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報復の大地  作者: 西 一
4章 光と闇
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ガザフ討伐

 遠征軍はガザフ王国の王都、セベルスクに到着した。

 突如として現れた遠征軍の大軍に市民は驚いた。

 ガザフ軍は王都の防衛を放棄し、アレクセイを守るためだけの籠城戦を余儀なくされていた。それだけガザフは追い詰められていたのだった。


 サルフ最高峰のコジオスコ山を含むアルプス山脈を背に、都の奥にひっそりとたたずむグリフィス城。

 天然の地形を利用した、鉄壁の要塞。

 遠征軍の侵攻を拒むように、『鋼鉄の扉』と呼ばれる巨大な城壁がそびえ立っていた。

「あんな城が、落とせるのか……」

 愚人が築いた重力ダムは、遠征軍兵士に圧倒的な威圧を与えた。

「あんな巨大な城壁は、今まで見たことがない」

 と兵士達は口々に言い合った。

 それでも遠征軍は二十万という数にものをいわせ、総攻撃を仕掛けた。

 

 遠征軍兵士は、攻城用の長梯子を次々と城壁に掛けて、よじ登り始めた。

 これに対して城壁上のガザフ軍は、敵の頭上に矢や石を投げ付け、はい上がって来る遠征軍兵士を追い落とした。

 塔車や投石機による攻撃も、鋼鉄の扉の前では一向に効き目がなく、青銅砲を持って来なかったことが遠征軍にとって大きな痛手となった。

 

 なかなか落とせないグリフィス城に、指揮するマルスに不満が集中した。

 そもそも、遠征軍は戦う前からまとまりがなかった。度重なる戦いに疲れ果てていた諸王国軍兵士は、この出兵に不満を募らせていた。また、王族などの要人達が参加する討伐軍にあって、いち武将に過ぎないマルスでは、初めから総指令官という大役は勤まらなかったのである。


 遠征軍には皇帝という絶大な統制力が欠けていた。マルスは、シオンを失った本当の意味をまざまざと実感させられたのだった。

 マルスはこの難局を打開するためセルシオンに使者を送り、元老院に青銅砲の使用の許可を求めた。



  一方、帝都・セルシオンに危機が迫っていた。

 ガザフ軍の一翼を担う、一万二千の精鋭がセルシオンに向かっていたのである。

「あれが、帝都セルシオンか。あの中に、憎っくきビクトリアの居城、サン・シンプソン宮殿があるのか。そして、二世皇帝がいるのだな」

 と、一人の旧十字軍将兵が、指揮官であるビロンに言った。

「そうだ。あれがセルシオンだ。二世皇帝もいる。だが、お前達はあくまでもガザフ軍の一員、城内に侵入しても、勝手な行動は慎み、私の命令に従ってもらう」

 とビロンは血気盛んな旧十字軍兵士達に言い聞かせた。

「我々の手勢だけで、セルシオンを守る守備隊をどう攻略するというのだ?」

「私に策がある。必ず二世皇帝を亡き者にして見せる。いや、そうしなければガザフは生き残れないのだ」

 セルシオンはなんら等変わることなく、いつものように賑わっていた。

 復讐の念に燃える旧十字軍が間近に迫っていることを、セルシオンの市民は知る由もない。

    

 セルシオンの間近に迫ったガザフ軍は息を潜めていた。

 ビロンは少人数の兵士に、市民として賑わうセルシオンに潜入させた。

 


 寝静まる夜を待ってガザフ軍は行動を起こす。

 侵入した兵士が閉ざされた城門を開けると、それを合図に、息を潜めていた一万二千のガザフ軍が一斉にセルシオンに攻め込んだ。

 セルシオンを守る守備隊は三万。

 しかし、侵入したガザフ軍は、守備隊の兵力を分散させるためにセルシオン全域に渡って各所に火をけたため、守備隊はあちらこちらで燃え上がる火に惑わされた。

 

 守備隊の困惑する様をあざ笑うかのように、手薄になったサン・シンプソン宮殿に、ビロンは三千の主力軍を率いて突入した。

 頼みの守備隊は分散され、広大な敷地のサン・シンプソン宮殿を守るのは僅かな近衛兵のみ。

 近衛兵はガザフ軍の侵入を防ぎきれずに、宮殿内の侵入を許してしまった。


 サン・シンプソン宮殿の内部構造は手に取るように分かっていて、ガザフ軍はすぐさま、皇帝の住まう王宮に火を放った。

 王宮を彩る装飾品が火を加速させ、瞬く間に王宮を取り囲むように燃え上がった。


 一方でビロンは、ある目的のために特殊部隊を侵入させていた。

 王宮は真っ赤な炎と煙に巻かれ、宮殿一帯にも広がって行った。

 宮殿をかたどる柱や石垣が崩れ落ち、二世皇帝のいる王宮は外界から完全に遮断され、閉じ込められてしまった。


 近衛兵が救出に向かうも火の回りが早く、救出は不可能となっていた。

 これを見たビロンは全軍に撤退命令を下した。

 すると、これに猛反対した旧十字軍は、

「何故、撤退するのだ。もっと、もっと破壊し尽くさなければ我々の気は収まらない。たかが二世を殺したぐらいでは……。ここにいる全ての者を皆殺しにしなければ、我々の気は収まらぬ」

