赤い帝国
中央諸国が泥沼の覇権争いになることを期待していたガザフ王のアレクセイだったが、戦乱が鎮まったことに、参謀のビロンに不満を言った。
「話が違うではないか! 我らは手を下すことなく、中央を屈服させると言ったはずだぞ」
「確かに、そう申し上げました。しかしながら、思わぬ人物の出現によって、計画が大きく狂わされたのです。未知の力を持つ、皇帝ガイア」
「ガイア……」
「はい。そのガイアの下に、優れた人材が集まりました。策略家のシュタイナーを始め、猛将のマルスに名将のリュウギと言った有能な人物がガイアを助け、平定を予想以上に早めたのです」
「では、我らは負けるというのか」
「心配はありません。先の戦いで、一兵の兵も出すことなく兵力を温存してきたガザフ軍に、精強な旧十字軍が加わったのです。何より、この難攻不落のグリフィス城にいてさえすれば安心です。例え、中央が百万の大軍で攻め寄せて来たとしても、彼らを撤退させる自信はあります。ただ、参謀のシュタイナーという男、一体何を考えているのか分かりません。奴の行動だけは、私には読めません」
「それほどに、恐ろしい男なのか……」
「ここが、正念場にございます。我々は、中央が動く前に先手を打って、シュタイナーの策略を封じ込めなければなりません。そのためにもまず、陛下には、皇帝として即位してもらわなければなりません」
「わ、私が皇帝に……。即位せよと申すのか」
「はい。陛下は唯一、ティアズストーンを持つ者として、皇帝への即位は当然だと思います。聞くところによれば、皇帝ガイアは大漢王国の農民の出身です。誰が見ても、真の皇帝は陛下だと、そう思うはずです」
「……そうか、そうだな」
「それに、血の繋がりのあるザルツ王・ルドルフ公は、必ず陛下に合力してくれましょう」
「それは、心強い。そのことを見越して、父上は、ミハイル(ルドルフ)をザルツに差し出したのかも知れぬな……。いずれの国も王族、だが、奴は卑しき農民か……」
ビロンの言葉に気を良くしたアレクセイは皇帝になると決めた。
ガザフ王アレクセイは、皇帝即位式を、国を挙げて大々的に行った。
そして、ビクトリアを倒すために、ガザフ全土に徴兵令を敷き、多くの若者を帝都セベルスクに集めさせた。
こうしてサルフ世界に、二人の皇帝が並び立った。
ガザフ側は権威の失墜を狙って、農民出身のビクトリア皇帝を非難し、ついに、その狂暴な牙を中央に向けたのである。
籠城戦を画策して、攻めて来ることは無いだろうと油断していた中央の首脳達の虚を突いて、ガザフ軍は侵攻して来た。
ガザフ帝国と国境を接するローマ王国は準備が整のわないままガザフ軍を迎え撃ち、大敗を喫した。
ローマ王国は南部の都市・クラクフを放棄し、ビクトリアに救いを求めた。
旧十字軍を主力とするガザフ軍は、瞬く間に版図を拡大して行く。
ビクトリア帝国はガザフに対し、ついに宣戦布告。サン・シンプソン宮殿の一室で、ガザフ討伐の作戦会議が開かれた。
この席でシュタイナーは、議長を務める元老院に向かって進言した。
「ガザフは徴兵令を敷き、全国から兵を募っています。ガザフ軍の兵力は、今や二十万に達しようとしています」
「なんと! いち王国に過ぎないガザフにそんな力があるのか」
「兵力二十万とはいっても、それは寄せ集めの軍でしかなく、主力といえば一部の精鋭部隊と旧十字軍だけです。まともにぶつかり合えば、必ず勝つでしょう。しかし、ガザフには知将のビロンがいます。優れた情報力を持つビロンは、恐らく撃って出ては来ません。グリフィス城に立て籠もり、長期に渡って籠城戦を挑むはずです。主力を温存し、連合軍の力が消耗するのを待って一気に襲い掛かって来るでしょう。それを可能にしているのが難攻不落のグリフィス城であり、五門の青銅砲なのです。ビロンは青銅砲を鋼鉄の扉の上に備え、そこから無差別に攻撃を仕掛けて来ると考えられます。こうなれば我々は手出しが出来なり、多くの犠牲を覚悟して突撃を敢行するしか手立てはないのです」
