ミア迷宮完結編! その2
翌日。朝食を取ろうと地下の酒場へ。
ソニア達も食事に誘おうと思い、昨日覚えた『親友』機能を使ったところ、全員揃って『下っ端の迷宮』の地下三階に遠征中だとモニターに表示されていたので諦める。
「もう三階? 早いよね」とエリーと雑談しつつ酒場に着くと既に全員揃っていた。
「エマエマ達は~おねぼうさんなのだ~」
「ごめんごめん。先に食べてて良かったのに」
ミイラになりかけているリンに謝ってから空いている席に座る。
すると待ってましたとばかりにあのウエイトレスさんがやって来てテキパキとオーダーを取っていく。
紙に書いたオーダーを読み上げながら厨房へ。姿が見えなくなったと思ったら、両手に料理皿を積み重ねた状態で現れた。
十二人が座る円卓にズラリと並ぶ料理の数々……ってゆーか見渡す限り肉料理で埋め尽くされている。
さらに若干一名は朝からケーキ。
若いっって羨ましいね~
え? 二十三もまだまだ若いって?
そうなのかね。
それぞれの流儀でお祈りをしてから食事を開始。
十五分ほどで、食べ終えた者達が会話を始め、その数が過半数に達したタイミングでラーナが口を開いた。
「え〜では〜今日の~予定だけど~」と言い始めたところに「先ず教会に行ってレベルの確認。次に装備や道具を整える」と故意に遮り邪魔をした。
「エリーや、今日はどしたん? エマが真面目に仕切っとるけど」
「随分と張りきっとるね?」
「何にしてもやる気があるのは良い事だわ」
三人の視線はエマの胸元へと向けられている。
彼女のYシャツの胸元のボタンはワザとらしく? 三段目まで外されており、山脈の谷間とぶらじゃーが丸見え状態。
「「「…………」」」
「ゴメンね~その内に飽きるから〜」
ジト目で見ていたらエリーに謝られた。
そんな会話の合間にも話を進めるエマ。
「…………で準備を終えたら……」
「「「……たら?」」」
「……たら、迷宮ではなくスパへ!」
「「「却下ーー!」」」
「うぇぇぇぇ⁉」
間髪入れずに全員からダメ出しをくらい項垂れるお調子者。
そのお調子者を慰めようと菜奈が頭をナデナデしている。
「お姉様、一つ確認してもいいですか?」
「…………はい、ランどうぞ」
「前回逃げ帰った原因の『あの敵』はまだあそこにいるんですか?」
「…………ラーたん、後は任せた」
落ち込んでいたところに答えられない質問が。なのでラーナヘ丸投げする。
一方出番が回ってきたラーナはやっと笑顔に。
「はいは~い。それでは~説明しま~す」
『魔神の迷宮』は一階から入るか、エリーの魔法の『テレポート』を使って行ったことのある「任意の場所」から始めるかのどちらかとなる。
但し、どの手段を使っても、前回と違うルートを選んだとしても、最終的にはアイツが居座る「あの部屋」へと辿り着いてしまうそうだ。
どうやら役割がまだ解除されていないとのことで、アイツを倒さなければどこまでも付いて回る仕組みになっているのだと。
「他の誰かが倒す可能性は?」
「ノンプレイヤーキャラでは~絶対に〜無理~」
そう言えば最強チームである『猫丸パーティー』もサッサと引き上げてたっけ。
つまり探索者が倒さなければならない。
「今の私達で勝てるのかな?」
シャーリーの呟きを聞いたラーナは、菜奈……の頭にチラリと視線を向けてから「楽に勝てるかどうかは……菜奈ちゃん次第……かな~」と。
「「「?」」」
菜奈は何故名を呼ばれたのか? それと目では無く頭の上に向けられた視線の意味が分からず目をパチクリさせてしまう。
それはやり取りを見ていた皆も同じく意味が分からなかったが、前回撤退時にラーナが意味深な発言をしていたのを思い出す。
たしか『ジャッジマン』とか『どう見える?』と菜奈に聞いていたような。あと『まだ早い』とも言っていた。
ならば何処かで鍛えてから向かった方が確実だろう。
「ん? 菜緒ったらどしたの?」
「……え? 何?」
「……なんでもない」
久しぶりの無限ループに入っていたみたい。
装備を身に付ける為に一旦部屋へと戻る。
準備が整ったらギルド一階に集合。
「お待たせしてしまいましたね」
一番最後となったシェリー姉妹が軽く頭を下げて謝罪。
「仕方あらへんよ。その装備じゃ」
侍であるシェリーは装束の上に『兜』『鎧』『籠手』『臑当』を身に付けている。
一方のシャーリーも古代に青龍偃月刀の一番の使い手が着ていた色鮮やかな服の女性バージョンを着ている。
二人とも見るから着るのに時間が掛かる容姿。
「でも防御力は高そうですぅ」
確かに。
「いや防御力なら菜奈っちが一番やろ」
激しく同意。
盾にフルプレートメイルは色んな意味で隙が見当たらない。
「まあメリットばかりとは限らん」
「デメリットもある?」
具体的に?
