空想シミュレーション。
ーーこの世界が“作者”と呼ばれる神の手によって作られた創作世界。
「そんな、まさか……」
到底信じられるはずなんてなかった。そんなのは証明不可能な事象であることに違いないし、仮に証明ができたとしても、地動説を唱えた古代の天文学者のように周囲から異端と忌み嫌われるに決まっている。
だけど、不可思議だ。
どうして俺は──この世界が俺と雪柳との王道ラブコメディ世界だと思ってしまったんだろう?
宗介の言ったように、雪柳への想いを拗らせ過ぎて、そんなバカげた中二病的妄想を患ってしまった可能性は大きくあるが、でもどうしてもそれが「事実である」という強い確信を持ててしまっているのだ。
こうなってしまっては例え精神異常だとしても調べなくては気が済まない。
明日も朝から学校であったが、不安で眠れなかったため、スマホを開き、itubeを観漁った。
いつもなら絶対に見ないであろう「空想科学」関連の動画を手当たり次第チェックして、再生とブラウザバックを繰り返していると、一つ興味深い動画が現れた。
「『シミュレーテッド・リアリティー』か……」
【ざっくり科学解説】というchだった。その名の通り『難しい科学知識をざっくりと解説してくれるch』だそうで、冬方と呼ばれる電子音で話すキャラクターが冗談混ざりに喋っている。
「『ざっくり言いますと【シミュレーテッド・リアリティー】とは別名:シミュレーション仮説とも言い、自分たちの生きてる世界は実際は存在しておらず、誰かの手によって動かされた架空の世界であるという考え方のことを言います』」
「『我々が見聞きしているものは人間の脳が認識可能な領域の世界でしかなくて、仮に脳とコンピューターが直接電子機器によって繋がっており、本当はプログラミングされた偽りの架空世界を生きていたとしてもそれを知ることはできないのです』」
「『この考え方は多くの創作物で取り入れられてきました。例えばある漫画のキャラクターが『自分は創作物の登場人物だ。読者を楽しませるためだけの存在に過ぎなくて、身体は存在しておらず、実際には“絵”に過ぎない』とメタフィクション的発言をしたケースもあります』」
「『もちろん、我々(冬方キャラ)は作者の手によって作られた存在です。この動画外を出ることは不可能です。自分たちの行動は動画制作者である神の手によって定められているからです。ですが、知名度があって著作権がなければ他の動画制作者のchに出演することは実質は可能ですが、果たしてそれは本当の“私”と言えるのでしょうか? 作者自身が手を加えたとしても、それらが拡散していくにつれて、自分っぽい何かのコピーが量産されるだけで、それはオリジナルに近づけただけの“偽物の私”です。いえ、そもそも“オリジナルの私”などというものは存在しているのでしょうか? 哲学者のデカルトは『我思う、ゆえに我あり』と発言しており……』」
「あー……難しい難しい……」
話がどんどん哲学的な領域に入ってきたので、そこで動画をストップさせる。
はぁーと息を吐いて、天井を見上げる。
カチカチカチ、と時計の針が動いている。
電球に向かって手をかざしてみる。
血管が透けており、ちゃんと心音もある。
ーー間違いなく、俺はここに生きている。
「…………」
でもこれが実際は認識可能な領域の世界でしかなくて、本当は読者なるものが俺のことを見ていたとしたら?
なんかそういう映画があった気もする……。
段々怖くなってきた。
「……わかんねっ」
とは言えど、だからなんだと言うのだ。
仮にココがその“作者”とやらが作った創作物の世界であったとしても、俺がこうやって生きていて、雪柳との恋路の発展を望んでいることはなんら偽りのない事実である。
そもそもだ。今日も昨日も雪柳や宗介と食事を摂った。からポテもシャケおにぎりも美味しかった。本当に空虚な存在であれば、食べ物を美味しいとも感じないと思う。そうだきっとそうだ!
むしろ望ましいことであると思う。
だってあの雪柳とのハッピーエンドが確約された世界にいるだなんて、なんて幸せなことなんだろう!
なーんだ、無理して考えるだけムダでした。
「……考えすぎて疲れた。ねる」
誰に宣言するでもないのにそう発言して目を閉じた。
バカなのに難しいことを考えすぎた。
睡眠は、いつだって最高である。
※ ※ ※
──時、同じくして、少女は目を覚ます。
「……あれ? もしかしてココって、私とユズル先輩がハッピーエンドを迎えることが確約された王道ラブコメディ世界だったりする!?」
「な〜んだ。だったら、無理してメインヒロインを目指す必要ないじゃんっ! 考えて損したっ!」




