表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/3

Page 3

蓮見(はすみ)普段(ふだん)から、(かみ)もそこそこ寝癖(ねぐせ)が取れていればいい、と思う程度にヒゲも大雑把(おおざっぱ)で、週に2回くらい()ればいいと思う程度(ていど)に実は面倒(めんどう)くさい。


「私は、別に無精(ぶしょう)ヒゲではないぞ。日頃(ひごろ)習慣(しゅうかん)だ」

「知っています。毎日()るのはお肌に負担がかかるのでしょう?」

……確かに、そんな言い(わけ)をしたことがある、と蓮見は思い出した。言われるまで忘れていた。


そして、(ゆかり)は花のように笑った。

薔薇(バラ)だろうか、牡丹(ぼたん)だろうか、と一瞬真面目(まじめ)に考えてしまった自分に、蓮見は軽く眩暈(めまい)を感じた。


「ドクターは、私が言った高身長で(いさぎよ)く眼鏡をかけていて頬擦(ほおず)りをすると(いた)い男性は自分で、私の好みはドクターのような男性だと思ったのですか?」

「…………」


蓮見は、今自分は自分の高身長よりも(ふか)墓穴(ぼけつ)()ったと、伸びたヒゲがちくちくする(ほお)に熱を感じた。エスプレッソのカップをデスクの(わき)()せると、スリープ状態になっていたPCを起動(きどう)させた。


「知るか。何とでも言え。…休憩(きゅうけい)は終わりだ」

決まりが悪く、殊更(ことさら)不機嫌(ふきげん)な声だと自分でも思った。


本当は、蓮見も自分で気付いていたのだ。

縁は、蓮見にとって友人でもなければ知人でもない。しかし、どちらにも(ぞく)さないからと言って、決して『曖昧(あいまい)な存在』ではないのだと。


「はい。お邪魔(じゃま)しました」

蓮見がそちらの方を見ないまま、縁はいつも通り丁寧(ていねい)な言葉で言い、静かにトレイにふたり分のカップを()せる音が聞こえた。


「私は、ドクターの好みとは程遠(ほどとお)いですね。こうして、しょっちゅう研究や休息(きゅうそく)の邪魔をしてしまいますし、…今日は(おこ)らせてしまって、ドクターに(やす)らぎを(あた)えられる人とは程遠(ほどとお)いですから」


思わず蓮見が縁を見ると、縁はいつも通り(おだ)やかに微笑していた。

「食事の時間になったら()びに来ますけれども、ドクターが集中していて5回…いいえ、3回声をかけても気付かないようなら、邪魔をしないようにそれ以上大声で呼ぶこともしませんし、(かた)(たた)くこともしません。でも、(あたた)めればいつでも食べられるようにしておきますね」


「…っ、縁」


トレイを持とうとした縁の手を、蓮見は(つか)んだ。

縁が驚いた顔をしたのは、手を掴まれたからではなく、いつもは「おい」とか「お前」とか、良くて「貴女」なのに突然(とつぜん)名前を()んだからだろう。


「ドクターが私の名前を覚えているとは思いませんでした」

「私の頭脳を何だと思っている?」

「天才ですが、興味(きょうみ)のないものについてはザルの頭脳とお見受(みう)けします。私の名字は他人と(かぶ)ることが多いので名前で呼んで()しい、…と言ったことが、ザルの目から流れ落ちていなかったことが意外(いがい)です」

「…………」


流石(さすが)は優秀な秘書。蓮見に対する理解度(りかいど)が高い。だが、


「馬鹿者が。私は、気付かないようならお前の馬鹿力で(かた)()さぶればいいと言ったぞ。忘れたのか?」

「ドクター視点(してん)ではそうかもしれませんが、馬鹿を2連打ですか?」

「本題ではないところに()れるな。……私は、研究でも仮眠でも、お前が()りずに(さまた)げに来ても、邪魔ではない。それどころか、貴女が(おとず)れないのは()()かなくなった。…今も、(おこ)ってなどいない」


蓮見は椅子(いす)から立ち上がると、縁を()()せた。そして、身長差(しんちょうさ)を感じながら、縁の唇を(ついば)んだ。そのまま(おお)うように(ふさ)いで、自分でも余裕(よゆう)のないことだとくすぐったく思いながら、(あら)っぽいキスをした。


「……お前は、意地(いじ)でもキスする時には目を閉じないタイプか」

「あ…あの…、ただ、(おどろ)いたので……」

「驚きついでに、お前は自分からキスするのは平気な(くせ)に、されるのは(ほお)()める、実は(じゅん)なタイプか?まあ、私は悪い気はしないがな」


蓮見は、縁の火照(ほて)った頬に()れた。

「お前ほどの美人なら(もう)(ぶん)ない。……私が()れている以上、邪魔だと思う事はない。お前以外の秘書でもボディーガードでも、安心することはあるまいよ。完璧(かんぺき)だ」

「……ドクター、それでは口説(くど)かれているように聞こえてしまいます……」

「聞こえないのなら、ハッキリ言うまでだな。私と一生を共にして欲しい。…縁」

「…………」


縁は、蓮見を見上げて、綺麗(きれい)に笑った。

「もうひとつ、条件を追加(ついか)してもいいですか?」

「好きにしろ。今の私に該当(がいとう)しないなら、努力する」

情熱的(じょうねつてき)なキスをしてくれるひとが好きです」

「…………」


そう来るかと、蓮見は(あせ)で軽くずれた眼鏡を直した。


「特に努力は()らんな。…だが、目を閉じていろ」






End.

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