き常駐している司教様に『解呪(ディスペル)』を使って貰い呪いを解いてもらう。

 ただし媒体となっていた品や()()()()()()()()()()()()()()()()によっては高額なお布施を要求される。

(噂によると教会は冒険者パーティーの財布の中身を知っているらしく、大抵は財布の中身の99%に当たる額を請求してくる、とのこと。払えなくはないが躊躇う微妙なライン)


 ただし司教が使う解呪(ディスペル)は呪いの種類に関係なく100%成功する。

 そして「いやらしい決まり事」として、解呪後の装備やアイテムはゴミと化し、再利用や売却は不可能な状態で残る。


 エリー(司教)がどのレベルで解呪(ディスペル)の呪文を覚えるのか、誰にも分からない。

 今回大幅にレベルアップを果たしたがそれでも覚えられなかった。

 もしかしたら上限である五十かもしれない。


 とはいえ「装備やアイテム」で呪われる心配は『鑑定(ジャッジメント)』を覚えたことにより消え失せた。

 これで不良在庫となっていたアイテムの鑑定が行えると。

 そんな状態でお気楽に鑑定を行ったところ予想もしなかった事態が。そう、判別不能な品があったのだ。


「「「そんなバカな……」」」


 皆が一斉にモニターを開き「ヘルプ」で検索したところ『特例品(キーアイテム)』なる物が存在するらしく、それらを確定させるにはボルダック商店(ショップ)に依頼するのが唯一の手段と記載されていた。


 因みに『特例品(キーアイテム)』はレア度が非常に高いらしく、特定のイベント攻略には欠かせない品らしい。



 とのことでやっと冒頭に戻るが、カウンターにて対峙する店員さんから教えられたのは「『特例品(キーアイテム)』の鑑定に関しては『報酬制度』を採用している」とのことで、判明した品を店頭で販売した場合の価格の()()を成功報酬として貰う決まりとなっているそうな。


 低額ならば良いが万が一、目も飛び出る様な価格帯のレアアイテムだったら……


 鑑定料を支払えない場合、鑑定料での()()()()()。取り上げられた物はそのまま店頭のショーケースの中に陳列されることになる。


 結果だけ見れば依頼する側は損はしていない、がある意味大損するというやるせない状態。

 もし取られた品が欲しければ客として正規料金を用意して買い戻すしかない。

 いやイベント攻略に必須な品なのだからいずれは買い戻さなければならない。

 つまり鑑定とは賭けの要素を帯びているのだ。


 因みに目の前に置かれた『念書』にはご丁寧に特例品(キーアイテム)」の代表格である『勇者の(つるぎ)』が一例として載っており、店頭販売価格は十億、鑑定報酬は一億となっている。

(余談だが、名さえ判明していれば使用済みでも売値の半分である五億で買取りしているのと、呪われた品の買取り、そして販売も行っていると()()()()()()()書かれてあった……)