「我々も全国、いいや、世界中から人民を集め、百万の大軍を持ってガザフに攻めれば、ひとたまりもないだろう」
元老院のジンは、数に物を言わせて攻めることを主張する。
あくまでも連合軍が優位であると高をくくっていた。
「それではガザフの思う壷です。例え百万の大軍を持ってしても、あの難攻不落のグリフィス城は落とせないでしょう。そのことはビロンも知っているはず、それを見越して近隣諸国に侵攻し、我々を挑発しているのでしょう。また、百万という大軍を維持するのは非常に難しく、食糧とて持ちません。ビロンの狙いは我々の国力を弱めることにあります。人民は度重なる戦いに犠牲を強いられてきました。その上、若者までも取り上げられては、生活は成り立たなくなります」
「では、我々はガザフの侵攻を、ただ黙って見ていろというのか!」
不満を漏らすジンに、
「ひとつだけ、策があります。ガザフの虚を突き、難攻不落のグリフィス城を落と策が」
シュタイナーが言った。
「本当か! そんな策が、本当にあるのか」
救いを求めるように、皆の視線がシュタイナーに集まる。
「グリフィス城の背後を突く、アルプス越えです」
温めていた秘策をシュタイナーが告げる。
「――アルプス越え、だとぉ。そんなことが可能なのか?」
要人達は思いもしない作戦に驚き顔を見合わせた。
「グリフィス城を難攻不落にさせているのが、背後にそびえ立つアルプスです。別動隊を組織し、彼らの最も油断しているアルプスから城内に攻め入るのです」
「しかし、敵地の山、しかも、冬になろうとしているアルプスを登ることは至難の業では?」
「そう、至難の業です。しかし、これ以外にガザフを倒すことは出来ません。難攻不落のグリフィス城を攻め落とさない限り、我々に勝利はないのです」
「アルプス越え以外に、勝利は無い、か……」
「別動隊は本隊より早く出発し、最南端の港を目指します。そこから別動隊は軍船に乗ってガザフ南部の都市セミパラチンスク(メルボルン)に上陸します。徴兵令下のセミパラチンスクに別動隊を迎え撃つ力は無く、難なく上陸を果たせるでしょう。しかし、ここからが問題です。セミパラチンスクの民にアルプス越えの協力を求めなければなりません。彼らの協力無くして、アルプス越えは不可能です」
「敵の人民が、我らに協力するとでも思っているのか?」
「常識から言って、皆様方の考えている通りです。しかし、不可能を可能にする御方こそ、皇帝陛下なのです。陛下が自ら別動隊を指揮するのです」
「オレが?」
突然指名され、ガイアは困惑する。
ガイアは、自分にそんな大役が勤まるものか、とでも言いたそうにシュタイナーを見た。
「そうです。陛下の徳をもって彼らに協力を頼むのです。セミパラチンスクの民は陛下の人徳を慕って、心から協力するでしょう。戦術を考えるのが私の役目なれば、皇帝陛下を信じ、この作戦を行うか否かは皆様方の決めることです」
そう言ってシュタイナーは一同を見回した。
各国の要人達は勿論のこと、元老院も頷いた。中央世界を瞬く間に一つにまとめ上げたガイアなら、セミパラチンスクの民を味方に付けることも可能だと彼らは思った。
「さすがはシュタイナー、良きビクトリアの参謀だ」
と、元老院のジンが、ガイアとシュタイナーの二人の宝を得たことを各国の要人達に自慢するように言った。
「異論はございません。さっそく私達はシュタイナー殿の作戦通り、国元に帰って準備に取り掛かります」