「用足し」
「「「…………」」」
迷宮に花は咲いてないでしょ……いや確かに。
仮想空間で生理現象って必要? と一般的に思うが、あの姉妹は妙なとこに拘るお陰でそちら方面も気にしておかなければならない。
「私は見た目ほどは苦労しておりません」
シェリー曰く、侍が着る鎧は脱がなくても用を足せるよう、それなりに考えられて作られているそうな。
「私も同じですよ! 大変なのは菜奈さんかと!」
確かに装備を外すのに時間が掛りそう。
「……早めに言ってね」
「うん」
落ち着いて「用が足せる」ようにするから。
よし、これでウッカリミスが一つ減ったな。
「しかし合わんの」
マキさんや、何が合わんのや?
「シェリーや」
「「「?」」」
「その厳つい格好で『おりません』とか言われても、な」
「「「…………」」」
確かに。そう言えば昨日までとは口調が変わっているよ? 何故に?
「なら……戻しましょうか?」
「「「うん」」」
仲良し三人の首が縦に振られる。
「……承知した」
……君達、何かの罰ゲームでもやってたんかい?
で早速女神様に会うため教会へとやって来た。
因みに「冷かし目的」で教会に来た訳ではない。
理由を話す前に、前回からだいぶ仕様が変わったが、逆に「変わっていない」部分の説明を。
それは一番厄介な「死亡扱い」となったキャラの復活手段。
教会で法外なお布施との引き換えに復活してくれるといったRPGなどで一般的なシステムは『リアルが感じられない』との理由でこのゲームには採用されていない。
まあ確かに金銭と引き換えにお手軽にポンポンと復活してたらリアルとは程遠いし緊張感なんてありゃしない。
……というのは建前。あの姉妹は『そんな事で一々呼び出されるのは面倒だから』といったところが本音だろう。
ただその代わりに呪文による復活という手段を用意しておいた……のだがその呪文を覚えるまでの道のりが余りにも遠すぎた。
具体的には『女神の祝福』と言う呪文がそうなのだが、その呪文を覚えるまでには天文学的な経験値が必要となる。
手順として職業は「僧侶」または「司教」から始めて「大司教」→「枢機卿」とジョブチェンジ。それらを極めた上で「教皇」になって初めて使える様になる。
これは必要経験値が一番多い「勇者」の比ではなく、出会う敵を一体も逃さずラスボスを倒すという行為を最低五十周でもしないと稼げない程の多さ。
例えとして『メ○ルキング千匹討伐』と言えば分かり易いだろう。
なので実質的に復活の呪文は無いに等しかった。
だが皆から散々文句を言われて反省したのか? それとも自分達の感性がおかしい事に気付いたのか? 二回目となる前回は劇的に改善され鬼畜仕様は鳴りを潜めた。
ただし復活の呪文は変わらず。
そして改善された部分であり今回教会に足を運んだ最大の目的。
それは『ペンダント』といった便利アイテムの足りない部分を補う為。
道端でもでペンダントを握りしめて祈ればわざわざ協会に足を運ばなくてもレベルを上げられるように改善された……のだが、残念ながらペンダントではスキルは手に入らない。
教会にて女神像に祈らないと授けてくれない。
なのでスキルの入手と、ついでに女神様とお話をする為、わざわざ足を運んできたのだ。
今回も入口でお布施をケチると「お約束」とばかりに小さな教会へと通される。
その際『お布施の額で人を差別するとは怪しからん』と思ったが、誰も口には出さない。
口に出せばあの姉妹に対して「負け」を認めることになる。
ただ……奥に聳える壮大で煌びやかな教会の中を一度は覗いてみたい……と思う。
