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夕刻クレッシェンド。


 小柄な女の子だった。赤いリボンの先から三つ編みになった髪の毛が出ている。ピンクのシャツに肩からかけたポシェット。唇を「へ」の字に曲げて、こちらを睨みつけている。



『売りものをそまつにしちゃいけません』


『……なんだ、お客さんでしたか』



 俺がそう言うと彼女は頷いた。



『ではお好きに見ていってください。時間ならたくさんありますゆえ』



 江戸っ子商売人を意識すると、彼女はジーッと並べられたどろだんごを真剣に眺めていた。

 やがて、一つを指さした。



『これがいい』


『おお、お客さんはお目がたかい。それを選ぶとは』


『いくら?』


『200円でどうでしょうか』



 冗談でそう言うと、本気に捉えたのか、ポシェットのファスナーを開いて、財布を取り出そうとしていた。

 俺は思わず引き止めようと、咄嗟に一言を放つ。



『けろけろけろっぴじゃん!』



 ポシェットに描いてあったキャラクターをゆびさすと、彼女は動きを止めた。

 自慢げにカバンを見せてくる。



『かわいい? パパが買ってくれたんだよ』


『お父さんはセンスがありますな』


『えらんだのはわたしです!』


『これはしっけい』



 帽子など付けていないのに、帽子を外すようなフリをして頭を下げた。

 彼女が声を出して笑った。



『……ぷぷっ。もうやめよーよ、その変なしゃべりかたー。ねーここでなにやってるの? あっちからみてたんだけど、あいずっと気になってたんだよ!?』


『こうしてれば、だれか話しかけてくるかなと思って。まさかの女子だったけど』


『じゃあ、あいがはじめて?』


『うん』



 答えると、17時のチャイムが鳴った。

 夕陽の向こうから、大きな影が二つ見える。



『愛、帰るわよっー』

『早く晩ご飯食べに行こうぜ』



 少女はちらりと声のほうを確認して、それならまたこっちを見た。



『あ、ママとパパが呼んでる! そろそろ帰るね!』


『ばいばい』


『明日もいる?』


『たぶん』


『げつようびも、きんようびも、その次の日も?』


『それはわかんない。どうして?』



 それには答えず、何故かポシェットの中から名札を出してきた。

 幼稚園の頃のものだろうか。

 ゆきやなぎあい、と書いてあった。



『これあげるっ! わたしの名前、覚えててねっ」



『えっ……あ、うん……』



『これ一個もらってく! たのしかった! またねっ』



『……あ、盗まれた…………』




 どろだんごを片手にそそくさと走り去ってゆく活発な少女は、見えなくなるまで元気よくこちらに手を振っていた。


 彼女との出会いがきっかけでどんどんと友達が増えていき、宗介とも仲良くなれた。


 始まりは全部──彼女だった。

 一人ぼっちの俺に声をかけてくれたのは、あの子だった。




『……徹平、ちょっといい? ついに好きな人できたかもっ……!』



『マジで! 相手は!?』



『三年の先輩なんだけど……』



『おぉ〜やったじゃん。俺に出来ることがあればなんでも言えよ。協力するぞ!』




 だから俺は動かない。

 彼女の幸せの後押しをするだけでいい。

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