誰もがシュタイナーの戦術に賛同した。
シュタイナーは戦略を言い終えた後、重苦しい表情で元老院に向かって言った。
ガイアはこれから話す内容がシュタイナーにとって最も重要なことであり、そのことを果たすために中央に接近したのだと直感した。
「それと、もうひとつ、ガザフとの戦争の前に、我々にはやらなければならないことがあります」
「まだ、有るというのか」
不快感を露にしてジンが言った。
「それは、北方の強国ザルツと正式に国交を回復させることです」
「国交を回復させるだと」
「はい。全軍を挙げてのガザフ討伐の際、手薄になった帝都にザルツ軍が攻めて来るようなことにでもなれば、ひとたまりもありません。かつての力を失ったとはいえ、ザルツは今なお強国であり、中央諸国にとっては脅威なはずです」
シュタイナーの真の目的は、祖国ザルツを縛り付けているニュルンベルク条約の破棄であった。
だが、
「ならばその条件として、ザルツ王ルドルフ自らセルシオンに赴き、皇帝に臣下の礼をとる。それが条件だ。そもそも、ニュルンベルグ条約の第一条が未だに果たされていない。セルシオンに赴いたザルツ王を人質として、戦いの終わるまでとどめおけばいいのだ。王を人質に取られては、ザルツも下手に中央に手出しは出来ぬはず」
と、ジンは断固とした態度でシュタイナーに迫った
このことを告げれば、必ずルドルフは遣って来るだろうことをシュタイナーは知っていた。過去に起こったザルツの残虐行為に恨みを抱くセルシオン市民は多く、王の命の保証は無い。
彼らの手によって王が殺害されることをシュタイナーは案じていた。
祖国を想うシュタイナーの言動が、元老院に疑惑を生む。
これを察したガイアがシュタイナーを庇って言った。
「そんなことをして、王の身にもしものことがあってはどうするのです。我々はガザフとザルツの二つの強国を相手にしなければならなくなり、平和は遠のくばかり。ここはシュタイナーの言う通り、同盟を結ぼうではないですか」
「皇帝は、ザルツを許すつもりなのか。中央にとってザルツは憎んでも憎み足りない国だ。いっそのこと、ガザフ討伐のついでにザルツも攻め滅ぼせば、いらぬ心配はせずに済むというもの。皇帝は政治のことに口を出さず、戦うことだけを考えていればいいのだ」
と、ジンは吐き捨てるように言うと、部屋を出て行った。
宰相のゼノンがジンを庇って、
「彼はザルツによって家族を皆殺しにされた。ザルツを憎むのも無理はない。許してやってくれ」
と言って彼に代わって頭を下げた。
「シュタイナー殿、私が彼を説得し、王の人質は取り止めさせよう。だが、王がセルシオンに赴き、臣礼をとることだけは曲げられぬ。あやふやにしてきた両国間の主従関係を、世界にハッキリと示さなければならない。それこそが世界の安定につながるのだから」
「……分かりました」
とシュタイナーは頷いた。
シュタイナー自身、そのことは十分分かっていた。
だが、ザルツを憎む者達の手によって王が殺されるようことにでもなれば、それこそ両国にとって修復不可能な因縁を生みかねない。今までの彼の努力が、全て水の泡となってしまうのである。
作戦会議が終わって帰ろうとするシュタイナーに、領土の奪還の知恵を借りようと、ローマ王国の要人達が彼に救いを求めるように近付いて来た。
落ち込んでいるシュタイナーは彼らに明るく振る舞って応える。
「簡単なことです。奪い取られたクラクフの町を包囲し、出来るだけ多くの旗を掲げて敵を威圧すれば良いでしょう。そうすれば、戦うことなく敵は降伏するはずです」
「本当ですか? 本当にそんなことで、敵を降伏させることが出来るのですか」
要人達は信じられない面立ちで言った。
シュタイナーは大きく頷いた後、部屋を出た。