 ──この店、相当悪どい……


 それを見て躊躇うエリー。

 書面での説明は店での決まり事。初めに謝られたのは交渉(ネゴシエーション)には応じられないとの表れ。

 なのでしつこいようだが今取れる選択肢は「依頼するか人体実験を行うか」の二択であり、どちらを選んでも賭けとなる。


 見守る仲間達もそのくらいは理解している。なので交渉担当のエリーがどちらの判断を下すのか「固唾を飲んで」見守るしかなかった。


 そのエリーは(もや)が掛かったアイテムを暫しの間、見つめていたが……


「お願いします~」


 何か確信があるのか、一度頷いてから自信を持って依頼を出す。


「ほ、ホンマにええのか?」


 マリが心配そうに呟く。その問いにエリーは鑑定品を見つめたまま無言で頷く。


「ええやんたかがゲームやし。なんとかなるわ」

「そうなの! 「お約束」で得たお金だから惜しくないなの!」

「と言うか選択の余地は無い……ですよね?」

「リンリンもランランのいけんにさんせいなのね〜」

「私も同意」

「菜緒が賛成なら……私も」


 マキ、ソニア、ラン、リン、菜緒、菜奈はエリーの決断に賛成、と。

 シェリー姉妹は珍しく? 意見を言わずに成り行きを見守っている。


 確かに軍資金は潤沢とは……いや沢山持っていて余程の事が無い限りは間に合うと思う。

 ただソニアが言ったように「お約束イベント」にて手に入れたお金。この為に用意されたと思えば納得がいく。ただ先を考えたら使わないに越したことは無い。


 因みに私は賛成。皆とは違い、エリーと同じく()()()()を持っていた。

 それはこの品が()()()()()()入手していた、という点。


 ここで口を挟まず中立の立場で見守っていたリーダーが頃合いと決断を下す。


「過半数に~達したので~依頼します~」


 エリーに目配せをしサインを促す。


「それでは鑑定を始めます」


 店員さんがカウンターに銀製のトレーを置く。その上に正体不明品を置く。

 すると置いた品の上に『骨?』との表示が浮かび上がる。

 次に店員さんが『骨?』の上に手をかざし、なにやら呪文を唱えるとトレーが青白く光り出しゆっくりとモヤが晴れていく。そして、


 〈骨〉 →→ 〈隠神(いんしん)の骨〉


 光りが収まるとモヤが晴れ、長さ10cmにも満たない細長い白い骨? が現れ、その上に品名と査定額が表示されていた。


「「「隠神?」」」


 店員さんも見るのが初めてだったらしく、皆と同じく目を凝らして眺めている。


「……おなかすいてきたのね~」


 その言葉でリンが何を連想したのか想像が付く。

 パーティーや宴会後に見掛ける食い散らかされたあの定番の骨。

 そう『隠者』と表記されてあるがどう見ても綺麗に食べ尽くされた「手羽元」そのもの。


「申し訳りませんが私……いや当店では初めて扱う品なので情報が存在しません」


 店員さんがモニターで調べたが、該当がないらしい。


「そうなの~?」

「はい。ただ幾つか言えることがあります」

「「「?」」」

「呪いの品では無い。それと装備品でもない、ですね」


 見りゃ分かるって。装備出来たとしても遠慮するわ。いや……投擲には使えるか。

 ほれポチ取ってこーーいってか?


「最後に売れない品、つまり当店では引取り不可な品となります」

「「「?」」」


 つまり?


「なのでこの鑑定料となります」


「名」が表示されていた下に「鑑定額」が現れる。そこには『10』との表示が。


 やはりというか予想通りの額。

 前回、何を目的として私達を巻き込んだのかは知らないが、期限を区切った上で払えない額やいやらしい額を設定するとは思えなかった。

 そんな事をすれば私なら「もういい!」と迷宮に潜るのを辞めてしまう。そうなれば困るのはあの姉妹だ。


「手間賃のみお支払いください」


 気が変わられても困るので速攻支払うと、触れるのが嫌だったので適当な紙を貰ってから包んでアイテムボックスに放り込む。



 ……しかしコレ何に使うんだ?



