ミア迷宮完結編! その1
それでは迷宮編を再開します。
前回の探索の引き続きで、目的は魔王……じゃなかった魔神を討伐し神器を取り返すところは変わらず……の筈。
それとシェリーですが、場面によっては他のお嬢との「口調」が被ってしまい、誰が誰だか分からなくなる恐れが生じてきました。いちいち説明文を入れるのも面倒なので次回辺りから(迷宮編限定で)口調を戻すつもりでいます。
「「「…………」」」
感覚が戻るとモワッと全身に纏わりつく高めの湿度を感じる。
ここで意識が戻ったと皆が気付き始めた。
次に嗅覚が復活。鼻で吸い込む空気から浴室得意の匂いが感じとれた。
そしていよいよ目を開ける。すると記憶の片隅に残っていた光景が。
ここはあの脱衣所。しかも皆が横並びで服を脱いでいる。
そこで気付く。ここは「あの時のあの瞬間」の続きからだと。
あの迷宮の一室で勝利の後に難敵が乱入。勝ち目がないと判断し、一時撤退した後にここへと休息を取りに来たことを。
──あーー戻って来ちゃったか……
ラーナを除く全員の感想。
ただここにいる者の大半は、初回時に味わった恐怖の記憶が二回目で塗り替えられたので割と冷静に受け止められている。
そんな中、ある人物の口から「何かを思い出した」といった呟き声が漏れた。
「「「?」」」
声に気付き、皆の視線が再びエマへと集まる。
見ればエマの顔は下を向いている。そして視線は胸元へ。
胸元は開けた状態なのだが、隣からはシャツで遮られておりどんな状態なのかは見通せない。
なのでエマの表情から「結果」を推測してみる。
彼女はシャツを握った手だけでなく身体迄もワナワナと震わせながら驚愕の表情をしている。
これは明らかに残念な結果だと誰もが思った。
考えられるのは、期待に反しネクタイの効果が及ばず「元のサイズ」に戻ってしまったとか、女神様の更なる「お約束」が発揮され、さらに低くなってしまったとか。
あの雰囲気は姉のエリーでさえ下手に声が掛けられない。なので皆は成り行きを見守ることにした……のだが皆の心配をよそに結果は直ぐに判明する。
「……よ」
「「「……よ?」」」
「……よ」
「「「…………」」」
「……よっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」
行き成りの叫び声と共に両腕を突き上げ、突然全身で喜びを表しながら感動の涙を流し始めたエマ。
その際、シャツから手を離すと服の合間から、今までなかった『立派な山脈』が露わになる。
しかも存在を誇示するかの如く、エマの動きに合わせて「ブルンブルン」とプリンの様に揺れていた。
その様子を見た皆は、立派な山脈どうこうよりもエマの落胆する姿を見ずに済んでホッとした。
「フフフ~」
「やっと念願叶いましたね」
「エマさんの凄い!」
「おめでとうございますぅ!」
「エマちゃん……良かったね」
「流石エマ姉様なの!」
何が流石なのかは分からないが半数は好意的。だが残り半数は……
「……何やアレ。盛り過ぎとちゃう?」
「確かにやりすぎ〜」
「それだけ(ノアは)反省したんやろ」
「取り敢えずは念願叶ったみたいだし。ただね、調子に乗らなければいいけど……」
と極端な反応。
「ら、ラーたん見てみて!」
菜緒の心配をよそに山脈の下で腕を組み体を上下に揺さぶっている。
「フフフ~凄いわね~。菜緒ちゃん達や~マリちゃん達と~いい勝負よね~」
サラには及ばない。サラのモノはデカいのに全てのバランスが取れているという反則級の代物。
こちらの山脈はサラよりも一回程低く、凶悪さも持ち合わせてはいない。寧ろ東洋の神秘の象徴である『富士山』のような威厳ある、理想的な色や形をしており自然と拝みたくなる代物。
「それも~女神様の~お陰かしら~?」
「お、そだね! お礼を言わないと……ってノアは何処?」
皆が一斉にキョロキョロし出す。
「そう言えば…揃ってないやんけ」
脱衣所にいるのは前回探索に参加したメンバーである、
<エマ、エリー、ラーナ、菜緒、菜奈、シェリー、シャーリー、マリ、マキ、リン、ラン、ソニア>
の十二人のみ。
他の者達は何処にも見当たらない。
「まだ説明受け取るんとちゃう?」
「かもしれませんね」
「ノア達も?」
「あの子達が? それはないでしょ」
「どうしますぅ?」
「どうって?」
「探して合流なの?」
皆の視線がラーナへと向けられる。
「……え? えーーと……エ~マ~ちゃん?」
戸惑うラーナ。彼女には皆がいないのは予定外? だったらしく、頬に一筋の汗を流しながら何故だかエマに助けを求める。
ところがお調子者はラーナの心配を余所に……
「ふん♪ ふん♪ ふん♪ ふふ〜んふ〜ん♪」
「す、すごいのね~」「ホントに……凄い」
まんまる目で上下左右に動き回る山脈を目で追いかけているリンと、喜んでいるエマを見て嬉しそうに? 手を叩いて音頭を取る菜奈を相手に、上半身裸の蝶ネクタイという出で立ちで体を揺らし続けていた。
……え? えーーと?
