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運命バレンタインデイ。


 足先が蒸れているのは、防寒対策で靴下を2枚履きしていたからだ。2枚履きするととても暖かい。お陰でいっぱい眠れた。でも、靴下が1枚どっかいった。


 大寒波が明け、今朝は穏やかだ。

 鬱陶しく鳴り響くスムーズ機能をオフにしていると、彼女から「おはよーっ。」のLINEが届いた。


────────────────────


 《ゆきあい:ねーねー》


 《ゆきあい:きょうのほうかごさ》


 《ゆきあい:ムッシュマニエルいかない⁇》


─────────────────────


 もちろん、即答でオッケーした。

 今日は、二人で迎える初めてのバレンタインデーだ。



 ※ ※ ※



「バレンタインの起源を教えてやるよ、徹平。始まりは古代ローマ帝国時代。ある時、皇帝が『兵士の士気が下がる』という理由だけで結婚を禁止したんだ。でも《司祭バレンティヌス》って男がそれに反対し、内緒で結婚式を挙げ続けた。その結果、皇帝の怒りを買って処刑された。愛のために殉教(じゅんきょう)した彼を讃えて──その命日を【聖バレンタインの祭日(デー)】と呼ぶようになった」



 宗介が菓子パンのミニスナックゴールドをかじりながら、リプトンのミルクティーを飲んでいる。

 高校生すぎるだろ。



「では、なぜ司祭の命日が『恋人たちがチョコを渡し合う記念日』になったのかって疑問湧くだろ?」


「湧かない」


「実は14世紀ごろにはもう恋愛の記念日として広まっていたわけだ。司祭バレンティヌスは愛の殉教者だしな。それで徐々に恋人たちが贈り物を送り合う風潮が生まれていった。でも、おかしいんだ。欧米では男性から女性に赤いバラを贈るのが一般的とされているのに、なぜかこの国では『女性がチョコを渡すだけの記念日』になっている。気になるよな?」


「ならない」


「まあ、そう焦るな……」


「俺、いま焦ってたか?」



 宗介がネットから引っ張ってきた雑学知識をドヤ顔で披露してきている。

 今更だけど[ミニスナックゴールド]って、どこがミニなんだろうか。



「実はバレンタインデーはな…………」



 宗介がゴクリと唾を飲む。




「全部──製菓会社による企業戦略なんだよ!!!!!!!!!!」

 



 宗介がデカい声を出して、テーブルを思いっきり叩いた。



「マーケティングだ! マーケティング!! 全部マーケティングなんだぁ〜!!!! 女性の購買意欲を高めるために! そして女の子たちが可愛く好きな相手にプレゼントができるように! 企業が恋愛感情を利用して、こうした商業イベントを作り上げたんだぁあ!!!!!!! これは陰謀論でもなんでもないぞ!? 紛うことなき事実だ! “愛”を可視化させて、糖分で脳を騙し、感情を資産運用させて、都合よく資本主義のシステムにオレたちを組み込んでるんだぁあああ〜〜!!!!! 騙されるんじゃねぇーーぞ徹平!! バレンタインデーなんて! バレンタインデーなんて!! 恋愛をパッケージ化して、包装紙にくるんで、陳列させているだけの【偽物の記念日】なんだよぉおおおお〜〜!!!!!!!!???」



 俺は他に用事があったので、とっとと飯を切り上げて、食堂を出ることにした。



 ×××



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 イケメンでやさし〜〜おにいさんへ

(※ユズほどではないけど←)


 きのうはありがとう。

 おかげでおうちにかえれました……!(涙)


 おかねをかえしたいので、

 昼休みに【LCD団】の部室にきてください♡


       2年C組 鵜飼(うかい) ハルヒ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 ピンクの封筒に入っていた手紙をポケットに突っ込みながら、部室棟へと向かう。

 昨日会ったスットンキョーな女も、どうやら服部先輩と同じ“四天女”の一人だったようだ。


 ユズル先輩のハーレムヒロインで、別名:泣き虫ロリ娘。

 “謎の部活”を立ち上げて、文化祭で即席バンドを組んだとかなんとか。



「……ここか」



 その“謎の部活”ーー【LCD団】の扉をノックする。

 返事はない。

 扉を開くと、中はもぬけの殻だった。

 楽器は置かれているが、他には何もない。


 ただ、どうしてか、部室に階段があった。



「……」



 ゆっくりと降りてゆく。

 どんどん、どんどん、学園の地下に……。





「…………初めまして、米吉 徹平さん」





 暗闇で、女の声がした。

 どうしてみんな俺のことをフルネームで呼ぶんだろう、なんて呑気なことを考えていた瞬間ーー。


 電気がついた。


 俺を物騒な連中が取り囲んでいた。

 スキンヘッドと刺青の入った、いかにも反社の人たち。完全にワルの集団だった。


 彼らの隣で鵜飼ハルヒさんが飴を舐めながらニコニコ笑っている。


 そして、俺の真正面。

 髪の長い綺麗なおねーさんが、椅子の上で足を組んで、こっちを睨んでいる。

 ひどく冷たい瞳だった。



「私は3年D組の霧隠(きりがくれ) 来桜(らら)。この【LCD団】のリーダーです。一応、表向きにはハルヒさんが作ったとされていますが、資金援助や武器の調達などは霧隠家が取り行っているので、実質的主導権は私に有ると言っても良いでしょう……」




 LCD団……? SOS団みたいに。




「【LCD団】の目的は唯一つ。我々、ハーレムラブコメディのヒロインが一個人として、己の幸福を追求するために、外のセカイに脱出すること……。バレンタインデーが企業の作り上げた偽りの商業イベントなら、我々ラブコメディのヒロインもまた同じ。全ては“()()()()()()()()()()()()()”の一環でしかない」




 霧隠先輩が部下に何かを命じる。

 奥の部屋から武器を取ってきた。

 それはゲームでしか見たことないーー本物のショットガンだった。




「作者の作り上げた偽りの[ラブコメディ世界]をブチ壊すために設立した組織。それこそが我々……」




 霧隠来桜がショットガンを肩に担いでいる。

 銃口が、俺の頭へと向けられる。





「【 (Love)(Comedy)(Destroy) 】団体。


 通称──“ラブコメディ破壊同盟”です。」





 いよいよ、運命のバレンタインデーが開幕する。

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