「私は、ガザフ軍を無傷のまま王都に帰す使命を帯びている。もうすぐ分散した守備隊が戻って来る頃だろう。そうなれば我々は少なからず被害を受ける。私の役目は、部隊を無事に王都まで帰すことなのだ」

「我らがいる限り、守備隊など恐れるに足りぬわ!」

「言葉を慎め! お前達は、もはや十字軍ではなく、ガザフの兵士なのだぞ。私の指揮に従ってもらわなければ、お前達を即刻追放する」

「グッ……」

 ビロンの言葉に、旧十字軍兵士は込み上げる怒りを抑えながら、

「ビロン殿に聞きたい。貴方はビクトリアをどのようにするつもりなのか? ガザフを攻めよと言ったのはビクトリアなのだぞ、そのビクトリアに同情する気なのか?」

「お前達の気持ちも分からないでもない。だが、こちらの立場も分かって欲しい。ガザフはビクトリアの臣下であり、それに弓引くガザフは逆臣の汚名を着せられても当然なのだ。大恩あるビクトリアを背く国王陛下の気持ちを察して欲しい」

 ビロンは彼らに頭を下げた。

「……分かった、手出しはしない。その代わり、刃向かう者は容赦なく殺す。それで良いのだな」

「勿論。それでお前達の気が済むのなら」

 ガザフ軍は逃げまどう無抵抗な廷臣や女官達は見逃したが、刃向かう者には容赦しなかった。


 向かって来る敵だけを殺しながら、ガザフ軍は燃え盛るサン・シンプソン宮殿から撤退した。

 存亡の危機にあるガザフに戻る彼らの中に、五門の青銅砲と、ティアズストーンがあった。


 これで、ガザフは救われる。我らの勝ちだ。


 二つの神器を交互に見て、ビロンはガザフ王国の安泰を確信したのだった。



 王宮の玉座の間には、取り残されたスカイとセーラがいた。

 その他に、マルスを除く十一人の神将達が二世皇帝を取り囲んで炎から身を守っている。

 セーラはスカイの手を強く抱き締めていたが、すでに脱出が不可能であることを悟っていた。

 玉座の間は煙に包まれ、彼らの命ももはや風前の灯火であった。

「ゼノン殿は、ご無事であろうか」

 とセーラがダレス将軍に聞いた。

「恐らく、宰相様は無事でしょう」

「ゼノン殿さえ生きていれば安心です。ビクトリアも、ガザフに屈することはないでしょう」

 そうセーラが言って、燃え盛る炎を背にして、

「ダレス殿、すみませんね、私と出会ったばかりに、貴方は命を失おうとしている……」

「何を言われます。私は、皇太后様と出会えて感謝しているのですよ。堕落していた人生に明かりを灯してくれたのは、他ならぬ皇太后様ではないですか。そして、シオン陛下は私を将軍にまで引き立ててくれました。例えこの場で死のうとも、本望です」

 セーラは涙を流しながらスカイを見た。

「この子も、陛下の血が流れているのですね、死を前にしても泣かないでいる」

「――た、皇太后様、目が、見えるのですね」

 ダレスが声を上げる。

「皮肉にも、燃え盛る炎が、光を失わせた忌まわしい炎と重なり、その強い衝撃によって私の目が見えるようになったみたいですね。初めて見る我が子の、なんと可愛らしいことか。願わくは、この子が立派に成人した姿を見たかった……」

「ウッ……」

 一同は歯を食いしばって悔しがった。


 その中にあって、

「再び、大帝陛下への道案内が出来て光栄です。大帝陛下の住まう、あの世とやらに御供致します」

 とダレスがセーラに言って、無理に笑顔を作り、

「なぁに、ほんの少しの辛抱ですよ、陛下」

 スカイに言った。

「お父上のところに、行くのですか?」

 なんの疑いを持たず、つぶらな瞳でスカイはセーラを見る。

「そうですよ。大帝陛下が待っています」 

 セーラはスカイを強く抱き締める。

 業火が押し寄せ、セーラとスカイを守る十一人の神将達も、燃え盛る炎の中に呑み込まれて行った。


 王宮は完全に崩れ、二人の生存はもはや絶望的になった。

 元老院とゼノンはその場に倒れ、崩壊した王宮を呆然と見ていた。

 火は元老院らの前にも迫り、近衛兵達が抜け殻となった彼らを抱え、サン・シンプソン宮殿から避難させたのだった。


短い文書なので、2時間後ぐらいに次話を投稿します。

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