シュタイナーの後を追いガイアも出て行った。
ガイアはシュタイナーを引き留め、
「力になれなくてすまぬ。許してくれ」
そう言ってシュタイナーの肩を叩いた。
「これは、避けては通れない道だったのです」
シュタイナーの目に止めどなく涙が溢れ出てきた。
それは彼が初めて見せる涙であった。
「何があっても、王の命は守るからな」
「心遣い、ありがとうございます……」
シュタイナーはまだ十五歳という若さであり、一人で重圧を背負って耐えてきたのである。その緊張がガイアの言葉で緩んだ。
シュタイナーはガイアに寄り添うようにして泣き崩れた。
ガイアはこの時ほど、自分の力の無さを痛感したのだった。
約定に従って、ルドルフ王はザルツを出発した。
半ば強制ともいえる中央の要請に従い、ルドルフは臣下の礼をとるべくセルシオンに向かった。
一方、ザルツ王がセルシオンに赴くとの情報を得たガザフの参謀ビロンは、ザルツと中央との同盟を阻止するため、強いてはルドルフ王を奪回するために強力な部隊を差し向けていた。
ガザフ側も必死であった。強国ザルツを見方に出来るか否かで、今後の戦況が大きく変わってくるのである。
シュタイナーの策で、ルドルフは親衛隊である十字軍を引き連れていた。
十字軍はビロンの差し向けた部隊を容赦なく叩いた。
ルドルフは中央への忠誠の証しとして、予期していたガザフ軍を倒すべく十字軍を引き連れていたのだった。
ガザフ軍の一翼を担う旧十字軍に、祖国であるザルツが中央と同盟を結んだことが知らされた。
当然、彼らはザルツが中央と同盟を結んだことに動揺する。
シュタイナーによって自分の策が、ものの見事に交わされたことに憤りを覚えるビロンは、彼らの前で、中央が力によってザルツ王を従えさせたのだと力説し、祖国のためにも中央を倒せと激を飛ばす。
決戦を前にして、二人の目に見えない策の攻防が早くも繰り広げられていたのだった。
セルシオンに到着したルドルフ一行は、城門に十字軍を待機させ、僅かな側近を伴ってサン・シンプソン宮殿に入った。
宮殿の外では、一色即発の重苦しい空気に包まれていた。もし、王の身に何かあれば、城門前に待機している十字軍が決死の突撃を敢行し、皇帝の命を奪う意気込みで威圧を掛けた。
だが、ルドルフ王は暖かく宮廷に迎え入れられた。ガザフ軍を撃退したことで、彼の忠誠が示されていたのである。
ルドルフは太陽の間で皇帝ガイアに謁見した。
ルドルフはガイアにひざまずき、臣下の礼をとった。
かつて、若きシオンはザルツ皇帝カイザーに、命乞いの屈辱的な臣下の礼をとったが、その立場は逆転した。今、ガイアの目の前にひざまずくのは、紛れもないカイザーの後継者である。
この席でルドルフは中央諸国に対して、今後二度と侵攻しないことを約束した。
これに対して元老院は、ザルツの国境に建設した長城の破壊を許し、割譲されていたニュルンベルグの領地も返還した。
また、ガザフに代わって序列第四位の地位もザルツに与えた。これによってザルツは名実共に中央世界の仲間入りを果たしたのである。
臣礼の儀式を終えたルドルフは、宮殿内の一室に案内された。
その部屋は一国の王を迎え入れるにはふさわしくない粗末な部屋であったが、ルドルフには文句は言えなかった。臣礼を取ったとはいえ、それはザルツに対する思いが何ひとつ変わっていないことを物語っていた。
その夜、ルドルフの元へ、監視の目を盗んでシュタイナーが会いに来た。
元老院はシュタイナーがザルツと結ぶことを恐れ、ルドルフに一度も会わさず、監視まで付けさせていたが、シュタイナーはこれらの監視の目を盗んでルドルフに会いに来た。
王の側近がシュタイナーを見るや、
「何をしに来た! この裏切り者め。さては、我らの探りに来たか」