人の気配がしない扉を開けて中を覗き込む。
するとやはりと言うか誰もいない。
中に入り室内を見回す。雰囲気も含めて前回と違いは無さそうだ。
「あ!」
突然ランが声を漏らす。
彼女の視線はちょうど中央奥で祀られいる二人の女神様の顔へと向いている。
「どした?」と思いつつ、女神様の顔を良ーく見てみると……
「あれ? 違うじゃん!」
「前と違うなの!」
「さすがランランなのだ〜」
ミアノアではない、見たことの無い女神像に替わっていたのだ。
「お姉様、この女神様は……もしかして?」
「ええ、呪いを解くには赤髪の冒険者を探さないと」
「はい! あとハーモニカもです!」
アニメ版? いやそうじゃなくて、アンタ達はどんな時でもマイペースよのう。
「どう思う~?」
「ミアノアの性格を考えると……」
「あり得ないわな」
「確かに〜」
皆、同意見らしく戸惑っている。
あの姉妹……ミアノアは「お約束」をとても大事にする性格。
ましてやこのゲームは彼女達が作り上げた、彼女達のフィールド。
普段は大人しい? 彼女らもこの手のイベントでは自己顕示欲が高くなり、それを満たす為なら仲間に対してマウントを取りたがるのを身を持って知っている。
念の為、彼女ら姉妹と一番仲の良い、手綱を握っているであろうラーナを見てみると……どういう訳か困り笑顔。
「それでかしら」
「多分ね~」
菜奈をチラ見する菜緒。エリーも同じく菜奈を見る。
……何が? と思い二人を見る。
「分からない〜? 菜奈さんの話し方~」
「…………お!」
指摘されて気付いた。前回とは異なり普段と同じテンポで会話をしていることに。
普段通りの話し方。なので逆に気付けなかった。
今ではこのメンバーは、菜奈とは意思の疎通に支障は生じないくらい親しい仲となっている。
勿論、姉である菜緒には及ばないがエマを筆頭にこの場にいる仲間達は、菜奈の微妙な変化を敏感に感じ取り、何を言わんとしているのかくらいは察せられるようになっていた。
だからこそ話し方程度の変化は気にはならない。
これは菜緒やエリーだからこそ気付けた些細な違い。
「うーーん。そんなに気になるなら直接聞いてくる」
一人祭壇の前でお祈りを捧げる。
「…………ダメだわ」
ミアなら兎も角、ノアからの反応が全く無かったので少しだけ落ち込む。
すると菜奈がさり気無く近づき、またまた頭をナデナデしてくれた。
ただ返答は無かったが、レベルは無事に上がり魔法とスキルも入手出来た。
なので皆もお祈りを捧げる。
【ラーナ/武芸家】LV36→48
【リン/忍者】LV29→40
【ソニア/修道士】LV30→44
【シェリー/侍】LV29→41
【シャーリー/槍兵】LV30→44
【菜奈/聖騎士】LV29→46
【エリー/司教】LV29→40
【ラン/魔法使い】LV30→40
【マリ/料理人】LV31→40
【マキ/ 弓士】LV30→40
【菜緒/召喚士】LV28→44
【エマ/魔術師】LV28→44
ラーナのレベルが一番上がった。
「奇妙な上がり方だ」
確かに妙に感じる。
「神様が変わったからやない?」
うーーん。ソレどうツッコミ入れたらよいのやら……
「サイクロプスとドラゴンをワンパンで倒したからなの!」
「そやね。ありゃ見物やった。だから姉さんが上がるのは納得やけど……」
マキが首を傾げる。ラーナが上がっていたのには皆納得しているが「何故?」と思えるレベルアップを果たした者が何名かいることに違和感を感じていた。
「ジョブによっては必要経験値に差が出ますよね」
それは承知している。
