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報復の大地  作者: 西 一
1章 滅亡
1/58

滅亡への序曲

5章 58話の構成予定です。

 見渡せば、そこには人類が夢見た世界がある。

 広大な大地を席巻し、鉄とコンクリートで埋め尽くされたビル群が天高くそびえ立つ。

 夜の大都市は眩いばかりの光を発し、それでいてイルミネーションのように華やかで美しい。

 その光景はまさに人類の繁栄を物語っているかのようで、幾多の挫折と成功を繰り返してきた結果がそこにあった。


 人類の進歩は目覚ましく、時間の流れと共に急速な発展を遂げてきた。

 科学技術の発展は人々に大きな恵みと幸せを与え、その技術は地上にとどまらず、火星まで人類を送り込もうとしていた。更に、人類の最高にして最大の発明、未来のエネルギー源である核融合も実用化の段階に入り、人類は太陽までも手に入れようとしていたのである。

 目の前には無限の未来が広がっていると、誰もが信じて疑わなかった。

 

 だが、二十一世紀を迎えた今、夢と希望に満ちた世界はどこにも無かった。

 人々が口をそろえ、共に新世紀の到来を声高々にカウントダウンし待ち望んだ二十一世紀。しかし、そこには絶望と破局とが彼らを待ち構えていた。

 今まで見過ごされてきたツケ、人類が直面している三つの問題(経済・環境・エネルギー)が一気に噴出したのだった。

 

 人工増加は衰えを見せず、世界の人口は95億人に達し、それらに追い打ちを掛けるように、急速に砂漠化が進行している。

 その一方で、かつての途上国であった国々が、先進国の仲間入りを果たそうとひたすら生活水準の向上を目指してきたことで、さまざまな公害の問題も起きている。

 こうして、人類の発展と引き換えに、空や海や大地までもが汚染されていったのである。


 共産主義の事実上の崩壊により各国は大きな利益を求め、世界中に市場を求めた。

 こうした経済の発達には、膨大なエネルギーを必要とする。特に産業の発展には欠かせない石油を巡って、今までかろうじて成り立っていた世界秩序という不安定で巨大なピラミッドの石組みが、その最下層から崩れ落ちようとしていた。


 今の世界は、大地の恵みである石油・石炭などの化石燃料と、ウランや鉄鋼などの鉱物資源から成り立っているものであり、それらが有限な物であることを、あえて忘れようとしていた。

 ただ豊かさだけを求め、地球が誕生して以来、四十六億年の歳月を掛けて蓄積した大地の恵みを、人々はむやみにむさぼり続けてきた。

 人類の繁栄は、大地の恵みから得たに過ぎず、度を超した採掘に、大地の防衛本能が人類に牙を向けて襲い掛かった。人類によって深層部にまで傷付けられ、痛め付けられた大地が、我が身を死守せんと今、大地の報復が始まったのである。


 

 二〇五二年・九月一三日・金曜日、アメリカ合衆国南部・テキサス州の港湾都市ヒューストン。古くから石油精製業・化学工業の盛んな所であり、石油の恩恵によって発展した都市である。

 平穏で活気溢れるこの町が、これから起こる世界恐慌への引き金になろうとは、誰も思わなかった。


 石油メジャーの一つである某会社では、世界の石油需要を満たすために今以上の増産を必要としていた。

 無理な増産がたたって油田は劣化し、産油量が急減している。特に、油田に大量の水を投入して圧力を掛ける原油増産方法の使い過ぎにより、最近では採掘原油の九割が水という所も出ていて事態は深刻であった。


 掘削櫓が立ち並ぶ油田地帯を一台のリムジンが走っていた。

 増産可能で有望な油田の産油状況を視察するために会社が派遣したもので、火気厳禁という立て札をよそに、空気清浄器の付いた車内では、タバコをふかしながら幹部達が今後、いかにコストを下げ増産すべきかを話し合っていた。


 石油に代わるシェールオイル・ガスは、シェールガス革命と呼ばれ、一時、エネルギー需要を満たしていたが、地下深くの頁岩(シェール層)に科学物質を含んだ水を送り込んでの採掘は、環境を著しく悪化させ地盤沈下を引き起こす。

