甘恋スウィートココア。
「ーーったく、どこ捜してるんだよ。電気ケトルの下の棚のところを見てみろよ。そこにあるだろ」
「え、そう? あ。ほんとにあった……」
雪柳は不器用である。不器用すぎて、密封用のジッパーを下の方まで切りすぎて使えなくしちゃうくらい不器用である。でもそこがkawaii!
ママンのエプロンを巻き、彼女がミルクを煮込み始めた。換気扇を回し、マグカップにココアを入れたと思ったらこちらに戻ってきて、カバンの中から板チョコを取り出してきた。またキッチンに戻り、細かく割りながらスプーンでかき混ぜている。
なんかやけに手慣れているような……。
「……もしや雪柳ってさ、お菓子作りが趣味だったりする?」
「えーすごっ! なんでわかったの!?」
「いや、なんとなく……」
確かに思い返してみると、彼女は甘いものが大好きだ。この前も最近テレビで紹介された「ムッシュマニエル」というお店の「バニラケーキ」をやたらと食べたがっていた。甘いスウィーツに目がないとは思ってたけど、自分で作るまでとは。
「びっくりした? 能ある鷹は爪をかくすっていうじゃん? そう、私は爪を隠してたのさー。ふふんっ!」
「じゃあ、将来はパティシエ志望?」
「んー考え中っ! でも製菓の専門にいきたいかな〜。子供の頃からね、ケーキ屋さんで働きたいと思ってて……あ、そうだ! 今度、米吉くんの誕生日にケーキ作ったげるよっ!!」
「お、おう……ありがとう」
か、かわいすぎる…………。
×××
「はい、どーぞっ♪」
弱火でコトコト煮込んだのちに、甘い匂いのするココアがテーブルへと運ばれてきた。俺は毛布を巻きながら、それを一口いただく。
ーーすると身体全体に温もりがひた走った。
甘くて、優しくて、あったかくて、なんだか泣きそうになるくらいに美味しいココアだった。
「……本当に美味しすぎる。ありがとう雪柳。こんなココア飲んだことねえわ」
本当に美味しかった。いつもお湯で混ぜて苦汁みたいになっていたので、ココアはコーヒーと同じで『不味いけれど大人になれば旨さがわかるタイプ』の飲み物だと思っていた。どうやら認識を誤っていたようだ。ココア≠コーヒー。コーヒー・is・ビター。
また同じように雪柳のことを「砂糖と塩を間違えるタイプのドジっ子ヒロイン」だと思っていた。
その認識も、改めなければならない。
※ ※ ※
午後19時前。もうすぐママンが帰ってくる時間だ。リビングのテーブルはすでに空っぽになったマグカップが二つ置かれてある。
俺たちはソファーに移動して話をしていた。
最近見たテレビの話だったり、親友の出井宗介についての話だったり、他愛もない談笑だった。
どうでもいい話でも雪柳は笑って身を寄せてくる。いつのまにか毛布はほとんど奪われていて、俺は端を握りしめていた。
「……風邪うつるぞ」
息遣いが肩越しに伝わる距離。
ぼそりと言うも、彼女は答えない。
耳に肩を押し当てたまま、静かにしている。
不意に手を握られた。
温かい指先が、毛布の中で混じり合う。
シャンプーの匂いが鼻をくすぐる。
俺は動けない。手の感触がやけに鮮明だ。やわらかい。頭が真っ白になりそうになる。
俺たちは付き合っていた。
俺たちは好き同士だった。
俺たちは高校生カップルでーー今、この家には誰もいなかった。
時計の針がカチカチと進んでいる。
冷蔵庫が低い唸り声を出している。
静寂の中、心臓が高鳴っている。
「ゆきやなぎ……愛」
名を呼ぶと、彼女が顔を上げた。
その瞳は真剣そのもので、大人の女性のようだった。
少女が、目を閉じる。
少年は、覚悟を決めた。
「──俺は、お前のことが大好きだ」
ゆっくりと顔を近づける。
唇と唇が触れ合う。
初めてのキスはココアの甘い香りがした。