菜奈の聖騎士やリンの忍者は「中級の上位」に当たりレベルアップに必要な経験値が皆よりも多い。だがそれを考慮しても上げ幅に差があり過ぎると。
「もしかしてバブリースライムが関係しているのでは?」
確かアイツはLv1だった筈。いかに『魔神の迷宮』とはいえ、Lv1なら得られる経験値は多くないんじゃなかろうか。
ましてや数千匹? に分裂増殖した奴らはダメージを寄せ付けずに深淵へ落ちて行った。
そしてあのバトルで敵にダメージを与えたのは菜奈一人。
シャーリーの推測が正しいと仮定した場合、他の者が上がっているのはおかしい。
「その後のサバゲ―場でも大活躍だったなの!」
「でも防御に徹してたよね?」
そう、菜奈はザバゲー場で味方を守りながら敵の総攻撃を防ぎ切った。
つまりサバゲ―場では敵を倒してない。
「それは菜緒殿も同じかと」
菜緒は召喚したゴーレムナイトでピンク色のビックウェーブを凌ぎ切った。
サバゲ―場では菜奈の盾の後ろから反撃していたマリ姉妹とランとエリー、そして菜緒の中・後衛職の攻撃は偽装目的だったので敵には当っていない。
そして極めつけは、
「あたしゃ穴、開けただけだよ?」
どちらのバトルも、攻防にすら参加していない私が上がってるのは?
「バブリースライムにしてもザバゲー場にしても、エマ殿と菜奈殿が居たからこそ作戦が成功した。つまりパーティーを勝利へ導く起死回生の働きをしたから、では?」
いや~シェリーさんやもっと褒めてくれ。
「……勝利に貢献。その辺りが経験値に加算されている? 貢献度みたいなモノがあると?」
「みたいね~」
「でなけりゃ特定のジョブは(レベルを)上げ辛いわな」
確かに。
初回の時はいくら「穴」を開けても経験値とは無縁な仕様だった筈。
だからこそ二回目以降、その方針に転換したのは意外に思えた。
ミアノアの信条だが『隠○同心心得之条思想』が根底にあるようで、初めから負ける気で挑むとか、敵わないからと戦う前に敵前逃走するような「根性無し」には慈悲はいらない、そんな「軟弱者」に与えるのは平手打ちで充分だと思っている節が言動から見てとれた。
そんなプライドがあったから、低レベル者が楽に経験値を稼ぐといった「裏技」も存在しなかった。
だがそれだと色々と不味いと気付いたようで、工夫さえすれば上げられる仕様へ変更したみたい。
これなら参加者の遣り甲斐に繋がるので歓迎すべき変化だと言える。
「全員お祈りは終わったわよね~?」
ラーナの問い掛けに全員が頷く。
全員無事にレベルも上がっていたし、魔法やスキルも手に入った。
ただし今の状態ではまだ『魔神』には敵わない、と思う。
一番の理由は、このゲーム内で最強チームと言われている『あの猫丸パーティー』が今だに四階で足止めを食らっていることからも見て取れる。
なので当面は上位職を目指してジョブチェンジを繰り返し力を蓄える。
それをしないで再チャレンジしたら行き詰まるどころか初回の二の舞となりかねない。
先ずはLv50にして、上位職へジョブチェンジ。各種ステータスの底上げをして力を蓄えよう。
「それじゃ~次は~買い物ね~」
アイテムの補充と名前が判明していないお宝の判別。さらに訓練所に寄って情報収集を行う為に、次の目的地である『ボルダック商店』へと向かった。
また一人、偉大な功績を残された方が旅立たれました。
宇宙SF漫画の大御所である松本零士先生。心よりご冥福をお祈りいたします。
(『999』劇場版の続きが見たかった…)
*負け・・ミアノアの「お約束」に対して。払ったら「負け」になるので意地でも払わない。
*聞いてくる・・言葉通り。その時のエマの気持ち。