変わり身の早さに一同が言葉に詰まる。
今のエマはそれどころではないらしい。
「ほっとこ」
「そうね。その内思い知るでしょ」
「思い知る~?」
「はい」
エリーの問いに頷く菜緒。
「ウチ的には元の大きさが丁度ええと思うけどね」
「そやね」
「その通り」
三人曰く「大は大なりの苦労が」あるとのこと。
取り敢えず体を洗い湯舟の中でミーティングを始める。
一部の者は「上の空」で参加していたが、
『時間も限られているし、その内どこかで会えるだろうから探さない』
『最終目標は皆同じ。時間切れになったらそれはそれで仕方なし』
という方向で直ぐに話が纏まった。
その際、お約束に引きずり込まれた事に対し文句を言う者はいなかった。
何故ならラーナ相手に唯一文句を言えるエマが、事もあろうかラーナの味方に付いてしまったのだ。
なので正面切って文句を言える者がいなかったのだ。
まあ散々だった初回とは異なり、前回は皆そこそこ楽しめた。不安は拭えないが今回も多分大丈夫だろうと強くは出なかった。
スパで和気藹々と食事を取ってからギルドの宿泊所へ。寝る前に揃って地下の酒場へと向かう。
階段を下りてゆくと懐かしい喧騒が。ただ以前とどこか雰囲気が違う。
見れば大半の者は席には着いておらず酒場の中心付近に集まり騒いでいた。
そしてそこから聞こえてきたのは……
「ヒャハーーーーなの! これで二十五連勝だぜ、なの!」
と聴き覚えのある声が。
「そ、ソフィア……なの?」
人集まりの中から聴き慣れた声が聞こえてきた。
確かめようとソニアを先頭に人垣を無理やり分け入ってゆく。
すると中心にはソフィアと厳つい体格の男が円卓を挟んで向かい合わせで睨み合っていた。
「次の相手はお前か? なの?」
「お遊びはここまでだ! 俺様に盾突いたことを後悔させてやる!」
「ふん、なの」
鼻で笑うソフィア。
「ソフィア、やっちまえーーーー!」
「これに勝てば百万倍よ!」
ひゃ、百万倍? 何が?
見ればソフィアの背後にはちびっ子探索者達がおり、全員紙らしきものを握りしめながら声援を送っていた。
「では両者手を出して」
二人掛け用の小さな円卓の脇にはあのウエイトレスさんがおり、向かい合う二人に対し手を出すように催促してくる。
二人は右手の肘をテーブルに付けお互いの手を握り合う。そこにウエイトレスさんの手が重ねられると『レディー……』という声が聞こえてきたが、見ているギャラリーのボルテージが最高潮に達して声が掻き消されてしまう。
聞こえてくる声援の大半は大柄な男を応援しているようだった。
まあ身長差もそうだが対戦相手の腕はソフィアのウエストほどの太さ。まるで世紀末伝説に出ていそうなほどの。
対するソフィアの腕は普段と変わらずの細さ。
勝敗は火を見るよりも明らかだ。
……ファイト‼︎
ウエイトレスの口の動きに合わせて手が離れる。
ガチの腕相撲の始まりだ!
……なのだが組まれた腕はピクリとも動かない。
「ぐぐぐ?」
男の顔が真っ赤に。
「フ……この程度の実力で私に喧嘩売るって底が知れてるぜ、なの」
左手の親指下げて挑発する。
「な、なんだとク○ガキが!」
さらに力を込めるがソフィアの腕はピクリとも動かない。
「そろそろ終いにしようぜ、なの。ぅぉぉぉぉおおおおりゃーーーー!」
ドン‼︎ バキバキ‼︎
男が押し負け、腕がテーブルにめり込み粉々に砕け散る。
「よっしゃーーーー! ソフィアの勝ちーーーー!」
飛び跳ねながらソフィアの周りに集まるちびっ子達。
対象的に周りの者達は意気消沈。持っていた紙をばら撒きながら項垂れてしまう。
「パンパカパーン! 見事勝ち抜きスゲーなスゴイです! それでは賞金の授与に移ります!」
ウエイトレスさんが重たそうな革袋をソフィアに差し出す。
「ごっつぁん、なの」
片手を胸の前で二度ほど振ってから袋を受け取る。
「配当は後ほどお持ちしますね」
──配当?
