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雪恋ファーストキッス。



 予防接種をしておけばな、って思った。

 はじめてのキスで、はじめてのキッスで、大好きな彼女に風邪をうつしてしまわないか、そのことだけが気がかりだった。



「……ぁ……ぅ……っ……」


「…………っ」



 唇を離すと、お互いに目を逸らした。口元を抑えていると、後から「……ぷっ」と笑みが溢れた。雪柳は恥ずかしそうにふにゃりとしている。目がとろんとしている。あ、前髪にホコリついてらあ。



「……おい、動くな」

「……もうっだめ! おわり!」

「ちがう。ほこりついてんの」

「……つけたの?」

「うん。似合うかなと思って」



 ほこりに触れるまで彼女は目を瞑ってジッとしていた。ほこりを払ったあと、頭をよしよしした。



「……なんだよっ」

「そっちこそなんだよ」

「なんだよなんだよ!」

「なんだよなんだよってなんだよ」

「なんだよなんだよなんだよなんだよ!」



 耳まで真っ赤だ。



「……なに?」

「いや、別に」

「にやにやするなっー!」

「いでででで」



 顔を手のひらで押される。

 ムカついたので布団を奪ってやった。



「なにするの!さむい!」

「ここ俺の家だから!」

「いじわるいうなー!彼女だぞー!」



 少しだけイチャイチャして、なんだか彼女がとっても愛おしくなって、気がつけば俺は彼女をギュッと抱きしめていた。


 別に大人向けのえちえちで濃いキスをしたわけではない。アメリカの挨拶みたいな軽いフレンチキスを一回しただけなのに、どうしてこんな優しい気持ちになるんだろう。



「……あったかい」



 腕の中で彼女がそう漏らした。

 思ったより痩せてて、小さくて、今までずっと知っていたのに、知らないことばかりだった。


 なぜか筋トレを始めようって思った。

 そりゃ別に現代社会において急に殺し屋が現れて雪柳の命が狙われるなんてことは起きないだろうし、だから別に雪柳自身も自分の身くらい自分で守れるだろうけれど、それでも彼氏として、彼女を守ってあげたいとそう思った。至極真っ当な考えだった。



「もう遅いし送ってくわ」

「……もうちょっとだけ……」



 雪柳はしばらく、俺の腕の中で暖を取っていた。



 ※ ※ ※

 


 話は変わるが、俺と雪柳はよく似ている。まずお互いに帰宅部だ。部活に入らなかった理由は俺は集団行動が苦手で協調性がないからで、甘えん坊な彼女は家にいるのが好きだから家事手伝いをしていると言っていた。たぶんその一環でお菓子作りをしているのだろう。


 ゆえに俺たちは放課後にファミレスでたむろすることが多い。

 付き合ってるの?と聞かれることはあるけど、そういうとき決まって雪柳は「じゃなくて、ただの幼なじみでただのクラスメイトでただ仲良しな男友達なだけっ!」と弁明する。

 でもこれからは本当に付き合ってしまったので、これではファミレスのたむろが高校生カップルのイチャイチャになってしまう。

 見られ方を考えた方が良いかもしれない。


 宗介がファミレスに来ないのは放送部に入っているからだ。ゆえに自然と俺たちは二人で行動することが多い。でも、二人で一緒に帰るのは、中学ぶりかもしれない。



「小さい男の子と女の子の兄妹がいてね」

「うん」

「女の子の妹のほうが『にぃにぃと手をつなぎたい〜!』って泣いてたの」

「かわいい」

「で、先に歩いてたお兄ちゃんのほうは恥ずかしがってたけど、戻ってきて妹ちゃんの手をひいてた」

「初めてのおつかいじゃん。泣くて」

「兄妹いたらあんな感じだったのかなあって」

「……」



 手袋越しに手を繋いでいる。

 マフラーで口元を抑えながら、彼女が白い雪のような息を吐いた。

 俺たちは一人っ子で兄妹がいない。

 別にそれを寂しいと感じることはない(おもちゃだって独占できるし、別にサブスク見てたら一日すぎるし)ただ、ほんの少し羨ましくは思う。



 雪柳宅に着く。ピンポーンを鳴らすと、玄関のドアが開いた。



「おかえり愛。あら、米吉くん?」

「……あ、ご、ご無沙汰しております」



 雪柳ママンが現れる。

 雪柳ママンはエプロンからはみ出るくらいの豊満なお胸をしていた。揺れている。母性が溢れでている。



「送ってくれたの? ありがとう」

「いやいや……彼氏として当然のことですから。ハッ!?」

「えー? あら、そーなの?」



 雪柳ママンがニヤついている。

 雪柳は隠すつもりはないのか、嬉しそうに頷いていた。家族関係良好。素晴らしき哉。



「じゃあね、米吉くん! また学校でっ!」



 早々に雪柳は靴を脱いで、家の中に入ってゆく。



「パパー!今、帰ったー!!」



 部屋の奥のほうからそんな声が聞こえてくる。

 雪柳はパパが大好きなのだ。


 残された俺は挨拶をすることにした。



「ま、まぁそのなんと言いますのやら……愛さんとお、お付き合いをさせていただいておりまして、その」


「そんな堅苦しい挨拶しなくていいのに〜。また晩ごはんでも食べにきてね♪」


「ぜ、是非に!!」



 雪柳ママンのお胸が揺れている。

 控えめな娘と違って、豊かなお母さんだ。



 ゆきやなぎ、遺伝子の力を信じろーーー!!




「で、では」



 帰ろうと踵を返したとき、背中越しに呼びかけられる。



「あ、待って。米吉くん」



 振り向くと、雪柳ママンが意味深な笑みを浮かべている。



「愛のこと、好き?」


「は、はい!」


「そう。それはよかった」



 ゆっくりと扉が閉まってゆく。




「──じゃあ、あの子をよろしくね。

 ()()()()()、米吉 徹平くん」





 ──運命のバレンタインデーまで、あと【二日】。


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