錯乱スノースケイプ。
自動ドアの先には悪天候が待ち構えていた。
店内にあった温もりは消え、真っ暗で、風が強く、全身が凍えてしまいそうな大寒波だった。
歩いて帰るのがしんどかったけど、だけど早く帰りたくて、でもそこから動きたくなくて、しばらく入り口の屋根の下で“雪宿り”をしていた。
ファミレスの旗がバタバタと揺れている。
「はぁーっ………」
服部先輩は結構前に一人で帰った。濡れた靴下のまま、赤い目を腫らして、しれっと俺の分のお会計を全額支払って、なにも言わず帰宅した。タオルもしれっとパクられていたが、風邪を引いてはほしくない。
駐車場に車が入ってくる。
ライトが消えて、人が降りてくる。
看板は以前『ガスト』のままーー。
× × ×
横殴りの風が吹いた。一瞬、呼吸が出来なかった。かまいたちでも通り過ぎたようだ。
亀のように首を引っ込めて、肩をすくめて、ダウンに顔を預ける。
隣のコンパクトカーが走り去ってゆく。
シャーっと車が水を弾いた。
両手をポケットに入れて、無理やり進んでいる。
靴下はもう既にビショビショだった。
水溜まりの中を歩いているようだ。
遠くの信号機がぼやけて見える。
粉雪が視界を阻み、何度も目を細める。
耳元をヒュウウ…と風が鳴る。
そして、また消える。
「……こんばんわぁ♪」
不意に呼びかけられた。
視界の端に人影がある。
植え込みの縁に、小柄な女の子が座っている。黒い猫のパーカーを被って、膝を抱えて、楽しそうに笑ってる。小学校高学年くらいに見える。
顔は見えない。
だけど、間違いなくこっちをみていた。
「え、えっと、迷子? お母さんとはぐれたの?」
「むむむっー。ハルは18だよー? 子供あつかいしないことぉ〜」
「ゴリゴリに年上じゃん。しかも二個上かよ……」
「くそがき笑」
「それはお前だろ!!」
酒に酔ったみたいにフラフラしながら、手を叩いてはしゃいでいる。
こんな大雪の天気に生足を出して、スニーカー姿で座り込んでいる。
トー横民か?
しかし、やはりどう見ても不審者である。
うん! 関わらないでおこう! それがいい。
「じゃ、また」
「まってよーおにいさん。ハルをおんぶして?」
「いや、一人で帰れるでしょ……。クソガキじゃないんだから」
呆れたようにいうと、彼女は身体を震わせて「……ぐすっ……っ……ぅ、ぅう……」と泣き始めた。
完全にクソガキだった。
それがどうしても見てられなくて、俺はすぐに背中を貸してやることにした。
※ ※ ※
雪の中、彼女を背中におぶって帰ってる。
相手は小学生くらいに見えるロリ娘。
夜21時過ぎ。
どう見ても俺のほうが不審者です。本当にありがとうございます。
「おにいさん、明日バレンタインデーだねえ」
「そうですね」
「だれかにチョコあげるのー?」
「俺はあげないですよ。もらうほうです」
「いいなあ。ハルもね、あげる予定だったんだけど、なくなっちゃった」
「なくなっちゃった?」
小柄な歳上ロリおねーさんは俺のダウンをギュッと握りしめている。
「うん。ユズいなくなっちゃった」
彼女が言葉を漏らす。
大切な人だったのだろうか。
「だからね、しのうと思って」
「……ええっ!? 死ぬんですか!?」
「だってだってユズがいないと生きている意味ないもんっ。毎日、ツイキャスしてるけど、ざびしくて、ざびしくて……っ」
「(毎日ツイキャスしてるんだ……)」
「ユズに500件LINEしたんだけどね」
「(500件もLINEしたんだ……)」
「返事がかえってこなくて、ハル悲しいの」
「(自分の名前を下で呼ぶタイプのやべー女だ)」
「だからね、“ショーシンじさつ”しようかなって(泣)」
「──しょ、焼身自殺ぅぅ!!!??」
こんな真冬に!!?? 燃えて死ぬの!!?
「ハルは法隆寺のように燃えてくちるの……」
「(なんか詩的でかっこいい……)」
知らない年上の女性を背中に乗せて、とりあえず近くの駅まで送った。
駅前まで来ると、彼女はピョンと飛び降りて「……泊まらせてくれないの?」と尋ねてきた。
もちろん、丁重に断っておいた。
雪柳に要らぬ誤解をさせてはいけない。
でも心配なので2千円くらいは貸してやった。
奢ってもらった分、お金が浮いていたし。
「死ぬのはやめて大人しく家に帰ってください。風邪には気をつけて。では、また」
クールに別れを告げようとしたのだが、袖をグッと掴まれた。
引き寄せられて、耳元で告げられる。
「──ユキヤナギ アイに伝えて。
あなたは一体、誰のメインヒロインなの?、と」
──運命のバレンタインデーまで、あと【1日】。




