拒絶プロタゴニスト。
子どもの頃から運動神経だけはよかった。
スポーツ経験なんてほとんどないのに、やってみれば意外と身体がついていけて、おかげさまで体育の授業では大活躍だった。
50メートル走は7秒を切っていたし、
シャトルランは120回以上走れたし、
潜水だけでプールを往復できたし、
跳び箱だって10段以上は跳べた。
体育の先生やクラスメイトにはよく褒められた。勉強が不得意だったぶん、才能のパラメーターというやつが偏ってしまったんだろう。もしもそれを設計する神様がいたのなら『君にはスポーツマンになる素質を与えた。そちらの道に進みなさい』と口髭を触りながら得意げに笑っていることであろう。
もし神様の決めたように順当通りに人生を歩んでいたら、今頃自分は高校三年間を野球サッカーバレーバスケ陸上水泳その他諸々…に費やす健全な体育会系学生になっていたと思う。
体育の先生には『陸上部に入らないか?』と何度かスカウトされたこともあったし、クラスの男子たちには積極的に遊びに誘われた。女子からは足が速いお陰でキャーキャー言われた。
中学一年生の時なんかは、帰宅部なのに学年対抗リレーで一年生代表のアンカーを任されて、おまけに陸上部の先輩たちを抜き去って、総合優勝を果たしてしまった。あの日の俺はーー完全に「主人公」だった。
でも、本当は勝ちたくなかった。
競い合うことに意味を感じられなかったから。
※ ※ ※
『うっーす、徹平。オレん家でスマブラしようぜ』
クラスメイトの出井宗介とはゲーム友達だった。
あいつはフォックスとファルコをよく使っていて、俺はカービィとガノンドロフを多用していた。
彼は勉強が得意で、運動が苦手だった。
注目されるのが好きで、女子ともよく遊んでいた。こいつと知り合ったのも雪柳の女友達グループと宗介がたまたまファミレスに来ていたからだ。
昔からそこそこモテたからか、女性の扱い方をよくわかっていて、一緒にカラオケに行ったりプリクラを撮ってる姿をよく見かけた。チャラ男になる素質があるクセに、中身はちゃんと文化部気質なのか、教室では四コマ漫画を描いてるようなそんな変なギャップがあって、俺は宗介のそういうとこが好きだった。
結局、運動部には入らなかった。
仮にスポーツをひたむきにやったとしてもプロになれるほどの才があるわけじゃないと自覚していたし「どうせダメになる」という思いが強かった。
協調性のなさを言い訳に逃げていた。
努力が嫌いで、頑張ってる人たちを羨ましいと思いつつも、心のどこかでは冷笑していた。
雨の日も暑い日も寒い日も、あいつらはグラウンドを走り回って身体を酷使する。
修行僧のようにストイックにスポーツに没頭して、大会優勝という目標を餌に、朝から晩まで運動をさせられる。根性と忍耐と体力と疲労。社会人のような生活を今から過ごすための練習に思える。
俺は向いてなかった。
注目なんてされたくなかったし、誰かと一緒に協力して、結果を追い求めることが怖かった。
幼稚で勉強の出来ないダメな自分で良かった。
他人に悔しい思いなんてさせたくなかった。
『お前はやっぱすごいな、米吉〜! それに比べてアイツらは本当に情けないよ……。帰宅部の一年に負けて、恥ずかしいと思わんのかね?』
体育祭で優勝したとき、体育教師がポツリとそうこぼした。
俺はなにも言えなかった。
はは、と愛想笑いを浮かべただけだった。
ウチの中学の運動部はみんな弱小だったけど、誰よりもひたむきに練習に励んでいた。
そして俺は勝ってしまった。
時に才能が努力を凌駕すると知ってしまった。
そんな世界は健全ではなくて、頑張ってる人たちに報われてほしいと思ってしまった。
神様なんてこの世にいなくて、
運命なんてあるはずもなくて、
現実はただただ残酷で、辛いものだった。
競い合いたくなかったし、頑張ってる人たちの背中を押すような存在になりなかった。
だから俺は負けでよかった。
「主人公」になんて──なりたくなかった。




