表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/29

錯乱スノースケイプ。



 自動ドアの先には悪天候が待ち構えていた。

 店内にあった温もりは消え、真っ暗で、風が強く、全身が凍えてしまいそうな大寒波だった。


 歩いて帰るのがしんどかったけど、だけど早く帰りたくて、でもそこから動きたくなくて、しばらく入り口の屋根の下で“雪宿り”をしていた。


 ファミレスの旗がバタバタと揺れている。


「はぁーっ………」


 服部先輩は結構前に一人で帰った。濡れた靴下のまま、赤い目を腫らして、しれっと俺の分のお会計を全額支払って、なにも言わず帰宅した。タオルもしれっとパクられていたが、風邪を引いてはほしくない。


 駐車場に車が入ってくる。

 ライトが消えて、人が降りてくる。


 看板は以前『ガスト』のままーー。


 × × ×


 横殴りの風が吹いた。一瞬、呼吸が出来なかった。かまいたちでも通り過ぎたようだ。

 亀のように首を引っ込めて、肩をすくめて、ダウンに顔を預ける。

 隣のコンパクトカーが走り去ってゆく。

 シャーっと車が水を弾いた。


 両手をポケットに入れて、無理やり進んでいる。

 靴下はもう既にビショビショだった。

 水溜まりの中を歩いているようだ。


 遠くの信号機がぼやけて見える。

 粉雪が視界を阻み、何度も目を細める。


 耳元をヒュウウ…と風が鳴る。

 そして、また消える。




「……こんばんわぁ♪」




 不意に呼びかけられた。


 視界の端に人影がある。

 植え込みの縁に、小柄な女の子が座っている。黒い猫のパーカーを被って、膝を抱えて、楽しそうに笑ってる。小学校高学年くらいに見える。


 顔は見えない。

 だけど、間違いなくこっちをみていた。



「え、えっと、迷子? お母さんとはぐれたの?」


「むむむっー。ハルは18だよー? 子供あつかいしないことぉ〜」


「ゴリゴリに年上じゃん。しかも二個上かよ……」


「くそがき笑」


「それはお前だろ!!」



 酒に酔ったみたいにフラフラしながら、手を叩いてはしゃいでいる。

 こんな大雪の天気に生足を出して、スニーカー姿で座り込んでいる。

 トー横民か?


 しかし、やはりどう見ても不審者である。

 うん! 関わらないでおこう! それがいい。



「じゃ、また」


「まってよーおにいさん。ハルをおんぶして?」


「いや、一人で帰れるでしょ……。クソガキじゃないんだから」



 呆れたようにいうと、彼女は身体を震わせて「……ぐすっ……っ……ぅ、ぅう……」と泣き始めた。


 完全にクソガキだった。


 それがどうしても見てられなくて、俺はすぐに背中を貸してやることにした。


 ※ ※ ※


 雪の中、彼女を背中におぶって帰ってる。

 相手は小学生くらいに見えるロリ娘。

 夜21時過ぎ。

 どう見ても俺のほうが不審者です。本当にありがとうございます。



「おにいさん、明日バレンタインデーだねえ」

「そうですね」

「だれかにチョコあげるのー?」

「俺はあげないですよ。もらうほうです」

「いいなあ。ハルもね、あげる予定だったんだけど、なくなっちゃった」

「なくなっちゃった?」


 小柄な歳上ロリおねーさんは俺のダウンをギュッと握りしめている。


「うん。ユズいなくなっちゃった」


 彼女が言葉を漏らす。

 大切な人だったのだろうか。



「だからね、しのうと思って」


「……ええっ!? 死ぬんですか!?」


「だってだってユズがいないと生きている意味ないもんっ。毎日、ツイキャスしてるけど、ざびしくて、ざびしくて……っ」


「(毎日ツイキャスしてるんだ……)」


「ユズに500件LINEしたんだけどね」


「(500件もLINEしたんだ……)」


「返事がかえってこなくて、ハル悲しいの」


「(自分の名前を下で呼ぶタイプのやべー女だ)」


「だからね、“ショーシンじさつ”しようかなって(泣)」


「──しょ、焼身自殺ぅぅ!!!??」



 こんな真冬に!!?? 燃えて死ぬの!!?



「ハルは法隆寺のように燃えてくちるの……」


「(なんか詩的でかっこいい……)」



 知らない年上の女性を背中に乗せて、とりあえず近くの駅まで送った。


 駅前まで来ると、彼女はピョンと飛び降りて「……泊まらせてくれないの?」と尋ねてきた。


 もちろん、丁重に断っておいた。

 雪柳に要らぬ誤解をさせてはいけない。


 でも心配なので2千円くらいは貸してやった。

 奢ってもらった分、お金が浮いていたし。



「死ぬのはやめて大人しく家に帰ってください。風邪には気をつけて。では、また」



 クールに別れを告げようとしたのだが、袖をグッと掴まれた。

 引き寄せられて、耳元で告げられる。




「──ユキヤナギ アイに伝えて。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()?、と」






 ──運命のバレンタインデーまで、あと【1日】。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