 その場で消耗品と食材を購入。ついでに非常食(お菓子)を買ってリンに手渡す。

 客でごった返す売り場を後にし、次に向かったは左手の下り階段とは逆、右手の上り階段を上がった先。

 情報収集&ウォーミングアップを兼ねて訓練場へと続く階段を上がって行く。


「係員の姉ちゃん元気でいっかな?」


 普段のマリなら足取りが遅くなる長い階段を颯爽と駆け上がっていく。

 訓練所の受付けのお姉さんと会えるのが余程嬉しいみたい。


「どやろ……って何や暗くないかい?」


 マキが返事をしながらその後をマイペースで続くのだが「ある変化」に気付く。

 明かりが消されているのか、三階は真っ暗。まるで洞窟に入って行くといった表現がピッタリの雰囲気。

 皆はまだ二階と三階の中間地点となる踊り場にいるが先行するマリの姿は既に暗闇に溶け込んで判別できない。


「おーーい、遊びに来たで~」


 暗闇から聞こえてくるマリの声。

 皆もその場で止まり聞き耳を立てていたが返事は無かった。



 ヒエェェェェ――――‼︎



「「「!」」」


 マリの叫び声。

 真っ先にマキが動き、シェリー姉妹その後に続く。他の者は顔を見合わせてからマイペースで上ってゆく。

 真っ暗闇の中、先頭のマキがコケる。一気に駆け上ってみたものの目が慣れていないせいか一寸先は真っ暗状態。

 直後、同じくコケたシェリー姉妹が覆い被さってきた。


「ぐ、ぐへ!」

「す、すまない!」「ご、ゴメン!」


 三人共、単に最後の段が分からずにコケただけ。


「え、ええって。それよりマリは?」


 直ぐに退くと膝立ち状態で目を凝らす。

 すると右前方、受付けがあった方向に(うごめ)くモノが。


「ま、マリか?」


 新調した灰色の(装備)が暗闇から浮かび上がるとこちらへと近付いてくる。そして……


「ひぇぇぇぇ‼︎ でででで出たーーーー‼︎」「ちょ、止まれ!」


 お約束とばかりとマキに突撃。


「二人共大丈夫?」


 素早く避けたシャーリーとシェリーが覗き込む。


「ひえぇぇぇぇお化け―ーーー!」

「誰がお化けや!」

「あイタ! ってマキ?」


 ドつかれやっと我に返った。


「す、スマン」

「一体どうしたの?」

「出た‼︎」

「何が?」

「アレやアレ! 定子(さだこ)や!」


 恐々(こわごわ)と後方を振り返る。釣られて三人も暗闇へと目を向ける。

 何もない暗闇。そこに怪しく浮かび上がる二つの目。


「「「!」」」


 その目がユラユラとこちらに近付いて来る。


「も、モンスター?」


 ただならぬ雰囲気を感じ、急遽臨戦態勢に入る姉妹。


「行きます!」

「はいお姉様!」


 抜刀し駆け出すとシャーリーも背負っていた槍を抜き後に続く。


「ふ、二人共ちょい待て!」


 マキの声が届き急停止。


「何や様子が……」


 良く見れば悲壮感漂う虚ろな目に見える。


「…………あっ! アンタもしかして!」


 マキの背から覗き込んでいたマリが何かに気付く。



「「ライティング」」



 丁度その時、やっとのことで到着したエリーと、レベルアップで覚えたランが呪文で明かりを灯してくれた。

 その光源は二人の今のレベルを反映しているかの如く、広い室内の隅々まで光を行き渡らせる。

 お陰で目の持ち主が受付嬢と判明する。


 痩せコケた頬。ボロボロの服。一週間以上迷宮の最深部を彷徨い続けて帰還した身なり。


「……お……お水……」

「へ⁈ 水? ちょい待て」


 呟きに反応、マリが急いで駆け寄り腰に下げている革袋で出来た水筒の蓋を外して口に添えてあげる。

 すると物凄い勢いでゴクゴクと無我夢中で飲み出した。


「ん、ん、ん、ん、プハーーーー」

「大丈夫け? 何があったん?」


 空になった水筒を受け取りながら聞いてみた。


「え? あ、貴方はあの時の優しい方! その節は失礼しました!」

「失礼? 何がや?」

「い、いえ勇者御一行とはつゆ知らずに馴れ馴れしい態度を」


 ──へ? 勇者? ……そう言えばそんな設定が……あったような?


「それで今日はどういったご用件で?」


 私達を見て安心したようで以前の雰囲気に戻っている。


「い、いやアンタに会いに……って一つ聞いてもええか?」

「はい?」

訓練場(ここ)以前とだいぶ様変わりしとるみたいやけど」


 そうそう。一体何があった?


「様変わり…………あっノンビリ話をしている場合じゃなかった!」


 立ち上がると受付カウンターへと走ってゆき、カウンター備え付けのパネル? をポチポチと操作し始めた。


「……切断……閉鎖……ヨシ! 当分はこれで持つわね」


「「「?」」」


「誠に申し訳ありません。当面の間、営業は中止となります」

「……何故?」

「実は……」


 先日、普段と同じくまったりと受付けをしていたら突然、訓練場内の設備の不具合を知らせるアラームが鳴ったので確認の為に単身入って行ったら、そこは訓練場では無く見た事も聞いたことも無い「見知らぬ迷宮」だった。


 ──この施設の担当である自分が知らない迷宮は存在しない筈。


 これは色々と不味いと思い、緊急帰還(メンテナンス)用魔法陣にてこの場に帰還しようとしたのだが、何故だか他の迷宮に繋がってしまったらしく、何度も彷徨い続けていたそうだ。

 行く先々は見知らぬ迷宮。それを繰り返している内に、やっと知っている迷宮へと辿り着いたので「ボスを倒して」正規ルートの魔法陣にて、街に帰還しようとしたところ、何故だかここへと戻された。

 なので原因が判明するまでは何人も()()()()転移出来ないように」魔法陣の繋がりを操作したと。


「一人で行ったのか?」

「はい」

「お姉さん、もしかして強いの?」

「まあそこそこは」

「因みにジョブは?」

職業(ジョブ)ですか? 見た通りの『受付嬢』ですよ、ここの」


「「「…………」」」


まあ間違いではない。


「因みにレベルは五十です」

「「「ご、五十?」」」


 受付嬢が⁈ てか受付けにもレベルがあるんだ⁈


「因みの因みに攻守に優れた万能前衛職でないと『受付嬢』は務まりません」

「「「…………」」」

「残念ながら魔法は使えませんが……という訳で申し訳ないのですが暫くの間、当施設は利用をお勧めしません」

「お勧め~? ということは閉鎖はしないの~?」

「はい。向こうは当社の管轄外のようで、今現在そこの魔法陣は『転送の館』にある魔法陣と同じ扱いとなります」

「……成程。ならしょうがない」

「はい。折角お越し頂いたのですがお引き取り……」


「行くぞ野郎ども」


「「「おーーーー!」」」


「って皆さん私の話聞いてました?」

「うん聞いてたよ。因みに体感では『魔神の迷宮』とどっちが強い?」

「強い? モンスターですか?」

「うん」

「私が単独で帰還出来たのを考慮すれば……数段落ちますね」

「完璧」


 そう、経験値稼ぎにはもってこい。


「エマ、ちょっと待って」

「?」


 菜緒ったらどしたの? 忘れ物? もしかしてトイレ?

 などと思っていたら受付嬢さんに向き直る。


「貴方、知ってたら教えて」

「?」

「『魔神の迷宮』の最新到達階は?」

「……昨日の時点ではまだ四階でしたが今は分かりません」

「そう、ありがとう」


 短いやり取りの後、魔法陣へと向かった。


次回からやっと迷宮に潜ります。

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