と、王の前でひざまずいているシュタイナーを罵った。
シュタイナーは心の底からルドルフに謝るも、彼らの目には国を売った裏切り者でしかなかった。
「よさないか、シュタイナーこそ、良き忠臣だ」
とルドルフは側近達を諌める。
「ですが陛下、こ奴はビクトリアに取り入って、要職に就いているのですよ」
「ザルツのために犠牲になっていることを、何故分からないのだ」
ルドルフにはシュタイナーの真意が分かっていた。
ルドルフはシュタイナーを咎めることなく、むしろ感謝するように今までの労をねぎらった。
「良く会いに来てくれた。そなたの進言通り、十字軍の精鋭を引き連れて来て良かったよ。少しは我らの忠誠を元老院は認めてくれたであろう。私は中央に忠誠を示すために、今度の戦いに五万の援軍を送ろうと思うのだが……そなたの考えを聞かせてもらいたい」
「恐れながら申し上げます。援軍は控えた方が宜しいかと存じます。ガザフ軍の中には旧十字軍がおります。同士討ちという不測の事態に指揮は乱れ、いらぬ疑いを掛けられる恐れがあります。陛下は国元にいて、一兵の兵も出さぬことこそが中央への忠誠につながるのではないでしょうか」
「なるほど、さすがはシュタイナーだ。良く言ってくれた。私に力がなかったばかりに、あの者達を引き留めることが出来なかった。全ては私の責任だ。王としてザルツに迎え入れられた私は、真の王への代役、繋ぎの王だと思っている」
皆に詫びた。
「何を言われます陛下! 陛下は未曾有の国難から国を救ったではありませんか。陛下は、良き国王、名君であられます」
側近達が感謝の言葉を述べると、
「陛下は国のために良く尽くしてこられました。私どもには及びもつかないほどの御苦労をされて……。今回のビクトリアへの臣礼も、良く御決断されました。この決断によってザルツは、長年の孤立から抜け出せたのです」
シュタイナーもルドルフを称えた。
「全ては、そなたの献策のお陰……。どうだろう、シュタイナー、戻って来る気はないか」
と、ルドルフは問うた。
シュタイナーは一瞬喜んだ。国を抜け出した自分を受け入れてくれることに。
だが、シュタイナーの復帰は、心から慕うガイアとの分かれを意味している。
「私めがいなくても、陛下なら必ずザルツを豊かに出来ます」
ガイアと分かれたくない想いがシュタイナーの顔に出た。
「ガイア公を」
と、ルドルフが聞くと、
「はい……」
と、シュタイナーは低い声で答える。
「だがな、そなたはザルツの人間だ。戦いが終われば、中央にとってもガイア公にとっても、そなたを必要としなくなるだろう」
ルドルフはシュタイナーの気持ちを知りながらも引き留める。
シュタイナーは動揺を隠しきれず、ルドルフから目を逸らした。
「私には、そなたが必要だ。ザルツは新しく生まれたばかりで、私はザルツの王として、家臣と六百万ものザルツ人民の生活を守って行かなくてはならない。そのためにも、そなたの力が必要なのだ」
「私にはそんな力はありません。この病んだ体では、陛下の期待に添うことは出来ません」
「中央を一つにまとめたのは、そなたの働きによるもの。今度はザルツのために働いてくれないか。いいや、その命を私に捧げてくれ。頼む、この通りだ」
そう言ってルドルフは頭を下げた。
側近達も同じように頭を下げた。
「……分かりました。必ず、陛下の元に戻りまず」
兄と慕うガイアとの別れは辛いものの、ルドルフの気持ちを思えば、シュタイナーは受け入れるしかなかった。
祖国ガザフを捨て、ザルツのために生きようとするルドルフを思えば、我がままは言えなかったのである。
「待っているぞ」
とシュタイナーに声を掛けると、臣下の礼の約定を果たしたルドルフは帰国の途に着いた。