ウエイトレスさんがにこやかにちびっ子探索者に話し掛ける。
その間に目を回した対戦相手は仲間らしき者達に連れ出される。他の者達も「おひらき」とばかりに酒場から引き揚げていく。
最終的に残ったのはお馴染みのメンバーだけ。
「ソフィア?」
「……あっソニアじゃん、なの!」
やっとこちらに気付いた。
「何処行ってたの?」
「いなかったから心配してたぜ、なの」
ちびっ子探索者達にソニアが囲まれる。
「私は二度目だからセーブポイントからの復活なの。それよりみんなは何をしていたなの?」
「お約束だ」
背後から野太い声が。振り返るとそこにはルイスが横を見ながら立っていた。
ここで「事の成り行き」を説明してくれた。
ルイスとちびっ子探索者の十人は揃って「尻もち」をついた後にギルドの受付で登録。そのままパーティーを組んで武具を揃えてからここへと下りてきたら『お約束のイベント』が待ち構えていたので受けて立ったとのこと。
「コレお約束だから負けはあり得無いぜなの!」
「よくある『上から目線のドケチな王様』とかじゃなくて良かった!」
「楽に軍資金が手に入ったわよね!」
ルイスを除く九人全員がウンウンと頷いている。
「へーー。それでソフィア達はどないする? ウチらと行動ともにすっか?」
「しないぜなの」
即答だった。魔神討伐よりも迷宮探索を楽しみたいから、と。
「分かった。一応『共闘申請』はしとこうか。そうすれば連絡がつくし」
「それなら『共闘』じゃなくて『親友登録』のほうがいいぜ、なの」
ソフィアは手慣れた仕草で登録をし、さらに親切丁寧に説明までしてくれた。
「共闘」は戦闘行為では有用だが、連絡を取り合うだけなら「友人」や「親友」で登録しておいた方が色々と得があるとのこと。
一番のメリットはペンダントを通しての「通話」が可能になるのと、相手がどの迷宮のどのフロアにいるかがモニターに表示される、と初参加であるソフィアが親切丁寧に教えてくれた。
「ところで貴方達。もしかして全員……戦士系?」
気になったので聞いてみた。
微妙に異なる、だが似た様な装備と服装。中にはソニアの様な無手の者までいる。
「バランス悪くない~?」
「一応全員呪文は使えるから呪文専門職はいらないの」
成程、機動性重視ってところか。まあDエリアでも似た様な遊びをしていたらしいから実践済みなのかもしれない。
「そうそう、ここにいるので全員?」
揃って頷く。
「ミアノアは見てない?」
皆、首を横に振って見ていないと。
まああの二人はゲームマスター的存在。
女神様なのだから抜け道なんていくらでも作れるのだろう。
だが初参加者は違う。
特にワイズ兄弟はソフィア達と同じく今回が初参加となる。
なのでジョブ決めと探索者登録をしにここへと来なければならない。
なのに見かけていない……何か腑に落ちない。
「どこ行ったんやろ」
「何か企んでいなければいいけど」
唯一事情を知っているラーナに視線が集まる。
すると戸惑いの笑顔で「想定外」と首を横に振る。
その返答に一同の空気が重くなる。
「まあ時間も限られているし、明日には会えるって!」
ワザとらしく胸を張るエマ。彼女とリンと菜奈だけは皆とは違い陽気な雰囲気。
「み、みんな……あのね~」
そこにラーナが済まなそうな上目遣いを向けてくる。
「ん? どしたのラーたん? 暗いよ?」
「え~と~実はね~今回は~目標達成するまで~帰れないの~」
「……マジ?」
「うん。だからね~時間は無制限~」
へ? 何それ。だって復活の呪文は今回も無いんでしょ?
それなのに魔神討伐を成し、さらにお宝まで奪い返さなきゃならないなんて。
まさかの鬼畜仕様の復活?
「仕事はどないなる? 欠勤か?」
今度はシェリーに視線が向けられる。
「さあ?」
私が与り知らぬ事、と両手を広げて見せる。
「そこは~姉さんが~上手くやっていると~思う~」
「そうね。ローナさんなら問題ないでしょ」
「うん……そう思う」
「菜緒菜奈の言う通り! みんな気にし過ぎだって!」
有頂天なエマ。
そんなお調子者を横目に皆がヒソヒソ話を始める。
(なあもしかして忘れてるとちゃう?)
(ええ。すっかり抜け落ちていますね)
(なにがや?)
(((マリもか……)))
(マリさん、クレアさんとレイアさんがいません)
(……お!)
(あとエリスとアリスもだね)
(ほうほう。ならローナは?)
(((…………)))
怪しい奴らが揃って不在。
不吉な予感が横切るのであった。
のんびりと(投稿を)続けていくつもりです。