 当然、地元住民の反発を招き、政府による規制の強化もあって彼らを悩ませていた。


 一人がふと窓の外を見ると、高くそびえ立つ櫓の先端部分から黒い煙を上げ、燃えているのではなく、明らかにくすぶっているのが見えた。

 いつもなら真っ赤な炎を上げて燃えさかっているはずなのに、と不思議に思ったが、そこから見える櫓の全てが同じようにくすぶっていたのである。


 初めは、

「なんでもないです」

 と、その場しのぎのあやふやな答え方をしていた現場の責任者も、事の重大さにいつまでも隠しておくわけにはいかないと悟り、実状を話し出した。

 数日前から油の出が悪くなり、現在殆どが油圧層に注入している水だけで、一向に油は出てこなくなったと言う。

「何故すぐに報告しなかったんだ!」

「いえ、更に深く掘ればまた出て来るだろうと……」

「それで、出て来たのか?」

「それが……」

 現場責任者は言葉に詰まった。

 会社の命運の掛かっているこの油田地帯に一体何が起こったのか、幹部達は顔を見合わせ戸惑った。


 すぐさま車を止め櫓へと駆け付けると、作業員にこのことを告げて調べさせた。

 上へと延びる長いパイプのコックをひねり、中の成分を調べて見ると、驚いたことにその殆どが油圧層に注入している水だけで、一向に油は出てこなかった。

 幹部はそれ以上現場責任者を責めることも出来ず、苛立ち震える手でタバコを取り出して火を点けようとしたが、おずおずと見上げる作業員の視線に気付き、タバコを地面に叩き付けると、腹立ち紛れにそれを踏みにじった。


 その場に居合わせた者全てが見る見る顔色を変え、無言のままその様子を見ていた。

 彼らの頭の中にあるのは、『まさか』と言う言葉だけで、有り得ない、あってはならないのだと自分に言い聞かせたが、込み上げて来る不安を抑えることが出来なかった。


 西に大きく傾いた太陽が地平線に隠れ、夕闇が迫ろうとしていた。

 立ち尽くす彼らの間を冷え冷えとした風が吹き抜け、背筋が寒くなり不意に身震いをした。

 見慣れたはずの夕日が、なんだかこれから起こるだろうことを暗示しているように思え、不安に犯された神経が体を麻痺させているのに気付くと、幹部達は一刻も早く悪夢のような現実から逃れようと車に乗り込み、来た道を急いで帰って行った。



 翌日、近くにある大学に地質調査を依頼して見に来てもらうことになった。

 物理探査を繰り返して試し掘りをする。


 調査して一カ月が経ち、結果が分かった。

 不安におののく関係者を安心させるために説明会が開かれる。

 会社幹部達を前に地質学者の一人が説明に立った。

「調査の結果、この油田地帯は死んでしまっていることが分かりました。油圧層の極度の低下により、恐らくこれ以上の産油は望めないでしょう。単に死んでしまっていると言っても、石油が全く無くなったということではなく、今もこの広大な大地の奥深くに大量の石油が眠っているはずです。しかしながら、年々掘削の条件が悪く厳しくなっています。石油の調査を始めてから生産に至るまでに三年~五年を要するので、仮に現時点で有望な産油地が発見されたとしても、そこから石油が市場に出回るのは五年以降になる。故に死んでいるのです。確かなことは、世界の石油の埋蔵量には限界があり、今世紀中には枯渇してしまうということです。限り有る貴重な資源を守るために、我々は経済成長を押さえてでも子孫に残して行かなければならない。現在の資源枯渇問題を克服していくことが、今後の人類にとって最優先の課題なのです!」

 と強い口調で説明した。


 調査結果は、関係者ばかりでなく集まった全ての人に衝撃を与えた。

 この事実は世界中の知るところとなり、再び石油に関心を抱くことになった。 

 こうして世界最大の石油消費国アメリカは、世界第一位の産油国の座から後退することになり、これが引き金となって、十月二十四日・木曜日、ニューヨークのウォール街にある原油先物市場で石油価格が高騰する一方で、空前の株価暴落が発生した。

 のちに、『奈落の木曜日』と呼ばれる世界恐慌の始まりであった。



 石油価格は世界的な需要増加と緊迫した中東情勢を受けて、瞬く間に高騰し、日に日に最高値を更新し続けた。

 人類は依然として化石燃料に依存した生活を続けており、石油価格の高騰は人々の生活に影響を及ぼす切迫した問題である。


 かくして第三次石油危機へと発展した世界は、かつてない大不況に見舞われた。

 仕事を失った人は膨大な数に及び、家を失った人は路上に溢れた。

 そして、長い間くすぶっていた民族間の抗争に火が付き、各地で激しい紛争が起きたのである。

 世界は資源を求め、抑制されていた欲望をむき出しにして争い出した。


 石油う危機という、不安をあおるような作品になっていますが、設定上なのでお許し下さい。調べたところ、石油はまだ100年ぐらい持つそうで、それよりも、環境の方が問題ですよね。

 三時間後ぐらいに2話を投稿します。

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